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秋めく

「学校行くのだるいな」

「わからなくもないですが」



 二人腕を組んで坂道を登る。

 僕らにとっては日常。

 けれど周りはそうではないようで視線を浴びる。

 いつかもこんな風に見られたけれど、昔に比べて気にならなくなった。

 あるのはほんの少しの気恥ずかしさと隣に夏菜がいるという誇らしさ。

 彼女はそもそも見られることに慣れているからこそ堂々としている。


 坂道の先。

 学校の校舎の更に先の空。

 濃い青は薄まり、少し遠くに感じる。

 日差しはまだ暑く汗ばむものの、吹き抜ける風は冷たく気持ちがいい。

 ススキなんかも多く見られる。

 秋が迫ってきている。



「今日始業式だけですよね。一緒に帰りませんか?」

「?」

「……えっ。もしかして嫌でしたか」

「違う違う」



 不安というよりは驚きか。

 まさか断られるとは思っていなかったと思える。



「10月になったら文化祭だろ?」

「はい」

「だからクラスの出し物を始業式の後に決めるんだよ。だから帰りはクラス次第ってところだよ」

「あぁ、そういうことですか」



 安堵の声。



「そういう訳だからいつ帰れるかわからないんだよね。真面目な生徒が集まると」

「先輩は去年、休憩所でしたよね」

「朝のHRで事前に打ち合わせてたから一瞬で帰れたし、文化祭の準備もなくて楽だったな」



 明日からの授業は4限目で終わり、昼休みの後は準備に当てたられる。故に去年は当日まで準備もなく椅子を並べるだけ。



「今年もそうならすぐに帰れるんだけど」

「先輩が提案したわけじゃなかったんですね」

「僕をなんだと思ってるわけさ」

「ものぐさだと思ってます」

「……返す言葉もない」



 HRでも改めて教師から伝達はあるだろうが、僕からも夏菜に授業スケジュールを含めてこの学校の文化祭について教える。

 本番は金・土・日の3日間行われる。

 金曜日は学生だけのお祭りだが、土日は学外からもたくさんの客が訪れることになる。

 ちなみに僕のライブは金曜日と日曜の両方あり同じリスト。ある意味金曜日はリハーサルのような意味も含まれる。

 3日違う物を出すクラスや部活動もあるが稀だ。


 あとは生徒会の企画がなんかもあるが、ずっとミスコンをやってたような気がする。

 昨今の流れ男女両方。

 僕は興味がなくて見てなかった。

 女子の去年の優勝者は神楽先輩だったらしいので、ちょっと見ておけばよかったとは思っている。身近な人が、例え学校の出し物でも優勝だと聞くと誇らしい。


 生徒会と別に実行委員会もあるのだけれど、何をやっていたのかは僕は知らない。



「9月は3年の修学旅行もあるから、僕ら球技大会になるんだけどね」



 これは多分、年間スケジュールに書いてある筈。

 オマケに顧問がいなくなる部活は休み。

 去年通りならバスケ・サッカー・バレー・テニスの4種目。

 これもどれに出るかは今日のHRで決まる。



「この学校イベント事多いですね」

「そうだね。クリスマスなんかも地域との交流を兼ねてパーティなんかもやるらしいよ」



 話を文化祭に戻し、説明を終えた頃には向かう教室が違うために別れことになる。

 忘れていたけれど年下なんだよな。

 いつも先輩と呼ばれているけれど、先輩らしいこともしてないし、精神年齢だけならば彼女ほうが年上のような。



「先輩、終わりましたら連絡入れますので時間が合えば一緒に帰りましょう」



 腕から温もりが抜けていく。



「わかった」

「ちゃんとスマホ確認してくださいね」

「うん」

「絶対ですからね」



 スマホ見る習慣があまりないから、メッセージを頻繁に確認し忘れることがある。

 1番やらかしたのは一週間以上返信しなかったこと。

 流石の彼女でも流石に怒った。


 小さく手を振り見送る。

 階段を登っていく後ろ姿、他の女子生徒と比べると決して短くはないスカートの丈。

 見えそう……。

 他の男子生徒も彼女を目で追っているが、僕が彼らを見ているとそれに気付き足早に去っていく。

 見てほしいとは思わないが、見たところで怒る権利は僕にはない。

 まぁ彼女が嫌がっているならば話は別だけど。

 ここにいても僕も意味はないし、自分の教室に向かった。


 1ヶ月ぶりの教室。

 休みに入るよりも騒がしく、男子は日に焼けた者たちが多かった。

 女子に関しては良くわからない。

 変わったような変わってないような。

 髪を染めて明確に変わっている子は少数派だった。



「そんなにじろじろ女子みてると市ノ瀬ちゃんに怒られるぞ」

「司おはよう」

「うっす」



 やや眠たげに話しかけてきた。



「どうだろう。夏菜はこんなことで怒るかな」

「俺は市ノ瀬ちゃんじゃないからな」

「でも、そうだね。ありがとう」



 違う人同士が一緒にいるだ、僕が些細なことだと思っていることでも彼女にとっては重要なことだってあるだろう。

 知った気になって気にかけないというのはいけない。



「真面目だなぁ」

「それが取り柄かもね」

「……」

「どうしたの? 呆けた顔して」

「いや、また少し見ないうちに男らしくなったなって」

「変な事言うね」



 照れてしまう。

 夏菜の言葉に翻弄されること頻繁にあるが、まさか司まで。



「ってか、せっかくヘアワックス使えるように教えたのにつけてないのか」

「あー。あれね」



 出かける度に使うようにしていたら、慣れてきたものの。

 今朝も顔を洗って歯を磨いたあとに髪をセットしようとしたのだが、合宿で学校につけていくことは彼女が禁止していたことを思い出して辞めた。

 冗談の範疇かもしれないのだけれど。


 神楽先輩とどうなっただの、僕と夏菜の進展はどこまでいったのかという、高校生らしい会話が続く。

 それも予鈴で中断することになったのだが。

 司たちは順調のようで安心した。

 また4人でどこか行きたいねって言う話も出ていた。

 それについては僕も同意。


 始業式は滞りなくおわり、HRが始まる。

 議題はもちろん文化祭でのクラスの出し物。担任の教師はすぐに教室の端に捌けると、栗毛色の髪の女子生徒が立ち上がり教師と入れ替わる。ジョンレノンのような丸メガネがこちらを向く。

 クラスの委員長である三枝さんが仕切る。

 丸メガネを掛けているが野暮ったいという感じはなく、前髪は羽のように外ハネしていて柔らかい雰囲気。清楚で可憐そして真面目という言葉が似合う生徒。



「クラスの出し物を決める前に、実行委員会に入ってくれる人から決めます」



 巻き起こるブーイング。

 誰もめんどくさいことをやりたくないのは当たり前。ご多分に洩れず僕もやりたくない。

 頬杖をついて外を眺めて不参加を意思を表す。



「まぁそうですね。立候補してくれる人いないですよね」



 最初から予想出来ていたようで顔色は変わらない。

 そして最初から準備していたようで教卓の下から箱を取り出した。

 上部は丸くくり抜かれていて、どう見てもくじ引き。



「これなら公平ですよね。ちなみに、女子は私が努めるので男子だけですけど」



 喜ぶ女子と項垂れる男子たち。

 三枝さんは箱を持ち上げてクラス中を歩き回る。



「はい、柊くん」

「どうも」



 小さく折りたたまれた紙を一枚無造作に取り出す。



「赤い丸だと実行委員です。無印だと当たりですね」



 男子はだいたい半分引き終わり、未だに実行委員が出ていないところをみるとそろそろ出てもおかしくない割合。

 なんだか嫌な予感がしつつも紙を開く。



「はい、お疲れ様でした。柊くんよろしくお願いしますね」

「……うっす」



 嫌な予感というものは何故だか当たるもの。

 僕の落胆と比例するように他の男子たちは喜ぶ。



「良かったです。柊くんなら私も余計な手間が掛からなさそうです」

「僕も真面目な方じゃないけどね」

「大丈夫です。柊くんは頼りになる男の子だって知ってますから」



 なんか信頼を勝ち取っている。

 三枝さんとは去年も同じクラスだったから、その時になにか僕がやったのだろうか。

 身に憶えがない。

 彼女は教卓に戻ると、今度は本命の出し物を決める議題に移る。

 実行委員になってしまったので僕も三枝さんの隣に立って手伝う。


 クジに使った紙を再利用しつつ、クラス全員に白紙を渡してやりたい物を書いてもらう。

 時間を開けて回収。

 無投票は許されず、僕も教卓で考える。

 何も思い浮かばない。

 特にやりたいこともないのだ。

 去年に習うか、休憩所と記入し箱に入れた。


 クラス中から用紙を回収し、一枚一枚確認しては黒板に書いていく。


 メイド喫茶。

 執事喫茶。

 プラネタリウム。

 縁日。

 お化け屋敷。

 ホストクラブ。

 ヒーローショー。

 ∨チューバー。

 休憩所。


 定番からよくわからないものまである。

 この中で1番多かったのは実を言うとホストクラブ。

 その次にメイド喫茶。


 一応どれも可能。

 いや、∨って何やるんだよ。

 この中から絞っていく。

 メイド喫茶にホストクラブ、プラネタリウムが残る。



「このプラネタリウムっていうのは市販だよね?」



 よく店で売っているような物を買ってそれをメインにして飾り付けつつ、星について語るのかと想いっていた。



「投影機はそうですが、ドームは自作ですね」

「ふーん」



 三枝さんが答えてくれる。

 どうやら彼女が出した案らしい。

 この3つの中なら僕はプラネタリウムに一票入れる。

 制作にどれほど掛かるかはしらないけれど、作っておけば当日は案内人を設けるだけで何もしなくて済む。

 ここまで絞ったのだからあとは多数決。



「じゃ、まずメイド喫茶やりたい人」



 男子数人だけが手を上げる。

 案外少ない。

 片手で数え切れる程。



「次にホストクラブ」



 女子の大半が手を上げる。

 結構陰謀めいた投票だったようだ。



「最後にプラネタリウム」



 男子が多く手を上げるが女子も数人賛成してくれる。



「困ったな」

「そうですね」



 ホストクラブとプラネタリウムが綺麗に割れた。

 メイド喫茶に入れた人にお願いして、新たに投票を行なっても同じ票数。

 男子だけだったのにどうしてこうなった。

 と、思ったら女子生徒に絆されている男子がいた。



「両方やるか……」



 ここで時間使うのもめんどくさいし。



「どういうことですか」

「んーっと」



 夏菜のように言語化するのに頭の中で纏めるのは苦手だ。

 口に出しながら考える。



「プラネタリウムってでかいの作るつもり? 教室の全域を埋めるような?」

「大体半分くらいかな」

「なら残り半分を仕切ってホストクラブやればいいんじゃない? プラネタリウムでもし待つ人が居ても楽しめるし」

「なるほど」



 どうせお酒なんか学校じゃ出せないし、ドリンクと軽食ぐらいだろう。

 なんなら軽食を他のクラスと提携して出して購入し、少し値段を足して売れば利益もでる。



「ホストクラブとプラネタリウムは別料金として、ホストクラブ側で割引券みたいなのを配れるのもありだと思う」



 ちなみにクラスで出た利益は後夜祭の後のクラスの集まりでカラオケだったりと好きなように使える。

 余った分は学校側に回収されるのだけれど。

 休憩所なんか利益が出ずにそんなものなかった。



「アコギな商売」

「文化祭だし」



 答えになってないけど別に良いだろう。

 当日男子側の負担が増えることから、プラネタリウムのドーム制作はホスト役ではない男子たちがメインに受け持ち、内装は女子任せ。



「じゃ、そういうわけで僕ら実行委員はずっとクラスにいるわけでもないからクラスのリーダー、ホスト側とプラネタリウム側をお願いしたいんだけど」



 僕が言い出したことで妙に発言権を得てしまった。



「はーい」



 元気な女子が一人手を上げる。

 このクラスでも目立っている女子グループの一人。



「うちがホストクラブの纏め役やります」



 あたりの女子が拍手を送り決定した。

 プラネタリウム側も意見を出し合って決まっていった。

 僕はホスト側の統括で、プラネタリウム側は言い出しっぺである三枝さんが受け持つ。


 女子グループに囲まれながらも己の仕事に従事。

 暗幕など借りられるものは借りる。

 それを生徒会に出さないといけない。

 何をやるか決定したのだから、それも生徒会に。



「柊くん」

「ん? とりあえず何したらいい?」



 ホストクラブってなにやるんだ。

 高い酒を出してお客さんを褒めるイメージしかない。



「ホストがいないことには何も出来ないから、クラスの男子とかに声かければいいんじゃないかな」

「そうだねっ。もう候補は見つけてるから声掛けてくる」

「いってらっしゃい」



 司を筆頭に容姿の優れている男子たちを連れ立って戻ってくる。

 一つの席に一人から二人までと仮定して、教室の半分をと考えると5か6席ほどか。

 ドリンクを置く場所をちょっとだけプラネタリウム側に侵食させて貰えば十分。

 ホスト役は10人ぐらい入れば十分。



「じゃ、柊くんもよろしくね」

「え」

「え、じゃないよ」



 司を見るが首を振られる。

 そりゃわかるわけないよね。



「ほら柊くんの彼女さん」

「それが?」



 夏菜となんの関係があるんだろう。



「他の男子が話しけても素っ気ないじゃない? 会話にもならないって弟が嘆いてたよ」



 まぁ、うん。

 想像は出来る。

 男子どころか女子でさえ。



「女のうちらが見てもあんな美少女を射止めた柊くん手腕が頼りなわけ」

「そんなものないんだけど」

「これ」



 そう言って首を突かれる。

 ネイルが刺さり痛い。



「どうみてもソレだよね? 彼女がこんなことするんだから間違いないって」



 それは僕がお願いしたものなんだけれど。



「というわけでお願い」

「まぁ、実行委員と部活の手間にならない程度なら」



 問い詰められると余計なことを言いそうで受けることにした。



「他にやることある?」

「今じゃなくてもいいんだけど、ホスト役の採寸かなぁ」

「確かに、それ目当てでホストクラブって書いたんだった」



 悪びれることなく言いのけた。

 スーツ姿がみたいだけなのか。


 今出来ることは限られている。

 ドリンクはともかく軽食は他のクラス頼りだから、ある程度決まってからリサーチする必要がある。こちらリストを作って、この女子……。

 名前なんだ?

 まぁ、いいや。知らなくてもなんとかなる。



「軽食関してはこっちでリーサチしてリストするから交渉は任せるよ。あとは内装担当と相談して必要なものを纏めてくれると助かる」

「はーい」

「あとはボーイ? 精算とかのスタッフも必要になると思うけど、これは女子にお願いしてもいいの?」

「おっけーです」

「交代制になると思うけど、その都度4人ぐらい居たほうがいいかな」



 僕の言っていることを丁寧にノートに纏めている。

 この生徒、どちらかというと麗奈ちゃん寄りなんだけれど、偏差値の高い学校ではあるから、見た目は派手ながらもやることは丁寧だ。



「悪いけど司たちはもう履けていいよ。今はやることないから」

「了解」



 折角集まって貰ったのに申し訳なく思う。

 ただ司だけは僕の傍に残る。



「どうした?」

「いや、お前ばっかりに仕事押し付けるのはなぁーって」

「大丈夫だよ。今のところなんの負担もないし」

「そっか、何か手伝ってほしいことあれば言ってくれ」

「うん。そんときはお願い」



 周りの女子が騒いでいる。

 尊いという聞き慣れない言葉が聞こえた。



「やっぱ彼女持ちは違うわ……」

「なにそれ」

「柊くんも山辺も雰囲気他の男子と全然違うってこと」

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