三年後、リズムの夢
「ノエル。私、決めたの。初等学校を卒業したらアデリオール魔術学園に進学する」
リズムはその日、
幼馴染であり親友であり他人性双子の片割れであるノエル・ワイズ伯爵令嬢にそう告げた。
今日は学校帰りにノエルがリズムの家に寄り、二人で放課後お茶会を楽しんでいた最中のことである。
共に十二歳になったリズムとノエル。
二人ともアデリオール魔術学園の付属校である王立初等学園ではなく、私立の初等学校に通っていた。
その主な理由としては、ノエルは既に大賢者バルク・イグリードの弟子(の妻)に師事していたし、リズムに至っては……
「私は低魔力保持者だから、高度な魔術を学ぶ魔術学園への進学は諦めて私学に通っていたけど……やっぱり私、ママみたいに魔法薬剤師になりたいの。だからそのためにちゃんと魔術を学びたいのよ」
そう。残念ながらリズムは保有する魔力はかなり少ない体質であった。
そのため魔術学園付属の初等学園には入学しなかったのだ。
だがやはり、リズムには叶えたい夢がある。
そのためには無理だとか諦めるだとか、自分の歩みを止めてしまうような考えは捨てようと思ったのだ。
そんなリズムがノエルに言う。
「生みの親がどんな人間かもわからない私が、僅かにでも魔力を持って生まれてきて良かった、と考えることにしたの。そして、僅かにでも可能性があるなら魔術学園で沢山勉強して、魔力高める努力もして、夢を叶えたいと思ったのよ」
クッキーを片手にリズムの話を目を丸くして聞いていたノエルが、やがてハッとして急いでそのクッキーを口に放りこむ。
それから急いでもぐもぐと咀嚼して、濃いめのミルクティーで流しこんだ。
そしてキラキラと目を輝かせ、リズムに羨望の眼差しを向けた。
「すごいわリズム!諦めないリズムがリズムらしくてステキよ!わたし、全力で応援するから!」
「ありがとノエル。……も~ほら、お口の端にクッキーのカスが付いてるわよ」
リズムはそう言ってノエルの口元をハンカチで拭いてやった。
「ふふ。ありがとリズム。でも嬉しいな。リズムが魔術学園に来てくれるなんて」
「ノエルはすでに魔術学園進学が決まってるものね」
「うん。ホントはね、魔術学園で学ぶ内容はツェリ先生から教わってて、すでに履修済みなの。でもママとパパが、何も学問のためだけが学園に通う理由じゃないって。友人をつくり、学生時代にしか得られない時間を過ごすのも大切なことだって言ってね」
「なるほどね。ノエルのご両親らしいわ。お二人とも魔術学園卒業だったわよね?とくにハノン小母さまは魔法薬学を専攻されてたって。私もそうしたい」
「メロディちゃんもそうでしょ?ママと同じ……ママは今は専業伯爵夫人だけど、魔法薬剤師なんだもの」
ノエルがそう言うとリズムは頷いた。
「そうよ。ママ(メロディ)も魔法薬学を専攻してたって。まぁでも魔術学園には男爵令息として本名で通っていたから、卒業生名鑑に載っているのは別人だって言っていたけれど」
「ふふふ。名鑑を見たらメロディちゃんだってすぐにわかるかな?」
「見てみたいわよね」
「うん!」
「あははは!」「うふふふ」
そんな会話を楽しんでいると、
階下から「ビエィックションッヌ……!」というメロディが盛大にクシャミした声が聞こえた。
それを聞き、ノエルとリズムは更に笑いが込み上げた。
「じゃあメロディちゃんとダンノ小父さまにはもう相談したのね?魔術学園に進学したいって」
一頻り二人で笑った後、ノエルがそうリズムに尋ねた。
リズムはノエルのためにお茶のおかわりをティーカップに注ぎながら頷く。
「うん。……魔術学園の学費は上級学園や淑女女学院に比べるとお安いけれど、在学期間が長いでしょう?ハイラント魔法学校は学費も良心的で在学期間も短いけど、遠方だから下宿か寮生活になってしまうの。どちらにせよお金がかかってしまうから……」
リズムがメロディ夫婦の実子ではなく養子であることは、彼女が十歳の誕生日を迎えた日にきちんと説明をされていた。
メロディが元は男性だったと知った時に血の繋がりはないと何となくわかっていたリズムだが、「ケジメだから!」とメロディが言って、リズムに話したのであった。
きちんと正確に事実を聞かされたリズムだが、その時はショックよりも感謝の気持ちの方が大きかった。
縁もゆかりも無い、ただ勤め先の魔法薬店の店先に捨てられていた自分を引き取り、親になってくれた。
それだけでなく、実の親子に負けないくらい惜しみない愛情を注いでくれた。
当時はまだ十歳だったが、そんな幼いリズムがそう思えるほどに母と父は大切に育ててくれたのだ。
だからこそ、それを当たり前だと思ってはいけない。
両親の愛情の上に胡座をかいてはいけないと、しっかり者のリズムはそう思った。
「でも、メロディちゃんのことだから『子どものくせに生意気言ってんじゃないわヨ!行きたければ行けばいいじゃない!学費くらいドドーンっと出してあげるわヨ!』とか言ったんじゃない?」
メロディの口調を真似したノエルにリズムが感心する。
「よくわかったわね。さすが、ママのもう一人の娘」
まぁ正確には、
『子どものクセにおナマ言ってんじゃないわヨ!あ、おナマとは生意気のことヨ?くれぐれも《《ナマイキ》》じゃないからネ?え?ワケがわからない?アラヤダそうよね、十二歳でわかってたら困っちゃうワ……コホン、イキたければイケばいいじゃない!イクと言っても……アラヤダ、ダーリンたら睨まなくてもわかってるわヨ♡リズムの前でシモいコト言わないってば♡え?既にイッタって?ウフフ♡ついね、つい♡……っと、……リズム、学費のコトなんて心配しなくてもイイの!学費くらいドドーンっと出してあげるわヨ!』
と間に下ネタが挟まったのだが。
そしてメロディはこうも言ってくれたのだ。
『アンタは魔力が少ないことを気にして魔法薬剤師になれないとか思ってるみたいだけど、そんなの関係オネェだからネ!アンタはこのアタシ、天才魔法薬剤師と謳われているメロディ様の娘なんだから!アタシが処方した処方箋があれば、少ない魔力で絶大な効能がある魔法薬が作れちゃうのヨ!それを全部アンタにくれてやるわヨ。一子相伝ヨ。だからアンタは絶っっ対に魔法薬剤師になれる!国家試験はクリアしなきゃだけどそんなコトは心配してないの。アンタはアタシに似て地頭がイイしダーリンに似て手先が器用だからネ♡だからなんの心配もなくアデリオール魔術学園に通っちゃいなさい!』
と、唾を飛ばしながら言ってくれた。
それを思い出し、リズムは気が付けば吹き出していた。
「ぷっ……関係オネェって何よ……も~ママったら」
そのひとり言を聞き、ノエルも吹き出した。
「ふふ。さすがはメロディちゃんの娘ね。リズムもビーフなのね」
その時、階下で再び「ビエィックションッヌ……!」というメロディのクシャミが聞こえ、リズムとノエルはまた声に出して大笑いした。
とにもかくにも、リズムとノエルは今秋からアデリオール魔術学園に進学するのであった。




