過去を振り返って……あの時のフェリックス② 温かな夜
「ぱぱ!おちゃえりっ!」
「ただいまルシアン」
ハイレンにある西方騎士団近くにあるハノンとルシアンが住んでいるアパートに、その日の護衛勤務を終えたフェリックスが帰宅した。
昨日、初めて“ぱぱ”の存在を知ったルシアンは、今日もぱぱが来てくれるかずっとそわそわしていたのだ。
そして玄関のチャイムが鳴った途端にルシアンはドアに駆け寄り、ハノンがドアを開けた瞬間にフェリックスにしがみついたのだった。
フェリックスはルシアンを抱き上げ、笑ってしまうほど自分にそっくりな息子の頬を指の背で優しく撫でた。
その様子を優しげな眼差しで眺めながらハノンは彼にこう告げる。
少し気恥ずかしいけれど心を込めて。
「おかえりなさい」
その言葉をフェリックスは嬉しそうに受け取り、そして返事する。
「た…ただいま、ハノン」
互いに少々照れながらも始まった家族三人での暮らし。
王都に戻ってから改めて、という選択肢はハノンとフェリックスにはなかった。
再会して気持ちが通じ合い、再び体を重ねた時から家族になる事を互いに望んだ。
そしてそれは息子のルシアンのためでもある。
自分にもぱぱがいた喜びを昨日、ルシアンはその小さな体全部で表現していた。
嬉しそうに目を輝かせて、
「ぱぱ、くっちーたべる?」と自分のオヤツのクッキーを差し出したり、
「ぱぱ、くまたんどーぞ」とお気に入りのクマのぬいぐるみを渡すなどの歓待ぶりだった。
そしてひと時もフェリックスから離れようとはしない。
そんないじらしい姿を見ると堪らなくなり、ハノンはフェリックスにハイレン滞在中から一緒に暮らして欲しいと頼んだのだ。
フェリックス自身もそうしたいと思っていたので、ハノンの提案に被せ気味に頷いたのだった。
「ぱぱ、いただちましゅちてね」
ルシアンは昨日に引き続き、今日も食事の前にフェリックスに教える。
フェリックスはそれを相好を崩しながら聞き、きちんと「いただきます」と言った。
そしてルシアンも元気よく言う。
「いただちましゅ!」
「はいどうぞめしあがれ」
ハノンは二人の姿を目を細めて見つめた。
小さなルシアンと大きなルシアン、
または大きなフェリックスと小さなフェリックスが共に美味しそうに自分が作った食事を食べてくれる。
一昨日までは想像もつかなったこの幸せな光景にハノンは泣きそうになった。
食事が終わると、フェリックスは初めてルシアンと入浴した。
バスタブに浸かりながらルシアンが託児所で教えてもらった歌を歌ってくれる。
“うさぎの歌”という、子ども達に人気の歌らしい。
「♪うしゃぎのおみみがながーのはー
たのちいおはなちちくためよー♪うしゃぎのおめめがあちゃいのはー……
そこまで歌って、ルシアンはふいにフェリックスの目をじっと見つめた。
「どうした?」
フェリックスが自身の膝にのせて湯船に浸かるルシアンに訊ねる。
「ぱぱとぼく、おめめあちゃい!うしゃぎしゃんといっしょ」
「あぁ……本当だな」
ワイズ家特有の鮮やかな赤い瞳。
二人が親子であるという事を何よりも明確に伝えてくれる、絆の象徴でもある。
ーーでも、もしルシアンが女の子でワイズ特有の瞳も髪も受け継いでいなくても、きっと会えばすぐ分かっただろうな。
魔力の性質や波長で、我が子だと絶対にわかった筈。
フェリックスはそう思った。
その後、この部屋を借りた時から置いてあったという大きなベッドで三人で眠る。
ハノンが子守唄をルシアンに歌ってやるのをフェリックスも静かに聴いていた。
やがて眠りに就いたルシアンから聞こえる子ども特有の寝息。
それすらも愛おしくて心地よくて、
フェリックスは少し泣きたくなった。
こんな夜がくるなんて……
そんなフェリックスの気持ちがハノンに伝わったのか、ハノンも同じ事を感じたのか、自然とルシアンを挟んで互いに手を繋いでいた。
家族三人で過ごす穏やかな夜。
それはとても幸せで、温かな時間だった。
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るちあん卿、“く”は得意だという事が判明。
しかし“き”と“さ”の壁が立ちはだかる……!
次回はひと足先に王都に戻ったフェリックスが三人での暮らしの為にアレコレ走り回るお話です。
ワイズ家の家族にハノンとの再会を打ち明けますが、そこにハノンがゴリラな嫁だと誤解される要因が……?
次回の更新は木曜日です。




