挿話 医務室の守護神は美のカリスマ
「なぁにマタお肌のトラブルっ!?一体全体どーなってんのヨっ!!」
ここはアデリオール魔術学園の医務室。
最近増加している肌トラブルを抱えた女子生徒たちが、正当な責任者である医師を差し置いて医務室の守護神と呼ばれるメロディに救いを求めて連日押し寄せているのだ。
肌が荒れているところに野外授業で日焼けをして火傷のようになってしまった女子生徒。
睡眠不足による目の隈を隠そうと過剰に塗ったコンシーラーが目に入って涙が止まらないという女子生徒。
そして膿んでいたニキビが潰れて治療を希望する女子生徒と、様々な症例を訴える女子生徒たちが医務室に駆け込んでいた。
そして今も友人に借りた高級魔法リキッドファンデで魔力焼けを起こしたという女子生徒がメロディに助けを求めているのだ。
「ちょっ……もうっ、成分表の魔力の性質をよく確認もしないで塗りたくるからこーなるのヨ!え?高級品だからここぞとばかりに使ってやらなくちゃ損だと思ったって?バカじゃないのっ!?」
メロディはブリブリと怒りながらも自身が精製した魔法薬を女子生徒の爛れた肌に塗り込んでやっていた。
同様のトラブルで医務室に居る女子生徒たちにメロディが言う。
「だいたいなんでまだ学生のアンタたちがこんなゴテゴテのフルメイクをしてんのヨ。せっかくの若いピチピチのお肌が台無しじゃないノっ」
「だってソバカスが」とか
「ニキビ跡が」とか
「色白の陶器のような肌になりたくて」とか
言い訳めいた理由を口にする女子生徒たちに向けてメロディの咆哮が医務室に響く。
「バカ言ってんじゃないわよっ!!何もしなくても綺麗な時期なんてネ、もうアッ…………という間に過ぎちゃうんだからネっ!!なんて勿体ないことをしてくれてんのヨっ!!」
すでにお肌のヘアピンカーブを右に左にと曲がりまくっているメロディの若干のやっかみも入っているような気もするが、やはり医療に携わる者として正しい知識もなく化粧を施す女子生徒たちを看過出来ないないようだ。
「まぁね、アンタたち年頃の娘っ子たちが綺麗になりたいと先走るのはワカルわヨ?アラヤダ、アッチの“先走り”(R18)じゃないわヨ♡ヤダモー!エッチィ~♡」
今日も今日とてエロデイ節をぶちかましているメロディだが、残念ながらこの医務室にツッコミ役は不在である。
メロディから発せられる謎の単語が理解できない女子生徒たちが皆、ポカンと口を開けている。
それに気付いたメロディが「ん゛ン゛ッ」と咳払いをして生徒たちを見た。
「この学園のツートップ……アタシの可愛いルッシーとデイビッド王子に綺麗だと思われたいからお化粧してるんでしょう?とくにルッシーは今年が最後のチャンスだものネェ?卒業しちゃったら姿を見る機会なんてあるようで中々ないものだろうしぃ?」
最高学年となったルシアンと現在三年生の王太子デイビッドは依然として女子生徒たちに絶大なる人気を博していた。
メロディの言葉に女子生徒たちは一様に頬を赤らめる。
しかしその様を見てまたメロディの咆哮が医務室に轟いた。
「なぁんてね!そんなド下手クソのメイクやスキンケアでお肌ボロボロのアンタ達がアタシのルッシーの気を引こうなんて百万年早いのよっ!!視界に入ろうとするだけで大罪ヨ、大罪っ!!」
デイビッドはいいのか、というツッコミもここには存在しない。
女子生徒たちはメロディの恫喝に「ヒッ」と肩を縮こまらせた。
そんな彼女たちにメロディは人差し指を突き出して言う。
「だけどネ!美のカリスマおネェ様としてはアンタたちのその無様な姿は見過ごせないワ。今日は特別にこのアタシがメイクの極意を教えてあげる♡」
メロディのこの宣言に女子生徒たちは色めき立つ。
メロディのメイク技術はプロのメイクアップアーティストも舌を巻くほどのものである。
女子生徒たちはここぞとばかりにメロディを質問責めにした。
「その瞬きするだけで風が吹きそうなツケマ!どうやったらそんなゴテゴテなのにナチュラルに付けられますのっ!?」
「髭穴も毛穴も目立たないブレゲ様のような肌に、どうやったらなれますかっ!?」
「やっぱり化粧品は高級な百貨店の商品を使った方がいいのっ!?」
という質問にメロディは、
「ツケマだけに頼ってちゃこうはならないのヨ!まつ毛もちゃんとケアしてたら、陰毛のようにワッサワサ毛深くなれるワ♡」
「失礼ネ!髭は永久脱毛してんのヨっ!ちなみにティクビの毛もスネ毛も指毛も永久脱毛してるワ♡毛穴を目立たなくするのはスキンケアと下地とファンデの塗り方に極意ありネ。アナはやっぱり埋めなきゃネ♡」
「デパコスは最高の仕上がりを見せてくれるけど、プチプラ化粧品だってテクニック次第で充分にいい仕事してくれるワ。現にアタシはデパコスとプチプラ化粧品を併せて使ってるの」
と、間に下ネタを挟みながらも丁寧に質問に答えた。
そうして美のカリスマ、メロディ・フレゲによるメイク講座が始まったわけなのだが……
「おバカっ!いきなりファンデを顔に塗りたくるんじゃないわヨ!まずは手の甲に置いて、体温で温めてから頬の内側から少しずつ塗っていくの!擦り付けるじゃないわよっ?タッピングよタッピング!」
「ハイっ!」
「ちょっ、アンタの顔にそんな派手系のアイシャドウは似合わないわヨ。男に色目を使うなら自分に合ったカラー選びをしなさい!」
「ハイわかりました!」
「メイクは足すと引くを極めるのヨ!ペチャパイをパッドで盛るように盛りまくればいいってもんじゃないの。要は盛るべきところは盛って、引くべきところは薄く仕上げるべしっ」
「イエスマム!」
と、なぜか体育会系のメイクアップ講座が繰り広げられることになった。
そしてこの講座が終わる頃には女子生徒たちは
完璧なメイクと、下ネタのスキルアップをしていたのであった。




