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実行委員のお仕事

 始業式から数日たったある日。

 朝のHRで実行員は放課後、視聴覚室に集まるようにと達しがあった。

 4限目まで通常の授業を乗り切り、クラスの準備を手伝う。

 内装決めと必要な物の洗い出しである。

 これに関しては僕らの出番はなく、担任出す議事録のようなものを纏めているだけ。


 そして放課後、三枝さんと共に移動。

 各学年、各クラスの代表が集まり自由に座って待機している。スクリーンの前にはホワイトボードが置かれており、その手前の席には生徒会と思わしき生徒たちの姿。


 告知通りの時間が訪れると、生徒会が印刷されたプリントを前列に渡し後ろへと流れていく。書かれているのは実行員の役割と今後決める課題について。

 仕事は本番の見回りと後夜祭の準備。クラスの出し物の確認。予算の振り分けは生徒会がメインで行うがその補佐として実行委員がつく。

 案外多岐に渡り、ここまで仕事量があるのかと驚くほどだ。

 議事録なんかも実行員の仕事として割り当てられていた。

 自分の運の無さに悲しくなる。


 課題とは実行員の企画と今年の文化祭のスローガン決め。

 正直なんでもいい。

 書かれていることを生徒会が改めて補足を加えて丁寧に説明してくれた。


 今年の生徒会の企画。

 恒例になっていたミスコンの中止。及び、新たな企画として梅ヶ丘高校のベストカップルを決めるというもの。

 なんだそれと思ったが。



「そこに話題の2年生がいるからわかるだろう」



 頬杖をついてプリントを眺めていた僕に視線が集まる。



「君たちを見ていて思いついたものだ」



 一度みたら夏菜の事を忘れないだろうが、僕はそのオマケという認識だった。

 結構前の話なのにみんな案外覚えているものだな。



「ミスコンとミスターコンをやっていたが、2つやるより1つに纏めてしまったほうが管理しやすい上に時間短縮にもなる。余った予算は優勝者の景品とクラスの催しにという予定だ」



 この話はあとで実行委員を通じてクラスに伝えることになった。

 自薦他薦問わず参加者募集。

 実際に付き合っていない男女でも参加可能。



「さて、これは生徒会の企画になるわけだが、実行委員は実行委員で決めなければならない。被ってしまわないように先に生徒会のものを伝えたわけだが」



 と、生徒会長が長々と語るのだが。

 辺りは沈黙。

 そんなぱっとは思いつかない。



「あのー」



 横にいた三枝さんが挙手して立ち上がる。

 勇気があるな。



「何かな?」

「先にスローガンを決めてから、それに沿った出し物を考えたほうが絞れて良いのでは?」



 確かに。

 僕以外の面々も頷く。

 またなぜか僕に視線が集まるわけだが。

 何も思いついてないぞ。



「恋愛……とか?」



 誰かが呟く。

 生徒会の出し物も恋愛に関したものだ。

 だからか誰かの思い付きの呟きでも賛同者が表れはじめ、あっさりと決まってしまった。


 ジャンルが決まったところで出し物が決まることはなく難航。

 ただ指標のないまま考えるよりはマシという気持ちが、負担を軽くさせている。

 相談の声も聞こえるが、比較的静かな部屋。空調の音が響く。


 先程から色々と説明してくれていた彼。

 生徒会長が僕の元へと歩いてくると意見を求めてきた。



「なんで僕に?」

「この中だと明確に恋人がいるのは君だろう」



 そういうことにはなる。

 僕も彼女も否定しなかった結果。



「そもそもカップルに絞るから難しくなるんじゃないですかね」



 恋愛というからには男女であり恋人を連想する。



「これから恋人になる人たちってのもありだと思います」



 自分にも言えること。



「もしくは生徒に無作為に番号振って、同じ番号同士を見つけてミッションを受けさせてって感じとか? もしうまく行けば生徒会の催しにも誘導出来るかもしれないですし」



 口に出すとアイディアが浮かんでいく。

 夏菜と馬鹿な勝負も含めて色々と考えている事が経験として生きているのかもしれない。



「ふむ」



 生徒会長は頷くように悩む。



「番号だけだと弱いかもしれないので、目立つ何かを身に着けてもらうとか」



 番号の書かれたプレートのような物か、腕章みたいな物。



「ミッションはどうする? 人員はそこにも割かなくてならなくなるが?」

「そうですね」



 出来れば僕もそんなことをしたくはない。

 なんなら動きたくない。



「クラスの催しを巡ってもらうとかですかね。スタンプラリー方式とかどうっすか? 僕のクラスはプラネタリウムもやっているんですが、そこに訪れてもらって二人で見てもらう。それならスタンプを置くだけです済みます」

「あとは賞品というところか」

「そうっすね。その辺は予算とかもあるでしょうし、完全にお任せするしかないですけど」

「他に想定すべきは」

「必要あるかどうか知りませんけど、サクラを仕込むことぐらいじゃないですか」



 怪訝な目を向けられてしまった。



「自分以外もやっているっていう安心感みたいなの必要と思っただけですよ」

「確かに……」



 知らない男女が一緒に歩くことにもなる。

 抜け道として番号などを交換することだけれど、それでも自分以外も参加しているという事実にハードルは下がるのではないかと。


 というかだ。

 散々話しているのだけれど、本決まりみたいな雰囲気はなんだ。

 隣にいる三枝さんどころか視聴覚室にいる生徒がしっかりと聞いている。



「わかった。あとは会議を重ねて煮詰めよう」

「え、これで行くんですか?」

「そうだが?」

「多数決とかは?」

「必要ないと思うが」



 全員が頷く。

 さっさと決まって楽だという気持ちもあるのだろうが。



「いいんですけどね」

「統括として君と俺がやることになる。お願いするね」

「……なんで?」

「君の案だ、君が纏めないでどうする」

「わかりました」



 今年の文化祭は無駄に忙しくなりそう。

 不幸中の幸い。

 男女ペアで脱出ゲームなども考えていたのだけれど、口に出さなくて済んだ。

 言っていたらゲームの問題なんかも考える羽目になっただろう。



 ※



 会議も終わり一人で帰宅する。

 彼女はバイトで今日はいない。

 夏休みが終わった今男女でシフトに入る必要性もなくなり、彼女と同じ出勤はあまりない。それに、文化祭のことで忙しくなることが確定。あとで春人さんともシフトの調整をお願いすることになる。

 想定よりも早く終わったとはいえ、家路を一人で歩くというのは久しぶり。

 たまには悪くはないと思うが、僅かな寂しさも感じる。

 それは自宅についても同じ。

 つまらないことで話しは絶えないし、黙っていても隣にいる安心感。

 一人で摂る食事も侘しい。

 何より。



「僕の料理ってこんなもんだっけ」



 人よりは作れる自信はあった。

 美味しいは美味しいが、味気がない。

 1ヶ月以上、夏菜の手料理を食べてきていたのだ舌が肥えていてもおかしくはない、か。

 手早く夕食を摂り、食器も片付けるとシャワーを浴びて自室。


 気晴らしに少しだけボリュームを出して練習。

 ついでに別に曲も弾いてみる。

 世の中に溢れるラブソング。それに加えて失恋ソング。

 調べてみれば調べるほど出てくる。

 日本の歌詞。

 今になって意味を理解して共感すら憶えてしまう。


 披露することはないが、僕の知らなかった分野でちょっと楽しくなった。

 冷静なうちにボリュームを絞り、ヘッドホンのジャックを差す。

 次々に覚えていく音の流れ。

 身に染み込んで血肉になるような感覚。


 彼女がいないことで覚える寂しさと、彼女がいることで得られなかった高揚感。

 どちらが良いか悪いかなんてない。

 バランスが大事。

 でもそのバランサーでありストッパーである夏菜がいない。


 不甲斐ないことに徹夜をしてしまった。

 気づけば部屋の電気が必要ないほど明るくなっており、時刻は7時。

 スマホにも着信のランプが点滅している。



「やっば……」



 僕にメッセージを送ってくるなんて数人しかいない。

 昨日の夜に送られている。

 内容は最寄りの駅から一緒に登校する誘い。

 彼女と一緒に登校する場合、早めに出ないと満員電車に当たる。小柄な方である彼女は押しつぶされてしまうことになる。

 身なりを余り整える時間がなく、制服に素早く着替えてそのまま家を出た。



「ごめん、ほんとごめん」



 顔を見るなり謝罪する。

 10分以上の遅刻。



「既読がつくのが遅かったので大丈夫と、言いたかったのですが」



 夏菜が手を伸ばし、僕の目元を撫でる。

 冷たくて気持ちが良く、目を細めてしまう。



「私の言いたいことわかりますよね?」

「はい。すんません」

「先輩は馬鹿なんですから気をつけてくださいね。また高熱出して、辛いのは先輩ですよ」

「その通りです。クズにボケにロクでなし、オマケに出来損ないも付け足してください」

「久しぶりに聞きましたね先輩のその台詞。バージョンアップしてますし……」



 呆れ顔である。

 口に出さなくてもわかる。

『まったくしょうがない人ですね』と、言っている。彼女ならば、『私がいないと駄目なんですから』とも付け加えそうだ。

 今までは一人だったから、という言い訳はもう通用しない。



「こうしてても仕方ないですから行きましょうか」

「うん」

「私に寄りかかってでもいいので少しの間寝てください」

「ありがとう」



 言葉に甘えよう。

 いつかは断った事だったけれど、今は夏菜に甘えることも出来る。

 甘えてもいいのだと教えてくれた。

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