メイシーノアーツ
「呼ばれたのだから、停戦はご破算ということでいいのかしら?」
リーリオのコックピットに乗り込んだわたしに対するコルネリア様の第一声。
うん、そう思っちゃうよね。
「いえ、事情は結構複雑でして。 説明してる時間は無いんですけど、まだ希望はあります」
そう、ここでエルトレオ王と大統領を守り切ればまだ道はある。
ここで台無しにするわけにはいかない。
「それで、お兄様は?」
「リーリオに乗ってもらうわけにもいかないので、施設の地下へ避難してます」
「そう、ならわたくし達のすべきことは……」
「はい、ここの防衛です」
エルトレオ王をリーリオに乗せての撤退ができない以上、援軍が来るのを待つしかない。
味方の方が先に来てくれるなんてことは……。
「先輩、ドゥークタードが来ました!」
まあ、ないよね……。
「ねえ、前に見たのと色が違うように見えるのだけれど」
「先輩、あのタイプって……」
「うん、国防仕様だ」
外の戦場に投入するのではなく、本土防衛に使われるタイプ。
性能に違いがあるわけじゃないけど、カラーリングで区分けされている。
アレを投入するなんて、どれだけクーデター側はなりふり構ってないんだ……。
でも来ちゃったからには迎撃するしかない。
「先輩、ボクが前に出るので援護をお願いします!」
「ちょ、ちょっとタユカ!?」
援軍がくるまでは時間稼ぎに徹したかったんだけど。
タユカがここで張り切る理由は、リンナちゃんか。
「レイケットプゲーノ、ファイエル!」
タユカのその言葉と同時に、先行量産試作型リーリオの右腕部が射出される。
って射出!?
途中でエネルギー刃を発生させたソレは、前身してきた先頭のドゥークタードを串刺しにして沈黙させた。
「な、なにあれ……?」
「ラストも知らなかったの?」
「あっちの改修はおっちゃんに丸投げしてたので」
まさか有線ロケットパンチを搭載するなんて思わないじゃん!
「いっくぞー!」
掛け声と共に敵陣へ突撃してゆくタユカ。
わたしも呆気に取られてる場合じゃない、援護のために上空へ舞い上がる。
「どうなってるの、こっちのリーリオとは別物じゃない……」
コルネリア様がそう言っちゃうのも無理はない。
タユカ機は両腕と両脚、それぞれからエネルギー刃を展開し1本振るう毎に敵機を撃破していく。
接続によって機体を身体の一部とし、柔軟に動かせるからこその接近戦特化仕様。
射程内に入れば4本の刃の内どれかに切り刻まれる。
しかも飛行ができるリーリオなら地に足をつける必要すらなく、4本全てを攻撃に割り振ることすら可能。
「あれが、ドゥークタードではできなかったメイシーノアーツの完成形」
タユカの理想を、おっちゃんが形にした。
本人から話を聴いたことはあったけど、実際目にするとトンデモないな。
敵じゃなくて良かった。
「でも、あんな動きをして中でリンナが酔わないかしら」
「Gをシャットアウトできるくらいですし大丈夫だとは思いますけど」
スピラーロスパイラルの時だって中は回転しないし。
「はいはい、わたしもお仕事お仕事」
タユカ機の背後に回ろうとするドゥークタードを上空からエネルギーガンで撃ち抜く。
背後はタユカにだって死角だ、そこは僚機によるカバーが要る。
そんなシンプルな戦法だったけど、ドゥークタード部隊はあっという間に壊滅した。
「素晴らしいです、タユカさん!」
「リンナさん。 当たって、当たって!?」
「うふふ、何がですか?」
「む……、む……」
「うわ……うらやま、いえなんでもないです」
リンナちゃんがご機嫌だ。
ようやく復讐らしい復讐が叶えられたんだから当然なんだろうけど。
あの時手を振り払ったことを後悔しそうになる、けどそれよりコルネリア様の視線が怖い。
「わたくしだって、リンナ程ではないにせよもう少しあれば……」
「何を言ってるんですか、コルネリア様はその体形が最高なんですよ!」
「そ、そう……」
コルネリア様が顔を真っ赤にして照れてるの、最高に可愛い。
でも戦闘で敵を皆殺しにした直後にする会話じゃないね、コレ。
「皆様、なんですか……アレ?」
そんな空気がリンナちゃんの戦慄したような声色の一言でガラっと変わる。
リンナちゃんの指定した先、そこにあったのは。
「いやわたしも知らないんだけど、あんな大きいの……」
遠くからでもわかる、巨大な物体。
そんなモノがこちらに向かって飛んで来ていた。
レイケットプゲーノの語源はエスペラント語でファイエルはドイツ語だが気にしてはいけない。
この作品は言語ごちゃ混ぜでお送りしています。




