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対戦

 考えると司と対戦するのは初めて、勝負事があっても味方側にいるのが彼だ。

 僕の考えた作戦なんかも二つ返事で了承し、言葉がなくとも伝わる間柄でもある。僕にとって頼れる味方。

 その彼が本気でくる。いつものらりくらりと躱しているイメージが僕にはあるが、夏のあの日から彼も変わった。



「まぁ誰が相手でも勝負事になれば僕はいつも本気なんだけど」



 試合は3回行われるデスマッチ方式。

 順位ごとにポイントが割り振られ、その3回の総合点で勝者が決まる。


 ゲームだとかなら頭を狙いたくなるものだけれど、一発当てれば相手は退場でこちらも例外はない。なら胴体を狙うのが有利。

 狭いフィールドで人数が減るまでは比較的遭遇し易い構造だとも思う。

 派手には動かず地味めに動きつつ物音に注意を払う。つもりではいたのだけれど、文化祭の中で様々な音が響き足音程度ならかき消されてしまう。

 地面は芝生だから特に。

 ……掃除大変そうだな。


 開始のブザーの音が響く。

 一戦目は様子見をしようと考えた。

 相手の動きと考えをこの試合で覚える。


 運がいいのか悪いのか、開始数分経っても誰にも遭遇しない。

 角待ちをしているのかとクリアリングは丁寧に。敵が表れそうな角や曲路には銃口を先に向けて進む。


 僕らの試合の前。

 あまり声が聞こえず静かに進行しているなと思ったけれど、緊張するし集中力が必要。

 いつ敵が飛び出してくるとわからないからなおさら。


 歩き回っていると外周のほうが見通し良いことに気づいた。

 ただ曲がり角が少ない分、遮蔽に使える物も少ない。遭遇すれば倒すか倒されるかの二択だけ。けれど僕は不意打ちを嫌って外周を進んだ。


 角を曲がったところで人影が見えた。

 相手は僕に気づいておらず、前方や横には注意を払っているけれど背後はがら空き。

 ならやることを1つ。

 丁寧に狙いを定めて撃つだけ。



「ヒット」



 撃たれたことに気付かず進まれたらどうしようかと思ったが、案外衝撃は伝わるようだ。

 声は掛けずに僕はまた進む。

 相手はそのまま場外へ抜けて行った。


 ヒットコールが遠くからもうっすらと聞こえる。

 二人が抜けた。

 残り僕を含めて4人。


 狭いエリアなのに遭遇しないと考えると、みんな似たような方向へと進んでいると推測出来る。

 ターンして逆方向を歩くことにした。

 司あたりも気付いてそう。

 と、早々に下級生に遭遇。


 お互い向かい合ったままだったけれど、常に銃口を向けて歩いていた僕のほうが早く狙い撃てた。何度かトリガーを引く、曲がり角以外は遮蔽物にならないとわかっている。

 だけれど、念のために壁に張り付き弾除けを試みる。

 相打ちだけは避けたい。

 目指すは優勝。

 夏菜には負けるけど、彼女以外に負けるつもりもない。



「ヒット」



 残るは3人。

 これまでわかったのは、皆慎重に動いていることと右回りに動きがち。

 足音を立てながら動いてもバレるかどうかこの段階で知りたいと考え、軽く走りながら索敵を行う。

 止まっている敵より動いている敵のほうが断然当てづらいこともあるだろう。



「ばれなさそう」



 わざとらしくかなり音を立てるように動いてもなんの反応もない。

 背後からつけているということもなさそう。



「ヒット」



 また遠くからのコール。

 残るは一人。

 早く遭遇できればいいんだけど。

 1on1は流石に慎重に動くべきか考えながら歩く。

 喧騒はずっと聞こえるから走っても問題ないだろうけど。

 いや、手は隠しておくべきかな。


 少し進んで曲がり角。

 遠くにつま先が見えた。

 相手も気づいたようで、壁を遮蔽に引っ込んだ。

 見覚えのある靴。生き残ってくれた。


 この状況だと先に出たほうが不利じゃないかな。

 顔だけで覗いてみる。

 目が合った。

 すかさずお互いに数回発砲してみるが当たるわけがない。

 威嚇程度に撃ち合いを行うが先に弾が切れてしまった。


 リロードをしようと素早くマガジンを取り出すが、一気に駆け出してきていた司に距離を詰められる。僕も引いて距離を取ったけれど、意味はなく射線に入っている。

 苦し紛れに銃でうっすらと見える弾を弾いてみるが。



「これってどうなる?」

「お前がすごいのはわかったけど、ルール上ヒットだよ」

「やっぱ駄目か」



 一回戦目の勝利は司となる。



 ※



「なんとなくそんな気はしてたんだけどね」

「俺も」



 薄い板を隔てて近い距離に僕と司の二人。

 先に飛び出して撃つ。

 声で位置は特定出来ている。

 決め打ち。



「ヒット」



 運良く僕に向けた放たれた弾は脇をすり抜けていった。

 後から当たった場合は流石に僕の勝ちだろうけど。



「同点だね」

「お前案外血の気が多いな。飛び込んでくるとか思わなかった」

「そうかな」

「次は俺がもらう」



 会話は短く、お互いに弾を補充してすぐに持ち場に戻った。

 現在同点。次で決まる。

 他の参加者たちも1位を狙うのは難しい、けれど油断は出来ない。

 僕らのように勝ちを狙ってきているわけではないだろうが、倒すことを目的に遊んでいる。チャンスがあれば撃ってくる。


 次の試合までの3分間のインターバル。

 3回戦目はどうなるだろうか。

 スポーツをしてきた人はともかく、慣れない対人戦で今までの慎重な行動をいきなり変えてくるとは思いづらい。けれど先程の試合は僕が走り込んで一気に削ってしまったから警戒はされるだろう。

 ならば次に僕が取る作戦は守り。

 2回も同じ場所で試合を行ったのだ、完全とはいえないがマップも覚えている。

 逃げれて、視界の通る場所。

 適当というわけでもないが素人の作ったマップ。有利な場所が複数あってもおかしくはない。


 僕の待機場所からも夏菜たちの姿が見える。

 遠くからでは表情はわからないが、目が合っていることはわかる。



「あ」



 手を振ろうとしてやめる。

 僕が見えるということは司も見えるということ。アクションを起こしてしまえば方角がわかる。

 自惚れかもしれないが、夏菜は僕を見るだろう。

 けれど夏菜の隣には神楽先輩がいる。きっとその視線の先には司がいる。

 気づいているのだろうか。


 自分の目を指で示すと次に夏菜を。神楽先輩へとなぞり彼女の視線の先。

 こくりと頷く姿が見えて神楽先輩と話を始めた。

 どうやら伝わったようだ。


 3分が経った。

 ブザーの音と共に移動を開始。

 警戒は怠らない。

 目的の場所にたどり着いた。

 一見行き止まりに見えて一方的に撃たれるような場所だけれど、隣の板は下半身までしかなく軽々と飛び越えることが出来る。

 この場所から一方を見るだけで済む。


 フェアに戦ってきたけれど、これは少しずるい作戦だなーって自分でも思う。チームデスマッチならまだ良いかもしれないけれど、デスマッチでは勝ちに拘りすぎた立ち回り。

 実況があれば非難殺到かもしれない。


 作戦はハマってしまい、僕の視界の先。

 10メートルといったところだろうか、人の足が見えると同時に撃つだけ。

 これだけで二人を仕留めてしまった。

 残り4人。


 ここでずっと待っているだけ人が減っていく。

 同じ場所で二人も消えたのだから司に警戒されていてもおかしくはない。

 場所を変えるが、やることは一緒。

 ただ今回は有利には見えないポジションではある。

 けれど。



「ヒット」



 これで3人。

 板の作りが荒く、相手の移動する足が見える場所がある。

 雰囲気を出すために壊れそうな板を用意したのだと考えるが置く場所が悪い。

 その板は僕から遠くにあり下の部分が視認出来るのだ。

 相手が曲がってくることがわかれば、一方的。


 僕が倒してから間もなくもう一人参加者が脱落。

 最後に残るはきっと司。

 マガジンを交換して歩き出す。


 運がいい。

 司の後ろ姿を視認した。

 ゆっくりと近づく。



「悪いね俺の勝ちだ」



 その言葉ともに司が振り返り射撃してくる。



「殺気とか僕出てた?」



 そんなわけないよね。

 出せるとも思えないし、感じるほうもどうかしている。

 横に飛び退く。

 迷路のような通路。

 場所を選んで発射しなきゃ避けれる。

 音速の本物とは違い視認出来る弾道だ。



「出てはないけど、よく避けれたな」

「まぁ、日頃の行いかな」



 嘘ではない。

 中学時代、ずっと強敵と戦ってきたのだ。

 相手の動く瞬間に注意を払ってきた。

 フェイトもなくこちらを振り向くだけならわかって当然。

 勝った気で格好をつけているから予備動作が大きい。



「ちなみに司さ」

「ん?」

「そっから動かないと負けるよ」

「なに言ってんだ」



 銃口を構え見ない司を撃つ。



「いいから出てこいよ、渉」



 雨が屋根を打つような軽い音。

 弾が板に命中している。

 精度的に自信がないから、すべて撃ち尽くす。

 マガジンを交換して更に続ける。



「は?」



 司の驚く声。

 当たったかな?



「僕の勝ちかな」

「跳弾狙ってくるとか……」



 最初から考えていた。

 狭い通路だし。

 実銃じゃどうかしらないけれど、BB弾なんてよく跳ねる。

 勝利の余韻も歓喜もなく試合は終わる。



 ※



「先輩大人げないですよ」

「やっぱり? 途中からやり過ぎかなって思ってたんだよ」

「それでも勝ちに拘るのは先輩らしいですけど」

「楽しくなっちゃうんだよね」

「いいと思いますよ。楽しそうな先輩見ているとこっちまで嬉しくなりますから」

「そっか」



 なんともむず痒い。



「山辺さんも大人気なかったんですけどね」

「司が?」



 僕から見れば同世代で1番大人っぽいと思っていた。



「何度か山辺さんが私のことを見たんですけど」

「あぁ、道理で」



 急に振り返ったのはそういことね。

 


「夏菜なら」

「気づいてましたけど、私は先輩を見たかったので」

「僕、不利じゃない?」



 こういう戦いでの位置バレはきつい。

 ルール違反ではないし、抜け道みたいなもんだ。



「先輩が勝つと思っていましたので」

「そっか」



 少し遅れて司が神楽先輩と合流。



「よくやったな司」

「どうせなら勝った姿を雅に見せたかった」

「十分すごかったぞ」



 向かい合い両手を繋ぐ。

 二人きりの世界。僕らは見えてなさそうだ。



「惚れ直した?」

「あぁ」

「ならいいか」



 冗談気味に司がそういうと、神楽先輩は本心で言っていると伝わる笑顔で返した。

 僕らとの挨拶もほどほどにどこかに消えていってしまった。

 幸せそうでなにより。



「良かったんですか? 山辺さんの不正を伝えなくて」

「不正って……。まぁ、いいんじゃない? 結果として僕が勝ったわけだし。あの二人の仲が更に深まったのなら、なんも悪いことはないよ」

「そういうところは大人ですね」

「能天気なだけだよ」

「そういうことにしてあげます」



 嬉しそうにくすくすと笑う。

 僕が勝てたのは夏菜と過ごした日々のおかげでもある。勝利の女神なんて言葉にすると安っぽいが、勝利へと導く存在。

 勝てない相手で勝ちたい存在。



「でも、勝ったんだけどなんか釈然としないよね。司たちを見ると」

「雰囲気的にはそうですね」

「勝ちは勝ちだからいいんだけどねぇ」

「折角勝ったのでご褒美あげますよ」

「何くれるの?」



 体育祭の時は膝枕だった。

 悪戯として耳を甘噛されたっけ。

 切っ掛け1つで思い出す。けれど今の今まで忘れていたことに驚いた。

 衝撃的というよりは嫌悪的な感情だった筈。

 塗り替えられた。



「目を閉じてください」

「え? あ、うん」



 キスでもしてきそうな言い方。

 口にしてこないのはわかる。慣れている首だろうか。

 意識がそちらに向く。

 言われるがままに目を閉じた。



「んっ」



 声だけ。

 なんの感触もない。



「先輩……。しゃがんでもらえますか」

「届かないのか」



 夏菜は平均よりやや低いと言っているが、僕は平均よりやや高いぐらい。

 彼女との身長差20センチ程度。

 背伸びすれば届かない距離ではない。

 こっちも言われた通りにしゃがんでみる。



「……んっ」



 バニラの香りとともにおでこに柔らかい感触。



「目を開けてもいいですよ」



 こんなことをしてきた本人は平然としており澄ました顔をしている。

 最初から狙っていたよう。



「夏菜からやってくるなんてね」

「このぐらいであれば先輩も平気かな、と」

「平気だけどさ。よくわかったね」

「子供だましみたいな口づけです。大人ならやらないと考えたんですけど」



 舌を絡めて唾液を交換するのが彼らの日常だったからやらなかったのは確かにそう。けれど、耳を甘噛するような悪戯心も持ち合わせていた。



「もしハズレでも私が傍にいるのであれば対処も出来るので」

「どっちでもよかったわけね」

「はい」



 悪びれる様子もない。



「唇にしなかったのは?」



 煽るように口に出してみる。



「自分からやるのは負けな気がして」

「こっちはいいのに?」



 おでこを指す。



「首にやるのと代わりませんよ。コミュニケーションの範疇です」

「ま、そうなんだけどね」



 僕らにとってはだけど。

 人通りは多くないものの、数人の生徒には見られている。



「最近先輩がお願いしてくれることも減りましたし」

「忙しかったし、あんまり会えなかったから」

「それもあるんでしょうけど、この先は恋人がすることだと思ってお願いしてないだけですよね?」

「そこまで気づいてるんだ」

「どれだけ一緒にいると思ってるんですか。先輩が考えそうなことぐらいわかりますよ」



 隠すつもりはなかったけれど、バレているなら頷いて答える。



「私は先輩が望むのであれば応じてましたけど」

「流石にね」



 限度なく応えてくれるであろうこともわかっている。

 だからこそ甘え過ぎは良くない。



「であれば、この先は先輩が負けを認めたらですね」

「あはは……」



 笑って誤魔化しておく。



「チェックです。私の勝ちが近いですね」



 チェックメイトとは言わなかった。

 彼女は僕にまだ選択の余地があるということを内心感じている。

 いつも自信に満ちている彼女、でも恋愛においては僕の先を歩いているだけ。強者ではあるが勝者ではない。

 勝者は市ノ瀬夫妻みたいな存在。

 敗者はうちの父親だろうか。



「足元掬われないようにね」

「どうでしょう。先輩に手は残ってないようにも思いますが」

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