挿話 不思議な夢の中 ②
「ハノンッ……!」
10代のハノンを目敏く見つけたフェリックス。
華やかなヤングフェリックス一行が廊下を進んで行くのを、多くの生徒がその進路を塞がぬように脇に逸れる。
舞台で言えばエキストラ、小説の中で言えばモブたちが主演や主要な助演俳優たちの邪魔をせぬよう気を付けているかのような……そんな印象を受ける大勢の生徒たちの中に、ハノンはひっそりと佇んでいた。
天の声として読者諸君にハッキリと申し上げるならば、女学生時代のハノンは確かに地味でなんの特徴もない、じつに普通の少女だった。
ハノンは美人である。
当然、少女時代のハノンも愛らしい顔立ちをしているのだが、いかんせん地味さがそれを覆い隠してしまっていた。
手入れにお金をかけられない髪はひとつに纏めてただ三つ編みにしているだけだし、しかもリボンなどの装飾もない。
そして自分でハサミを入れていた前髪は厚ぼったく顔の向きによっては目元を覆い隠してしまっている。
その上遠縁の知人から譲ってもらったという制服は草臥れたお古感が否めないし、とにかくジャケットのサイズがハノンの体に合っていないのだ。
そのため、フェリックスをメロメロにしているスタイルの良さも隠されてしまっている。
そんなハノンがその他の大勢の中に紛れてしまっては、全く接点の無かった若きフェリックスの目に止まらなかったのは仕方ないことなのだろう。
しかし、既にハノンの存在を知っているフェリックスは有象無象の中から目敏くティーンエイジャーハノンを見つけ出した。
「か、か、か、か、可愛いっ……!」
40代のオッサンが一心に10代の少女を見つめ、感動に打ち震えるという残念な光景ではあるが、フェリックスにしてみれば砂利の中から光り輝く宝石を見つけた気持ちであるのだ。
なのに若きフェリックスはそんなハノンが視界に触れることもなく友人たちと素通りしていく。
フェリックスは信じられないものを見る目でかつての自分を引き取りめる。
「ちょっま……俺、あの愛くるしい彼女が目に入らないのかっ……?俺のその赤い目は節穴かっ?」
もちろんそれで引き止められるはずもなく。悔しくて歯噛みするフェリックスだが、しかし同時にヤングフェリックス一行を見るハノンの表情に気付く。
ハノンはスンとして、かなり冷ややかな目をフェリックスたちに向けていたのだ。
その表情は「チャラチャラして……この世の苦労なんて何も知らないような我がもの顔や、気取った振る舞いがいけすかないのよね」と考えていることを雄弁に物語っていた。
それでフェリックスは、この夢の中がまだ魔法生物襲撃前の世界であると察した。
あの凄惨な事件で命懸けで戦ったフェリックスに惚れたとハノンが話してくれた言葉を一字一句覚えている。
そのハノンがあんな蔑んだ目でフェリックスたちを見ているという事で、なんとなく時間軸が理解できたのである。
「これは……ある意味レアだぞ」
フェリックスはそう思った。
卒業後再会した時のハノンの態度も硬化したものだったが、それは息子を奪われまいと警戒していたからだったし、今思えば頑なな態度の中にもほのかな思慕を感じられた。
だが目の前にいるかつてのハノンの目は思慕の欠片も存在しない、むしろほんのりとした敵意さえ漂わせていた。
どちらのハノンからも壁を感じるが、“防御の壁”と“拒絶の壁”の差は明白であると今なら解る。
だからそんなハノンの態度が新鮮で、期間限定の稀有なものだと、フェリックスは思ったのだった。
「あぁ……ジト目になってかつての俺を見ているハノン……可愛いな……」
なんだかその目を向けられているかつての自分が腹立たしくなってきたフェリックス。
夢の中で実態の無い自分が物理的に触れることは不可能かもしれないが、一発殴ってやりたい気持ちになる。
「ものは試しだ、やってみよう」とフェリックスが若きフェリックスに向かって歩き出したその時、急に視界が暗転した。
「……ん?」
しかしそれは一瞬の間で、次の瞬間には校内の違う場所へと風景が変わっていた。
そしてその眼前に突如現れた、見覚えのある凄惨な光景にフェリックスは瞠目する。
耳を劈く魔法生物の咆哮。
逃げ惑い、または恐怖で戦慄き立ち竦む生徒たち。
そこは、魔法生物からハノンを救ったあの事件の真っ只中であった。
•*¨*•.¸¸☆*・゜•*¨*•.¸¸☆*・゜•*続く
え?続くの?
続くんです。もう一話だけお付き合いください。
次回はある意味if的なお話。
本編とは混同しないように気を付けなきゃ
꙳⋆(lllᵔ⩌ᵔlll)౨




