ミニ番外編 ウチの班長は泣き虫である
これはハノンがフェリックスと再会する前のお話です。
同じ国内でありながら、北と西とで離れて暮らす妹からの手紙を読んでいたファビアンに見回り班の部下が声を掛けてきた。
「班長、また妹さんからのお手紙ですか?…って、何泣いてるんですかっ!?」
手紙を広げて静かに咽び泣くファビアンを見て、
部下はギョッとした。
「だってお前……」
「妹さんに何かあったんですかっ!?確かお一人で子どもを育ててらっしゃるんですよね?大丈夫なんですかっ!?」
ファビアンの涙から、何かあったのだと推測した部下が顔色を青くしてファビアンを問い詰めた。
「妹や甥は大丈夫だ……だけど俺が大丈夫じゃない……」
「え?班長が?何故ですっ?」
「だって……これを見ろ……」
ファビアンは部下にハノンの手紙に添えられていた一枚の紙を手渡した。
「……拝見します」
部下は生唾をごくりと飲み込みながらその紙を見る。
「……………………これはナンですか?」
その紙にはぐるぐると、いやモジャモジャと鉛筆で“何か”が書かれていた。
一体これになんの意味があるというのか。
するとファビアンが涙を拭いながら答えた。
「俺だそうだ」
「へ?」
「2歳半になる甥っ子が俺を描いてくれたんだっ……!」
そう言ってファビアンはまた、だばーっと滝のような涙を流した。
ハノンの手紙には、会った事のない伯父の顔を想像して
「おいたん」と言いながら一生懸命描いていたとあった。
「赤ん坊の時以来会えてないのにっ……俺の事を想像して描いてくれたんだぞ、これが泣かずにいられるかっ……!」
「……ぶっ」
甥っ子からの似顔絵のプレゼントに感激して涙を流すファビアンを見て、部下は思わず吹き出した。
このファビアン=ルーセルという男は、一度剣を握れば他者の追随を許さないほどの実力者で、国境を接する隣国にもその勇名を轟かせている人物なのだ。
それほどの人物であるにも関わらず、
部下は自分が知る限り3回はこの男の涙を見ている。
1回目は母猫とはぐれ、寒さで弱りきった子猫を見つけた時。
もうダメかと思いながらも必死で子猫を暖め、ミルクを飲ませて、命を取り留めたとわかった時に見せた涙。
2回目は家の為に北方騎士団に見習い騎士として入団したのはいいものの、里心がついて母親の手紙にこっそり涙する少年を見て、貰い泣きをした涙。
そして3回目がこれだ。
「雪原のシルバーバックと畏怖されるお人が、こんな泣き虫だと知られると隣国に示しがつきませんよ?」
そう言いながらも優しく微笑み、部下はファビアンにハンカチを手渡した。
「すまんな」
ハンカチを受け取りながらも男泣きするファビアンに部下はまた吹き出す。
この強くて優しくて涙脆い男に一生ついて行こう、部下はそう思った。




