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【連載版】すべてにおいて負ける僕が唯一勝利したこと  作者: 「」
一章 それでも続く穏やかな日常
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午後の部

 一度、中庭にある案内板までやってきた。

 午前中に彼女が巡ったのは、料理部、写真部だけらしい。



「写真部に興味あったの?」

「私もどこにも所属するつもりはないですが、最近よくスマホで写真撮ってるので何か参考になるかと思いまして」

「へぇ」

「先輩が寝ている間にも少し屋上を歩き回っていくつか撮ってみましたし」



 写真部自体あるのは知っていたけれど、体育祭などの行事で動き回っていること以外なにをやっているのかはしらない。

 それよりも彼女が写真をよく撮るようになったことは初耳だった。



「参考になった?」

「どうなんですかね」



 人差し指を唇の下に当てて考えるような仕草を見せる。

 彼女がやると絵になる。

 これこそ一枚撮ってみる価値はありそう。

 そんなことを思った。



「電車の模型を走らせて撮っていたり、あとはコスプレの写真や衣装が展示されてるだけでした」

「うちの写真部ってそんなことになってるんだ」

「でも写真は写真なので、アングルだったり光の使い方なんかは、なるほどって思わされました」

「じゃあ結果的には良かったんじゃないか」

「ネットで知れる知識ですし、ネットブック買ったほうが時間の無駄にしないで済みましたね」



 部活なんて基本、好きにやっていいものだ。

 同じ趣味の仲間をみつけて青春を謳歌するのもいい、全力でコンクールを挑み受賞を目指すのもいい。

 ただ、今回は前者の色が強く出ていただけだろう。



「あれ? 軽音部あるんですね」



 体育館ステージの15時あたりを指して、驚いたように言う。



「あぁ、あるね。あっちは邦楽メインでやってるから」



 昔は民族音楽研究部も軽音部だったらしい。

 が、いつの間にか袂を別れていた。

 神楽先輩が入学するよりも以前の話だから僕も詳しくは知らない。

 文字通り音楽性の違いという奴だろう。

 洋楽には洋楽の、邦楽には邦楽の良さがある。



「部活として認められてるから、それなりに人数はいるはずだけど」



 規定では同好会は3人から部活として認められるのは5人以上だ。

 司が協力的ならば民族音楽研究部も同好会になれたのだろうが、入りたくないものを無理矢理に入れるわけにもいかない。

 ただ疑問を口に出しただけで興味を引いたようにも思えないが、念のために聞いておくことにした。



「行ってみる?」

「私、音楽には明るくないのですが、先輩が行きたいのであれば」



 真面目に活動しているわけでもなく、いつかの司と同じようにモテたいという理由がメインの部活。

 だから僕も当然興味はない。


 グラスアート部や杖道部なんて、一風変わった部活動もあるけれど。

 夏菜の眼鏡にかなうかどうかはわからない。



「喜びそうなのあんまり思い浮かばないなぁ。夏菜と一緒にいるだけで楽しいんだけど、折角の新入生歓迎会だしなぁ」

「いつも思うんですけど、先輩ってそんなこと言っていて恥ずかしくないんですか?」

「夏菜だって最近言ってない?」

「一応自覚あったんですね……」



 呆れられてる。

 自覚があるかないかであれば、ある。



「他の女の子に言ったりしてないですよね?」

「……」

「どうして黙るんですか」

「判断出来ないなって、夏菜だと態度にすぐ現れるからわかるんだけど」

「わざとだったんですか?」

「いや、全然。思ったことを口だしてるだけ」



 そう、こうやって俯きながら耳が赤くなる。

 身長差もあってつむじが見える。

 上目遣いで睨まれるが、目が合うと逸らされる。



「夏菜はわかりやすくていいなぁ」

「ほんっと、最低。あまりからかわないでください」

「からかってはないよ」

「……そう。だからこそ手に負えないんでした」



 なんかごめんね。

 このまま彼女の反応を楽しんでいる場合でもなく、とりあえず色々と歩き回ってみて、興味が惹かれたものから顔を出すことにしようと提案してみる。

 この新入生歓迎会のもう一つ目的として、校内の施設の把握というものがある。



「私は先輩と一緒にいることを目的としているだけですので」



 嬉しいことを言ってくれるが、それは本末転倒な気がする。

 でも夏菜が良いというのだから、それに答えるべきだろう。


 中庭に近いところから案内するとして、武道場から弓道場へ。

 今年は的あてはやっておらず、部員のデモンストレーションがメインだった。

 弓道の動きは凛としていて綺麗な立ち姿だったが、説明をしている女性の先輩の一人が夏菜に近づくと、胸が大きい娘はそもそも入部出来ないということを伝えられて凹んでいた。

 入部するつもりもないのにと、一人ごちる。


 改めて自分の高校を歩き回ってみると、意外と知らないことがあって楽しい。

 普段グランドや体育館、せめてテニスコートぐらいしか訪れない。

 ハンドボール部なんかあって、専用のコートがある事自体、今日初めて知った。


 メジャーな運動部なんかは本校舎の出入り口付近で、キャッチのように生徒に声を掛けているだけ。

 勿論バスケ部もその中にあり、全国に連れて行った夏菜はどうやら有名なようで、すぐに声を掛けられていた。

 そんな僕もやっぱり入らないか? と誘われてしまったが、バイトを口実に断る。

 夏菜の制服のタイは青色で今年の一年を表しているが、男バスの中にも青色のネクタイをしていて一年だと思われる人物の中に見知った顔があった。

 わざわざ声を掛ける必要もないと思い、すぐに踵を返す。

 あとは文化部を見て回れば終わりだろうか。

 校舎に戻るついでに休憩することにした。



「ほい、お茶」

「ありがとうございます」



 自販機でお茶を二つ買って、すぐ傍のベンチに座っている夏菜に渡して僕も隣に座る。



「どうだった?」

「そうですね。部活の数が予想以上に多くてびっくりしました」

「まぁ、僕も知らない部活あったりしたからなぁ」



 元々あったのか、去年発足されたのかわからないが、文化部も合わせれば結構な数になる。

 にしても結構歩いた。

 深くベンチに座り、力を抜く。

 夏菜はなんとか体勢を保てているが、休憩に入ったことで疲れが押し寄せたみたいで、眠そうな目がさらにとろんっと垂れている。

 朝早くから起きて弁当も作ってくれていた。

 疲れない訳がない。



「あとは文化部だし、今日はもう帰るか?」



 時間を確認すると15時を過ぎたあたり。

 十分な成果だと思う。

 視聴覚室と図書室を案内しようと思っていたが、あとは本人にどうにかしてもらおう。



「今から帰宅しても、電車乗り過ごしそうですね」



 今日は夏菜の家から学校に通ったからずっと一緒だったけれど、帰宅は途中の駅で僕が先に降りることになる。



「ちゃんと送り届けるよ」

「迷惑じゃないですか?」



 最悪、僕の家に泊めてもいいけれど、明日は普通のスケジュールだ。

 夏菜の家には僕の私物があるけれど、逆はない。

 送ったほうが無難だろう。



「迷惑なもんか、普段から世話になってるのは僕のほうだよ」

「では、すみませんがお願いします」

「うん」

「初日ということもあって張り切りすぎました」



 学校のことではない。

 勝負のことだろう。

 今日の彼女は普段とは違う一面を何度もみせてきた。



「御手柔らかにね」

「嫌です」

「……あはは」



 彼女の荷物を預かり受け、いつもより頼りない歩幅に合わせて進む。

 坂道を下り駅へ。

 幸い電車は直ぐに到着してくれた。

 この時間帯だと空きのほうが多く、彼女が座ったのを確認してから隣に。

 

 彼女の自宅になんとか送り届けたが、玄関先で限界がきてしまい、僕に寄りかかるようにして舟を漕ぎはじめた。

 声を掛けても反応がなく、ローファーを脱がして夏菜を抱きかかえる。

 何かの拍子に密着することはあった。

 けれど、眠って意識のない夏菜に触れるのは初めてで、昨夜のこともあり、妙な緊張を覚える。



「ごめん」



 何故か自分でもわからずに謝罪を述べ、彼女をなんとかベッドに降ろす。

 いや、夏菜の寝顔を見るのも初めてだからか、ただ背徳感があったのだ。

 容姿端麗で大人びた彼女。

 眠っている姿はあどけなさを残していて可愛い。



「それじゃ、お疲れ様」






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