ノエルの師匠(せんせい)
なろうさんのメンテ、終わったのうっかりしてました☆
フェリックスはずーーっと考えていた。
大切な、可愛い娘の将来に関わる事だ。
とにかく中途半端な者には任せられない。
ノエルのあの膨大な魔力量と魔力を自然と扱う卓越した才能。
一歩間違えればその才能を潰し、宝の持ち腐れに。
二歩も三歩も間違ってしまえば世界に仇なす害悪に。
強大な魔力を持つ者はその魔力を正しく扱う実力と精神力を培わねばならない。
そしてそれを導く指導者が不可欠なのだ。
その指導者を誰にするか……。生半可な者にノエルを託すことは出来ない。
男はダメだ。
師弟の絆とはいえ可愛い娘に男とそんなものを結ばせたくはない。
たとえどのような人格者であったとしても。
たとえどのような能力者であったとしても。
たとえ子供でも人生の先輩
であったとしても。
ノエルが男と縁を結ぶ事に耐えられそうもない。
優れた女性魔術師で性格も良い人物……。
と、そのようなノエルの理想の師がどこに居るのか、フェリックスはその事ばかりをずーーーっと考えていたのだった。
優れた魔術師といえば……とフェリックスはすぐに幼馴染の顔が思い浮かんだ。
大賢者バルク・イグリードの二番目の弟子で、最も位の高い(大賢者除く)魔術師であるアルト・ジ・コルベール。
彼ほどの実力者ならノエルは最高の術者になれる。しかし…
───しかしアイツも男だ。男はいかん。
では一体誰がよいのか……。
アルトの実力に及ばずともよい。
それでも世の女性魔術師たちの中でも抜きん出た才覚を持ち、そしてとにかく女性であれば……。
───と、なればあの女性しかいないと思うのだが……。果たしてアルトが是としてくれるか……。
まぁ一人で悶々と考えていても仕方ない。
相談がてらに交渉してみるかと思い、フェリックスはアルトに連絡を取った。
◇
「それで、つまりはツェリシアに末娘の師になってもらいたいと……」
とある休日の昼下がり、フェリックスは事前に指定された地方の古い宿屋を訪れた。
そしてその宿の一室にてアルトにそう言われたのであった。
アルトにしてみれば師匠イグリードに邪魔されずに落ち着いて話せて、余計な詮索はしない信頼できる人の良い夫婦が営むこの宿屋を選んだのだがそれは別の意味でも正解であっただろう。
銀髪に赤い瞳の傾国の美女も「ケッ」と唾棄して地団駄を踏みそうな痩身美丈夫であるフェリックスと、燃えるような暗めの赤髪に黒曜石の瞳(隻眼だが)。長身痩躯に端整な顔立ちというこれまた類まれなる見目の良さを持つアルト。
この二人が向かい合ってカフェに居ると、たちまち周りには店内に入りきらないほどの女性客たちで溢れかえる事は必至である。
そうなれば落ち着いて話など出来ようもないし、変な噂が立って面倒くさい事になるのは目に見えている。
なのでこの辺鄙な田舎の海辺の宿で人知れず会う、これが一番実際の波風以外に波風が立たない最善の方法であったといえよう。
宿屋の女将が淹れてくれたお茶で口を潤し、フェリックスは答えた。
「そうなんだ。アルトの奥方どのなら娘を安心して任せられるとそう判断し、連絡をさせて貰った」
例の聖女の魅了事件以来、フェリックスは個人的に繋がる連絡先をアルトから知らされていた。
アルトが率直にフェリックスに訊ねる。
「……他の女性魔術師ではダメなのか?」
「娘の魔力量はここ半年でさらに増加し、無意識に用いている術の数が格段に増えたんだ。生まれて数ヶ月で転移魔法を用いた子だ。先日は物質変化の術も無詠唱でやってのけた」
「ちょっと待て、まだ魔術の基礎も何も学んでいないのだな?術式も当然?」
アルトの言葉にフェリックスは頷く。
「ああ。二年ほど前にようやくアデリオール語の読み書きが出来るようになった六歳の娘だ。当然古代文字など理解出来ていない。娘は……ノエルは術式が何かを理解する前に本能で術を発動するに必要な魔力を構築して用いているんだ……」
「それは……もの凄い子だな。師イグリードでさえ、幼少期はちょっと人より魔力量の多いたたの鼻水を垂らしたガキだったそうだぞ」
「だからこそ、お前の奥方に頼みたいんだ」
「俺ではダメなのか」
「お前は男だからダメだ」
「おい、俺が六歳女児に何かするとでも思っているのか」
「いや。お前ならたとえ超絶美女に誘惑されても相手にしないのは何となく理解しているんだ。でもとにかく娘にとって近しい存在になると分かっている者だ、絶対に女性でお願いしたい」
「……結婚後に何度か会って思っていたが。フェリックス、お前変わったな。昔のお前は女に対し何の関心もなかっただろう」
「“唯一”と出会い、結ばれることができたからな。そして大切な家族を得ることができた。家族を守り、愛することが俺の生きる意味だ」
フェリックスの言葉を聞き、アルトは腕を組んで椅子に背を預けた。
そしてゆっくりと窓の外に視線を向ける。
この辺りの海辺は遠浅で、陽の光を孕んだ明るい色彩の海を滑る波が白く緩やかな模様を描いている。
それを見るともなしに見つめ、そしてつぶやくようにアルトは言った。
「まぁ……その気持ちは、わかる」
「そうだろう」
アルトが幼い頃より今は妻となったツェリシアという女性のためだけに生きて来た事を知っているフェリックスはそう答えた。
アルトは間違いなく、自分寄りの人間だとフェリックスは思っているのだから。
フェリックスもまた窓の外に視線を向ける。
男二人でただ静かに海を眺める。
そんな時間を過ごした後にアルトが言った。
「とにかく、そのノエルちゃんに会ってみないと何とも言えないな。妻の答えはもう確認する前からわかりきっている事ではあるが……」
そうして後日ノエルを連れてジェスロの家を訪れることになったのであった。
「師匠が留守をする日を見繕って連絡するから、待っていてくれ」
とアルトはそう言った。
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アルト……ノエルちゃんって…… プッ




