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第十四章 戦いの前に

 第十四章 戦いの前に


 ペッコが自分の執務室で遠征の準備や確認作業をしていると、ブレイドが部屋に入って来た。

 「大佐、少し良いか?、実はな遠征の前に『海の都』の提督と会談をしたいと思ってな、だが俺にはあちらとの人脈が無い、そこで大佐のお父上の助けを借りたいと思うのだが?」

「わかりました、父に聞いて見ます」

 ペッコは久しぶりに父の居る『南のオアシス』を訪れた、ペッコが子供の頃は閑散としていて、『忘却のオアシス』と呼ばれていたが、今は誰もそう呼ぶ者は居ない。

 以前は石造りのコテージと天幕の貧しい寒村だったが、今は家も立派になって、オアシスの周囲は元森の都の農業師ギルドの協力で土壌の改良を行って、小麦や大麦の畑になりエールや廃酒(火酒)の醸造所や倉庫が立ち並んでいる。廃酒の方はオークの樽を使った熟成を試している所で、そろそろ一年前に詰めた物を試飲する予定だ。

 元々狩猟民族だったド族では、歳を取ると狩に行かれなくなり細々と手工芸で何かを作る位しか仕事が

無かった女性達(先代族長の妻達)が多く居て、彼女達は畑や醸造を任されて、表情も明るく嬉々として働いている。


「父上、よろしいですか?」

と父の執務室に入ると、父はデスクの上に並べた書類を見て、難しい顔をしていた。

(子供の頃は父はずっとこんな顔をしていたなぁ、あの頃はお金が無かったせいだけど)

「おう、ペッコか珍しいなどうした?」

「はい、父上にお願いがありまして、所で何かお困りですか?」

「ああ、これか、困っていると言うか嬉しい悩みだな、見てくれこっちは義娘達を嫁に欲しいと言う手紙、こっちは、娘をクパの嫁にどうかと言う手紙だ、昔は貧乏だったからどこの族長にも相手にされ無かったのが、現金な物だな」

「まぁ良いでは無いですか、それで父上、元帥から父上への協力要請があるのですが」

「ほう、砂の都の執政官殿が何かな?」

「……と言う事なのですが」

「うーん、確かに古い友人は何人か居るが、もう殆どが現役を退いて居るしなぁ、今の提督……『シカルド・スペンサー』殿とは殆ど話した事も無いからな、お役に立てるかどうか? 元帥殿と一度お話をさせてもらってから返事をすると言う事で構わないか?」

「はい、もちろんです、では砂の都まで同行していただけますか?」

 ド・オド・パトは固辞したが、ブレイドの再度の要請で、海の都への同行を了承して、旧知の者達に声をかけ、現提督とブレイドの会談を了承させる事に成功した。


 ペッコはレイアを呼んで元帥警護の人員についての打ち合わせをした。

「他国に行くので十名程連れて行きたいんだけど、隊員の中から『海の都』に詳しい者を選別して連れて来て」

「はい、王子」

と出て行ったレイアが翌日連れて来たのは、妻達全員と三人の隊員だった。

「なんでこうなるの?」

「王子の条件を満たす隊員が三人しか見つからなかったんです、なので残りは私たちでと思って……」

(そういう口実で、みんな海の都に行きたいだけなのね、まぁ良いか)

「じゃ、全員制服は、第二装を用意して」

「え、あれですか?」

 ペッコの赤魔法士部隊の制服は『第一装』が普段の赤魔法士装束で、『第二装』はペッコは好きだが

妻達にはあまり好評では無い踊り子風の『エリート装備』と言われる物だ。

「うん、物々しいのは相手の国に失礼になるからね、僕も文官の服で行くから」

と言うと妻達は渋々了承した。

(あれ、可愛いから僕が好きって言うだけなんだけど)

と一人でニヤけるペッコだった。

 砂の都から海の都までは、海路と空路があるが、現在は空路の定期航路は停止している、これは飛空艇運営会社が連合王国政府に接収されてしまったからだ。

 ブレイド、ペッコ、オドと警護の妻達や他の随行員は、西ジャズィーの港町『シタデルベイ』に来ている。

「いつも思うのですが賑やかな港ですね」

「ここはロロラト殿が海運の為に作った港街だからな、東ムガール商会が無くならない限りは賑やかなままだろうな、見ろ東方からの貨物船が到着するぞ」

 ペッコ達が見ている前で、貨物の荷下ろし作業が始まった

「さて、俺たちの船はあっちの小さいのだ、乗船しようか」

 ここから海の都までは一時間ちょっとだ、ペッコは船に乗るのは初めてだが、義氏はそれこそ、小舟から大型クルーズ船までの船の経験が有る、そして妻達や隊員は遠足の様に海を見てはしゃいでいる、

船は貸切だし、乗員の身元も確認して有るのでまぁ良いかとペッコは思っている。

「父上、海の上は気持ち良い物ですね」

「ああ、こうして海の上に居ると遠い昔に邪神リバイアサンと戦った時の事を思い出すなぁ」

と白髪の父は白髭をなでまわしながら、思い出に浸っている様だ

「私は、その頃はまだ子供でしたから、オド殿や他の『海勇旅団』の方々の活躍の話を聞いて、心を踊らせた物です」

「そうか、元帥殿からそう言われると自分が歳を取ったなぁと思い知らされるよ、貴方の父上と一緒に飲んだ酒が懐かしいな、父上の事は本当に残念だった、良い男だった」

「ありがとうございます、父は厄災の後、鉱山運営の不振や帝国との軋轢でだいぶ参っていましたからね

一時は砂蛇衆から辞任を考えていた位でした」

「だが、今は息子の君が、砂の都の元帥で執政官だ、商売の方も問題無いのだろう、自慢の息子だったんだろうな、おいペッコ元帥殿を見習って精進しろよ」

(え、そこで僕に飛び火するんですか?)

と思ったペッコだった。

「あ、そろそろ入港ですね、オド殿、お話ができて楽しかったです」

「そうか、俺もだ、そうそう俺の昔の仲間の話だと今度の提督は海賊と言うよりは武装商人と言った方が

しっくりくる奴らしい、気を抜くなよ」

「はい、ありがとうございます」

(うーん、やはり元帥閣下は器がでかいなぁ、親父など昔は傭兵で活躍したとは言え、今はただの辺境の一族長なのに、敬意を持って接してくれている、見習わないと)

 義氏の異世界の記憶でも地位が上がると横柄になり、他人を見下したりバカにしたりする様になる人物が多数いた、なのでこのブレイドの態度がペッコには大変好ましい事だと思えるのだった。

 港には海の都の現在の国軍である『オルカ騎士団』の儀仗兵が待ち受けていて、ブレイド一行は下船後

そのまま提督府に案内されて、会談が始まった。

 砂の都側から会談に参加するのは元帥とペッコのみで、他の者は控室で待機になる。


「……なるほど、執政官殿は、我々に他国を侵略するので目と瞑れとおっしゃるわけですね」

 とスペンサー提督は初めからこちらにあまり好意的では無い

「提督は侵略とおっしゃいますが、先に攻めて来たのは連合王国です、我々は売られた喧嘩を買っただけなのですが」

「ですがこちらの情報では、連合王国は先の戦いで壊滅的な大敗をしたそうで、もう再侵攻する兵力は残って無いのでは?、ならば敢えて戦いを起こす意味も無いでしょう」

「ええ、先日までは我々もそう思っていました、ですが、連合王国は国家として奴隷狩り、人身売買をしていると言う事実があり、しかも更に悪辣な事に王国内の邪族を根絶やしにしているとの報告があります、実際に我々と友好関係にあるドラコニア族の所に虐殺から逃れて来たランフォリ族が保護を求めて来ています」

「まさか、そんな?証拠はあるのですか?」

「奴隷狩り人身売買の方は我が国の者も関わっていたので、明白な証拠も被害者も多数居ます、邪族虐殺についても必要ならいくらでも証拠をお渡しいたします」

「そうですか、我々はその話は存じていないので、至急こちらでも確認をいたします、ただ前提督の時代とは違い、もはやグランドカンパニ・エウロパは存在しておらず、今我が国は『他国を侵略しない、他国の侵略を許さない、他国の争いに介入しない』を国是にしておりますので、それはご了承いただきたい」

「了解いたしました、海の都が我々の敵にならないと言う事を確約いただければそれで十分です」

「ふう、公式の話はこれで終わりにしようぜ、ここからは腹を割って本音でいかせてもらう」

 スペンサー提督はガラリと口調が変えて話し始めた。

「俺としては、正直に言うと邪族が滅びようとどうでも良い、言に俺たちもずっと『タルパ族』や『トリートーン族』にはずっと悩まされていたからな、まぁ今はそれなりに仲良くはしているが、で、あんたらがあのイケスカねぇエルフ共と戦う事には何の異論もねぇよ、ただな、そのおかげでこちとら商売が滞っているんだよ、復興特需の北方帝国と商売したくても今のままじゃ危なくて安心して航海ができねぇんだ、なぁ執政官さんよ、あんたがそれを何とかしてくれるってのなら、内緒で応援してやっても良いぜ」

「なるほど、それが海賊商人の本音って事だな。了解した、何こちらも事情は一緒だ、以前の様に正教国も北方帝国とも商売できればありがたいからな、それで邪魔な今の『王国』とやらをぶっ潰したいと言うのが本音だ」

「何だよ、話が合うじゃねぇか、ではこれでお互いの立場を認めたって事で良いな」

「ああ、そうだな」

「おい、誰か酒を持ってこい、極上の発泡ワインだぞ」


 という事で、結局最後は酒盛りとなり、公式会談と非公式会談は終わった。

「はぁ、飲みすぎたか、しかし面白い奴だったな、大佐、俺は一足先に帰るから、お前達はのんびりしていけ、奥さん達にも休みをやっていないだろ?みんな海の都は初めて見たいだから、色々と見るものが多いぞ」

とブレイドは随行員と護衛の兵士を三人だけ連れて、ペッコとオド、妻達を残して帰って行った。

「父上、お疲れ様でした、ありがとうございます」

「何、俺は何もしていないよ、知り合いに何人か声をかけただけだ、せっかくだからそいつらと酒でも飲みに行く事にするが、お前達はどうする?」

「はい、私は昔の恩人に会いに行って来たいと思います、みんなは好きにして良いよ、買い物でもしておいで」

「恩人か、それも良いな、では後で宿でな」

「わーい、王子ありがとうございます」

 ペッコが父や妻達と別れて向かったのは「算術士ギルド」だ、ここは『ヴァンデ税関公社』に併設されて海の都に入港する船舶を検査、違法物の調査、関税の徴収を業務にしている。

 建物の中に入ると、関税を払う商人などで混雑をしているが、右手に魔法書を持った巨人族の女性が居たので話しかけてみた。

「失礼します、ギルドマスターのド・リド・ヤン様はおいでになりますか?」

と聞くとその女性は、驚いて

「ド・リド・ヤンだって? その名前を聞いたのは十年ぶり位かねぇ、坊や何者だい?」

ペッコは今日は文官と言う立場で元帥に同行したので、砂の都ではポピュラーな平服姿だ。

「僕はド・ペッコと言います、リドさんにお目にかかりたくて来たのですが」

「うーん、あの人はね十年程前にウチの大事な算術士と駆け落ちしちゃたんだよ、ここのギルドマスターって仕事をほっぽりだしてね、あんたもしかして、あいつの息子か……いや流石にそれは無いか」

(ああ、やっぱりそうだったかゲーム内でも可愛いウェアキャット族のNPCと手に手を取ってどっかへ行っちゃったからあなぁ)

と思うペッコだった。

 「僕は南ジャズイーのド族で、ド・オド・パトの息子です、子供の頃にリドさんに算術で命を助けていただいたので、そのお礼も兼ねてお目にかかりたいと思ったのですが、そうですか残念です」

「すまないねぇ遠くから来てくれたのに、あら? 坊やその魔法書は?」

「これは子供の頃にリドさんから頂いた物です」

そう言ってペッコは自分の使い魔、クリスタルキャットを召喚した。

「まぁ、あなた算術士なのね、それも自分で修行をしたの?」

「ええ、リドさんからこの魔法書を頂いたおかげです」

「あれ、魔法書がページが増えて厚くなっている様な?、ちょっと見せていただける?」

「はい、どうぞ」

とペッコが魔法書を見せると、その女性は驚愕した表情をした。

「あのね、坊や、魔法書と言うのはね、使える魔法や使い魔が増えるとページが増えていくの、貴方のは

元々の厚さの倍以上になっているのよ、しかも中には召喚術、篤学の物も有るわ、貴方もしかして、召喚術、篤学も使えるの?」

「はい、子供の頃に算術の練習をしていたら、使える様になりました」

「まさか、ねぇちょっと見せていただける? 地下に算術士の訓練所があるのよ」

「良いですよ」

とペッコは彼女と一緒に地下に降りた、訓練所では何人かの算術士が使い魔を呼び出したり、魔法の訓練をしたりしている。

「では最初にこれ」

とペッコは妖精を召喚した。

そして、妖精を使った癒しの魔法を発動させる。

「まぁ、素晴らしいわ」

と女性が言うと周囲の算術士達も拍手をしてくれた。

「次は……召喚しますけど、危ないので技は無しにしますね」

とペッコは今召喚できるサン・バハムート以外の攻撃系の使い魔を一体ずつ召喚して見せた。

「おおー」

と言う歓声が上がった。

「凄いわね、ねぇ貴方正式にウチのギルドに入らない? 待遇は良いわよ」

とスカウトをされたが、

「申し訳ないです、僕は今砂の都の国軍で魔法士部隊を預かっているので、それは無理です」

と答えると

「え? その若さで……まさか貴方、あの噂の魔法王子?」

「ええと、どんな噂かは存じませんが、その呼び名で呼ばれてますね」

「貴方の話は昔リドから聞いた事があるのよ、凄い才能がある子供を見つけたって、でも親御さんが

ダメだと言うので、連れてこられなかったって……その後も黄金平原に渡った当時の『黒潮団』の将兵から、光り輝くバハムートを召喚した子供がいたって聞いたけど、みんな戦場で幻でも見たんだろうって

事になっていたのよ、まさか本当にバハムートも召喚できるの?」

「できますよ、ただ召喚しちゃうと、この街の半分位は無くなっちゃうかもなので、お見せする事はできないですが」

「ああー全く残念ね、砂の都の待遇が悪かったらいつでも訪ねてきてね、高給を保証しますから」

とどこぞのブラック企業の様な勧誘をしてくるので、ペッコは笑いながら

「僕はこの歳で大佐と言う厚遇を得ていますから、それは大丈夫です、ありがとうございます、ではこれで失礼します」

と立ち去ろうとすると

「一つだけお願いしても良いかしら、『珊瑚の塔』にこの街の『篤学』の第一人者が居るの、もしお時間があったら彼に会ってくださらない?」

「『珊瑚の塔』ですね、良いですよ」

と言ってペッコはギルドを後にした、実はリドに会う事以外に何も予定を考えていないから暇だったのだ。

(珊瑚の塔か、確か斧術のギルドがある所だよな、会って欲しい人って小人族の彼だよな、この世界でも助けたあの娘と上手く行っているのかな)

と義氏のゲームの記憶が世蘇る。

 珊瑚の塔に入ると、ゲームの世界と同じ様に、斧を持った大勢の斧術士が訓練をしている、ここは

「カミーチェジアロ隊」と言う海の都の治安部隊の司令部も兼ねていたが、提督が交代した事から

その部隊は無くなっている様だ。

(お、ゲーム内と同じ所に居るな)

「失礼します、『アルカ・ゴルカ』さんですか?」

とペッコが声をかけると、その小人族の男性は、

「ああ、そうだけど、君は?」

と言ってからペッコの魔法書を目に留めて

「そうか算術士ギルドから来たんだね、 篤学の勉強をしたいのだね、ビルゲイムさんの紹介状は持って来た?」

と聞いて来たので、ペッコは使い魔の妖精を召喚して見せた。

「え、君、篤学を使えるの、僕の知らない篤学者が居るなんて驚きだ、せっかくだからお茶でも飲みながら話を聞かせてもらえるかな?」

と言う事で、少し歩いた所にある『白鯨亭』にやってきた。

(ここもちゃんと有るんだ、『料理人のギルド』で色々な料理を作ったなぁ)

と義氏のゲームの記憶が蘇る。

「最近は、この街も寂しくなってねぇ、昔は冒険者が沢山いて、待ち合わせの名所だったクリスタル・プラザの前なんて人混みで歩くのも大変だったんだけどね、今は冒険者も居ないし、景気が悪くて人が余っているんだ、だから算術士ギルドの方は忙しいんだけどね、算術士は今はどこの国でも引くて数多でね、みんな直ぐにどこかの国に就職していなくなってしまうんだ、ほら昔は治癒士と言えば森の都の幻術士だったけど、今はもう居なくなってしまったからね、だから僕の所に篤学を学びに来る人も居なくなってしまった」

「そうなんですね、なんか勘違いさせて申し訳無いです」

「いや、でも君の様な若い算術士を見ると、昔一緒に色々勉強した冒険者さんの事を思い出すなぁ、彼女も優秀な算術士でね、直ぐに篤学を覚えて……僕が今の女房と一緒になれたのも彼女のおかげなんだけど

突然行方不明になってしまってね、もう数年音信不通なんだ、無事で居てくれると良いけど」

「その奥様ってもしや、海兵団の生き残りで、ドンペリ病に罹っていたとか……」

「ああ、そうだよ、当時は壁新聞にも載ったから話題になったけど、君は誰から聞いたんだい?、あそうか君に算術を教えた先生だね」

(違うけど、そういう事にしておこう、そうか彼女と結婚したんだ良かった)

 篤学はゲーム内では当然ヒーラー職なのだが、癖があって慣れないと難しい、だから義氏は篤学のジョブクエストを何回も挑戦した覚えがある、ストーリー的にも良い話で、最後は泣かされそうになった位だ

「ギルドでも聞いたのですが、僕の先生ド・リド・ヤンさんの行方なんてご存知無いですよね?」

「ああ、あの人か、昔から放浪癖があって困った人だったけど……南洋諸島のアロハ島、ここは算術が生まれた場所って言われているんだけど、で見かけたって人がいたかなぁ、でも似た人かもしれないしね」

「あれ、王子、男二人で黄昏てどうしたんですか?」

と妻達が、声をかけてきた、全員両手に荷物を山の様に抱えている。

「アルカさん、この失礼な奴らは僕の妻達です、躾がなっていなくて申し訳無い、みんなアルカ・ゴルカさんだ、算術の貴重な話を聞いているんだから邪魔をしないの」

「はーい、じゃあちらでスイーツでも食べてますね」

「君は若く見えるけど、『パト』なんだね、凄いな奥さんが七人かぁ、僕なんて一人でもたまに持て余すのに」

「まぁその成り行きで……」

「おい、やっと見つけたぞ、お前が砂の都のド・ペッコ・パトだな」

巨人族の見るからにガラの悪い男が、数人の仲間と一緒に来た。

「ちょっと、ジャッカルさん、やめて下さい僕のお客様ですよ」

とアルカ・ゴルカが言うと、それを鼻で笑って

「頭でっかちのアルカは黙っていろ、こいつは俺の兄貴の仇なんだ」

「兄貴? ああ、そうか元鋼刃団団長の『アングリー・ジャッカル』の事ですか?、あの狂犬の犯罪者を

退治したのは確かに僕ですけど、それが何か?」

「てめえ、兄貴を馬鹿にするのか?」

騒ぎを聞いて、妻達が駆け寄ってきた、全員もう抜刀して臨戦体制だ

「王子、こいつ殺して良いですか?」

とレイアとエイル以外の妻達は殺気を隠そうともしない、みんな強制的に奴隷にされて奴隷商人の用心棒だったアングリー・ジャッカルにオモチャにされた経験が有るからだ。

「いや、ダメ他国で争いを起こすのはマズいから、みんなレイピアを仕舞って」

「え、でも」

「良いから」

「困りましたね、そうだ貴方、斧術士ですよね、斧術のギルドで僕に斧を教えていただくって事でどうです、それなら決闘とか喧嘩になりませんよね」

「小僧、笑わせてくれる、非力なウェアキャット族の分際で、この俺様に斧で挑むつもりか?良いだろう、着いてこい」

 と言う事で、みんなでゾロゾロとギルドまで戻る事になった、

「あの君、大丈夫なの?ジャッカルは頭は悪いけど、斧の腕はギルドでも五本の指に入る位なんだけど?」

「大丈夫ですよ、僕は子供の頃に父から斧も教わったので」


 ギルドでペッコは仮入門と言う形にして、練習用の斧を借りた。

そしてジャッカルと相対する。

「小僧、骨の二、三本で済むと思うなよ」

と言うジャッカルは兄と同じ斧術士のままでその上位職で有る戦士にはなっていない、戦士の技が使える

ペッコの敵では無く、ペッコに一撃も与える事ができずに、何度か叩きのめされて床に這いつくばって失神した。

「おい、こら何の騒ぎだ」

とそこにギルドマスターの巨人族の男性が声をかけた。

「なんだペッコ何を遊んでいるんだ?」

「あ、父上、こちらの方に斧術を教わっていたのですが、ちょっと力が入りすぎたみたいですね、今治癒をいたしますので」

とペッコはジャッカルに軽く治癒魔法をかけてやった、完全に治癒したわけでは無いので、しばらくは

ベッドから起き上がれ無いだろう。

「オドさん、ではこちらが、あの話の息子さん?」

「ああ、そうだ息子のペッコだ、おい紹介しよう、古い友人の『ヴィルン・セルスミンドシン』だ」

「どうも初めまして、ギルドマスター御不在の間に勝手な事をして申し訳ありません」

「構わんよ、ジャッカルにはいい薬になっただろう、最近あいつは思い上がっていたからな、オドさん

飲み直しましょうか?」

「そうだな、じゃなペッコ」

と二人はまたどこかの酒場に向かって行ってしまった。

「さて、では僕もお暇しますね、アルカ・ゴルカさんまたお目にかかりましょう、いつか砂の都に遊びに来て下さいね、歓迎いたします」

「ああ、そうさせてもらうよ、しかし君は強いな、なんか清々したぞ」

「ほら、みんな宿に帰るよ」

 とペッコは妻達を連れて今日の宿『ドルフィン亭』に戻った。

「へぇ、この国にはまだ冒険者ギルドがあるんだ?」

「冒険者ギルドって何ですか?」

「ああ、昔はね冒険者って人がたくさんいて、その人達に仕事を斡旋して、報酬を払う場所だよ」

「それ、どんな仕事なんですか?」

「逃げた犬を探してなんてのから、街道に出没するモンスターの退治とか色々だね」

「ふーん、なんか楽しそうですね」

「うん砂の都にも昔は有って、ほら宿のオバチャンがギルドマスターだったんだよ」

なんて言う話をしながら、食事をして各自の部屋に戻った。

 翌朝二日酔い気味の父を『レスト』で治してから、全員で砂の都に帰還する。

「治癒魔法って便利だなぁ、こんな使い方もあるのか、俺も若い頃に覚えておけば良かった」

と言う父だ。

 妻達も海の都を観光してショッピングをして美味しい物を食べて満足した様だ

「仕事が遊びになっちゃったけどまぁ良いか」

と思ったペッコだった。


 ペッコの指揮する、魔法士部隊の出陣の日が来た、妻達のうちエイルの部隊は本隊に同行するので赤魔法士の六中隊と、幻術士部隊から25名、それに副官のルネ少尉が指揮する補給工兵部隊が一緒だ、更に別の補給支援部隊の編成が進められていて、ペッコ達の数日後に出立する予定になっている。

「では父上、行ってまいります」

 ペッコ達の一族、ド・オド・パトとペッコの母や姉達、ファ・ニョル・パトとその妻達に見送られて

エニアゴンの南門を出る、黄金平原へ繋がる街道を通って、ドラコニア族の首都『ゾレラク』を目指す

そこで、同行するドラコニア族4000と合流して、北上、黄金平原と南の森の間を流れるアケロン川を渡河する予定だ、ここで工兵部隊が橋を掛けて、この後の補給部隊が安全に川を越えられる様にする。


 ペッコは工兵を束ねる職人の親方と川を眺めている。

「結構広い川なんですね」

「そうだな、だが流れは緩いから橋をかけるのはそれほど難しくないな、ロープを用意したから誰か

それを持って向こう岸まで泳いで行ってくれ」

「誰か泳ぎが得意なものは?」

と声をかけたが、手が上がらない、砂の都には泳げる様な湖が無いし、海辺の漁師なら泳げるだろうが

ペッコの部隊には漁師の出身者は居ない、そして種族的特徴からドラコニア族は水を苦手としている。

(仕方が無い、自分でやろう)

と思い服を脱ぎかけた所で、

「あの、私で良ければ」

 と手を挙げたのは、妻の一人ロヌルだ、彼女は北の森出身で、子供の頃からタホ湖で潜って銛突き漁をしていたとの事だ。

「ロープは二本必要だから、一本を頼むね」

 ロヌルは少し恥じらいながらも下着姿になって、ロープを持って川に入った、ペッコも一緒に対岸に向かって泳いでいく。

「ああ、なんか気持ち良いなぁ」

「そうですね、王子」

 そんな会話をしながら対岸について、二本のロープを少し間を開けて河岸の巨木に巻き付ける。

工夫達はこのロープを命綱にして、川に杭を打ち込み、仮設橋をかけるのだ。

 仮設橋ができれば、部隊は対岸に渡河する事が可能で、その後に補給用の石造りの橋をかける事になっている、この補給路がペッコの派遣軍の補給と、その後の塩の都の生命線となるからだ。


「よし良いぜ、渡ってくれ」

と言うことで、派遣軍は二列縦隊で橋をわたり、対岸に野営地を設営した。

 今夜はここで幕舎を張り明日の朝に前進する事になる。

「隊長、ちょっと困った事が……」

 とペッコの幕舎にやって来たのは呪術師部隊の少佐だ。

「どうしたんですか?」

「それが、どうもこの辺りの倒木が湿っていて薪にしようにも火がつかないんです、ドラコニア族の魔法士も同じ状態で……」

幕舎の外に出ると、中央に薪が積まれて、焚き火の準備はできているのだが呪術士の「ファイアー」では

湿った薪に火を付ける事ができない様だ。

「うーん、黒魔法だと全部消し炭にしちゃうし……あ、そうだ」

ペッコはいつも肌身離さず持ち歩いている魔法書を開くと、炎の使い魔『イフリート』を召喚した、

特に深く考えたわけでは無く、イフリートの使う炎の範囲攻撃魔法が並列に並べられた湿った薪を点火するにのちょうど良いと思ったからだ。

 だか現れたイフリートを見たドラコニア族の戦士達が一斉にひれ伏した。

(あ、しまった)

と思った時には既に手遅れだった、うっかりしていたがイフリートはドラコニア族にとって神なのだ

突然『神』が顕現したら、こうなるのは目に見えているし、今燃えている炎は神が起こした神聖な神の火と言う事になるのは当然だ。

「知己朋友 我が友よ貴殿は我が神を召喚する事ができるのか」

ドラコニア族を指揮している、「炎の一党」の長「ハムジ・グー」が日頃とは違い少し恐れた態度で話しかけてきた。

ドラコニア族の中でも『イフリート』を召喚できるのは……この場合はクリスタルや生贄の命を使った邪神としてだが……酋長クラスの神官に限られる、だからウェアキャット族のペッコがイフリートを召喚した事が信じられない事なのだ。

「はい、僕は様々な『神』を召喚してその力を借りる事ができます、イフリートもその一柱です」

「うむ、やはり貴殿は並外れた魔法士なのだな、しかしこれは重畳、戦士の中には人と共闘する事に疑問を持つ物も多数居たが、イフリート様が顕現された事で、この遠征が『義戦』で有ると皆も合点が言った事と思う」

と言う事で、これ以降ドラコニア族の戦士達はペッコに明らかに敬意を表してくれる様になったのは

怪我の巧妙だと言えよう。


 翌朝、ペッコ達が前進の準備をしていると、そこにウェアキャット族の狩人が数名近づいてきた。

「私たちは南の森ラ族の狩人です、あなた達は一体?」

5000名近い武装集団を相手にして交戦の意思は無い様だ、ペッコは

「僕は南ジャズィー北のオアシスの族長ド・ペッコ・パト大佐、砂の都魔法士大隊の指揮官です」

とウェアキャット族風の挨拶をした。

「我々は、塩の都への援軍と、連合王国を自称する傀儡政府から森の都を解放する為に軍を進めています」

と言うと安心したのか、この先の村の状況を教えてくれた

「突然、50名くらいの騎士と幻術士が村に来て、周囲の森を伐採し始めたんです、抵抗した村長は殺害されてしまいました、私達から獲物を高く買ってくれる良い方だったのですが……」

と言う事で、ペッコ達に協力してくれる事になった。

「あ、そう言えば皆様の中にラ・エイル・ライの身内の方はいらっしゃいますか?」

と聞いてみた、彼らが名乗った時に、ライと言う名字の者が居なかったからだ

「エイル・ライですか、ライさんの所のお嬢さんだね、私達とは同じラ族だけど、違う部族ですね」

と言う事だった、ペッコは礼を言って、彼らにその村まで先導してもらった。


 そして、圧倒的な戦力差で、ペッコ達はその村を簡単に解放して、とりあえずの本陣とした。周囲の空き地も使用して5000名程が野営をする、ここでペッコ達は情報収集と、今後の予定を検討していた。

「では、当初の予定通りドラコニア族の大隊1000名とヘリヤ中尉の中隊は、明朝にこのまま西進して、途中の村落を解放しつつ南の森の中心街『ハンティングロッジ』を目指してくれ、ラ族の皆さんには道案内をお願いします」

「委細承知 心得た」

「はい、王子」

「了解しました」

 その夜。ペッコ達が臨時に設営した幕舎で質素な夕食の準備をしていると

外が何か騒がしい。

「敵襲か?」

とレイピアを掴んで外に出ると、そこには角の有る巨大な白馬が居て、ドラコニア族の兵士達に取り囲まれながらも、全く動じずにペッコを見ると近づいて来た

(へぇユニコーンか、新生の頃のサブクエストで貰えたマウントだったなぁ、でもあれより凶暴そうだ)

 等と思っているとユニコーンはペッコの前で止まると、二回ほど嘶いた。

(なんだ、ついて来いって言っているのか?)

 そう思ったペッコが手を伸ばしてユニコーンの首を撫でると、ユニコーンは向きを変えて村の外へ歩き始める

「みんな、ちょっと行って来る、ここで待機していて」

ペッコは妻達にそう告げて、ユニコーンの後を追った。

 しばらく後を付いて行くと、もう一頭のユニコーンが蹲っている。

その付近には大型の猪タイプのモンスターが二頭倒れていた。

「そうか、お前、こいつを守ってモンスターと戦ったのか」

 よく見ると、二頭とも怪我を負っている様だ、ペッコは腰の魔法書を開くと妖精を召喚して治癒魔法を発動させた。

「どうかな、動物は治癒した事が無いけど、怪我は治った?」

とペッコは村に来たユニコーンに聞いて見たが、当然返事は無くユニコーンは軽く嘶いた

(ダメだったのかな、こっちの一頭は)

と思っていると、蹲っていた方のユニコーンが震え出して、その内、後ろ脚の間から、仔馬の頭が見えた(うわ、出産する所だったのか、え? どうしよう?、馬の出産なんて……)

 とペッコは狼狽えて……当然義氏の知識にも馬の出産は無い……いると、30分程で出産は無事に終わって、仔馬が立ち上がって、母ユニコーンの乳を飲み始めた。

「良かったな、お前これで父親だ、これから頑張れよ」

とペッコが言うと、ユニコーンはまた軽く嘶いた。

(まぁ無事で良かった、ユニコーンの子供って茶色なんだ、ツノはまだ無いんだな)

等と考えて村に戻る……ついでに倒れている猪から美味しい肩ロースとロースの部分を剥ぎ取るのを忘れていない、ペッコは子供の頃から狩人だったからだ。

(ゲームだとモンスターを倒せば勝手にカバンに肉が入るけど、まぁそんな事は無いよな)

と思って創造魔法で肉を入れるバッグだけ作って、肩に肩に担いで村まで戻った。

「王子、大丈夫でしたか?」

「うん、傷付いたユニコーンを助けてお産に立ち会って、ついでにお土産をもらって来た、誰かこれ焼ける?」

「えー、なんですかそれ?意味が分からないです」

とみんなに呆れられたが、バックから取り出した肉を見て全員が目の色が変わる

なにしろ、本来ウェアキャット族は肉食で狩猟民族なのだ。

「うわ、これホッグの肉ですね、任せてください、でも王子他の部分はどうしたんですか?」

と言うのは東の森出身のカーラだ。

「ああ、持ちきれないから、ここだけ剥いで持ってきた」

とペッコが言うと、カーラは

「そんな勿体無い、場所を教えてください、今から取りに行きましょう」

と言う事なので、補給物資が積んである鳥馬車から荷物を下ろして、

妻達を連れて先程の場所まで戻ると、猪はまだそのままで、更に数頭が周囲に居る

「行くわよ」

とカーラが先頭で、あっと言う間に3頭の猪(正確には猪型のモンスター)を仕留めてしまい、

全員でそれを鳥馬車の荷台に乗せて、村まで戻ってきた。

 一人当たりの分前は少ないが、新鮮な肉が食べられると言うことで、ペッコの部隊の士気が大いに上がった夜だった。

 ただペッコだけは

(猪肉は少し熟成させた方が美味しいんだけどなぁ、冷蔵庫があればなぁ……今度作ってみよう)

と思っていた。


 そして翌朝、目を覚ますと早起きのエイルが朝のコーヒーをペッコの幕舎まで持ってきて

「王子、昨日のお馬さん、また来てますよ」

と言うので外に出ると

 四頭のユニコーンが外に居る、昨日の父親と母親に子供、それと父親よりは少し小柄なオスの一頭だ

「なんだ礼をしに来てくれたのか、猪の肉を土産にもらったから良いのに」

とペッコが言うと……当然言葉は通じ無いと思っている。

 小柄なオスが近づいてきてたので、ペッコは普通の馬にする様に首を撫でたが、その瞬間

「我が主人よ、昨夜は母と妹の命を救っていただいて感謝します、父より、私が仕えるのに相応しい主人が見つかったと言われましたのでお目にかかりに来ました」

 と言う声が直接頭の中に響いた。

「お前達、話せるのか?」

とペッコが言うと

「主人と決めた方だけに私たちの声は届きます」

と言う事なので、ペッコは喜んで……義氏は乗馬が好きで流鏑馬の大会に出場した事もある……この若いユニコーンの主人となる事にした。

「良し、では今日からお前の名前は……『絶影』だ」

ペッコがそう言うと、若いユニコーンは一瞬だけ光に包まれて、体格が一回り大きくなり、体色が漆黒に立髪が金色に変わり、更に一本だった角が金色に光る三本の角に変化した。

「我らは使える主人によって姿が変わります、この姿は主人のお力を体現した物です、どうぞ背にお乗りください」

ペッコは言われままに絶影の背に乗った。

「うわぁ、王子格好良いです、鳥馬よりそっちの方がずっと素敵」

と妻達も喜んでいて、ドラコニア族達は驚いた顔をしている。


 残りの三頭のユニコーンはそんなペッコ達の姿を見ると、軽く嘶いて森へ消えていった。

「絶影、もしかして空を飛べたりしないよね?」

とペッコは聞いてみる、ゲームの世界では空を飛べる動物型マウント(乗り物)が多数有るのだが、この世界……今までペッコが暮らしていた範囲……では存在しなかった、ただ塩の都や正教国には存在する様だが。

「主人がお望みなら」

絶影がそう言うと、背中の首の後ろの辺りから見事な漆黒の羽が生えて、絶影はそれを羽ばたかせて飛翔した。

「凄いな、他には何ができる?」

「私の力は主人の力の反映なので、炎、雷、氷、風などの魔法攻撃と転移魔法が使えます」

と言うなんとも素晴らしいチート性能のマウントだ、妻達全員がとても羨ましそうにしているのが良くわかった。

(ごめんねゲームの世界なら、色々と手に入れる方法が有るのだろうけど)

とペッコは妻達に心の中で謝った。

 そしてその朝、別働隊と別れたペッコ達は更に海岸沿いを北上して、東の森を目指す事になる。

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