転生夫人特別講師現る ①
魔術学園のクラス編成は成績順だ。
AクラスからEクラスまで、入学試験の結果によりクラス分けをされる。
ポレットとミシェルはAクラスで、同じクラスであった。
ちなみにポレットの成績は学年では上位五名の中に入っている。
ミシェルも1学年175名中の15位となかなかに優秀な成績であった。
そんなポレットとミシェルが在籍するAクラス女子が初めての護身術授業の日を迎えていた。
護身術の授業とは、魔術を使えないシチュエーションでも自分の身を守る、その方法や技能のレクチャーを受けるというものだ。
剣術の初歩的なものから簡単な体術を女性講師から学ぶ事になっている。
運動着に着替え、Aクラスの女子たちは運動実習室で講師が来るのを待っていた。
「どんな先生なのかしら。怖い先生だと嫌だわ」
「私、剣術や体術なんて出来るかしら……」
「アザが出来たり、体に傷を作ったら婚約者に怒られちゃうわ」
なんて他の女子生徒が話す中でポレットがミシェルに訊ねた。
「ミシェル、講師の先生について何か聞いてる?」
「ううん?ルシアン様から『ミシェルが退屈しない剣技を持った講師らしいよ』とだけお聞きしたくらいかしら」
「そうなのね。そうね、たしかに剣術の腕前は凄い方だわ」
「え?ポレットは先生が誰なのか知ってるの?」
ミシェルが訊くとポレットは肩を竦めながら頷いた。
「ワイズの家門って結構怖いのかもしれないって、聞かされた時に本気で思っちゃったわ……お母さまも苦笑いをしていたし」
「え?それじゃあ先生はもしかしてワイズ一門の方?」
「一門の者どころか次期当主夫人よ」
「えっ……それってまさか……」
講師の正体に気付いたミシェルがそう言った時、実習室の扉が開いた。
コツコツと運動用の長靴の靴音を響かせて今まで話題になっていた女性講師が、立ち並ぶ女子生徒たちの前にやってきた。
やっぱり、と思ったミシェルを初め、その他Aクラスの女子生徒に向かってその女子講師は言った。
「皆さんはじめましてご機嫌よう。今日からA、Bクラスを担当いたしますイヴェット=ワイズと申します。よろしくお願いしますわね」
「ワイズ……?」
と、ファミリーネームを聞いた生徒たちがざわっとする。
「イヴェット様……」
ミシェルの口から思わずその名が零れ落ちた。
イヴェット=ワイズ次期侯爵夫人。
次期ワイズ侯爵キース=ワイズの妻であり、元オリオル国総騎士団長チャザーレ公爵の娘でもある彼女は幼い頃から父親により鍛えこまれた見事な剣技の持ち主である。
ご存知ない方のために、このイヴットという女性の説明をここでしておこう。
───以下、短編集『鎧の姫』より一部抜粋───
イヴェットは転生者だ。
しかも異世界転生者という分類の。
どうやら前世では40代半ばで死んだらしい。
死んだらしいと憶測で語るのは、前世の最後の記憶が階段から落ちる瞬間だったし、もの心ついて前世の記憶を取り戻した時には既に今世のイヴェットだったからだ。
その前世の記憶を全て引き継いでいるわけではないが、イヴェットには鮮明に覚えている事がある。
それは前世の自分が大好きだったマンガやアニメなど物語の記憶である。
そう、イヴェットはO・TA・KU☆という種族の生きものだったのだ。
数々のアニメを視聴しマンガやラノベなどを読み漁っていた、それが彼女の前世である───
と、そんなイヴェットが次期当主夫人という身分にも関わらずなぜ魔術学園の講師となったのか……
彼女自身はハイラント魔法学校の出身だ。
にも関わらず、彼女自ら名乗りを上げ、ワイズ家門の男たちの強力な後ろ楯を得てこの講師の座をゲットした理由……
それは当然、ポレットとミシェルを陰ながら(陰に隠れていないが)守るためである。
特に王子の婚約者であるポレットは学園という閉鎖的な空間でどんな危険に晒されるかわかったものではない。
それを毛髪をはらはらと散らしながら心配する前ワイズ侯爵アルドンにイヴットが言ったのだ。
「お義祖父さま!わたくしにお任せ下さいませっ!わたくしを実技の特別講師か何かで学園に送り込んでくだされば、異世界学園モノの定番、王子の婚約者の敵である憎き聖女からポレットを守ってみせますわ!!」
ん?聖女?異世界学園もの?とアルドンもその場にいたフェリックスもキースもヴィクトルも首を傾げたが、確かにイヴェットならば安心して任せられる。
元々騎士団の方へ適当な女性騎士を派遣して欲しいと学園側から要請があったのだ。
それならばオリオルでは女性騎士として叙任されてあたイヴェットを推薦してもよいわけだ。
まぁ次期侯爵夫人というちょっとしたカタガキがくっついているが。
まぁそれも周囲への牽制となるか……と王宮騎士団の長であるヴィクトルがイヴェットを学園へと派遣を決めた。
ワイズの女性陣は半分呆れながらもやはりポレットが心配なのは同じらしく、
キースとの間にもうけた長男と次男の子守りを快く引き受けたのであった。
そんなこんなで今こうしてイヴェットは護身術の講師として生徒たちの前に立っているのであった。
「オーホッホッホ!どこにいるのか知らないけれどとっとと出て来なさいっ!ポレットを悪役令嬢に仕立てあげようとする極悪聖女っ!」
その②に続く




