挿話 不思議な夢の中 ③
今回のお話はフェリックスの夢の中での出来事です。
書籍になっている本編とは全く関係はございませんので、混同しないようお願いいたします。
( ノ ꇴ ˋ͈)テヘッ
でも今回の挿話は、本編では触れなかった補足的な要素はありますので、「へ~(°-°)=}プッ」程度で楽しんでいただけましたら有り難いです。
(*・ω・)*_ _)ペコリ
「ハノンッ……どこだっ……」
魔法生物の暴走により阿鼻叫喚となる学園内を、フェリックスは若きフェリックスに伴い疾走する。
学園が雇い入れている衛士から借りた剣を手に、若きフェリックスが逃げ惑う生徒から魔法生物の居場所を聞き出した。
付近の生徒たちに、散り散りにならずに正門へ迎えと指示をし、魔法生物の元へと向かうかつて自分をフェリックスも追いかける。
由緒正しき武門の家柄であるワイズ侯爵家の男子として、幼少期より親族たちに鍛えられてきた。
その己の腕に覚えありと学生の身でありながら魔法生物鎮圧に加勢しようと息巻いた記憶が呼び覚まされる。
「今となってみればかなり無鉄砲なことをしたものだ」
いくら現役の騎士に引けを取らない腕前を持っていたとしても所詮はまだ学生。
実戦経験もないのによく魔法生物に挑んだものだと我ながら呆れ果てもする。
混乱の最中、教師と衛士たちは生徒たちの避難を優先し、一部数名の衛士が制御が外れ暴れ狂う魔法生物に応戦しているらしい。
幾度となく現場を経験し、指揮を取る立場となった今のフェリックスなら理解できる。
当時は数々の不測の事態が重なり、初手からしくじった結果がこの状況を招いたのだろう。
だから本来保護対象であるはずの学生であったフェリックスが直接、魔法生物と対峙するような状況に陥ったのだ。
「まぁそのおかげでハノンを救え、彼女の心に俺という存在を刻みつけることが出来たのだがな……ふ、」
若かりし自分と共に走りながら悦に浸るフェリックス。
だがすぐにハノンセンサーが反応し、魔法生物の側で力なく横たわる彼女を見つけた。
「っ……いたっ!いたぞっ!ハノンだ!くそっ遅かったか!」
フェリックスはすぐさまハノンの元へと駆けつけるも、実体のない体は彼女を抱き上げるどころか触れる事すら叶わない。
「うぅっ……」
胸に魔障を負ったハノンが小さく呻き声をあげた。
最愛の妻(の少女時代)が目の前で苦しんでいるのに何も出来ない歯痒さを噛み締め、フェリックスは忸怩たる思いで魔法生物の前に立ち塞がる若き自分の後ろ姿を見た。
ハノンも意識が朦朧としながらもその背中を見ているのを知り、フェリックスは声を張り上げた。
「おい俺っ!ハノンの前で無様な姿を晒したら許さんからなっ!可及的速やかに、かつ華麗に魔法生物を鎮圧しろっ!そして早くハノンを医務室へ運ぶんだっ!!」
そんな無茶な要求をかつての自分にしたフェリックスは、その直後に始まった戦闘に今度はリング脇のセコンドばりに檄を飛ばす。
若きフェリックスにその声は聞こえていないので全くの無意味であるのだが……。
「そこだっ、間合いに踏み込め!」
「違う!それでは大したダメージを与えられんぞっ」
「魔法生物の体液は危険だ、返り血を浴びぬよう攻撃後はすぐに後退に転じるんだ!」
と口煩く自分に声を張り上げているうちに、とうとう若きフェリックスが魔法生物を制圧した。
「よしっ、よくやった!さすがは俺っ!!」
フェリックスが満足そうに大きく頷き、そしてハノンの元へ近付いて来たかつての自分にその場を明け渡す。
若きフェリックスはほぼ意識を失っているハノンの状態を確認し、彼女を抱き上げた。
「……軽いな。女性ってこんなに軽いものなのか?」
抱き上げたハノンから感じた目方の軽さにほんのり驚くかつての自分を見て、フェリックスはまた頷いた。
「うんうん。確かにあの時そう思ったんだよな。幼い妹を抱っこした記憶はあれど、女性を抱き上げるなんて経験はなかったからな」
茶会や園遊会などで度々、どこかの令嬢が目の前で転んで「あ、足が……」とか「立てません……」とか弱々しげに言うが、当然従者や主催側の人間に任せるためにフェリックスが見ず知らずの令嬢に手を貸すことはない。
だから初めて抱き上げた女性の軽さにわずかに驚いたのだった。
そんなことを感慨深げに考えている間に、若きフェリックスは医務室へと到着した。
ハノンが胸元に負った魔障の傷を見て、医務室の医師は入院施設のある病院への搬送を決めた。
それを確認した若きフェリックスが「では後はよろしく」と告げて医務室を去ろうとする。
「ちょっ……待て。いや確かにあの時は他の者も救助するべく現場に戻ったが、人手は足りていただろう。だから戻る必要はない。ハノンの側に居てやれ」
そう言って十代フェリックスを引き止めようとする四十代のフェリックス。
しかしその声は届いていないのだから当然十代のフェリックスは医務室を出るべくドアノブに手をかけた。
その瞬間にフェリックス(四十代)は思いつく。
実体が無いがために触れることの出来ないのなら、そしてこれが夢の中であるならば、ひょっとして憑依出来るのではないか?と。
元は同じ魂。しかも夢の中ならなんでもアリで、自分で自分に憑依するのは可能なはずである。
というトンデモ理論を構築したフェリックスはそれにより派生する事態に思いを馳せた。
四十代の自分であれば、ハノンをこのまま放置はしない。
そして病院に搬送されるハノンを他の者には任せずに自分で運ぶ。
それからもちろん傷の処置が終わりハノンの意識が戻るまで病院で付きっきりで居るつもりだ。
そしたら義理堅く礼儀正しいハノンの事だ、オマケに窮地を救い好感度も爆上がりしているのだから、きっとお礼がしたいと言うだろう。
本来なら救助した人間から謝礼など受け取らないが相手がハノンであれば話は別だ。
人の良い真面目なハノンの人柄に漬け込んで婚約者となって貰おう。
となれば妹の負傷の報せを受けたファビアンもすぐに病院に駆け付けるだろうから、挨拶と顔合わせが出来るて、その場で縁談の打診してしまおう。
そうすれば自分とハノンは晴れて婚約者同士となり、学園生活は薔薇色のものとなる。
卒業式の夜に起こることは経験済みなので元婚約者候補の令嬢二人から差し出されるものは絶対に口にはしないが、ハノンとの初夜は卒業式の夜で決定だ。
でなければ可愛いルシアンは授からない。
そして卒業後すぐに入籍して婚姻式を挙げる。
四年も離れ離れになる事にはならない、もう一つの幸せな人生の幕開けだ。
と、四十代の擦れた思考の元、ひとりツラツラと勝手に夢の中の自分の人生設計を立てた。
そして早速行動に移すべく、若き自分に憑依しようと思ったその時に……
目が覚めた。
ぱちりと覚醒した目の前には四十代となって更に美しさを増した最愛の妻の姿がある。
フェリックスはむくりと起き上がり、
「…………惜しいことをした」
とひとり言ちる。
「なに?なにが惜しかったの?」
フェリックスのひとり言を耳にしてハノンが尋ねるとフェリックスは一瞬考え込み、そして首を振って微笑んだ。
「いや、なんでもないんだ。夢で考えた人生設計も素晴らしいものだが、諸々の出来事があって今があるのは確かだ。偶然も必然も表裏一体、どんな経験も無駄ではないはず……だからまぁ、もういいんだ」
それを聞き、ハノンは首を傾げながら笑う。
「なぁにそれ、なんだか哲学ね」
フェリックスはころころと笑うハノンを抱き寄せた。
──頑張れ俺。諦めずに執念深く探し続けるんだ。そうすれば必ずこうやって大切な者を捕まえられるからな。
夢の中の若き自分に、フェリックスはそうエールを送った。
思いついて書きたくなった挿話にお付き合いいただきありがとうございました。
またルシアンのターンに戻りますが、すみません来週の更新はお休みです。
ごめんなさい( ´>ω<)人




