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デートの約束と

 午前中は問題なくクラスの出し物に参加。

 午後は生徒会の催しであるカップルコンテストに強制参加。

 ただし参加者ではなく審査員としてだ。

 二人で協力して様々な課題をクリアしていくというもの。

 お互いが理解し合えているのかという、彼が想っていることを彼女が当てその逆の問題も出される。

 あとは二人三脚のように片足と片腕を紐で結ばれて、問題を出されてその問題に適した場所を巡っていくといったある意味脱出ゲームのようなものも用意されていた。

 そしてもう一人の審査員で僕の隣に座っている夏菜はつまらなさそうにその光景を眺めている。



「つまらない?」

「そうですね。人の恋愛には興味がありませんので」

「司たちには協力してたみたいだけど?」

「あれは先輩のためというか、私のためですからね。それに知らない仲ではないですし」

「ふ~ん」



 自分に素直な子。

 ただ審査員として呼ばれた以上は各カップルに点数をつけたりしている。

 彼氏が彼女を助けたりしたら加点する制度がある。

 やる気はないのにしっかりと自分の役割はこなしている律儀な子でもある。

 僕の中で勝手に加点していく。



「ちなみに景品って何が出るんですか?」

「夏菜のつけてる指輪が出してるメーカーのペアマグカップだよ」

「意外と豪華なんですね」

「そうだね」



 物で釣るというわけではないが、それぐらい景品として貰わないとやる気も出ない。



「ペアマグ」

「ほしかった?」



 僕らがお願いして夏菜を審査員として迎え入れた形。

 所謂ボランティア。



「今度買いに行こうか」

「いいんですか?」

「よく考えたら夏菜がうちに泊まるようになってからも、君専用のマグカップとか用意してなかったからね」

「やっぱり結構です」

「?」

「私は拘りがない限り使えればなんでもいいという方です。であれば、わざわざ新しいのを買うのは勿体ないかと」



 あぁ、そういう。

 心の機微というものは、まだ僕は少し考えないとわからない。

 鈍いと罵ってくれても構わないって自分でも思う。



「ペアマグが欲しかったんだね」

「言わなくていいです」



 僕の口調を真似して照れる夏菜の姿。

 確かに僕も散々言ってきたけれど、夏菜の気持ちがわかって癖になりそう。



「こうして付き合ってもらっているんだから、明日でも買いに行く?」

「……はい」

「これもデートになるんだろうか」

「何を当たり前のこと言ってるんですか?」



 当たり前だったらしい。



「夏菜と僕ってあまり二人で遊びに行くことってないよね」

「私たちアルバイトもしていますからね」



 二人で一緒に過ごす時間は多い。

 これからは彼女を誘ってどこかに遊びに行くのもいいかもしれない。



「せっかくだから買い物ついでに他の物とかも見に行こうか」

「そろそろ冬物が出る時期ですから。先輩にも選んでもらいますね」

「僕のセンス知って言ってる?」

「やはりやめておきましょうか」



 目を細めて嫌そうな顔。

 予想したもの同じ物だが、少しだけ傷つく。



「流石に押し付けるようなことはしないよ。趣味はそれぞれだからさ」

「私としては先輩の趣味が知りたいところだったんですが」

「別にTシャツ選ぶわけじゃないんだからさ……」

「確かにそうですね。先輩の服装で変なのはTシャツだけでした」



 生徒会の催し物など関係なく二人して盛り上がる。

 明日の振替休日に二人で出かけることが決まった。



「終わったみたいですよ」

「誰が勝ったんだろう」

「誰でしょうね」



 表彰式に移る。

 手を繋いで登壇してきたのは上級生で、このような催しに参加しそうにない二人。とても真面目そうな雰囲気を持っている。

 彼らの番号と手元にある総合得点を眺める。

 お互いを理解し合っているかというクイズで高得点を出しているし、脱出ゲームもどきでは3位で到着。他の課題に関しても上から数えた方が早い。



「へぇ」

「何かありました?」

「結構良い点数だなって」

「まぁそうですね」



 ちょっとだけ含みのある言い方。

 特に何かを考えている様子もないところから、自然と出てきたみたいだ。



「気になることでもあった?」

「いえ、私と先輩が組んで出場したらどうなっていたのかなぁーと」

「どうだろう」



 自信を持って勝てるなんて言えない。

 お互い個人戦なら勝つ見込みがあるが、協力してなにを成し遂げるということは今まで一度もなかった。

 脱出ゲームや他の課題で得点を取れたとしても、一番点数の高いクイズはわからない。

 夏菜のことを良く知っているとは思うが、未だに謎な部分も多い。



「そこではっきりと勝てるって言わないところが先輩らしいですよね」

「格好悪いけどね……」

「いえ、そういう意味ではなく。過度な自信は持っていなくて冷静ってことです」

「冷静なのかな、自分ではわからないや。でも、夏菜のことはもっと知りたいなって最近は思うようになったよ」

「……そうですか。私も先輩のこと色んなこと知りたいです」



 舞台の脇、ステージのテーブル。

 大きな布がテーブルに敷かれていて客席から見えないことをいい事に彼女は僕の横腹を突く。力は弱く撫でるように。

 恥ずかしそうな顔色を見せながらも、僕に悪戯を仕掛けてくる。

 昔は恥ずかしいならしなきゃいいのにって思っていたけれど、今はそんな行動も可愛く見える。



「横側弱いからやめて」

「新しいこと知れました」



 微笑む彼女の脇腹に仕返しだと言わんばかりに突く。



「ひゃっ」



 夏菜も脇は弱いようで、初めて聞く女の子らしい悲鳴の声。



「僕も夏菜の知らないところ知れたっぽいな」

「ずるいですよ」



 僕ら二人でまた盛り上がっていると、流石に注目を集めていたようで裏にいた生徒会長に『君ら二人は参加していないのに注目を集めてどうする』と怒られてしまった。



「先輩のせいで私まで怒られました」

「僕のせい? いや、僕のせいか」



 ようやく表彰式も優勝した彼らペアマグカップを贈呈して終わる。

 見るべきところはあまりなかったが、それは僕らだけ。他の生徒たちは盛り上がってくれていたようでなによりだ。

 撤収作業を横目に僕らは民族音楽研究部へと向かう。



「来年も似たようなやつやってたら参加する?」

「そうですね」

「どうした? 嬉しそうな顔をして」

「あ、わかりますか? 流石先輩ですね」



 いつもの無表情がやや温和的というか柔和に見えた。



「来年も当たり前のように私と一緒にいる発言をしたの気づいてます?」

「うん。そのつもりだけど」

「そうですか。そうですよね」



 一人うんうんと頷きながら僕の少し先を歩く。

 ただ文化祭の中で廊下も人通りが多い、学生だけではなく外部からたくさんの人が来てくれている。

 こちらも前方を見ていないし、相手も物珍しそうにきょろきょろと視線が動いている。

 夏菜の腰に手をあて、僕の半身が隠れるぐらいに身を寄せる。



「あ、……すみません。浮かれてました」

「大丈夫だよ」



 完璧に見える美少女だけど、抜けているところもある。

 だからこそ身近に感じて可愛く思えるのだろう。

 言い訳は出来ないようね。こう感じるようになってしまったのだから。



「いつものように腕貸すよ」

「はい」



 ※



「なんか曇ってきてるね」



 楽器を控室まで運ぶため作業をしている最中、夕方にもなっていないのにやたら暗いと感じて空を見上げると見事な曇天。

 部室から見える空は四方を学校の壁で仕切られており、そのキャンパスは一切の隙間もなく灰色に塗り染められている。



「天気予報ではずっと快晴が続くって言っていたんだが」



 神楽先輩がそう言うと、夏菜はスマホで天気予報を再度確認している。そのスマホを覗き見るように僕も眺めるが彼女は一瞥するだけで文句も言わずに、僕にも見えやすいようにしてくれる。

 褒められた行動じゃないと思ったので手を立てて謝罪するも、夏菜は頷くだけで許してくれた。

 天気予報は神楽先輩の言っていた通りで、この後もしばらくはずっと晴れの予定だった。



「雨天中止とか笑えないな」

「そうだね。最終日でお客さんも多いだろうに」



 僕と司が頷き合っていると。



「あ」



 ドリンクやタオルなどを籠に詰めていた麗奈ちゃんが小さく漏らした。

 声がしたほうに僕らも釣られて見やる。



「降ってきちゃった」



 窓をよく見ると小さな水滴がついている。

 本当に降ってきてしまった。



「ちょっと僕野外ステージの実行委員と話してくるよ」

「あぁ、頼むよ」



 夏菜は僕についてこようとしたけれど、僕からの連絡を待ってほしいと伝え彼女に楽器を預けると、皆に見送られる形で部室を後にした。

 野外ステージに向かう途中、雨脚が強くなってきている。

 聞かずとももう中止だろう。

 今はちょうど近代音楽愛好部が演奏を始めた頃。


 部室と野外ステージのちょうど中間。

 遠くから演奏はスピーカーに乗って聴こえる筈だけれど、聞こえてくるのは雨の音と雨に濡れた人たちの悲鳴ぐらいだ。

 校内に続々と人が入ってきており、玄関先では人で溢れかえっていた。

 その中に野外ステージを担当している実行委員の男子生徒を見つけた。



「このまま全体的に中止?」

「柊か。一応、雨が止んだら再開予定だよ」

「そっか」

「秋の天気は変わりやすいというが、これほど手のひらを返したように降ってくるとはな」



 どんよりとした空模様。

 けれど良く見てみれば少し遠くの空は澄み渡るように晴れている。

 ちょうど僕らの頭上だけこの空模様のようで、あとは風が早く押し流してくれることに期待するしかない。



「機材は?」

「そういえばお前がシートを用意しとけって言ってたんだっけな」

「本当に雨が降ってくるとは思わなかったけどね」



 毎朝、天気予報は欠かさず見ていた。

 今週の降水確率は極めて低かったことを覚えている。



「ただアニソン部は残念だったみたいだけどな」



 通称アニソン部。

 そっちのほうが短くてわかりやすいな。

 僕らの部活も洋楽部にしたほうがいい気がする。



「融通は……、利かないよね」

「まぁーな」



 僕らの後の軽音部がラスト。

 その軽音部が終わって少し立てば、文化祭が終わり残りは学生だけ体育館に集まりで閉幕する。

 後は各々クラスで片付けを行ったあと打ち上げという流れ。



「僕らの演奏がスタートするぐらいには止みそうだね」

「お前のライブ話題になってたな」

「話題になるほどだったんだ」

「歌詞の意味はよくわからないけど、なんかお前の歌声って引き込まれるよな」

「そう? ありがとう」

「ま、歌唱力だけなら後の軽音部の方が上だったけどな」

「そうなんだ」



 僕らはすぐに部室まで戻ってしまったから聴いていない。



「今日聴いてみるよ」



 彼から離れて夏菜に連絡を取る。

 僕は雨が弱まるのに気づいて、先に控室に向かった。

 到着してから暫く待つと部活のメンバーが続々と控室に入ってくる。

 夏菜は僕のギターを大事そうに両手で抱えながら。



「お待たせしました」

「ありがとう。重くなかった?」

「少し重かったです」



 リュックのように背負ってくればよかったのだろうけれど、それは言わない。

 舞台袖でステージの様子を見ると実行員が、ステージに溜まった水をワイパーで外へと押し出している。

 観客も戻ってきているようで、遠くからでもクラスメイトたちの姿が見えた。



「もう少しで演奏できそうだね」

「そうですね」



 しかし問題は完全に片付いていなかったようで、ステージで調整を行っていた実行委員が控室に小走りで入ってきた。

 それは僕らがステージに登る3分前。



「すみません、柊先輩」



 深く頭を下げる後輩に手で制して顔を上げてもらう。



「どうしたの?」

「アンプが……」

「スイッチ入れた?」

「いえ、余計なことして壊したくなかったので」



 言わんとしていることはわかった。

 ブルーシートは完全な防水というわけではなく、ステージに水が溜まるほど雨が降ったのだ。どれかが壊れても仕方ない。

 無理に起動するとショートするし、彼の判断は正しい。

 後で完全に水抜きすればまた使用出来るかもしれないし。

 幸い学校の備品だから、壊れてもそこまで問題にならないだろう。



「ま、仕方ない。そのアンプを控室に持ってきて完全に乾かしてくれる?」

「柊先輩たちは……」



 問題はそれなんだよな。

 困って何かあるはずもないが辺りを見回す。



「いや、あった」

「え?」



 驚く後輩に頼み事が増えた。



「使えないのってアンプだけだよね?」

「そうですが」

「じゃ、これ借りていい?」



 前の部活動が置いたままにしている楽器たち。

 その中にあるアコギを手に取る。

 エピフォンのギター。

 値段は安いが、歴史のあるメーカー。値段以上の音が出る。

 ギターで有名なギブソンの傘下でもあり、過去はライバル関係。

 信頼出来る楽器。

 僕もいつか買おうと思っていたが、見送っていた。



「あ、はい。聞いてきます」

「よろしく」



 また小走りで控室を出ていく。

 行ったり来たりと申し訳ない。

 借りる予定のギターをしっかりと音が出るようにチューニングしていると、隣に夏菜が座る。



「先輩ステージに立つんですか?」

「ま、観客も来てくれているみたいだしね。話題になっていたらしいし僕ら目当てだと嬉しいけど」

「はぁ」



 呆れたようなため息。

 けれど、彼女の目はしっかりと微笑んでいる。



「怖いもの知らずですね」

「そう?」

「私たちその楽器用に曲を用意してないですよね」

「僕の知ってる曲を演奏するだけだね」

「やっぱり怖いもの知らずです。私なら出来ません」



 憧れ、羨望のような視線。

 彼女から向けられるのは初めてだろうか。

 いつも教え導く彼女の目は自信に満ちていて優しい。ただ、時折氷のような冷たさもあるが、それは僕に向けられたことはなかったと思う。

 ……。

 あるな、風邪を引いた時。



「僕はいつも夏菜に挑んでいる立場だから、これもあんまり変わらないんじゃないかな? ただ相手が不特定多数ってだけで」

「私の存在が先輩の心を強くしたってことですか?」

「そうなるね」



 僕は笑う。

 司や神楽先輩、麗奈ちゃんは黙って僕らの会話を聞いている。

 僕の視線に気付くと司は頷き、神楽先輩は優しげに微笑んだ。

 麗奈ちゃんは心配したような目だ。



「死ぬわけじゃないんだし、ちょっと行ってくるよ」



 後輩の実行委員も戻ってきてサムズアップしているから、許可が下りた。



「はい」

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