小さな嫌がらせ
厚遇されていると勝手にミシェルを妬む先輩騎士が、手合わせを装いミシェルに制裁を与えようとしたが逆に返り討ちに遭った一件。
その後違反行為をした先輩騎士は、近衛の長であるフェリックスにより……メロディ風に表現するなら“恐怖のあまりにキン○マがシワシワのカチコチに縮こまって干からびたウメボシの種みたいになる♡”ほどの厳罰に処された。
それ以来表立った虐めはないものの、存外妬み嫉み僻みを抱える男の女々しさは厭らしいもので、ミシェルは虐めとは微妙に区別がつかないような小さな“嫌がらせ”をたまに受けていた。
本当にささやか過ぎて、ミシェル本人はさして気にもしていないのだが。
今も近衛に属してはいないが同期の騎士である子爵家の次男から、お願いという体を装う“嫌がらせ”の真っ最中である。
「ミシェル・ロードリック。拙劣な僕の手助けなど、優秀なキミには業腹だろう。だけどそんな狭量で高慢な考えを捨てて、是非とも助けて欲しいんだ」
とこうやって子爵令息は、助力を乞いながらも端々にミシェルを貶める言葉を用いてネチネチと嫌味を口にする。
どのような事も騎士としてだけでなく人生においての修行だと捉えるミシェルは、それが嫌がらせであると当然わかりながらも快く引き受けた。
「大丈夫です。手伝います」
ミシェルのその返事に子爵令息はほくそ笑む。
彼と連んでいるらしき同期と後輩騎士も口の端を上げている。
子爵令息が詰所の休憩室に積まれている木箱を指して言った。
「あそこにある荷物を運ぶのを手伝って欲しいんだよ」
「わかりました。どこに運べばいいですか?」
ミシェルはそう言って木箱を持ち上げようとした。
「っ……!」
しかしその木箱は異常な重さで、喩え騎士として鍛錬しているミシェルであっても容易に持ち上げられそうにない重量である。
くつくつと下卑た笑いを零しながら、子爵令息たちが言う。
「どうしたんだ?まさか、優秀なキミがこんな木箱も持てないのか?」
「剣技や体術が秀でていても所詮は女なんだなぁ……ククククッ」
「いやいや、お父上と同じくゴリラの称号を得ているロードリック嬢がこんな木箱を持ち上げるくらい造作もないですよ」
と、口々に嫌味を言いながら自分たちはヒョイと木箱を持ち上げる。
じつはこれにはくだらないカラクリがあって、ミシェルに頼んだ木箱には多量の石を詰め込んで、わざと持ち上げられないよう重さにしてあるのだ。
その重量はミシェルが女性だからではなく、並の男性でも容易には持ち上げられないようなものであった。
(したがって当然彼らにも持てない)
そんな事とは露知らず、
ミシェルは内心『ゴリラは称号ではないのだけれど……』と思いながらも、これも修行の一貫であると木箱を持ち上げてみようと試みた。
木箱を持つ手の位置を力学に基づいてみれば。
腕の力だけでなく腰や背筋や腹筋などを巧く使い、力の掛け方を工夫してみれば。
などと様々な視点から考慮し、重いものを持ち上げられる可能性を見出そうとしていた。
だが重い物は重い。
非力ではないとしても、ミシェルの細腕ではとても持ち上げられるものではなかった。
それを子爵令息たちは軽やかな口調で嘲笑する。
「フッ……なんだかんだと偉そうにしても所詮は女だな」
「剣さえ握ればいいなんて。騎士とはそんな甘いもんじゃないんだよ」
それでもミシェルは引き受けた以上はもう少し頑張ってみようと、木箱に手をかけ持ち上げる努力を続けた。
屈み込むミシェルの頭上から令息たちの失笑や嫌味が降ってくる。
その時である。
「大の男が、それも王国騎士が揃いも揃って何をやっている」
その声を聞いたミシェルの表情が一変する。
幼い頃から聞き馴染みのあるその声は、ミシェルにとって一心に憧憬の念を抱くものであった。
ミシェルはゆっくりと振り返り、その声の主の方へと視線を向ける。
「……ルシアン様……?」
そこにはやはり、三年前から父と共に最北の警備に当たっていたルシアン・ワイズの姿があった。
るちあん、ちた。
(・@・*)バブ




