ポレットの婚礼 ①
ノエルがツェリシアに師事するようになり、ミシェルがルシアンへの淡い恋心を抱き初め、メロディがティーン向けの化粧品の開発をして更に美のカリスマお姐さんとなってから、三年の歳月が流れていた。
ルシアンは既に成人を迎え二十一歳になっており、今やアデリオール王国から剣を賜る騎士だ。
末娘のノエルは九歳になり、今でも元気に週末は魔導の勉強のためにお友達の大賢者様の家に通っている。
(今では一人で転移魔法を用いて行き来している)
そしてポレットは、来年の輿入れの準備のために母親のハノンと共に忙しい日々を送っていた。
成人を迎えるデイビッド。
王家としては(デイビッドとしては)婚礼は一日も早い方が国のために望ましいとの方針で、デイビッドが成人と卒業を終えた時点ですぐに式を挙げる運びとなったのである。
それを二年前の時点で打診された時、当然異論を唱えたのがワイズ家門の男たちである。
「はぁっ!?なぜわざわざ婚礼の儀を早める必要があるのだっ!?」
「そうだそうだ!それにデイビッド殿下がご卒業あそばしたとしても、ウチのポレたんはまだ学生なんだぞっ!!」
「いくら女性の方は十六歳から婚姻可能と我が国の法が定めていたとしてもっ、昨今では貴族社会でも成人を迎えてからの婚姻が主流となっておるというのにっ!!」
沫を撒き散らし口々に喚き立てるワイズの男たちにハノンが冷静な声色で告げる。
「それらの言葉は全部、一語一句違わずにフェリックスが既にクリフォード殿下に申し上げておりますわ」
「そ、それで殿下のご返答はっ……」
「該当家門であるワイズ家を除く、貴族院議会満場一致で承認を得ていると。これは決定事項だと思って欲しいとおっしゃられましたわ」
「「「「くそぅっ!!」」」」
「それにポレットは成績優秀で、既に全科目において卒業資格単位を取得しております。アデリオール魔術学園は飛び級や繰り上げ卒業も認められているのでデイビッド殿下と共に卒業しても何の問題もないとの事です」
「「「「うっ……流石だポレたんっ……」」」」
「おまけに、デイビッド殿下は生涯においてポレット以外の妃は娶らぬと公言されておられます。従ってお世継ぎや今後の王家を、国を支える王族を生み育ててゆくことがポレットの最大の務めとなります。出産適齢期内に短いスパンで妊娠出産を繰り返すよりは、少しでも早く婚姻して精神的肉体的に余裕を持たせるとこがポレットのためだと思うのです。こちらは王妃様も王太子妃殿下も、わたくしと同じお考えですわ」
ハノンがそう言うと、男たちは煮え湯を飲まされたように渋面を浮かべた。
「「「「ぐぬぬっ……!一体ポレたんに何人産ませる気だっ!あの激重執着王子めっ!」」」」
声を揃えてそう言ったワイズの男たち(フェリックス含む)に、彼らの妻たちが「お前が言うのか」と冷ややかな目を露骨に向けた。
そしてハノンが喝を入れるように毅然として男たちに告げる。
「何年婚約期間を経たと思っているのですか。いい加減腹を括りなさいませ。いいですか?本当にポレットの幸せを願うなら、今こそ一門が一つとなって完璧な、非の打ち所のない、ポレットが誰の後ろ指も差されぬような輿入れをさせるべきです。ご一同(フェリックスを含む)よろしいですねっ?」
「「「「は、はいっ……!」」」」
ハノンの檄に気圧され、コクコクと頷く男たちにフェリックスの母であるアメリアが言う。
「本当にポレットのことが大切と思うなら怨言を吐いたり妨害工作を働くのではなく、何の憂いもなく我が家門から嫁げるように尽力すること、わかりましたかっ?」
「「「「は、はいっ」」」」
可愛い孫娘の結婚が現実味を帯び、心の整理がつかず項垂れるアルドン前ワイズ侯爵がポツリとつぶやいた。
「わかっておる……だけど寂しいものは寂しいのだ……」
アメリアは嘆息し、萎れる夫に言う。
「気持ちはわかるわ。わたくしだって本当は寂しいもの。王家に嫁げば今ほどは簡単に会えないでしょう……そう思うと寂しくてたまらないわ。でも、それでも、あの子の幸せを本当に願うなら、ワイズの娘に生まれて良かったと思いながら嫁いで欲しいじゃない……?そのために出来るだけのことはしましょうよ」
最愛の妻の言葉に、アルドンはガバリと顔を上げ、憑き物が落ちたように奮い立った。
「そうだなっ!!そなたの言う通りだ我が妻よっ!!よしっ、ポレたんに『おじぃちゃま最高♡』と言って貰えるような婚礼道具を持たせてやるぞっ!まずは激レアなアデリオールベアの毛皮で敷物を贈ってやろう!アメリアよ、早速アデリオール山系へと行って参る!!」
「そうじゃねぇだろでございますわよ旦那様。貴方は……ワイズの男たちは何もしなくていいから(むしろ何もするな)お金だけホイホイ出せばよろしいんですのよ」
「「「「な、なんと……それではあまりに……」」」」
口を揃えて弱々しく抗議する男たちに各々の妻たちがアメリアの言葉に賛同する。
「それが良いですわね。旦那様たちに首を突っ込まれると何をしでかすかわかりませんもの」
「そうですわね。ただニコニコとポレットにおめでとうと言ってあげるだけで充分ですわ」
「強いていうなら、フェリックスを慰めてあげてください」
妻たちがそう言うと、愛妻至上主義の男たちはもう何も言えなかった。
そして大人しく、
「「「「……はい……」」」」と返事をするしかなかったのであった。




