三年後、ポレットの愛し子
ルシアンが北の地へ武者修行に出て早や三年が経過したアデリオール王国は、慶事に沸いていた。
王太子第一王子妃ポレットが第一子を無事に出産したと報じられ、国を挙げての祝賀ムードとなったのだ。
婚姻から三年。
ようやく齎された喜びに、国民の誰もが慶祝の意を表した。
しかもその第一子が男児と聞き、将来の国王の母となったポレット妃の功績を皆が称えたのである。
男児と判明した瞬間から王位継承権第三位を約束された吾子に、父親であるデイヴィッドはシルヴェストと名付けた。
第一子シルヴェスト懐妊をするまで二年。
婚姻当時、デイヴィッド殿下の寵愛を一身に受けるポレット妃の懐妊はあっという間だろうと誰もが予測していた。
しかし半年が経っても一年が経っても懐妊の兆しは見られず、婚姻から一年半後にはとうとう、デイヴィッドに側妃を迎えるように進言する者が出始めた。
それを聞いたデイヴィッドは、鼻で笑って一蹴する。
そして、
「私も妃も婚姻前にきちんとブライダルチェックは受けている。当然だ、世継ぎの誕生は我々の義務なのだから。そのブライダルチェックで双方とも問題なしと診断されているのに、たかだか一年半でとやかく言われるのは我慢ならん。良い機会なので伝えておこう。たとえ我らに子が授からなくても我が妃はポレットのみ。側妃など要らぬ。我が王家には傍流があり、そこには優秀な令息が沢山いる。そのうちの誰かを養子に据えればよいだけのことだ。君主として最も必要なのは血筋だけではなく、秀でた才覚である」
と、長々と声高らかに宣言したらしい。
この言を是としない一部の上位貴族……は大抵が己が家門の娘を側妃に据えたいと目論む者達だが、その者たちが今度はデイヴィッドではなく父親であるクリフォードや国王シルヴァンにターゲットを変えて進言をした。
が、二人は口を揃えて、
「デイヴィッドがそう決めたのであればそれで良し。私も(余も)ポレたん…コホン、ポレット妃以外の妃は王家に必要ないと考えている。……というか其方達、正気か?ワイズ一門を敵に回すつもりなのか?社会的にも物理的に潰されて、この国に居場所が無くなっても知らんぞ?」
と言ったのであった。
側妃の身内、上手くいけば将来の国王の外戚になれるやもと野望を抱いていた者は、そこで漸く自身が危うく棺桶に片足を突っ込んでいることに気付く。
このままポレット妃を蔑ろにするような発言や行動をすれば必ずワイズ一門からの報復を受ける。
それだけは絶対に避けたい貴族達の口からは二度と、デイヴィッドに側妃をという言葉が登ることはなかった。
だがポレット自身は違う。
もし自分が原因で子ができないのであれば、その時は国の行く末のために側妃を迎えるようにデイヴィッドに進言しなくてはと心に決めていたのだ。
そして場合によっては身を引く覚悟もしていた。
だが、そんなポレットの心中を理解していた両家の母たち(ハノンと王太子妃)も口を揃えて、
「あなたの気持ちはわかるけどよした方がいいわ。というか諦めなさい。デイヴィッド(殿下)がポレット以外の女性を受け入れるわけはないし、ポレットを手放すことなど絶対に有り得ないわ」
と言ったのであった。
それを言われたポレット自身も母たちの言に納得出来るような出来ないような……。
一体どうすればデイヴィッドのためになるのか。それを思いあぐねている間に、すんなりと懐妊したのであった。
ポレットが子を身篭ったと知ったとき、デイヴィッドは静かに涙を流し、心からの感謝をポレットに伝えたという。
ワイズの男たちも片方の瞳からは歓喜の涙、もう片方の瞳からは哀愁の涙を流したという事実は、ワイズの女たちの手により永遠に闇に葬られた。
そうして十月十日。
特筆する問題もなくポレットは安産の末にシルヴェストを出産したのである。
我が子を抱くポレットは、かつてのハノンそのものであったというのは、初孫の誕生を受け烈火のごとく駆けつけたフェリックスの談である。
「シル……可愛い私の大切なシル。どうか二人のおじい様のように丈夫で逞しく、そして賢く育ってね」
ポレットはそう言って、愛しい我が子の頬に優しく口付けたのであった。




