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about a

 夏菜の思惑でいつもとは少しだけ違う雰囲気にもなったけれど、僕に遠慮して受け身になっていた部分が少しだけ取り払われたよう。

 4月の告白から7月の彼女の誕生日までの攻めの姿勢が出てきている。

 それは喜ばしいことだと思う。

 先程のサバゲーのように僕が最初に情報を集めていたように、8月から今まで期間で彼女もそうしてきたのだと思う。

 彼女にしては遅いと感じるが、慎重に動いていたのかもしれない。



「あ、柊くんやっと来た」

「今日来るとは言ってなかったと思うんだけど」



 自分のクラス。

 ホスト側ではなく、プラネタリウム側。

 僕に声を掛けてきたのは三枝さんだ。実行委員を通して口調が砕けてきている。



「明日はホストとしてだし、来るなら今日しかないでしょ」

「まぁ確かに」



 時間的に僕らが回れるのはここが最後になる。

 この後は野外ステージで民族音楽研究部のライブが始まる。



「柊くんの彼女さん、なんかエロ可愛いね」

「えろ……かわ?」



 夏菜が珍しく困惑している。

 ちなみに僕は三枝さんの言葉を肯定する。



「メイドっぽいナース服が可愛いけど、ガーターベルトで留めてるストッキングがえろいって言いたいんじゃない?」

「そうそう」



 それに今日は土足がオーケーとなっているから、上靴ではなくパンプスを履いているから余計にそう感じるのかもしれない。



「そう口にしたってことは先輩もそう思っているってことですよね」

「うん」

「……そうですか」



 見なくても照れている様子が声で伝わった。



「今ちょうど誰もいないから入っていいよ」

「客来ないの?」

「ううん。結構来てくれたんだけど、もう時間的に初日は終わりだからね」



 三枝さんが僕らを招き入れる。



「それじゃどうぞ」

「うん。ありがとう」



 ダンボールで出来た球体。入ってみると本当に真っ暗。

 懐中電灯を頼り横になるスペースまで進み、二人並んで寝転ぶ。

 どこからかヒーリング効果のありそうな音楽が流れると、綺麗な星空が上空に照らし出された。



「先輩寝ないでくださいね」

「……大丈夫」



 欠伸をしようとしたところで言われてしまい、無理やり閉じ込める。



「私、先輩のそこだけは信用してないので」



 彼女の唸る声が聞こえる。

 すると体温が近くに。

 暗闇の中、擬似的な星空でうっすらと見える彼女の姿。



「温かくて余計に眠りそうなんだけど」

「裏目に出ましたか」



 彼女の体温と匂い、吐息と僕を安心させるものばかり。



「お話しましょう」

「そうだね」

「星とか夜空とかの歌ってありますか?」

「いっぱいあるよ。面白いことにさ、洋楽でも邦楽でもラブソング多いんだよね」

「へぇ」

「どこの国でもどんな人でもロマンを感じるんだろうね」



 私達は空に輝くダイヤモンドのように美しいわとか、ただあなたの腕に抱かれていたいとか。



「星空に祝福されながら、感じるのはお互いの気持ちだけって感じなのかな。……あ、言わなくて良い。十分恥ずかしいと感じてるから」

「まだ何も言ってないですよ」



 暗闇でよかった。



「口に出してから気づくのが先輩って感じですけどね」

「そうっすか」

「そうっす」



 僕の口調を真似する。

 似ていない。

 なんだかただのスポーツ系後輩みたいな。

 ……元はそうか。



「いつか一緒に本物の星を見に行きたいですね」

「うん。冬になったらかな、澄んだ冬の星空は綺麗だろうね」

「少し天体について勉強しておきますね」

「解説してくれるの?」



 僕らのクラスが作ったプラネタリウムは解説がついていない。

 ただ季節ごとに流れて映し出される星空の映像をみているような物。



「勉強であれば先輩に負けることはありませんから」

「どれも勝てたことないんだけど」

「スポーツは私の力負けしそうですけどね」



 中学から一部は女性の身体として発育はよかったけど、今はそれだけじゃなく全体的に育っている。

 部活をやめてもう1年は経つ時期、少し筋張った脚も柔らかくなり女の子らしい。



「何かで勝負する?」

「嫌です」

「なんで……」

「勝ったままでいたいんですよ。そのほうが先輩の記憶にずっと残るじゃないですか」



 彼女はさらに近づき、僕の肩に頭を乗っける。



「勝ち逃げってこと?」

「戦略的撤退です」

「ずるいな」

「女の子ですから」



 その一言でなんでも片付いてしまいそう。

 本当にずるいな。


 疑似天体観測が終わるまで話すことは尽きない。

 どんな小さなことでも拾っては広げて、彼女が時には話題を方向転換する。

 たまらなく愛おしい時間も終わってしまえばあっという間。

 散々会話をしているのにまだ足りないなんて感じてしまう。



「終わっちゃいましたね」

「うん。スタンプ貰って、ライブの準備しないとね」

「はい」



 三枝さんにお礼を述べて教室を後にする。

 一度、部室に行ってから楽器を運び出さないといけない。

 同時に部員の5人が珍しく揃った。



「麗奈がこの部活の一員って感じしない」



 衣装を着て宣伝をさせられた恨みだろうか。

 嫌味っぽく言っていて、言葉に棘がある。

 楽器がない夏菜とドリンク類やタオルなどを用意して運んでくれている麗奈ちゃんが並んで先を歩く。

 その後ろに司と神楽先輩。

 司はベースを運んでいる。こいつ持ち運ぶのスティックだけだしな。

 最後尾に僕が。

 学校の行事で慣れてきたとはいえ僕は未だに集団行動は得意ではなく、こういった集まりではこのポジションがお気に入りで落ち着く。

 それを知ってか夏菜も麗奈ちゃんと楽しそうに話している。



「あんたの頼みで入ったんでしょうが」

「そうだけど」

「で、渉先輩の反応は?」



 聞こえるように言ってるんだろうな。



「残念ながらいつも通り、褒めてはくれたけど」



 聞こえるように言ってるんだろうな……。

 居た堪れなくなり聞き耳を立てることはやめて、黙って歩いて行く。

 舞台裏の控室。

 控室と言うと部屋のように思うかもしれないが、ただの天幕。

 折りたたみ式のテーブルにパイプ椅子がいくつかあるだけ。

 広さは確保出来ている。


 僕らの前。

 近代音楽愛好部の荷物が置かれているテーブルは避けて、隣のテーブルを陣取る。

 彼らはまだ演奏中でステージの音がこちらまで聞こえてきている。



「何が近代なんですか?」



 夏菜の質問に答えるのは神楽先輩。

 僕も何が近代なのかわかっていなかった。



「所謂アニソンとかボカロ系、後はゲームミュージックだよ」

「あ、このサビはわかります」



 僕も聞いたことがある。



「ボカロといっても、最近は動画投稿サイトなんかで歌ってみたとしてたくさんあるから君たちが聴いていてもおかしくない」

「「へぇ、そうなんだ」」



 僕と司がハモる。

 こういう時なんか妙に恥ずかしい。



「この男たち……」



 別に僕らが聞いたわけじゃない。

 演奏が終わりMCの声、そろそろ僕らの出番が近づく。



「私たちは注目されているわけじゃないから気軽にな。それにリハーサルようなものだと思ってくれ」



 事実その通りだ。

 民族音楽研究部。

 主に洋楽をメインに据えている。それに古い楽曲ばかりチョイスしているため、学生からの人気は低い。

 それよりも僕らの後に控えている軽音部に注目が集まる。

 男子だけで構成されているが、何故か全員の容姿が良い。

 演奏の良さは聴いてからの判断になるが。


 女性部員もいるのだけれど、彼女らは今の麗奈ちゃんのようにサポートに回っている。

 マネージャーみたいなものだろうか。



「柊君、そろそろ」

「了解」



 スケジュール進行を行っていた実行委員に声を掛けられる。

 麗奈ちゃんに水を預けてステージへと移動する。



「結構いるね」

「緊張しました?」

「いや全然」



 夏菜といることで視線を浴びることには慣れた。

 それに今回、僕は彼女に向けて演奏するつもりだ。だから他人は関係ない。


 アンプの出力の調整と適当なリフで指と腕の慣らし。

 神楽先輩も同様に重低音を響かせている。

 司はストレッチをしながら腕と身体を捻っていた。

 夏菜は特になにもしていない。


 ボーカルとコーラスがメインでキーボードは2曲のみ。アレンジするには時間が足りなかったらしい。

 完成された楽曲をアレンジするには素人には難しい。それでも合わせで聴いたものは、原曲を壊すことなく音の彩りを華やかにしていた。


 神楽先輩がMCをつとめ、部活と曲の紹介をしてくれる。

 凛とした声はマイクを通さずとも響き渡りそうな気がした。

 そしてそのまま舞台を盛り上げる一発目の曲が始まる。

 一曲目は想像通り皆知っているようで中々の盛り上がりを見せてくれた。腕を振ってくれる人もいて、この曲をチョイスして良かったと思えた。

 

 この流れのままで印象的なイントロを弾く、前に神楽先輩にオススメされた曲。

 欲を言えばもう一人ギターが欲しいが、そこはアレンジして夏菜が器用にキーボードを叩く。

 演奏しながら周りを見れるようになっている。彼女もこちらをちらりと横目で見てきて、お互いに目が合う。

 ただ間奏のギターソロ。

 僕の最大の見せ場でもある、ピックを弦に当たらないように仕舞い、指先で弦を擦る。

 そうすることでDJのスクラッチのような音が鳴る。



「ふぅ」



 流石に少しだけ緊張した。

 この楽曲だけは演奏法が独特するぎる。

 演奏が終わり、数分だけの休憩。

 麗奈ちゃんが持ってきてくれていた水を受け取り、喉を潤す。

 2曲しかまだやってないのに汗をかき始めていた。



「先輩、反応してあげたらどうです?」



 彼女の視線の先。

 三枝さんや岡本さんたち、他に最近知り合ったばかりの人たちが僕を見ていた。

 軽く手を振ると彼女らも返してくれる。



「先輩、知り合い増えましたね」

「そうだね」



 強制的にではあるが、悪い気はしない。



「でも女性ばっかりですね」

「……そうだね」



 男子生徒もいるにはいるが、多くはない。

 なんか少しだけ嫌われている気がするんだよね。

 同級生と上級生はまだしも、特に下級生には。



「先輩が他の人に認められるっていうのは私も鼻が高いですが少し複雑ですね」

「まぁ僕は夏菜だけに見てもらえればいいんだけどね」

「それって……」



 高揚しているから口が軽くなっている。

 いつも思ったことを口に出してしまう僕だけれど、言わないと決めていることもある。

 どんなに他人に認められようとも、1番認めてほしいのはやはり夏菜だけだ。



「もう休憩終わるよ、夏菜は次ボーカルでしょ」

「あ、はい。すぐ行きます」



 後ろ髪を引かれるように夏菜は神楽先輩と場所を変わる。

 3曲目と4曲は続けてしっとりとした曲調。

 夏菜の声にあった曲を選択。

 4曲目に関しては本来アコースティック。それをバンド風にアレンジ出来るところが神楽先輩のすごいところ。

 演奏することは努力で出来ることだけれど、編曲にはセンスがいる。

 僕には出来ない芸当。

 カレンの歌声は穏やかで癒されるが、夏菜の澄んだ声も聴いていて気持ちがいい。



「ラスト、先輩お願いしますね。私も楽しみにしていますので」



 また少しのインターバル。

 水を飲みながら、足元にあるエフェクターを踏んで確認を行う。



「練習の時に聴いたでしょ」

「何度聴いてもいいんですよ。それに――」



 艶のある笑顔。

 目を細めて、口は少しだけ口角があがっただけ。

 妙な色気がある。



「これ私のために歌ってますよね?」

「バレてるんだ」

「流石に先輩の好きなバンドの曲ぐらい網羅してますよ」

「なら精一杯歌うよ」

「はい。期待してます」



 ステージの1番前に立つ。

 前からの視線と後ろからの視線。

 どれも嫌な物じゃない。

 変わったのは僕だけじゃなく、僕を見る周り視線も。

 さらに高揚感が高まる。

 夏菜を一瞥だけして演奏に入った。


 彼女たちが盛り上げてくれて賑やかだった観客たち。

 僕が歌い初めてから徐々に静まっていく。

 気に入らなかったかもしれないが、これは神楽先輩にお願いして歌わせてもらっているようなモノ。それに観客ではなく彼女に歌っている。

 だから気にする必要はまったくない。

 目を閉じて、後ろの演奏を耳に、気持ちを込めて歌う。


 このバンドにはしては明るい曲。

 解釈は人にとって様々だ。

 対等でありたいって解釈は僕好み。それに遠回しな愛の告白のようにもとれる。

 僕らの中には暗黙のルールみたいなのが出来上がっていた。

 その1つに直接言わなければセーフ。

 だからこうして歌にする。


 3分にも満たない曲は静けさとともに終わった。

 瞼を開いて観客を見るものの、ぼーっとした表情で僕を見ている。

 特に女子生徒に多いように思える、男子たちは雰囲気に飲まれて黙っているといったような状況。

 困惑しているのは僕もだけれど。



「終わりです。次は軽音部が演奏しますので、暫くお待ち下さい」



 それだけを言って退場する。

 前の部活の演奏でも最後には見送る拍手があったのだけれど僕らにはない。やっぱり不評だったのだろうか。

 そんな疑問を憶えつつ控室に戻ると、疲れた身体をパイプ椅子に預けた。

 麗奈ちゃんが部員全員に新しい水とタオルを渡していく。サポートとしていてくれるのが本当にありがたい。

 皆も黙ったまま似たような光景になっているから、しばらくはこのままでいよう。

 ただ夏菜がこちらをずっと惚けた顔で見ているのが気になった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 回答ありがとうございました。 サブタイトル、これは題名かとは思ったのですが、完全ではなかったのでちょっとたどり着けませんでした。ニルヴァーナ、名前(とあのジャケット)ぐらいしか知りませんでし…
[一言] ラスト、具体的な曲の想定があるのでしょうか。 もしあるのでしたら、一度聞いてみたいものです。 拍手が出ないほどに、魅せてしまいましたかね。
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