買い物
次の土曜日の休日。
4人で繁華街まで足を運んだ。
結構大きな商業施設もあるし、様々な店がひしめき合っている。
青く綺麗な空も、背の高いビルの囲まれて遠くに感じる。
地方都市でも繁華街は空も濁っている。
どうせすぐ終わるだろうと、僕ら男子組から水着を買うことになった。
司と神楽先輩組。
僕と夏菜。
「先輩はどんなの履きますか?」
「選択肢ないだろ、色ぐらいじゃないか」
ぼーっと店内を見てみるが、以外と種類があった。
数千円の物から一万円を超えるものまで。
びっくりだ。
男子にも流行はあるだろうが。
気にしない人間筆頭の僕。
一つ買えば長持ちしそうなのを選ぶつもりであった。
この先、水着を買いに行くこともないだろうし。
「まぁシンプルで頑丈なのを」
「変な柄の物を手に取らないように見張りますので」
「信用ないね」
「ある意味信用してますよ……。どうして一緒に買った服を今日は着てないんですか……」
ジト目。
視線の先、ツナ缶とローマ字で書かれているTシャツ。
ツナと言いつつ絵がシャケなのがポイント。
上に無地の白いシャツを羽織ってるから大丈夫だと思っていたが。
「可愛くない?」
「……」
「諦めないで……。言語化して」
頭を深く抱えてしまった。
ごめんね。
「一緒に選んだの全部洗濯中なんだよ」
これは本当。
一人暮らし、洗濯をするペースは遅い。
「先輩、隠れイケメンなんですから、変なところに意識向けるような服選ばないでくださいよ。そのTシャツいつ買ったんですか……」
「いつだったっけ? 一緒の時じゃなかったかな。痛い痛い、ガチでグーで殴るのやめて」
最近、この娘暴力的。
腰の入ったいい殴り。
運動神経が悪い方に働いている。
ふらふらと見回りつつ、青と紫のボーダーのハーフ丈。
これでいいか。
無地でもいいが、結構ボーダー柄好きなんだよね。
「……えっと、これでもいい?」
「はい。普通ので安心しました」
「普通じゃないのってあるのか」
僕の疑問に夏菜は少し困り顔を見せる。
「これとかですかね」
ちょうど彼女の横にあった一つの水着。
中学の教師が履いてたな。
びっちりとしたブーメラン。
大変不評で男子生徒の間でも馬鹿にされていたような。
女子もセクハラだと騒いでいたっけな。
「僕が履いたらどうする?」
「えっと……」
顔を赤く染めてしまった。
想像したのだろうか、すぐに戻して何もなかったかのように僕をレジに押していく。
ちょうど同じ列にいた司が、ちょっかいを出しに顔をひょっこりと。
神楽先輩は少し先のベンチで休憩しているようだ。
スタミナない人だからな。
「市ノ瀬ちゃん安心していいよ」
何をだ。
でも彼女には伝わったようで、夏菜の押す力が増した。
立ち止まり振り返る。
まだ買うものがあっただけなのだが。
彼女の視線が下を向いて、僕が見ていることに気付いて逸らす。
「あと、ビーサンも買うつもりだったんだけど」
「それじゃ、あっちですね」
「むっつり」
無表情。
あ、やばい。
本気で怒った時は無表情の中でも目のハイライトが消える。
「むっちりって言ったんです。きっと夏菜の聞き間違い」
「喧嘩売ってます? 買いますよ?」
「はい、すんません」
少し離れた所でなにか呟いている。
「太ったかな……体重変わってないはずだけど」
彼女の独り言は聞かなかったことにする。
突っ込めば二次災害が起きてしまう。
会計を済ませて、次は彼女達の水着選びの時間。
当たり前だが売り場が違う。
エレベーターで6階へ向かう彼女立ちを見送ろうとするが、がっちりと腕を掴まれてエレベーターの中に引きずり込まれてしまった。
「なんで?」
「先輩のも付き合ったんですから、もちろん私のも」
「夏菜のプレゼント選びにいくつもりだったのに」
「あとでちゃんと待ちますから、ね? 一緒に選んでください」
「はぁい」
僕が返事するよりも早く司が扉を閉めたので、渋々といった感じで彼女の横に並ぶ。
男子の水着よりも広い売り場。
しかし女性用の水着は種類が多すぎて、色使いも様々だ。
ちょっと酔う。
「夏菜って自分の胸を気にしてたりする?」
「そうですね、気にならないと言ったら嘘になりますけど、これはこれで利用価値があるかと思いますので」
「そんな観点で見てるのは夏菜ぐらいじゃないかな……」
ちなみに何に使うのか……。
考えないことにした。
「どういうのが似合うと思いますか? ちゃんとした水着選ぶの初めてなんですけど」
「んー、なんでも似合いそうだけどなぁ」
自分で言うのも何だが、適当な返しにも聞こえる。
「そうですか」
「怒らないんだね」
「本当にそう思っているのがわかるからですよ」
実際その通りなんだけど。
夏菜と会話をしながらも色々と見て回る。
袖付きの水着なんかもあって、本当にわからねぇ。
つか、高い。
最低1万円以上するじゃないか。
これで流行遅れで使えなくなると考えると、費用対効果悪すぎ。
そう思っていたが、別の列にはちゃんと安いのもあって安心した。
けれど全部スルー。
「この辺の見ないの?」
「私が着るとズレたり、はみ出たりするので。そうですねこういう紐タイプだと間違いなく駄目です。支えきれなくて」
彼女が自分の胸を支えて持ち上げる様も見てしまった。
重そう。
咳払いをして、冷静に努める。
「案外選択肢すくない?」
「はい、下着でもそうなので水着も結局こうなりましたね」
一応は手に取って、自分の身体に当てているが。
すぐに棚に戻してしまう。
「これどうでしょうか」
気に入ったものがあったのか、僕に見せてくる。
比較的露出も少ない黒いビスチェタイプ。
胸の辺りがカーテンのように広がっている。
「大人っぽくていいんじゃない?」
「そうですか、これにします」
案外早く決まったな。
神楽先輩はというと、夏菜より早く決まっていたようでもうレジで会計を済ませている。
隣にいる司が嬉しそうだ。
女性の買い物は長いと言うが、この二人はそんなことまったくなかった。
「私も会計に行ってきますね」
「うん」
「荷物は大丈夫ですよ。それより先輩のも預かっておくので」
「あぁ、ありがとう。じゃ行ってくる」
来る前からここの施設に、春人さんたちが言っていたブランドの専門店があるのを調べていたので、案内地図を見ながら進む。
店内に入るが、少し場違いのようにも感じる。
けれど店員さんは馴れた様子で僕を案内してくれた。
「予算このぐらいなんですけど」
3万円から五万円程度。
あまり浪費しないから、親から振り込まれる生活費アンド小遣い、そしてバイト代を合わせると高校生の貯金にしては結構持っている方だと思う。
「このあたりですね」
シンプルなのが多い。
以外と手頃なのもあって安心した。
それでも僕が買った水着の3倍はするのだけど。
ネックレスを見てみるが、いくらシンプルだと言ってもデザインが豊富すぎる。
ティアドロップなんかは手頃でシンプルなのだけれど、面白味に欠ける。
リングの方にも案内して貰うが、こちらのほうがわかりやすいほどシンプル。
値段もお手頃というには高校生にしては高い。
それでも普段のお礼と、風邪で寝込んだ時のお礼もまだだったのでいい物を選びたい。
二択まで絞れた。
サファイアが埋め込まれたリングは綺麗で自分に欲しくなったけれど、ちょっといい楽器が買えそうな値段。
流石にこれは除外した。
貰う方もこれは気を使うだろう。
本当に飾り気のないシンプルなシルバーリングか、ケルティックノットを模したリング。
「これにします」
僕が選んだのはケルティック柄。
支払いを済ませるが、すぐに受け取ることは出来ずしばらく待つ。
数分後にようやく薄いピンク色の袋を受け取れた。
何を買ったのか一目瞭然。
まぁ元々バレているのだ、恥ずかしがることはない。
あとは渡すだけ。
走りながら来た道を戻り、ベンチでお茶を飲みながらぼーっとしている夏菜を見つけた。
やっぱりこうなるか。
神楽先輩は用事があり、買い物を終えたら家に戻ることになる。その神楽先輩を送るために司もいなくなる。
夏菜が街中で一人。
二人の大学生と思われる男性にナンパされている。
「暇なら俺らと遊びにいかね? 全部奢るからさ」
「……」
「なぁ聞いてる?」
「……」
完全に無反応。
らしいとは言え、毎度ひやひやする。
一人で買い行くのは約束だったから、そうしたのだけれど。
本当なら一人にはしたくなかった。
彼女も慣れているものだろうが、心配は心配である。
彼女の両親にも任されているわけだし。
「夏菜、そろそろ帰ろっか」
僕の声に反応して立ち上がる。
ナンパしていた男たちもずっと無反応だった彼女が急に動き出して、ビックリしている。
「お帰りなさい」
「荷物預かるよ」
「はい」
ナンパ男達も文句を言いながらも素直に引き下がる。
いつもこうであるとは限らない。
今回も運が良かっただけだと思う。
「あんまりさ無視しないほうがいいんじゃない?」
相手を怒らせるかもしれないし。
「先輩がいますし」
「僕が遅れたりしたら、もしもがあるよ」
「何を言っても無駄なことが多いんですよね」
「そうかも知れないけど、夏菜が暴力振るわれるかもしれないし、人がいないところで相手の人数が多ければ連れて行かれることも」
日本は平和だが、それが起きないわけではない。
「はい。心配をかけてすみません。次からは先輩の傍にずっと居ますので」
「解決してるような、してないような」
「先輩が私を離さないでいてくれればいいだけですよ」
意図は察したけれど、額面上で受け取る。
「僕がいないことだってあるよ」
「大丈夫です。私が先輩を離さないので」
「結局一緒じゃん」
「そうですよ」




