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これはこれそれはそれ

 月曜日が来て学校。

 クラスメイトと挨拶を交わして着席。

 程なくしてホームルームが始まった。

 空席が一つ、カースト上位の女子生徒のまとめ役がおらず今日は少しだけ静か。

 まぁいいか、関係ないし。

 頬杖をつきながら窓の外に目を向け続けた。

 冬の景色は薄く色褪せて見えた。

 それからは何事もなく昼休みとなる。



「今日は久しぶりに司と二人きりだったね」

「そうなぁ~……。気持ち悪いセリフどうも」



 昼食を終えて、談笑する時間。

 ただ司の元気がない。

 心ここにあらずの見本。

 会話は出来ているけれど、視線もここではないどこか。



「どうした?」

「喧嘩した」



 あっけなく白状しやがった。

 それで神楽先輩がいないのか。

 こっちも大変なことになっている。

 まぁこの二人に限ってあんなことにはならないと信用している。

 それにしても喧嘩ね。

 夏菜とは喧嘩らしい喧嘩をしたことがないし、市ノ瀬一家が言い争いをするようなことも想像出来ない。



「何したのさ」

「俺がやってること前提かよ。まぁそうなんだけどさ」

「で?」

「押し倒したら蹴られた」



 昨日、僕も夏菜を押し倒したことになるのだろうか。

 司の行動よりも可愛らしいもんか。



「泊まったの?」

「そのつもりだったんだけれど追い出された」

「喧嘩したんならね」

「女ってわかんねぇー……」



 机に突っ伏す。



「なんで押し倒したの?」

「そりゃやりたかったから」

「そりゃそうか」

「身体目的で付き合ってるわけじゃないし、好きだからこそ繋がりたいじゃん」

「そんなもん?」

「お前らまだやってないの」

「実際に付き合いはじめたの最近だよ」



 詳しいことまで司に話していないから知る由もない。



「合宿中には雰囲気違ったからその時からだと思ってたわ。よかったじゃん」

「うん。ありがとう」

「お前ら変わらないよな。安定してるつーか」

「付き合い長いし」

「付き合いだけで言うなら俺らのほうがなげーよ」

「確かに」

「市ノ瀬ちゃん今日こねーの?」

「昼食だけ麗奈ちゃんと摂るって言ってたから、もしかしたら来るんじゃない?」



 噂をすれば影が立つ。

 夏菜が食堂の出入り口で見回している姿があった。

 立ち上がり小さく手を振ると気づいて駆け寄ってくれる。



「夏菜が来てくれてちょうど良かった」

「どうしたんですか?」

「司が神楽先輩を押し倒して喧嘩したって」

「おい渉っ」

「僕らで話すより実のある話しが出来そうじゃん」

「それはそうだけどよぉー」



 夏菜は定位置、僕の左に座る。

 テーブルが丁度いい高さなので胸を置いて楽をしている。

 今日はお疲れ気味ということがこんな仕草でわかってしまう。学校ではあまりやらない行為なので、彼女も彼女で昨日のことで精神的に疲れているのだろう。

 胸が大きいから自然と乗ってしまうことはあるから一概には言えないが、いつもは姿勢を正しているのに今日はやや猫背。

 昨日のお詫びに肩でも揉んであげようかな。


 見た目もさることながらこんな仕草をしてしまえば目立つ。

 司も男の子、夏菜の行動を見てしまっている。けれどすぐに目を逸した。

 手で謝罪してくるので受け入れる。

 でも本人に謝って欲しい。本人は気にしないだろうけれど。



「疲れてるね」

「わかりますか?」

「胸がテーブルに乗っかっている」

「すみません無意識でした。先輩が側にいるので気を抜いてしまったのかもしれないです」

「そう言われるとなんか返せない」

「支えてくれます?」

「馬鹿言うなよ……。学校の中だろ」

「何をと言ってませんけどね」

「こいつ……」

「先輩が触りたいならどうぞ」



 夏菜がこちらを向いて胸を突き出す。

 閉じていないカーディガンがカーテンのようになっている。

 なんかまた大きくなってないか。



「はいはい今度ね」



 頭を撫でてから身体ごとテーブルに向かい合わせる。

 自由な校風といえど限度がある。

 指導室に連行されることは明白。



「お前ら俺の話聞いてくれるんじゃないのかよ」

「そうでした」



 夏菜の耳がやや赤い。

 場所をわきまえずそんなことを言うから。

 ポットのお茶が空になっていたので二人を残して新しいのと入れ替える。

 僕が戻る頃には相談が始まっていた。

 


「気分じゃないとか疲れてたとかぐらいしか私も思い浮かびませんけど。もしくは結婚までしないとか? 流石に今どきそんな女性がいるとは思えませんが」

「回数はそれなりに……」

「そもそも謝れば済む話しなのにどうして喧嘩まで」

「私が勉強しているのに、お前はそれしか頭にないのかって。一緒にいるんだから何か一緒にやりたいじゃん」

「山辺さん乙女ですね……」

「雅が教えてくれるからって勉強始めたんたんだけど、隣に無防備な彼女がいたら、やりたくならない? それで押し倒したらそうなった」



 僕に同意を求めるな。



「……」



 夏菜の目が半眼に。

 受験生だしね神楽先輩。

 疲れているだろうし勉強を優先したかったってのが濃厚な気がするよ。



「山辺さん、結構誘ってました?」

「……うん。駄目なの?」

「司ってそれなりに交際経験あったよね」

「そんときは手出さなかったよ。相手のこと好きになろうとは思ったけど無理だったし、好きでもない女の子を抱くほど不誠実でもないよ」



 言いたいことはわかる。

 そういう友人だってわかって嬉しくもある。



「駄目ってことはないですが」



 夏菜がすっと司から僕に視線を移す。

 こういう話してて大丈夫? と目が語ってくれている。下の話。

 頷くと頷き返してくれた。



「ちゃんと相手のこと考えてくれないと駄目ですよ」

「わかってるよ」

「女性は気持ちよくないし疲れるしでそんなにやりたくない感じじゃないですか。それに相手受験生ですよ」

「え? 雅も気持ちいいよって言ってくれたけど」



 本気で驚いている司を見るのも久しぶり。

 ってか反応するのそっちかよ。



「そりゃ言いますよ」

「夏菜って経験あるの?」

「何言ってるんですか? あるわけないじゃないですか。殴りますよ」



 無表情。

 僅かな変化もなく目が本気。

 これはかなり怒っている。これ以上の怒りは指先が示してくれる。

 まだセーフ。



「いや、詳しいなぁーって」

「女子同士の猥談が聞こえるし、母さんや麗奈とも話しますから」

「そうなんだ」

「わかっていただけました?」

「うん」

「ならいいです。次そんなこと言ったら襲いますから」

「それはちょっと……」

「罰なんですから、痛い目にあってください」

「すんません」



 ある意味予防線になっていたものが瓦解して利用されてしまった。

 と言っても冗談で言っているのがわかったので素直に謝る。

 司が話しの続きを聞きたそうにしているので、僕はお茶を啜りならがら黙ることにした。



「で?」

「処女ですが、気持ちがわかるのでそれでよければ、処女ですが」



 根に持っている。



「ごめんって」

「貸し一ですよ」



 何されるんだろうか。

 夏菜の発言のせいで周りの男子たちも反応している。

 告白されることが少なくなったと喜んでいたのに文化祭が終わると同時に、また彼女の人気が元に戻り放課後に呼び出される回数が増えたと嘆いていた。

 こうやって注目を集めることを言わなければいいのにと思ったが、今回は僕が悪いので何も言えず二人の様子を見守ることを再開。



「自分の気持ちよさとか痛みを置いて、相手に気持ちよくなってほしいが先行するだけですよ」

「そうなんか」

「するしないにしても気を使ってあげてください」

「うっす」

「とりあえずどう考えても山辺さんが悪いので謝罪することですね」

「うっす……」



 話しは終わるかと思ったけれど、司は新たに疑問が湧いて夏菜に問いかける。



「気持ちよくさせるにはどうしたらいい?」

「本人に聞くしかないのでは? 個人差あるものですから」

「ちなみに市ノ瀬ちゃんは」



 怪訝な表情を浮かべる。

 微細な変化で多分司は気付かない。



「先輩の親友じゃなかったら蹴り上げてましたよ」

「あ、いや。すまん、今のはなかったことにして」

「そういえば」



 何かを思い出したように声をあげる。



「前戯が大事だそうです。これは母さんが言っていたので間違いないかと」

「前戯か……」



 思わず口に出してしまった。

 考えたことがなかった。

 どうも行為自体を重く見てしまっていた。

 あいつらが僕の前でしていたのは行為だけで、それ以外は特に何もしていなかったなと。

 行為が終われば蹴られて部屋を追い出されていた。



「先輩?」

「なに?」

「どうしたのかなっと思いまして」

「あー、あとで話すよ」



 猥談で昼休みが消し飛んだ。

 高校生らしいと言えば高校生らしいが。

 次やったとしても場所は選びたい。


 彼氏持ちなのに未だに人気が衰えない彼女。

 その日の学園の男子たちの話題は夏菜が処女であることが広まった。

 帰り道「久しぶりに先輩のせいで一日に2度告白されました」と怒られた。

 ちょっと理不尽。


 しかし問題ばかり起きる。

 こればっかりは司と神楽先輩の問題だから、二人に解決してもらうしかないわけだけれど。



 ※



「今日泊まりますね」

「月曜日だけど」



 週末に泊まることが多い。

 とくに2学期に入ってからはずっと。

 ただ僕の家によってから帰宅すること増えていた。今日もそのつもりなのだろうと考えずに自宅に招いていた。



「夏菜がグレちゃった」

「人が心配しているのにその言いぐさはなんなんですか……」

「変な空気になるのが嫌だったからだよ」



 あと考えていたことが突拍子もなくて恥ずかしいから。

 心配されているということは昼間に考えていたことに突っ込むつもり。

 隠し事も嘘もお互いに苦手。

 白状するしかないわけだけれど。



「知ってます」

「そっちこそワザとか」

「はい」

「着替えてから話そうか」



 お互いに入れ替わりつつ着替えを済ませる。



「それで何を考えていたんですか?」

「夏菜」

「はい」



 言うべきかどうするかこの期に及んで迷う。



「いつものように思ったことを口に出してください」

「分かった。えっと……胸、触っていい?」

「どうぞ」

「……」



 緊張していたのが馬鹿らしくなるほどの清々しい即答。



「脱いだほうがいいですか?」

「いや、そのままで」

「わかりました」



 目の前にある大きな膨らみ。

 腕でその柔らかさを感じたこともあるし、一緒にいることで接触することもあった。

 でも自分から触ろうとはしなかったし、考えなかった。



「触らないんですか?」

「いやー……。ね? ちょっと心の準備が」

「先輩が言い出したんですからね?」

「わかってるよ」

「優しくお願いします」

「う、うん」



 深呼吸してから、ゆっくりと手を伸ばす。

 触ると同時に彼女は目を閉じる。

 柔らかいし気持ちいいけど、こんなもんなんだなっというのが正直な感想。

 服の上からだからだろうか。

 揉みしだくとむにむにと形を変える。

 押し込めば反発してくる、興味本位で少し引っ張ろうかと思ったがやめた。



「痛くない?」

「だ、大丈夫です。思ったより恥ずかしいですねこれ」



 恥ずかしそうに頬まで染めて潤んだ瞳でこちらを見るのはやめてほしい。

 身体に触れるよりそちらのほうが効く。



「もう少し触ってもいい?」

「はい」



 下から持ち上げるように掴んでみる。



「重たっ。よく生きてられるね」



 道理でテーブルに置くわけだ。

 納得の重量。



「まさかそんな感想抱かれるとは思いませんでしたが両胸で4キロぐらいはあるかと」

「罰ゲーム?」

「まぁ、そう思ったこともありますが。それより全然色気がないんですけれど」

「あはは……ごめんね?」

「平気そうでなによりです」



 学校で二人が会話している時に思い出したことを夏菜に話した。

 あの猥談がヒントになるとは思わなかった。

 夏菜に触れたいと思ったことは事実だし。



「それで試したんですか? 先輩がその気になってくれたことは嬉しいですけれど」

「そんなとこ。勿論、夏菜と歩みたいなって思ってるからこそなんだけど」

「先輩」

「なに?」

「一つ忘れていることがありますよ。私からのキスはまだ試してないです」

「あ」

「忘れてましたね?」

「克服してた気になってた」

「忘れるくらいには余裕出てきましたね。それとも進路のことを考えていたから忘れていたとかですか?」

「どっちもかな? 進路はぼちぼち考えることにしたよ」



 期限までもう暫くある。

 最悪、僕の成績でいけるところを記入して出そうと考えている。

 3年になれば本格的に行き先を決めなければならないが。

 理系か文系かぐらいは考えなきゃいけないのは事実。



「先輩のお願いを聞いたんですから私のお願いも聞いてくれてもいいですよね?」



 想像は出来る。

 先程口に出したこと。

 何がとは聞かない。



「うん、もちろん。平気だと思うから」

「……はい、では」



 僕が目を閉じて受け入れる態勢に入る。

 そっと肩を掴まれて、彼女の呼吸が聞こえると。

 携帯が鳴り出した。

 ベタな展開だなーっと考えていたが、違うのはもう僕らはキスを経験していること。

 それも何度も。

 舌を絡めたりなんかはしていないが、それはもう少し後と考えていた。

 それよりも。



「ごめん、取っても良い?」



 閉じた瞼を開き彼女を見やる。

 不機嫌そうに赤くなった顔で頷く。



「タイミング悪い……」



 独り言の呟き。

 僕にはどうしようもない。

 着信の相手は父さん。

 送ってから返事が遅かったから正直忘れていたが、夏菜が受け取った封筒の件だとわかる。



「どうしたの?」

『連絡遅れてすまない。少し立て込んでた』

「それはわかってるから大丈夫。それで」

『送り主を確認を失念していた』

「わかった。ちょっと見てくる」



 父の部屋に入る。

 以前と変わらず家具の配置すら変わらない。

 嫌な記憶が蘇りそうになるが昔ほどではない。

 封筒を手にして裏返る。


 村川ゆな


 名字が変わっているが名前でわかる。

 多分これ僕の母親だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >次そんなこと言ったら襲いますから 女性からすれば気持ちよくないとは言いつつも肉食系… >どうも行為自体を重く見てしまっていた。 前戯行為なければ痛いだけとはよく言いますが、とりあえず…
[良い点] 夏菜とちゅっちゅが出来るようになって良かった良かった。 [気になる点] 送り主が… [一言] 今更なんやろね?
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