師を越える 後編
こちらは後編になります、まだの方は前編からどうぞ。
「「スピラーロスパイラル!」」
フルーギロージュの光を纏ったリーリオの突撃。
これで先生のドゥークタードをブチ貫いて終わる、ハズだった。
「なぜだ、なぜ殺さない?」
先生のそんな言葉が辺りに響く。
「わざと外したな、今は敵同士だぞ。 師だからといって情けをかける兵士に育てた覚えなぞないわ!」
わたしには軍法会議だの最大限弁護するだの言って情けをかけようとしてたのに、言ってることが違う。
でもその通り、これがただの戦闘なら先生だからって構わずトドメを刺してた。
だけど……。
「わたしが先生を殺さないのは情けをかけたからじゃありません、この方が話をしたいと仰ったからです」
コルネリア様にマイクを譲る。
「ドリューナル王女、コルネリア・ドリューナルよ。 貴方達が最初に侵攻した国の人間と言えばわかるかしら」
「王女……?」
「補足しますと世襲の王政国家なんです、わたしも最初は驚きました」
こっちの世界じゃ馴染みないよね。
「よくもまあそんな人物を一緒に乗せたな、撃墜されたらどうするつもりじゃった?」
「結果は見ての通りですよ、わたし達の圧勝です」
「こうなることは分かり切ってたというわけか、相変わらずだな。 それで要件は?」
「停戦の申し込みよ、もう終わりにしましょう」
数秒の間、辺りを沈黙が支配した。
そして、それを破ったのは。
「侵攻を止めたら我々は滅びるのを待つだけ、それを承知しての言葉か?」
エネルギー問題を略奪で解決している世界にそれを辞めろというのは確かに終わりを意味している、全員死ねと言ってるのと同義だ。
そんなことしておいてなんで偉そうなんだよ、なんてツッコミを脇に置いておけばだけど。
「停戦を受け入れるのなら我が国から半永久機関を1つ提供するわ、そのまま使うのも解析して量産するのも自由よ」
「なんじゃと!?」
「自由といっても軍事転用は厳禁だけれど」
半永久機関っていうのはリーリオ機関のことだからこっちはバリバリ軍事転用しちゃってるんだけどね。
優位を保つためってことで。
「たった1つでどうになるとでも思っているのか、量産するとしても間に合う保証などないのだぞ」
「侵攻されて被害を受けた側が出すモノとしては破格の条件だと思うのだけれど、それに貴方に拒否権など無いわ」
「一体何を根拠に言うのだ!」
「わたくしとラストが、勝ったのだもの」
先生は何も言葉を返さなかった、いや返せなったのかもしれない。
しばしの沈黙の後。
「ハッハッハッハッハ。 そうかそうか、戦の習わしとして勝者の権利を行使するというのじゃな」
「理解して貰えたようで何よりだわ」
「そして儂を生かしておくのは停戦の話を上に持って行くメッセンジャーボーイにするためか」
「まあ、そんなところです」
「ならば儂も意地を張るのは辞めにしよう、完敗じゃ」
あー、話の通じる人で良かった。
今回このことを誰かにはやらせるつもりだったけど、死ぬまで戦い続けるような人相手だったらどうしようもなかったからなぁ。
「ねぇ先生、もしわたしだけだったら間違いなく殺してたと思います。 それしか取り柄のない人間なので」
わたしは1人でなんでもできるヒーローじゃないから。
「でもコルネリア様と2人で、こうやって戦争を終わらせられるかもしれない道を見出すことができました」
手を取り合えば、1人じゃできないことだって何とかなるかもしれない。
「だから、手を貸してください。 先生も協力してくれればこの話が現実になるかもしれないんです」
それが大切な人と一緒にいて、わたしが学んだことだ。
「そうか、それがお前の出した答えか。 立派になったな」
「え?」
「今更儂が言えた義理でもないが、人殺しの方法くらいしか教えてやれなくてすまなかった……」
内心そんなことを考えてたんだ……。
「まさか行方不明になってる間にここまで立派になってるとはな、見違えたよ」
「そういうものですかね」
正直自分ではよくわからない。
「ここまでラストを変えるとは、良い相手を見つけたようだな」
「はい、彼女は最高です!」
まだわたしの片想いだけどね!
それ言うと台無しなので黙っておく。
「わたしはようやく、自分の命の使い方を見つけました」
いつかどこかの戦場で死ぬまではある程度の贅沢ができればいいやと諦観に満ちていたわたしはもういない。
わたしが見つけたわたしの道を進みたいと思う。
「あいわかった、このバレス・デンダーの名にかけて停戦案を大統領に届けることを約束しよう」
「ありがとうございます、先生」
相手方との通信は不可能だから見えていないのを承知で頭を下げる。
これで今回の目的は達成した。
上手くいけば、もうすぐこの古代戦争も終わる。
さあ、皆と合流して一度帰ろう。
無事だといいけど。




