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【連載版】すべてにおいて負ける僕が唯一勝利したこと  作者: 「」
ちぐはぐコミュニケーション
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応援と昼食と夢

 障害物リレーも終わり、そのまま1年の紅白リレー。

 それが終われば応援合戦になり昼食。

 去年と同じスケジュール。



「それでは私は準備がありますので失礼しますね」

「うん、応援してるね」

「はい。あと先輩」



 校舎に足を向けて歩き始めた夏菜が急に振り返る。

 忘れ物を思い出したように。



「明日の振替休日買い物に行きましょうね」

「いいけど、どうしたの?」

「先輩のTシャツダサいです」

「……そうっすか」



 借り物として参加させられた僕は自分の席にトボトボと落ち込んで帰る。

 ただ司の姿が見えないが、当たりを見回すと少し遠くの木陰で神楽先輩と話している姿が見えた。

 邪魔するわけにはいかない。

 顔にタオルを乗せて、背もたれに負荷を掛けるように座る。

 応援合戦になれば音楽が一気に派手になるだろうし、しばらく目を瞑って休むことにした。



「あいたっ」



 後頭部に衝撃がきて、びっくりして目を覚ます。



「お前本当にこんなところで良く眠れるな」

「眠ってたんだ」



 ほんの少し休むつもりだった。

 けど司が言うように完全に睡眠に入っていたようだ。



「気付いたらいつも寝てるよな」



 寝不足ではない。

 基本的に0時前には寝ているし、朝7時きっかりに……。ちょっと過ぎた当たりで起きている。

 でも暇だったり放っておくと眠る癖みたいなのがついている。



「そうだね。神楽先輩と話してたけどいいの?」

「40分前だよ、それ。見てたんなら声掛けてくれりゃいいのに」



 思った以上に眠っていて驚く。



「邪魔するわけにはいかないでしょ」

「邪魔とはおもわねぇーよ」

「そう? じゃ、言い換えると二人の時間を楽しいんでほしいなって」

「あ、そう。うん、ありがとうよ」



 紛れもなく本音。

 楽しそうに会話をしている姿を見て、上手く行けばいいなって心底そう思う。

 照れたように司は僕から視線を外しながら、ぽんっとスポーツドリンクを僕に投げてよこす。



「ありがとう、後でお金返すよ」

「いいって、これぽっちで取り立てたりしないって」

「じゃ、今度なんかドリンク奢るってことで」

「おう。そろそろ始まるな」

「うん」



 まったりとした音楽が止み静かになる。

 期待感からか、辺りはそわそわしたような緊張感がうっすらと漂っていた。

 まずは女子の部。

 男子の部よりも、女子の部が学園の目玉。

 グラウンドにチアマットが、映画のようにレッドカーペットを引くように埋め尽くされていく。

 1ロールでも結構な長さだ。

 うちの学校のグラウンドは、小、中学校とは違い砂じゃないから出来ることかもしれない。

 体育祭が終わったあとの手入れが大変だろうし。


 女子たちがマットの中央に集まると、音楽が掛かる。

 大泥棒のアニメで有名なテーマ。

 中には男子も混じっているが、あれはチアリーディング部に所属している男子。

 落下の危険性があるため待機している。


 日本人の僕らにとってチアとは、野球部だったりの裏で応援のために踊っているイメージが強い。

 そちらの側面が強いのは確かだけれど。

 けれど、実態はかなりアクロバティックな動きを要求される表現のスポーツだったりもする。

 その証拠にチア部の女子達がバク転やバク宙をしているところから始まった。

 夏菜たちは後ろで、観客を煽るような手拍子をしながら、軽く踊っている。


 初めて見た人たちは驚くかもしれないほど、本格的なチア。

 人でピラミットを3つ組むように積み上がると、センターの1番上に夏菜の姿。

 柔らかい身体と鍛えられた体幹でY字バランスをキープする彼女たち。

 全員が揃ったところで空中で横になりながら回転し、下で支えていた女子達が受け止める。

 夏菜たち上の連中もすごいが、下で支える女子たちもすごい。


 音楽と掛け声。

 アクロバティックなパフォーマンスが繰り返され、全員が均一に並ぶと揃ったダンスを見せる。

 チア部は一目瞭然で揃っている。

 が、元は別の部活に入っていたり、帰宅部であろう人たちは必死の練習を繰り返したにも関わらず、少しだけズレている。

 体育祭の出し物としては十分どころか、圧巻されてもいいレベル。

 ただ、夏菜はチア部と遜色ない。

 浮いていないのだ。


 そして最後に、ピラミット3段。

 下から二人組で上に飛ばして着地して決めポーズ。

 空高くポンポンを振っている夏菜の姿。

 音楽が終わると、揃って退場していく。

 これにて午前の部終了。

 午前の締めとしては最高のものだったと思う。


 男子の部は午後の開始の合図と同時に始まる。

 それまでは全校生徒、教師たちも休憩にはいる。



 ※



 下駄箱の前。

 いつもの待ち合わせ場所。



「お待たせしました」

「おかえり、すごかったよ。ちょっと感動もした」

「そ、そうですか。ありがとうございます」



 恥ずかしそうに頬を指先掻く。



「スマホがあったら撮ってたかも」

「それは……。まぁいいですよ、食後にこの衣装撮ります?」



 上までがっちりと上げていたジャージのファスナーをズラして見せてくる。



「いや、表現中の夏菜を撮りたかっただけだよ」



 久しぶりに何かに向けて真剣な彼女を見た気がする。

 僕に対しても真摯に向き合ってくれているが、それとはまた違うもの。



「……そうですか」

「夏菜が最近写真に嵌っているって言ってた意味がわかったかも」

「はい。一瞬を切り抜いたり、自分の見たものを手元に残すのいいですよね」

「うん」

「休み時間もたっぷりありますし、約束通りに屋上行きましょうか」

「……うっす」



 約束は約束だ。

 体育祭の間も屋上は開放されている。

 少しだけ錆びて重い扉。

 僕が開き、屋上に足を踏み入れると視線が集まる。

 後に続いた夏菜の姿が見えると霧散していった。

 屋上には噂通り女子の二人組だったりカップルで溢れている。

 空いている席に僕たちも腰を落ち着ける。

 合流してから彼女の肩にあったリュックからお弁当が登場する。



「唐揚げとかハンバーグとかちゃんと入れてますよ」

「ほんと?」

「はい。子供メニューです」

「それはちょっと馬鹿にしてる?」

「いえ、可愛いなって思ってますよ」

「あ、……そう。ありがとうございます」



 受け取って、いつの間にか僕専用になっている青い包みを広げる。

 彼女も同様に黄色いハンカチから、少しだけ小さなお弁当を開く。

 当たり前だが同じ色鮮やかなメニュー、隅っこに茶色い群体。

 唐揚げにハンバーグ、コロッケの集まり。

 珍しく卵焼きがないと思えばフライドエッグになっている。

 僕は結構野菜は好きなのだけれど、トマトだけはどうしても苦手で、夏菜が準備に気を取られている間にこっそりと移しておく。

 魚は苦手だと伝えていたが、こっちは教えていなかったことを今思い出す。

 案外トマトって食卓に並ばない気がする。

 並んでもサラダに入っているぐらいで、市ノ瀬家では大きなボウルようなガラスの器から、自分の好きな量を調整して食べるスタイル。



「うまそう」

「食べる前にちゃんと手を拭いてくださいね」



 ウェットティッシュを一枚、引き出してから僕に寄越す。

 早く食べたいがこれも大事。

 カップルに混じって僕らもそのように見えるかもしれないが、甲斐甲斐しく世話をされている実感がある。

 休日の公園。

 母と子。

 たまに出先で見る光景を思い浮かべる。



「……」

「どうしました?」

「なんか、母親と子供みたいだなって僕ら」



 僕本人にはそんな記憶がないけど。

 こんな感じだろうと勝手な思い込み。



「嫌ですよ、こんなに手の掛かる大きな子ども」



 心底嫌そうに僕を睨みつける。



「それついては言い訳しようがないけど」

「彼氏とか旦那さんとかだったら大丈夫です」

「違いがわからない」

「わからなくてもいいですよ、それにまだ私は結婚出来る歳でもないですし」

「結婚願望とかないの?」



 ちなみに僕はない。

 うちの親のようになりたくない。



「ありますけど、まだ彼氏とイチャイチャすること経験していないのでもっと先がいいですね」

「ふーん」

「私の夢は父さんと母さんのようになることですが」



 それは初耳。

 けれど、たしかにあの夫婦は理想とも言えるほど仲睦まじい。



「その前に素敵な彼氏と色々なこと経験したいです」

「乙女チック」

「悪いですか?」

「いや、すごくいい夢だと思うよ」



 自分の理想の形があるということだ。

 夢見る少女みたいことだったとしても、それは素敵なことだ。

 彼女のような才能があれば、もっと大きな夢をみることだって可能。

 目指すのは小さな夢。

 誰かが馬鹿にしていい夢ではない。

 女の子は砂糖とスパイスと素敵なこと出来ている。

 彼女にピッタリな詞。


 でも、その夢は案外難しいことを僕は知っている。

 一人では叶わない夢、もう一人の協力者がいる。


 他人をどこまで信用出来るのか。

 誠実でありたいよね。



「素敵な彼氏か」

「先輩のことですよ」

「……、いや、うん、はい」

「直接的な言葉に弱いですね」



 そうね。

 どう返して良いのか言葉に詰まる。

 期待に応えられる覚悟が僕にはあるだろうか。



「折角作ってくれたんだ、じっくりお弁当を味わうよ」

「はぐらかしましたね?」

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