王族の婚姻とは 〜当然でしょう、皆様 オーホホホホホ
お姉さまは艶かしく熱い吐息をつき、ヴェールをゆらされ、お兄さまは悩み深き重いため息をつき、『あわよくばご令嬢達』の胸をジリジリと焦がしておられますわ。
今日はお義母様が催された園遊会に正式に、はじめてご招待されましたの。最初で最後になるとなりますから、取り巻きのお方々の刺してくる様な視線など、跳ね返す気満々のわたくしです。
何しろいよいよ、両手両足の指を合わせた数程で、わたくしは隣国の王妃、なのでこの先、今も含めて無礼な事でもされましたら、執念深いとされてる『蛇』の様に何時までも覚えておくことにいたしましょう、オーホホホホホ!
☆☆☆☆☆
「それにしても、ドローシア様のおかげで、城下は盛り上がっておりますのよ」
しゃなしゃなと扇をうごかしながら、わたくしに聞こえるように話しているご婦人達。
「グルトム風のこのシュミーズドレス。今流行っておりますからね、ホホホ」
薄く色鮮やかな布地を、たっぷりと使ったドレスですわ。ウエストには幅広い帯、後ろで括るのでは無く、わきで結び長く垂らし、先は房になるか帯飾りがあしらわれてますわね。
勿論、お姉さまもお義母様も今日はその装い。そして取り巻きのご令嬢達も母娘揃っての、シュミーズドレス姿。
「……、ほんとに王族として城下の事も考えてらして、ニの姫様は流石ですわ、ホホホ」
「そうですわ、何しろニの姫様が直々にお買い上げになられると『王室御用達』として箔が付きますもの、そして貴族の流行に繋がりますものね、ほほほ流石はニの姫様、あら、わたくしとしたことが、いちの姫様がここにおいでだとは知りませんでしたの」
……、この二人のお顔はしかと!覚えておくことにいたしましょう。ガーデンチェアに座り、ヴェール越しで睨めつけましたの、うっとおしいヴェールですが、こういう時は、相手に気が付かれないのが、都合がよろしくてよ。
それにしても、わたくしって何もできていませんわね。王妃としてこの先やっていけるのかと、少々心配になりましてよ。城下の事についても、何一つ王族として行った事はありませんもの。お姉さまの様に服装の流行を作ったり、お義母様のように視察とやらも、したことが御座いません。
いけ好かないお二人の話を聞いた後では、少々自分の不甲斐なさに情けなくなりますわ。私、直々にお買い物したこともありませんもの……。今からでも出来ることが無いか、後でクロシェ夫人や、じいに聞きましょうと思いつつお茶を嗜んでいると
「わたくし……、気分が優れませんので、部屋にて休ませて頂きます」
お姉さまのお声が上がりました。まあ!大変。わかりました、誰ぞ!と即座に応えるお義母様。あら、いけませんわ、わたくし皆さまが集まるこの機会にやることがございますのに、少しばかり慌ててじいを呼び寄せました。
「お義母様、少しばかりよろしいでしょうか」
小さく四角な盆を捧げ持ったじいを引き連れ、わたくしはお姉さまと共にいるお義母様に声をかけました。
「あら、アリアネッサ、なんの御用ですかしら?」
「この度はお招きして頂き、誠にありがとうございます。実はお父様から、わたくしにお世話になった方々をご招待してお茶を開きなさいと、仰られたのです。つきましては招待状を先ずはお義母様に」
じいが盆の上の封書を、一つわたくしに手渡してきました。あら……陛下からの、陛下は来られて?とお聞きになられたので、はいと答えます。
「わかりました。後で返事を送ります、ちょうどよいですわ、他にご招待したいお方がいるのなら、ここで手渡すことを認めます」
ザワザワとし、わたくしに皆の目が集まります。では、とじいが動きました。
「お兄さま、いらしてくださいましね、お父様は来られますのよ」
わたくしはお兄さまにそれを手渡しました。
「ありがとう、是非とも参加させていただくよ」
笑顔で受け取ってくださいました。続いてはお姉さま。
「……わかりましたわ、後ほどお返事いたします……」
夢見るようなお声で答えられましたの、重症ですわね。後のご招待状はお父様に言われて、お呼びまいたしましたお方もいらっしゃるので、口上はじいに任せます。
――、摂政をつとめられている大臣、お父様の側近の方々、お兄さまの側近の方々、亡きお母様の生家の伯爵ご夫婦、わたくしのお祖母様にあたりますの、ここから遠く離れた国境近くが領地の為、おいでになることはなかなかありませんが、この度の慶事によりわたくしの水先案内人をしていただくそうです。
今日の園遊会にもお越しにはなられてませんが、わたくしのお茶会には来て下さり、出立に備えてそのまま城下の館で過ごされると、お返事を頂いております。
「まあ……!聞きまして?鉱山伯爵がお招きされるなんて……」
ヒソヒソとあさましい声が上がります。
「クロシェ夫人、コレをお受け取りくださいまし」
「はい、ありがたき光栄でございます」
深々と礼を取り受け取られた夫人、色々と教えて頂いて感謝しているのですわ。勿論、隣国から来られている彼にも手渡しました。
「モンパール公爵様、お受け取りくださいまし」
「は!わたしめに……ありがたき光栄でございます」
じいが手渡したお方は、亡きお母様と交流があったお方です。クロシェ夫人に教えていただきましたの。
「エドモンド侯爵様、お受け取りくださいまし」
「は!私めにも……ありがたき光栄でございます」
このお方もそう……、お母様が亡くなったあとは、王妃様から冷たくあしらわれておられたと、今日の園遊会も人混みから外れてひっそりと隠れるようにおられましたもの。
次は誰?とワクワクとしたお顔が、わたくしの視界に入ります。お父様が来られるお茶会に呼ばれることは、この先の出世レースに大きく関わる事になるそうです。
それにこの度の会の後、お呼びした方々が、返礼のお茶会を開いた時には、わたくしは『隣国の王妃』として出席することになりますの、ただその時は代理をたてることになるのですが。他国の王族と親しくなる事は、滅多と無い栄誉らしいのです。
そして、お年頃のご令嬢達は、お兄さまの来られるお茶会には、どのような手を使ってでも参加したいご様子なのですわ。次は自分が呼ばれる事を期待しておりますの、フフフフ、フフフフ、そうは……いきませんことよ。
「……、これにて終わりに御座います」
じいが優雅に頭を下げ終わりを告げました。ざわざわ、ザワザワ……呼ばれる事が無かった多くのお方が何やらほざいてましてよ。案の定お義母様の横やりが入りました。
「アリアネッサ、わたくしのお友達も側近も、そしてここにいるご令嬢達も、まんべんなくお呼びしなくてはなりません事よ?」
教えて差し上げますわという空気を出しつつ、話されて来られました。わたくしはにっこりと微笑み答えました。
「お父様に既に人選に関しては、これで良いとお許しを頂いております、何故にと聞かれたことは、きちんと説明させて頂いております。わたくしがお世話になったお方々へのお礼のお茶会ですから……、ご令嬢方々とも、その親御様ともわたくしは親しくありませんし、お世話をおかけした事は御座いませんの、皆さまそうで御座いましょう?」
わたくしは皆を見渡します。ざわざわが消え冷たい空気が広がり、皆のお顔が固まっていきますの。
「では、これにてわたくしは失礼いたします、皆さま御機嫌よう」
ドレスをつまみ礼をするわたくし、慌てて皆が頭を下げてまいりましたわ。あのお方も、あのお方も……あのお方も!お姉さまに取り入ろうと召使いごっこの時に、自ら色々とお相手して下さった皆さま。
ニの姫などいなくてもよいのに、早々に出家されたらよろしいのにと、わざわざ聞こえる様に話してらした親御様!わたくしは、しっかりと覚えてましてよ!ですから……、お父様に人選の理由を聞かれた時、きちんとその趣旨を説明いたしましたの。
お呼びするわけありませんわ!オーホホホホホ。




