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【連載版】すべてにおいて負ける僕が唯一勝利したこと  作者: 「」
ちぐはぐコミュニケーション
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延長戦後に閉会式

 昼休みもあと僅か。

 というのは嘘で、もう男子の部が始まっている。

 その後は部活対抗リレーなのでまだ屋上で休んでいるだけ。

 屋上は風も気持ちよく、校庭よりは過ごしやすい。

 僕ら以外の生徒もサボっているから文句は言われないはず。

 ちなみに、流石に座り直していた。



「夏菜さ」

「はい」

「部活入らない?」

「いいですよ」

「あっさりと受けるのね」



 あってないような部活だけど。

 部活にすらなってないか、今はまだ。



「それで、麗奈も誘えばいいんですよね」

「よくわかったね」

「部活のことを言い出した時点でわかりますよ」

「麗奈ちゃん部活に入ってないの?」

「入ってないですね……。彼女も彼女で家の事情で忙しいので名前貸し程度になると思いますが、それでよければ誘えます」

「うん、よろしくね」



 あとで司に報告しよう。

 来月の下旬には夏休みに入る。

 7月か。

 七夕。



「誕生日何か欲しい物ある?」

「先輩から頂けるものであればなんでも嬉しいですが」

「1番困るやつだね」

「悩んで、その結果選んでくれるのが嬉しいんですよ」



 どうしようか。

 隣で空を仰ぎ見る夏菜の姿を見つめる。

 今日はつけていないが、白い腕時計も僕が贈ったもの。

 前は入浴剤のセットを贈ったりしたものだけど。


 すっと彼女に手を伸ばす。

 伸びてきた髪。

 パーマも落ちてきている。



「え?」



 僕の指が彼女の髪に触れたことで驚くが嫌がる様子はまったく見せず、そのままされるがままになっている。



「切らないの?」

「あぁ、髪ですか。どうしようか悩んでいるところですね」

「そっか」



 煩わしそうに前髪を弄っていることもあるから、ヘアピンなんか贈ろうかと思ったけど、切ってしまうのならば不必要だろう。



「先輩はどうですか? 長いのと今まで髪型」



 長い髪の夏菜の姿を想像してみるが、似合う似合わない以前に想像できない。

 今日はポーニーテールになっているが、中学の頃からほぼこの髪型。

 他の髪型がまったく想像出来ない。

 想像出来ないだけで、きっと似合うとは思う。



「今の髪型のほうが夏菜って感じするね」

「そうですか」



 指先で伸びた横髪を巻いては離し、巻いては離す。



「毛先だけ整えて、またパーマ掛け直します」

「うん」



 悩みの延長。



「夏菜の誕生日プレゼントを一緒に買いに行くってのはどう?」



 いつもの癖よりも深く。

 右手を握りこぶしにして口を塞いで考えている。

 新しい発見。

 眉間にも皺が寄っている。



「今回は先輩が一人で用意してください」

「ずいぶんと悩んだね」

「一緒に買いに行くのは付き合ってからにしましょう」

「じゃあ来年も僕一人か」



 どうなるかわからないけれど。

 これは意図的に誂ってみる。



「そんなこと言うなら、私にだって考えがありますよ」

「なにするつもり?」



 手を壁にして僕の耳に。

 何を言うつもりなのかそばだてる。



「あむっ」



 温かいというよりは熱い。

 一瞬なにをされたのか理解出来ず混乱するが、ざらりとした感触に液体を塗られるような感覚。



「ちょっと、本当にそれだけはやめてくれ」



 至って普通のトーン。

 いつもの僕が言うように、ふざけて見せる。 

 けれど内心焦っていた。

 軽い動悸。

 夏菜には言ってなかった。

 こういうことは堪える。

 悟られないように顔を伏せて、手で覆う。

 これぐらいなら大丈夫。



「どうでした?」

「誰に教わったのさ……」



 多分バレていない。

 声が弾んでいる。

 今、悲しませることはない。



「母さんですね」

「親子でなんちゅー話してんの?」

「結構、猥談しますよ」

「聞きたくなかったよ……」



 仲の良すぎる親子も問題だな。

 呼吸を整えて、立ち上がることにした。



「そろそろ戻ろうか」

「はい」



 夏菜も首を傾げながらも立ち上がり、僕に並ぶ。

 距離感を測りかねる。



 ※



  2年の紅白リレーも終わり、もう僕らの出番はない。

 今年はふざけてバトンを強く押し付けるような男子がいなかったので快勝だった。

 クラスの委員長も泣かずに済んだというものだ。


 騎馬戦は体育祭の1番最後に行われる。

 夏菜たち応援団は男女ともにトラックの外縁を囲うことになり、相手の鉢巻を奪う度に夏菜にアピールしている三年生にため息が出る。

 夏菜も仕事なので仕方なくという感じで、ポンポンを振ってアピールしてくる男子に返している。

 動きと表情が合ってない。

 それでも男子生徒は嬉しそうにガッツポーズしている。


 この体育祭、ずっと赤組が勝ち続けている理由がここにありそうだ。

 応援団の女子は強制赤組で、男子は白組。

 モチベーションの違い。


 それらを見届けて閉会式となる。

 僕も司も木陰に避難しており、雑談に興じていた。

 まだ試合は続いており、白組の劣勢。



「なぁ司、明日暇?」

「特に予定はないけど、どうした?」

「買い物にでも行かない」

「もしかしなくても、服か」

「そー」



 伸びをしながら答える。

 夏菜と二人きり出掛けるのに躊躇している。

 というより、二人きりなる状況に。



「市ノ瀬ちゃんは?」

「一緒だよ」

「なら二人でいけよ」

「まぁ、そうなるよね」



 素直に言うべきなのはわかっているが、今の距離感が丁度いい。

 それに変に気を使われるのは嫌だった。



「なんかあったんか?」

「ちょっとね」



 司ならいいかと、教えることにした。



「ふーん。難儀だなお前」

「面倒くさい奴なのは知ってるよ」

「有名だったもんな渉の家」

「知ってたの?」

「同じ学区だからな」



 司の家。

 僕の自宅から夏菜の家を更に進み、中学校の更にその先にある。

 確かに知っていても不自然じゃない。

 というか、どうして気づかなかったのか。



「小学校であったことないよね?」

「話したことはないな」



 そもそも、高学年くらいまでは僕の言葉は拙かった。

 ロボットのような口調だった。

 普段から喋らないし、そのことで馬鹿にされてたから、余計に口を閉ざしてた。

 それは今更どうでもいい。

 今はこうして友達になれている。


 あれ? ということは夏菜も同じ小学校だよな。

 一学年下なのだからニアミスしててもおかしくない。



「司は小学校の夏菜って知ってるの?」

「なんでお前、いや、悪い」

「それは気にしてないけど」



 家庭環境はもう別にいい。

 父親とも気まずいながら、親子として生きていけてる。

 こうして高校まで生きていけたのは、父親の稼ぎがあるからだ。

 感謝こそするが、憾むことはお門違い。



「名前は知ってるよ、あと彼女が男子生徒たちをホウキでボコボコにした事件も。バケツで水浸しになった女子生徒が仕返しとばかりに雑巾で汚れたバケツの水を男子生徒に頭から被せたり」

「あぁ」



 彼女の報復は思った以上に暴力的だった。

 多分、口で喧嘩しても相手が負けたんだろう。それで手が出てお返しとばかりに。

 怒らせないようにしよう。



「それで司は明日どうする?」

「しゃねぇから行くか。雅も誘うよ」

「ありがとう、司」

「はいはい。しかし、ちょっと納得したわ」



 司は体育祭のスケジュール表をうちわ代わりに扇ぎつつ、話を進める。



「市ノ瀬ちゃんに言い寄られながら平常心なの。普通ならころっといくだろ」



 平常心ってわけでもない。

 これでも結構、びくびくしている。



「そうだろうね」

「で、恋愛がよくわからないときた」

「今も勉強中だよ」

「そもそも恋愛なんて自分の経験で学ぶもんだろうに、それが小学校をすっ飛ばして中学からまとも人付合い始めてたんだろ?」

「そうなるね。司が初めての友達だし」

「ピュアっていうか、汚れてないっていうか、ド天然。なんか妙に納得したわ」



 ひとしきり頷く。



「市ノ瀬ちゃんも苦労するわけだ」

「悪いとは思ってるよ」



 人付合いをして、このままなのは駄目だろうなって色々再認識させられた。



「悪いとかそんな話じゃないだろ、もうそれは個性として受け入れるしかないんじゃないか?」

「個性か」



 考えたことなかったな。



「それは培われたものでそうなったんだ」

「そうだね。なんか、ちょっとだけ心が軽くなった気がするよ」



 ※



 日が高いうちに閉会式も終わる。

 校長も疲れたのか、話が短く済んだ。

 僕らも荷物を纏めて、学園を後にする。

 その帰り道。



「流石に今日は泊まらないよね?」

「なんで嫌そうなんですか。真顔で言われると私も少し傷つきますよ」

「昼休み中のことを思いだして」

「そんなに苦手ですか? 耳を甘噛されるの」



 甘噛どころか舐められた。

 思い出すだけで、右耳がぞわりとした感触。

 ちょっと鳥肌が。



「気付いてた?」

「はい、いつもと少しだけ違和感がありましたので」

「バレてないと思ってた」

「私も最初は照れてるのかなって思いましたけど、それにしてはわざとらしかったです」

「そっか」



 自分で言う手間が省けた。



「体育祭どうだった?」

「思った以上に楽しかったですかね、チアも初体験でしたし、先輩の普段引き出せない表情とか態度みれましたから」

「あぁ、そう」



 今日は手のひらで踊らせられたらしい。

 それはそれで、思い返せば楽しくはあった。

 これも思い出のひとつとして受け入れよう。

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