学園祭にて④ ルシアン、自覚する
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魔術学園祭騎士科の出し物として、
選抜された生徒の模擬試合が観戦形式で行われていた。
その試合会場で一人の小柄な少女が剣技の演武を披露している。
基本の構えから払い、受け、突きと流れるようにその型を辿ってゆく。
小柄なその肢体からは想像もつかないような力強く振られる剣とキレのある動き。
一つ一つの動作が少女の類い稀なる剣武の才を物語り、この場にいる者全てを魅了していた。
少女の名はミシェル。
北方の守護を担うロードリック辺境伯令嬢だ。
しかし何故、まだ魔術学園の生徒ではない彼女がこうして観衆に演武を披露する事になったのか。
事の発端は少し前に遡る。
◇◇◇◇◇
「ルシアン様、午後からは“かんせん試合”に出られるのですよね?」
ルシアンに案内されて、弟のファニアスと共に学園祭を回っている時にミシェルが訊ねてきた。
ルシアンは頷きながら答える。
「うん。騎士科の一年生枠でね。一年生同士で試合するんだ。それを学園祭に来たお客さんに見てもらう形だね」
「上きゅう生と試合はしないのですか?」
「体格差があるからね。あくまでも娯楽的な催しだから同じ学年の者同士で試合が組まれているんだ」
「なるほど。ルシアン様、がんばってくださいね!応えんしています!」
「ルシにぃ!ぼくもおうえんする!」
「ありがとう二人とも、頑張るよ」
ルシアンはそう言って二人に微笑んだ。
そして時間となり、ルシアンは試合に出る準備に取り掛かる為に、ミシェルとファニアスを自分の両親に預けた。
「じゃあミシェルたちをよろしくね」
ルシアンがそう言うとハノンが笑みを浮かべて答えた。
「わかったわ。ルシアン、頑張ってね」
「相手の動きから目を離すな。視界は広く、意識は浅く満遍なく。相手の手足の運びから次の動きを予想するんだ」
フェリックスがルシアンにアドバイスをした。
「わかった。父さんのいつもの教え通りにやるよ」
「それならまず負ける事はないな。お前の実力はずば抜けている」
そう息子の勝利を信じて疑わなかったフェリックスの宣言通り、ルシアンは観戦試合で見事勝利を収めた。
その後も観戦試合は学年を上げて進んでゆく。
そして最終学年の試合ともなると、騎士団で行われている模擬試合となんら変わらないほどの迫力があった。
フェリックスが「父兄参加枠があればいいのに」とウズウズしてしまうほどに。
その言葉に対し、合流して一緒に観戦していたディビッド王子が言った。
「学園未就学児童の模範剣技指導がこの後あるそうですよ?そちらに参加されては」
「ほう、もちろん指導する方ですよね?」
「たまには基本に立ち返り、児童と共に指導を受け直すのも肝要かと?」
「ははは」
フェリックスが乾いた笑い声を発した。
ポレットを膝に乗せて観戦するフェリックスと、口には出さずともそれが気に入らないディビッドとの和かな啀み合いが繰り広げられている。
そんな二人を他所にミシェルがハノンに訊ねた。
プログラムを見て気になった事があるようだ。
「おば様、この東・西・南えんぶとはなんですか?」
「あ、それは毎年それぞれの騎士団関係者の生徒が演目として剣技の型を披露するそうよ。型の特徴はそれぞれの騎士団で違うものね」
「どうして北がないのでしょうか?」
「多分、北方騎士団関係者の子女が居ないのでしょうね。居たとしても騎士科の生徒ではないのよきっと」
「そうですか……わたしがそれに出ることは“かのう”でしょうか?」
「え?ミシェルが?」
「きほんの型ならできますから!北方騎士団だけ“えんぶ”がないなんて……きっと北のみんながガッカリします」
ミシェルの言い分を聞き、ディビッドが言った。
「いいんじゃないですか?試合なら危険を伴うので騎士科の生徒でなければ参加出来ない決まりはあるのでしょうが、演武なら生徒でなくてもいいはずだ。だってこれは余興なのですし、お忍びで来ている王子の為の演目だと話を通したら学園側も認めてくれるでしょう」
「それは越権行為…「すごいわディビッドさま!ミシェルのためにありがとう!」
フェリックスが抗議の言葉を吐こうとした瞬間、同時にポレットの声がそれに被さった。
「いやだからいくら王族だからって…「さっそく誰かを学園側との調整に向かわせるよ」
またまたフェリックスの言葉は遮ってディビッドが言う。
「そんな勝手が許s…「ありがとうございます!」………」
悉く抗議の声を遮られたフェリックスだが、結局はポレットとミシェルが嬉しそうに喜んだのでそれ以上は何も言わなかった。
そうしてあれよあれよと話が通り、騎士科の小柄な生徒の服を借りたミシェルが急遽特別ゲストの演武者として参加したのであった。
東西南の演武の後、小さなミシェルが会場の真ん中に立った時、観衆からどよめきの声が上がった。
しかし、ミシェルが北方騎士団長ファビアン=ルーセル=ロードリックの娘だと知った一部の者からは別の意味でのどよめきが上がったのだった。
それはもちろん、雪原のシルバーバックと雪原のチビゴリラちゃんの勇名を知る者たちからだ。
そしてミシェルはどうせ爵位にものを言わせて(正しくは王族の権威にものを言わせてだが☆)参加した小娘に何が出来ると馬鹿にした者たちも度肝を抜かれる見事な演武を披露したのだった。
それが冒頭の部分である。
齢九歳とは思えない流れるような無駄のない動作。
剣を握る者としてその基本の型を大切にし、体に叩き込ませているのが顕著にわかった。
同じ会場の隅で、ルシアンはその様を見ていた。
会う度にミシェルはルシアンに新鮮な驚きを与えてくれる。
そんなミシェルがいつしか自分にとって稀有な存在となっていた事を、ルシアンは今この瞬間に完全に理解したのだ。
ミシェルは違う。
その他大勢の人間とは明らかに違う。
そしてその想いを、ルシアンは大切に育ててゆく事になる。
ルシアンの想いにミシェルが追いつくまで、
それはそれは長い片想いの始まりでもあった。




