学校の楽園
夏菜の作った弁当を食べるために、彼女を連れて階段を登る。
少し錆びた扉が甲高い音を立てる。
そして広がるのは空。
風も匂いを運んでくれる。
土と花の香り。
「へぇ。……すごいですね」
感嘆の声。
僕が彼女を連れてきたのは屋上だった。
「うちの園芸部が頑張ってる結果だね」
まるで屋上とは思えないほどの景色。
レンガで作られた花壇は季節に合わせた花々。
ウッドデッキなども作られていて、ベンチにテーブルなんども置かれている。
どうぞ休んでくださいと言うように。
普段のお昼休みには学園のカップルだらけで訪れる機会は少ないが、今日のような特殊な状況ならば数得るほどしかない。
「先輩もよく来るんですか」
「いや、僕は来ないよ」
「勿体ないですね」
「夏菜と一緒なら僕でも来れるんだろうけどね」
「?」
「まぁ、今度通常のスケジュールの時に来てみるといいよ」
一つのベンチに二人で腰を落とす。
いつもリュックから彼女はお弁当を取り出す。
僕のは青い大きなハンカチに包まれて、夏菜のは黄色。
受け取ってテーブルに広げる。
中学時代、賭けに負けてしまったけれど、一度夏菜に作ってもらったことを思い出していた。
その時よりも卵焼きは綺麗な色をしていて、彼女の上達具合を示していた。
肉に野菜とバランスも考慮されていて、彩り良い。
「先輩、食べないんですか?」
「あぁ、うん。よく出来てたものだから感動してた」
「……食べてくださいよ、そのために作ったんですから」
「それもそうだ。それじゃ頂きます」
「はい」
自分の好きなものから食べる性分で、からあげを真っ先につまむ。
冷めていてもカリッとしていて、とてもジューシー。
「どうですかって聞かなくても良さそうですね」
「美味しいよ。毎日でも食べたいくらい」
「毎日は流石に飽きると思いますが」
「僕、結構偏食だからね。一週間からあげでも生きていける」
「……普段ちゃんと食べてますか?」
「食べてるつもりだけど」
夏菜の家に泊まらない日はちゃんと自炊している。
面倒くさい日は惣菜や弁当屋で買ったりもするけど。
カレーとかも大量に作っておけば、3日4日はずっとカレーで生活できる。
そのことを夏菜に伝えると、半眼で睨まれる。
「ちゃんと食べてるうちに入りませんよ」
「生きていけるし」
「……」
「無言で睨まないで」
わりと本気で怒っている。
どうやって機嫌を取ろうか。
考えながらも箸をすすめる。
思いつくこともなく、弁当が空になってしまった。
「ごちそうさま」
「……お粗末様でした」
「まだ怒ってる?」
「いえ、どうしてやろうかと考えているだけです」
「物騒なんだけど」
元あったように弁当を綺麗に片付ける。
買っておいたお茶で喉を潤す。
夏菜の弁当は僕の物より小さいが、まだ彼女は食べている最中。
黙って空を見上げながら待つ。
青い空に白い線。
満腹になったうえに春の陽気にあてられ、眠気に襲われる。
仮眠とったのになぁ。
「眠そうですね」
「うん」
「お腹が膨れて眠くなるって、まるで子供みたい」
「暖かいし」
とろけた頭では、なんとか返事するのも精一杯。
「もう暫く掛かるので、少し眠ってもいいですよ」
「いいの?」
「はい」
僕の物言いに、くすくすと笑いながら夏菜は少しスペースを空けてくれる。
彼女の優しさに甘えて横になる。
「30分経ったら起こしますので」
「うん」
「おやすみなさい」
「ありがと」
意識を無くすのに時間は掛からす、安心感のようなものを憶えたまま眠る。
※
「起きてください」
身体が揺れると、ふわりと甘い匂い。
いつも傍で漂う香り。
「ん」
「ぐっすり眠ってましたね」
「うん」
目覚めはスッキリしたもので、気分がいい。
深く眠ったお陰か昨夜の寝不足が嘘のように解消された。
「結構寝てた?」
辺りを見回してもあまり変化はなく、テーブルの上のお弁当だけが綺麗に片付けられているだけ。
「きっちり30分しか経ってないです」
「いたずらとかしてない?」
「どうでしょう」
「やめて、その意味ありげな顔」
自分の顔をぺたぺたと触りながら確かめてみるもの、特に違和感はない。
何かされたからといって怒るわけじゃないけど。
流石に落書きされていたら困る。
「鏡ある?」
「先輩、素直ですよね。冗談ですから安心してください」
そう言いながらもしっかりとコンパクトミラーを出してくれる。
確認してみるがおかしな点は見当たらず、目の下の隈もいつの間にか薄れている。
お礼を言って鏡を返す。
「そろそろどこか行こうか」
「ここでまったりするのも悪くないですけどね」
「いつでも来れるさ」
「また一緒に機会も一杯ありますしね」
少し名残惜しそうにしながらも、リュックを手に夏菜も立ち上がる。




