平宗盛の最悪な一日
「最悪だ」
なぜ、こうなったのか。
数の上では平家が有利だったはず。
そう苦悩するは、私……平家が棟梁、平宗盛である。
「おのれ、源氏……っ!」
「新中納言殿は……」
「まだ……戻っておらぬ」
「……」
知盛を案ずる、誰かの声。
そうだ、知盛……知盛はどうした。
生田森を重衡と共に守っていたはず。
「棟梁殿! 新中納言殿が……! 井上黒と共に戻って参りました!」
「なにっ」
その者がさす方を見ると、井上黒を泳がせ此方に戻って参る知盛の姿が見える。
知盛。平家全体をよく観察し、知略に富んだ知将……我が弟ながらとても頼りになる。
「とっ、知盛!」
「兄上! ご無事で……!」
「此方は問題ない。さ、船へ」
「……」
だがその顔は昏く沈み、どこか消沈している。
私はもしやと思い、実弟に尋ねた。
「……知章は」
「知章は……私を庇い、敵に……討たれました」
「なんと……」
「なぜ……我が子が親を守ろうと、討たれるのを助けもせず、このように逃げて参ったのかと……ですが……自らの事はよくも命は惜しくもあるものかと………うっ、……大変心苦しゅうことでございます……」
実弟は袖に顔を押し当ててさめざめと泣く。
そんな弟を見て……私は、良く晴れわたる空を、ぼんやりと眺めるのだった。




