破滅の足音 ①
今週もお付き合い頂きありがとうございます!
「それじゃあ魔術教師、二者面談といこうか?いや、この際だ学園長にもご同席願おう」
「………あ、いやぁ……その……ヒィィッ……!」
「うるさい」
「アガッ……」
授業中の指導と称して傾倒する聖女のためにポレットを私刑に掛けようとしていた魔術教師ウノム。
それをポレットの兄であるルシアンに阻止され、ならば兄妹共々……と思った矢先に二人の父親であるフェリックス=ワイズに身柄を拘束された。
抵抗されたら面倒くさいと、ウノムはフェリックスに当て身を食らわされ意識を刈られる。
そしてフェリックスが王家の影に目配せをすると、一人のガタイのよい男がウノムを肩に担ぎ上げた。
その様子を見ていたルシアンたちにフェリックスが告げる。
「お前達、もうすぐ迎えが来るから今日は帰りなさい」
このような騒ぎとなり、学園が荒れるのは間違いない。
聖女の魅了に掛かった者が何を仕出かすかわからない以上、ポレットは学園に居ない方がよいとフェリックスは考えた。
それに対し、ルシアンが答える。
「そうだね、ポゥは家にいる方がいい。ミシェル、ポゥを頼んでもいい?」
ミシェルは「もちろんです」と頷くもルシアンに訊ねた。
「ルシアン様はどうするのですか?」
「僕は残って顛末を見届けるよ。いいよね?父さん」
フェリックスは剣を鞘に収めながらルシアンに答えた。
「まぁいいだろう。その代わり…「キャーーーーッ!?」
しかしフェリックスの話の途中で、悲鳴に近い感嘆の声が辺りに響き渡った。
その場に居た者が一斉にその声の主の方を見る。
そこには騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう、数名の取り巻きを引き連れた聖女リリスが頬を薔薇色に染めて一心にフェリックスたちを見ていた。
フェリックスが目を眇めてルシアンに問う。
「……アレ、が?」
ルシアンは何も答えずにただ頷いた。
自身が魅了に掛けたウノムが拘束され荷物担ぎをされているというのに、そんなことは眼中に無いリリスらがもの凄い速さでフェリックス達の元へと近寄って来た。
「ルシアン=ワイズ様ですね~!よ~うやくお目にかかれましたわ!それに、同じ髪色に同じ瞳の色!では貴方が噂に名高いルシアン様のお父様、フェリックス=ワイズ卿ですね~!いやんどうしましょう♡ガチイケメン親子~♡王子殿下も霞んじゃう~♡どっちを選んだらいいの~?リリス困っちゃうぅ~!」
フェリックス、ルシアン親子を見て感極まったリリスが体をクネらせてそう言った。
ルシアンはさり気に一歩ずつ後退し、リリスと距離を取っている。
それには気付かず、リリスは目を輝かせてフェリックスに声をかけた。
「ワイズ卿がこんなに素敵な方だなんて知らなかったわ~♡大人の男のフェロモンに酔いしれたぁ~い♡是非祝福を授けてあげま~す♡」
「断る」
フェリックスが即答で拒否するとリリスはその返事さえも嬉しそうにした。
「いやんなんでぇ~?あ、テレてる~?テレてるの~?♡」
そう言ってリリスは目を爛々とさせながら魅了指輪を付けた方の手でフェリックスに触れようとした。
その瞬間、フェリックスが付けていた魔道具がチカッとした光を放つ。
それを感知したルシアンは慌ててポレットとミシェルをその場から引き離し、フェリックスは瞬時にリリスの手首から先を氷で凍結した。
「ギャアッ!?」
一瞬で手を氷漬けにされたリリスはその冷たさに悲鳴をあげる。
そして手を押さえ、その場にしゃがみ込んだ。
「聖女さま!」「リリス様っ」「我が女神!」
取り巻きの男子生徒たちが慌ててリリスに駆け寄ろうとするも、
「動くなっ!」
フェリックスはそう怒号を発しそれを制した。
聖女の取り巻きたちはその怒声に怯み、立ち止まる。
そしてフェリックスは冷たい視線を男子生徒たちに向けた。
「聖女はたった今、禁術使用の現行犯で捕縛する。庇い立てする者は同罪の見做し拘束するぞ。それが嫌なら大人しくしていろ。お前達の洗脳を解くのは後回しだ」
「手っ!?ワタシの手がフローズン!?いやっ!いやぁぁ~!!」
リリスは凍りついた自身の手を見てじたばたと狼狽えた。
「凍傷になっちゃうでしょ!?早く溶かしてよっ!!」
「黙れ。腕を切り落とされなかっただけマシだと思え」
睨まれただけで凍りつきそうな、そんな冷たく鋭い視線でフェリックスはリリスを見ている。
「なんで?なんでこんな酷いことするのっ?ワタシは聖女なのよっ?そのワタシにこんなことっ……教会が黙ってないんだからねっ!」
自身の身に起きていることを理解できないリリスが喚き散らした。
そんなリリスにフェリックスは無情な現実を突きつける。
「生憎だが、大陸教会からは既に聖女の称号を剥奪されている。リリス=ジェンソン、お前はもう聖女ではない」
「……は?なに言ってんのっ!?そんな訳ないでしょっ!?ウソよそんなの!ワタシは信じないんだかね!」
「信じようが信じまいがお前の勝手だが、お前は既に禁術使用の罪を犯した魔法犯罪者だ。加えて王族に魔法被害を与えた第一級犯罪者でもある」
「はぁぁっ!?な、なによソレ!!そんなの知らないわよ!!」
「まぁいい。お前の申し開きはちゃんと公の場で聞いてやる。まぁ王子に禁術を掛けたのだ、二度と陽の光を浴びる事は出来ないと覚悟はしておけ」
フェリックスはそう告げて王家の影に向け一つ小さく頷いた。
するとたちまち一人の者がリリスを魔術によりその身を拘束、そしてそのまま転移魔法にてどこかへとリリスを連れ去った。
リリスが居なくなり途端に辺りは静けさを取り戻す。
ルシアンの側にいたポレットが慌てて父親の元へと駆け寄った。
「父さまっ……デイさまが禁術に掛けられたって……まさか魅了にっ……?」
心配そうな目を向ける娘の頭を優しく撫でながらフェリックスは言った。
「あの元聖女、魅了指輪をつけてすぐにデイビッド殿下に術を掛けようとした。あの指輪は厄介な代物で王子の深層心理にまで瞬時に潜り込んだんだ。しかし王族であるデイビッド殿下には守りの術が付与されている。その二つの相対する力が運悪くデイビッド殿下の体内で暴れ出してしまった」
「そんなっ、デイ様……」
フェリックスの話を聞き、顔色を悪くするポレットにフェリックスは言った。
「心配はいらない。すぐに筆頭魔術師が対応し、事なきを得た。今は殿下は密かに王家の別邸にてご静養中だ」
「では他国に視察というのは……」
「聖女を謀る方便さ」
ポレットにはこう言ったものの、一時はデイビッドは本当に危険な状態であった。
魅了に抗おうと無理をした為、必要以上にデイビッドの体内で術が暴れたのだ。
筆頭魔術師がとりあえず応急処置をし最悪の事態は免れたものの、
大賢者バルク=イグリードの弟子であるアルト=ジ=コルベールにより解術されるまでは予断を許さない状態であった。
まぁこの事は今はポレットは知る必要はない。
度重なる聖女と彼女に操られた者たちからの干渉を受け、心身ともに疲れているポレットにこれ以上の負担を掛けたくはなかった。
全て落ち着いてから婚約者であるデイビッドから直接聞けばよいと思ったのであった。
フェリックスは娘に優しく告げる。
「とりあえず、ポレットは迎えが来るまで医務室にいなさい」
「お迎え……?誰が来てくれるの?」
「ポレットが一番安心できる人だよ」
「母さまが?」
フェリックスは笑みを浮かべて頷いた。
「イヴェットが母さまを呼びに行ってくれているから、一緒に帰りなさい」
「はい。ありがとう……父さま」
「さて。じゃあこれから大掃除に取り掛かるか」
フェリックスはそう言って、王家の影たちを引きつれて実技室を後にした。




