ルシアンの独り立ち ③
北の地へと発つルシアンを見送るためにワイズ伯爵家のエントランスに集まった家族(姐さんを含む)たち。
ずっとキッチンに篭って、シェフと何か作業をしていたノエルが小さな包みを抱えてエントランスへと駆けてきた。
「ルシにぃさま、おまたせしました!」
「ノエル?その顔はどうしたの?」
ノエルの頬やエプロンに小麦粉が付いている。
ルシアンはハンカチを取り出してノエルの頬を拭いてやった。
優しい兄の優しい手にされるがままのノエルが持っていた包みを渡す。
「はいコレ、おなかがすいたらたべてね」
ノエルから薄ピンクの紙袋を手渡されたルシアンが尋ねた。
「これは?」
「ノエルがママのレシピのマドレーヌをシェフといっしょにつくったの!」
「ノエルが?」
それで顔に小麦粉が付いているわけか。
ルシアンは納得してノエルに言った。
「ありがとう。楽しみだ。早く食べたいよ」
「いまここでたべてもいいのよ?」
妹の言葉にルシアンは笑みを浮かべる。
「せっかくノエルが作ってくれたんだ。後でゆっくり、大切に食べるよ」
「ふふ。とっても、とーってもおいしいのよ!ママもシェフもじょうずだってほめてくれたの」
「すごいね。ノエルはお菓子作りの才能もあるのか」
「うん!」
元気よく返事をするノエルに、母であるハノンが尋ねた。
「でもずっとキッチンで何をしていたの?マドレーヌは早くに出来上がっていたでしょう?」
ノエルはちいさな肩を竦めながら答えた。
「えへ。おあじみをね、したの。ルシにぃさまにおいしいっていってもらいたいもの。それでね、」
そこまで聞いてハノンは察した。
「味見なのに全部食べちゃったのね」
「きがついたらなくなっていたのよ?びっくりでしょう?」
「ビックリなのはシェフの方でしょう。それでまた一から作り直していたのね」
何度もマドレーヌ作りに付き合わせたシェフに後で礼を言っておかねばとハノンは思った。
側で話を聞いていたメロディが吹き出す。
「プッ!味見で完食、ノエルたんらしいわネ♡今度は味見で無くならなくてヨカッタじゃない♡」
メロディがそう言うと、ノエルは小さなまるい顎をつん、と突き出して得意げな顔をした。
「にかいめだもの。こんどのおあじみはみっつだけにしておいたわ♪」
「ブハッ!ヤッパリ食べちゃってルンじゃない♡しかも味見で三つも♡」
「あははは!」
「うふふふふ」
メロディとルシアンが声を揃えて笑う。
それにつられてノエルもころころと楽しそうに笑った。
「ノエル」
ルシアンは妹の名を呼び、自分と同じ銀色の髪を持つ頭をそっと優しく撫でる。
「元気にお利口でいるんだよ。勉強もしっかり頑張って。食べ過ぎないようにね」
大好きな兄にそう言われ、ノエルは急に寂しくなってしまう。
「ルシにぃさま……どうしてもいっちゃうの?」
「ノエルが魔法の勉強を頑張るように、僕も剣の勉強を頑張りたいんだ」
「そっか……じゃあぜったいに、おてがみをちょうだいね」
「ああ必ず。手紙と一緒に北の領地にしかないスノウベリーのジャムやお菓子を送るよ」
「ホントっ?たのしみだわ!たくさんおくってね!」
兄と別れるのは寂しいが、珍しいスノウベリーを食べたい気持ちが勝ったノエルがそう言うと、その場に居た皆が笑った。
ややあってルシアンが皆に言う。
「それじゃあそろそろ行くよ。伯父上たちを待たせるのも悪いし」
ポレットの結婚式に参列するために王都へ来ていたファビアンたちも今日、北の領地へと帰るのだ。
ルシアンはそれに帯同させてもらうことになっている。
ミシェルも久しぶりに里帰りをするべく、家族と共にロードリック家のタウンハウスで過ごしていた。
「体に気をつけて」
「頑張れよ」
「すぐに会いにイクからネ♡」
「おいしいものをたくさんおくってね!」
皆がそれぞれ見送りの言葉を発した。
ルシアンはそれらに笑顔で「うん」と返事をして、ワイズ伯爵家を後にした。
これからルシアンは厳しい北の地で王国のために剣を振るう。
次に帰るのは三年後の予定だ。
きっとひと回りもふた回りも身も心も大きくなって帰ってくるのだろうとハノンは思った。
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Merry X'mas☆
今年中にルシアンを出発させられて良かったです。
今年もメロディ姐さんと愉快な仲間たちにお付き合いくださり、誠にありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
次回の更新は一月六日を予定しております。
皆さま、どうぞ良いお年をお迎えくださいませ。




