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【連載版】すべてにおいて負ける僕が唯一勝利したこと  作者: 「」
ちぐはぐコミュニケーション
43/177

光るなら

 夏菜が食べ終わるのを待つ。

 弁当を片付けてもあと30分は休み時間が残った。

 水筒から冷たいお茶を貰って喉を潤す。


 午後は僕も夏菜も比較的暇な時間になる。

 騎馬戦の時にもう一度、応援団として夏菜は衆目のもとに晒されるがそれだけ。

 僕もあとは2年のリレーだけだ。



「ご褒美がまだでしたね」

「なんか約束したっけ」

「勝ったらご褒美をあげると言いましたよね」

「あぁ、忘れてた……」



 だからあんなに追いかけ回されたのだ。

 男の嫉妬ってみっともないというより怖かった。


 彼女はリュックを脇においやると、自分の白い太腿を軽く叩く。

 犬か猫か。

 まるでペットを自分のもとに呼び寄せているよう。



「どうぞ」

「本当に今日は積極的だね」

「そうですね。先輩は山辺さんの進捗聞きました?」

「うん」



 僕は完全に傍観者に徹している。

 手伝うと言ったものの、何をやっていいのかわからない。

 夏菜は裏で動いているようだったけれど。



「なんか良いですよね、幼なじみってお互いのこと理解し合えているというか」

「……うん」



 気持ちはわかる、長年の付き合いがそうさせるのか何も言わずに通じている。



「それで私も負けてられないなって」

「そっか」



 彼女は彼女で彼らに思うことがあったようだ。

 言ってしまえば僕らはあまり進展していない。

 進展していないというのは語弊があるが、牛歩並み。

 わかっている、問題は僕の心の持ちよう。

 夏菜自体は答えが出ているのだから。


 彼女は攻めを続ければ良い立場で、僕は防衛戦のようなもの。

 心が移ろい、彼女が去っていくか。

 それとも防衛を捨ててこちらから攻めるのか。



「それより早く、来てください」

「やっぱりそこに寝なきゃ駄目?」

「なに恥ずかしがってるんですか」

「そりゃ恥ずかしいよ、膝枕なんて」

「2回目じゃないですか……」

「その時は僕、記憶ないんだけど」



 風邪でぶっ倒れた。

 司に見せられた動画を見た。

 あとはクラスの女子に情景を聞かされただけ。



「いいから、どうぞ」



 渋る僕を無理矢理に寝かせる。



「どうですか?」

「なんか、思った以上に気持ちいいね」



 柔らかい弾力に人肌の温もり。

 肌に直に触れていることもあり、甘い香りが普段より強い。

 それに。



「胸がちょうど日差しよけになってる」

「余計なことは言わなくていいです」



 お腹一杯になり、横になっている。

 彼女に見守られている安心感。

 僕の髪を暇そうに弄る彼女の手。

 どれも優しい時間。



「眠たくなりました?」

「うん」

「起こしますのでいいですよ」



 うつらうつら、と。

 目蓋が重く感じていき、撫でられている頭も次第に気にならなくなっていく。

 外の喧騒も心地よいBGMに変わる。

 次第に何も見えず、聞こえず。



 ※



 歌が聞こえる。

 しばらく眠っていた意識も覚醒の兆しをみせる。

 夏菜の澄んだ小さな歌声。

 去年の秋以来だろうか。

 最初に聞いた時も感動した気がする。


 僕の知らない曲。

 明るい曲調に綺麗な歌詞。

 邦楽の良さ。

 歌詞がダイレクトに伝わる。

 夏菜の歌声と合わさることで相乗効果がある。



「何の歌?」

「あ、……起こしましたか?」

「うん」

「すみません」

「綺麗な歌だったから」

「いい歌詞ですよね。共感してしまって以来たまに聴いているんです」

「共感か」



 曲の歌詞に共感することもあれば、アーティストの生い立ちに共感することもある。

 その人が生み出した曲ならば何か感じることもあった。

 僕の好きなバンドも、僕の比じゃないほど壮絶な人生を歩んでいて27クラブに。


 目の前の障害物で彼女の顔を拝めないが、照れている声色。

 少しだけ上ずっているのに気づく。



「初めて聴いた時が中学生の2年頃でした」

「うん」

「私って色々と出来るじゃないですか」

「そうだね」



 紛れもない天才。

 故にいい意味でも悪い意味でも目立つ。



「それで小学生の頃いじめにあったりもしましたが」



 子どもは異分子、目立つ者に排他的になる。

 いい標的だったのだろうと思う。

 詳しく聞いたことがないが、昔そんなことを少しだけ語っていた。

 けれど彼女の場合、ただ事実として受け入れているだけ。

 僕はどうだったろうか。

 認められたくて少しだけ足掻いた気もする。

 けれど環境が、子供たちの親がそれを許さなかった。



「まぁやり返しましたけど」



 予想は出来る。

 何をしたかは知りたくない。



「人は離れて行くもので別段それは何とも思わないんですが。何でも出来るということは結構つまらないものです」

「つまらない」

「人生そのものがつまらないって思うことがありました」

「そっか」

「私が腐らなくて済んだのは両親のおかげもありますね」

「やさしくて夏菜をずっと見てくれている、面白い両親だからね」



 冬乃さんとそんなに話す機会はないが、春人さんは子どもっぽいところを残しつつも、しっかりとした大人。

 僕も彼には助けられている事が多い。



「はい。ですが、1番大きかったのは先輩と出会えたことですね」



 未だに膝に眠る僕の頭を優しく撫で付ける。

 気持ちよくて起き上がることを忘れていた。



「最初は変な珍獣がいるなって感じだったんですが」

「……珍獣」

「今も珍獣だと思いますけど、私も先輩に憧れることがります」

「僕に?」

「中学の頃のバスケ部。初めて勝負をした時に他の人ならあんなに実力差がついたら、折れて挑戦しなくなるのに、何度も何度も挑戦してきて」

「負けず嫌いだから」

「そうですね、知ってます。でも、やる度に色々なことを覚えては試して、次第に私との差が縮まっていって」

「最後まで勝てなかったからなぁ」

「実は最後、ぎりぎりでしたよ。私が先輩のこと想っていなければ、先輩が勝てたかもしれなかったですね」

「初耳なんだけど」

「先輩の性格で予想が出来たので」

「……あぁ、そう」



 思い返してみれば、完璧に決めたと思ったっけ。

 けれどあっさりとボールを奪われた。

 隠し玉だったのに。



「負け続けても、楽しそうに挑んてくる姿に憧れましたね。私に無い物を持っている先輩に」

「そうなんだ、どうして今その事を?」

「なんででしょう? わかりません。言いたくなりました」



 くすくすと小さく笑う彼女の声。

 楽しそうでもあり、追想し懐かしむ。

 誰が見てもわかるぐらいに表情は穏やかだ。

 いつも以上に目の形が垂れている。


 ずっと彼女のことを見ているが、昔よりもほんの少し表情が表に出やすくなっている。

 本人は気づかないだろうし、僕も言うつもりはないが。



「まぁ、でもそれだけじゃないですよ。普段はのんびり屋なのに興味あることに対して私にも理解できない集中力を発揮するし、優しいかと思えばどSですし。変な人だなぁーって。でも、優しいし格好いいし、友達を大切にするし、私のことも」

「……」

「照れてます?」

「ちょっとね」



 褒められたことなどない。 

 生まれて初めてかもしれない。

 大げさに思うかもしれないが、事実。



「ふふっ。一緒にいて楽しいと思えるし、安心します。これでも結構先輩を頼りにしているところもあるんですよ」

「そっか」



 それは僕も同じ。

 けれど優しさと母性に触れて甘えていた。

 いない母親の姿を彼女に抱いているかもしれない。

 あまりよくない感情だとは思う。

 これは一時の勘違いとして処理をしよう。



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― 新着の感想 ―
[一言] ヒロイン死んじゃうのかとおもた
[一言] ~は私の母親になっていたかもしれない女性だ!などというと大体拗れますからな…
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