閑話 あの時の大賢者様
ノエルの姉であるポレットの結婚式に招待されていないにも関わらず、無理やり参列しようとした大賢者バルク・イグリード☆
だが速攻で弟子に見つかり、ミニチュアサイズとなって弟子の胸ポケット内で秘密裏に参列したのであった。
式が始まる前、イグリードは胸ポケットから顔を出してアルトに言う。
「アデリオール王家の結婚式もなかなか立派だねぇ☆ハイラム王家の結婚式と比べても引けを取らないよ」
アルトは顔を正面の祭壇に向けたまま、小声で師に返す。
「両国ともハイハントに次ぐ大国でしょう。比べる方がおかしいですよ」
「六百年前のアデリオール国王なんて十歳までオネショしてたんだよ?ぷっ☆」
「他家の先祖の黒歴史をほじくり返すのはやめてくださ「あ☆ハイラムの王太子夫婦がいる♪挨拶して来ようかな☆」
「てめ人の話は最後まで聞け。というかダメですよ。大賢者が勝手に式に参列しているなんて知れたら大騒ぎになるんですから、ポケットの中で大人しくしててください」
「チェッ、つまんないの~☆」
「今すぐ亜空間に飛ばしてつまんなくないようにしてやろうか?」
「キャイン☆」
弟子に叱られ、渋々お利口さんにしている内に式が始まった。
式は厳かに粛々と、だけどどこか温かな雰囲気で進んでいく。
それを見ていたイグリードがまたこっそりとアルトに話しかけた。
「いいお式だねぇ……愛情に溢れていて、参列するこちらまで幸せな気持ちになるよ」
「同感です。……でも、」
語尾の声色が低くなるアルト。
それにイグリードが頷いた。
「うん。参列客の中に、何やら禍々しい気を放つ人間がいるね。何やら物騒な物を隠し持ってるな~」
「王族の式だ。当然参列客一人ひとりに身体や持ち物に厳重なチェックが入るはずです。それらを掻い潜ったとなると……」
「相当な術者が仕掛けた呪物を体内に抱えてるね~。探知魔法にも引っかからないような高度な呪物だよ☆そんなモノを持ってるだけで自身も呪いに侵食されるだろうに、それでも呪ってやりたいというわけか~。わぁ怖い☆」
「この結婚に異を唱えたい者、許せない者か……」
「犯人の特定は済んでる?」
「もちろんです」
アルトがそう答えると、イグリードが親指を立ててサムズアップした。
「じゃあさっさとご退場願おうよ☆」
「了解です」
アルトは席に座り正面を見据えたままで頷いた。
「あら?アルト、今何かした?」
隣の席に座っていたツェリシアがアルトの方を見た。
ふいに夫の魔力が動いたのを感じたのだ。
アルトは穏やかな表情をツェリシアに向けた。
「会場に虫がいたからね。外に放り出したんだ」
虫は高位貴族の男だった。
大方ポレットに横恋慕したか、自身の身内を王家に嫁がせての利権を望んだ者だろう。
それが上手くいかず、何を血迷ったか腹いせに式を滅茶苦茶にしてやろうと目論んだ。といったところだ。
恐らく大金を積んでモグリの闇魔術師に呪物を依頼したのだろうが、運悪くそれを軽く凌駕する術者がこの会場に二人も居たわけだ。
目論見は目論見だけで終わり、後には未遂とはいえ王族の婚儀を妨害しようとした罪だけが残る形となった。
アルトの言葉に、ツェリシアはなんとなく何が起きたか理解したようだ。
「そう。大事に至らなくて良かったわ」
とそう言ってまた壇上の花嫁をうっとりと見つめた。
「本当に綺麗だわ……さすがはノエルのお姉さんね……」
熱心にポレットを見つめるツェリシアに、イグリードは「ホントだね☆」と同調してからアルトに尋ねた。
「その虫をどこに強制転移させたの?ご丁寧に周りに気付かれないように認識阻害魔法まで掛けて」
「師匠が行くはずだった亜空間に飛ばしましたよ。後で呪物を回収して近衛に引渡します」
「ボクが行くはずだったってナニっ?ボク、危うく飛ばされるところだったのっ?」
「うるさいですよ。飛ばされなかったんだからいいでしょう。お利口にしてたからですね、やればできるじゃないですか」
「うん☆ボクはやればできる子なんだ☆じゃあそのやればできる子から、結婚祝いでも贈ろうかな~☆」
イグリードはそう言って、会場中を自身の魔力で満たした。
「……これは……なかなか粋なことをしますね」
師が何をしたのか直ぐに理解してアルトが言った。
遅れてツェリシアが「ふふ。とても心地よい魔力だわ」と笑みを浮かべた。
イグリードはその日限りの加護を、この会場に集まった皆に付与したのだ。
あらゆる邪気を払い、災難やちょっとした失敗から身を守る、古の加護魔法を。
そのおかげかどうかは定かではないが、いや間違いなくそのおかげだろう……皆が一人ひとり多幸感に包まれ、婚儀に纏わる全ての行程がほんの些細なアクシデントさえ起こらずに無事終わりを迎えたのであった。
追記。
やればできる子をもっと伸ばすために、アルトはその夜に開催させた夜会にもミニチュアイグリードくんの出席を許したのであった。
長らくお休みを頂き、申し訳ありませんでした。
おかげさまで愛猫は元気になり、また執筆できる余裕が出来ましたので連載を再開します。
ご心配頂いた皆様、本当にありがとうございました。
これからもよろしくお願いいたします(o_ _)o
次回からルシアンのお話となってゆきます。




