王宮でのお茶会 ①
ルシアンはどちらかというと女の子が苦手であった。
自分と同い年かちょっと年上の女の子は特に。
すぐにベタべタとくっ付いて来て、ここに居ない子の悪口を言う。
どこそこの子爵令嬢はピアノが苦手なのに得意なフリをするだとか、
あの伯爵家の次女は似合わない癖にいつも高額なドレスを着ているのが笑えるとか。
そんなどうでもいい事をルシアンに一方的に話しては、
「ね?ルシアン様もそう思うでしょ?」
と同意を求めてくる。
ルシアンはそのどこそこの子爵令嬢も、あの伯爵家の次女もどちらも知らないので「その令嬢達とは面識がないから答えられない」と言うと、
「ルシアン様に知られてないなんてかわいそうな人たち♪」なんて今度は謎の優越感に浸っているのだ。
いやキミ達の事も知らないけど……とは言わないが、いつも挨拶もそこそこにすぐべったりと張り付いて側を離れない女の子達にルシアンは齢9歳にして辟易としていた。
貴族の子女達が集まる場で、ルシアンを巡って令嬢達の修羅場となる事が増えてきたので、無駄な諍いを防ぐ為にも早々に婚約者を決めてしまった方が良いのではないかと、祖母のアメリアが苦言を呈した程であった。
その際にルシアンは、どうしても婚約者を決めなくてはならないのならイトコのミシェルがいいと言って皆を驚かせたが、それは本心から出た言葉だった。
ミシェルはまだ5歳だけれど、
人並み外れた脚力と既に開花し始めていた剣技の才にルシアンは一目を置いていたのだ。
それに誰と接しても態度が変わる事がない誠実で優しい人柄だ。
5歳にしてそれなんて、本当に凄い事だと思う。
着飾って人の悪口ばかりを言う女の子に比べて遥かに好ましいと、またまた齢9歳にしてルシアンは考えていたのだった。
結局時期尚早という事になり、ルシアンの婚約者選定の話は無くなったが、ルシアンを巡っての令嬢達の下剋上はその後も苛烈さを増していった。
それから月日が経ち、ルシアンが11歳、妹のポレットとイトコのミシェルが8歳になった時の事だった。
このところ王宮にて、王太子妃殿下が主催される高位貴族の子女を集めたお茶会がよく開催される。
伯爵位以上の令息令嬢が王太子妃殿下のサロンに招かれるのである。
第一王子デイビッド殿下と第一王女シェリル殿下の為に、年齢の近い子女達との交流の場を設けたい……というのがお茶会の趣旨らしいのだが、
ポレットを婚約者にと虎視眈々と狙っているデイビッドが母である妃殿下の権威を笠にポレットを誘き寄せているのだ……と、父親のフェリックスが忌々しそうに言っていたのをルシアンは側で聞いていた。
当の本人たち、ポレットもデイビッド殿下も
お互いに好き同士なんだからいいじゃないかとルシアンは思っている。
もちろんデイビッドが妹を大切にしないような横暴な奴ならば、ルシアンとて父や祖父達と共にポレットを守る盾となるつもりだが、デイビッドは少々腹黒ではあるが誠実な少年である。
なのでルシアンは母と同じく二人の婚約には賛成の立場にいた。
話は逸れたが今日はその妃殿下主催の子どもお茶会の日である。
辺境伯令嬢であるミシェルも当然招かれていて、昨日からワイズ伯爵家に滞在している。
王宮に着けばデイビッドがポレットをエスコートするのは間違いないので、ルシアンはミシェルのエスコートを引き受けた。
この日ミシェルは淡いペールブルーのスッキリとしたティードレスを着ていた。
華美な装飾が無く、目に優しい。
ミシェルの綺麗な黒髪にもとてもよく似合っている。
ミシェルはドレスのセンスもいいのだな、とルシアンは感心していた。
母ハノンとルシアンとポレットとミシェルを乗せた馬車が王宮へと到着する。
王太子妃宮へと向かうとエントランスの所でデイビッドがポレットを出迎えに来ていた。
「ポレット」
「デイビッド様っ!」
デイビッドを見つけ、ポレットが嬉しそうに破顔する。
今年で9歳になった第一王子デイビッド。
王太子クリフォード譲りの艶やかな濃紺の髪とアメジストの瞳を持つ美少年であった。
デイビッドは優しくポレットの手を取り、
その指先にキスをする。
その時に上目遣いでポレットを見る仕草は本当に9歳かと疑いたくなるほどだ。
遠くでバタリと王太子妃宮の侍女が卒倒する音が聞こえた。
「デイビッド様……」
ポレットは頬を真っ赤にして小さな声でその名を呼んだ。
「よく来たねポレット、待っていたよ。ようこそワイズ伯爵夫人。ルシアンもよく来てくれた…その隣にいるレディはロードリック辺境伯令嬢ミシェル嬢だね。はじめまして、今日はゆっくりと楽しんで欲しい」
デイビッドの声かけに、ミシェルは可愛らしくカーテシーをして挨拶をした。
「お初にお目にかかります。ファビアン=ルーセル=ロードリックの娘、ミシェルにございます。本日はお招き頂きありがとうございます!」
ミシェルのハキハキとした喋り方と、小柄ながらも堂々とした立ち振る舞いに好感を持ったのだろう、デイビッドが形式張らない笑顔を向けた。
「ミシェル嬢のお人柄がすぐにわかるな。さすがはルシアンとポレットのイトコ殿だ」
「ありがとうございます!」
ミシェルはこれまた元気よく返した。
「では参ろうか。今日のお茶会は母上自慢のサンルームで行うんだ」
そう言ってデイビッドはポレットの手を引いて歩き出した。
ポレットとデイビッド、そしてルシアンとミシェル。
小さな紳士淑女が共に並んで歩く姿を、ハノンは微笑ましそうに眺めていた。
『ミシェルは初めての参加となるこのお茶会、楽しい思い出になるといいのだけれど……」
でもハノンは何やら胸騒ぎを感じていた。
ミシェルの母であるランツェは、下の子のファニアスが風邪を引いた為に同行出来ない。
ここは自分がしっかりとミシェルを守らねば…と思うハノンであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
作者のひとり言。
このお茶会はポレットとデイビッドの婚約が結ばれる少し前の話だそうな。




