世界は広いですのよ。外には衝撃がありました。
ルルル、ジョルディ 君のことが大好きだ
ルルル、ランディ 貴方の事が大好きよ。
ルルル、ジョルディ 君に被せる花冠
ルルル、ランディ 貴方の腕に飛び込むわ
ルルル、ジョルディ 君を僕は抱き上げて
ルルル、ランディ、貴方は私を抱き上げて
二人は神様に愛を誓います。
〜ランディとジョルデイの結婚式より
お国柄により、婚礼の儀式は様々とこの度わたくしは知ることになりましたの、わたくしの国では花婿が花嫁を抱き上げて、男性の力強さを誇示するのです。途中休息の為に立ち寄った領地で、是非とも『踊り』を見てほしいと領主殿が言ってこられたので、時間もある事から少しばかり拝見いたしました。
若い男女が色鮮やかな衣装を着て、踊りますわ、たけなわになれば、男性がお相手の女性を抱き上げてくるくる回りますの……そうです。だから。
わたくしはお兄さまのあの行動の意味がわかりました。なので『樽』を……でも些か失礼ですわよ。『大』だなんて、それほど重くは無いかと思いますもの……。
☆☆☆☆☆
夜遅く、空に満月がこうこうと光る時間、わたくしは国境とされる『ロペス湖』の畔に来ております。夕刻になり、国境近くのお母様がお育ちになられたお館に到着をしたわたくしは驚きましたの。
お祖母様のお話がわかりましてよ。街は辺境にも関わらず、どれもこれもしっかりとした建物。綺麗に手入れのされた石畳、花々が植えられた花壇が造られ……、沿道で集まっている人達を見ても、晴れ着とはいえ、皆身なりがよろしい方々ばかり。ひと目で豊かさが隅々まで行き渡っているのがわかりました。
「ホホホホ、隣国の王妃様になられる貴方がこれ位で驚いていたらいけませんよ。隣国は……それはそれは見事な街並みです、優れた職人で成り立っているお国ですからね、お茶を……国堺なので今の時期は、風鈴蘭の花粉がロペスを越すことが有るのです」
お祝いの夕食を頂いた後で出されたお茶を頂きました。皇太后であらされたお祖母様もお詳しかったですが、思えばお母様もよくご存知だったのは、お育ちのご領地柄でしたのね。わたくしは懐かしくあの赤いお花を思い出しつつ、少しばかり休息の時を過ごしました。
そして再び馬車に乗り込み進みます。暗い森の中を奥に奥にと入っていきます。そして木々か途切れると……。
「着いたようです。今宵は満月……美しいですよ」
国境にたどり着きました。外に降りました。吐く吐息がホワリと白く、冷たい空気の中、漆黒の空には冴えざえと光る月。ゆらりと銀色で湖面に写り、神秘的な場をつくりだしています。
わたくしは、介添のお祖母様に手を取られて、石畳が敷かれた湖畔の道をしずしずと歩きます。今歩いて入る場所は、四角い形が埋め込まれています。
さほど大きくない湖、中程までは直ぐにたどり着きました。そこには隣国の迎えが来ておりました。彼等の立つ場は丸い石が敷かれていますわ。月明かりのおかげでくっきりと見えます。神官様なのでしょうか、それらしい衣装に身を包まれたお方の元に、わたくしは進みます。
祝詞が唱えられ、小さな銀の器に注がれた、寿ぎのお茶を差し出されました。それを飲み終えると、瑠瑠華の花冠を外す為に身を屈める様、示されます。
ドキドキとしていました。花冠を外し湖面に流された神官様、つい……と水面に浮き佇む瑠瑠華。そして用意されていた風鈴蘭の花冠を載せられました。新しき香りに包まれた瞬間、何かが私の中で変わったのを、身体を起こしつつ実感いたしました。
そしてわたくしを迎えに来た隣国のお方達は……、驚いた事に少しばかり離れた場所へと、下がってしまわれたのです。
わたくしの周りはガランとしておりますわ、そして振り返ってはならぬと戒めがあるので、そのままでいるしかありません。
なんて事に……、少しばかり不安に包まれた時、遠くから馬の駆ける音が……それが近づいて来ます!そちらに目を凝らすと……、
バシャ!ジャッ!ドドドドド! ドドドドド!
水際を駆ける漆黒の馬!それを駆るのはこれまた黒装束の男ではありませんか!見るからに怪しい者ですが、護衛の者達は、祖国の皆もこの国の彼らも、息を潜めて動きません!
……、なんて役立たずな!わたくしに何かあったら……後で『褒美』を与えましてよ!そう思いつつ構えてますと、
ヒヒーン!ブルルル、カッカッ!カツカツカツ……、少しばかり離れた場所で止まり近づいてくる男ですわ。声を上げてはならないと定められてますが、抵抗してはならないと、教えられていないわたくしは、馬から降り立ち手を差し伸ばしてきたそれを、
パァン!と手で叩きましたの!少しばかり怯む男。身構えるわたくし。無礼にも程がありましてよ!ヴェール越しでそやつを睨みつけます。
そして役立たずの護衛達は……信じられない言葉を上げました。
「おおおー!陛下!おめでとうございます!」
はい?陛下?わたくしの『夫』となる?この無礼な者が『王』ですって?その声を聞き、少しばかり隙をみせてしまったわたくし……、その瞬間を狙われあろうことか!
そのまま男に馬に乗せられ、さらわれてしまいましたの!ああ!なんて事に巻き込まれたのでしょう!ちらりと思い出す『営利誘拐』とか『売り飛ばす』とか?意味がわからない言葉が浮かびましてよ!しかし悪い未来に通じる事だとはわかります。
無言で馬を駆る男、小癪ですが動かず、おとなしくしておかなければなりません。手綱を握る手には薄い革の手袋。しかし腕輪を付けておられました。それは加工がしにくい蓄光石の代物。
光るそれのおかげで、目の先少しならば、昼間と違わず観察をすることができました。男が握る手綱は、見事な彫り物がしてありましてよ。それにご衣装には香り高い百花のお香が、濃くもなく淡すぎず、焚きしめられております。
……、ではやはりこの無礼な男がわたくしの『夫』となる国王陛下、ヴェール越しでは被り物をしたお顔が、はっきりとわかりません。
ああ……!わたくしは、もしかしたら、とんでもないお国に嫁いだのかもしれませんわ!




