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【連載版】すべてにおいて負ける僕が唯一勝利したこと  作者: 「」
ちぐはぐコミュニケーション
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体育祭

「暑い……」



 体育祭本番。

 生憎と空は晴天。

 気温自体は高いわけではないが、直射日光がきつい。

 それに6月特有の湿気。

 開会式の校長の話も長く、じんわりと汗が滲む。

 オマケにあくびが止まらない。


 この学校の応援合戦は目玉の一つであり、そのクラス代表は開会式の間も教師たちと同じ列で並んで全校生徒を眺める形になっている。

 校長が立っている朝礼台の前にチア姿の夏菜。

 完全に無表情。

 あれはなにも考えていない。


 珍しくポニーテールにまとめた髪。

 なんかの決まりでもあるのか、ポニーテールが多い。

 ノースリーブの白を基調とし金色と赤のラインで仕上げられた衣装。

 お腹も完全に見えている。

 流石、元スポーツ少女無駄な肉がお腹だけにはついていない。

 160センチにも満たない身長にあのバスト。

 なにより抜群のルックス。

 完全に目立っている。



「渉、市ノ瀬ちゃんいるぞ」



 後ろに控えていた司がこっそりと耳打ちしてくる。

 急にやってこられると、ぞわぞわして鳥肌が立つからやめてほしい。



「うん、見えてる」

「感想は?」

「周りの子が可哀相だな」



 未だに熱く語っている校長すら誰も見向きもされず、観衆は夏菜を眺めているのがわかる。

 本人はその視線を一身に受けても微動だにしない。

 すげぇメンタル。



「独り占め出来なくて残念だな、渉」

「そうだね」



 中間テストも負けたし、ご褒美もお預け。

 罰ゲームが待っている。

 夏菜は今回の勝負をなかったことにしても良いと言ってくれたのだが。

 負けは負け、無かったことにはしない。

 努力した結果、負けた。



「ほう」

「何?」

「いや、意外な解答だと思って」

「僕は独占欲があるらしいからね」

「やっぱり好きなんじゃないの」

「どうかな」



 未だに答えは出ていない。

 なんというかパッとしないのだ。

 道筋が見えない。

 パズルの肝心なピースが見つからない。そんな感覚。

 焦って自分の気持ちを決めつけてもいい結果にならない。

 これは大事なこと。

 相手が夏菜だからこそ、慎重になる。

 恋愛感情がなくても大事に人には変わりない。

 今彼女と付き合ったところで、どちらも傷つく予感しかしない。



「ま、僕のことは今はいいよ。司こそ進捗どうなのさ」



 僕を間にして色々と部室で話したりしていたが、今では二人きりで話している姿も増えた。



「昔に戻った感じだな」

「昔?」

「子供の頃、ずっと一緒に遊んでた頃に」

「今から失った時間を取り戻すって感じだね」

「渉、お前本当に恥ずかしいこと平然と言えるな」

「それ夏菜にも言われた」



 言われなければただの戯言。

 だから気付いても言わないでほしい。

 僕にだって羞恥心はある。



「体育祭終わったらさ、俺も部活入るよ」

「神楽先輩の部活?」

「そう、俺が入れば同好会として正式になるだろ? で、市ノ瀬ちゃんにも入ってもらって、正式に部……一人たりねぇな」

「麗奈ちゃんに名前だけ借りれば?」

「それだな」



 部になれば部費も出る。

 幸いにも学期ごとに予算を決めているようだから、僕らの民族音楽研究部にもいくらかは部費が回ってくる。

 学校が持っている敷地に合宿も出来るようになるだろう。

 どんな形であれば一緒にいることは、互いを意識させるだろう。

 これに関しては経験済み。



「本当に神楽先輩と一緒にいたいんだね」

「当たり前だろ」



 照れる様子もなくはっきりと答える。

 そんな親友が眩しく見えた。



「お前らうるさいぞ」



 後方に居た担任教師が僕らに元にやってきて、二人同時に軽く小突かれる。



「「すんません」」



 前方の夏菜にも見られていたようで、手に持っていた金色のぽんぽんで口元を隠している。

 眠たそうな目が緩んでいて、完全に笑われている。


 僕らが怒られているうちに開会式は無事終わり、用意された椅子に司と並んで座る。

 グランドは軽快な音楽に包まれている。

 せめて日差しをカットできるテントに避難させてほしい。

 頭にタオルを被せて帽子の変わりにしてみる。



「神楽先輩は何の種目に出るの?」

「リレーと玉入れ」

「3年の目玉じゃないほう全部か」

「そう、目立つの嫌いだからなあいつ」

「でも目立ってるよね」

「自己評価低いからなぁ」



 神楽先輩の身長は僕とほぼ変わらない。

 腰まで伸ばした綺麗な黒髪をまとめている。

 夏菜がアイドルなら神楽先輩はモデルという感じだろうか。



「玉入れやっているイメージできないな」

「だろ? 俺もだ」



 神楽先輩の話で盛り上がっていると、日陰ができた。

 雲が出てきたのだろうか。

 見上げてみると、顔が。



「おっ」

「人の顔みて驚くとか失礼ですよ」



 去年ならともかく、今年は夏菜も自分のクラスがあるだろうに。



「なんでいんの?」

「先輩に会いに来るのに理由がいりますか?」

「まぁいいや、チアコス間近で見られるしって」



 ジャージの上着を羽織っている。

 しかもファスナーもしっかりと胸元まで閉めていて、お腹も隠れてる。



「残念でしたね。日焼けはしたくないので、必要ないときは隠します」

「がっかりだよ」

「す、少しだけなら。場所を移して見せることは出来ますが」



 最近は髪が伸びて見えなかった耳。

 髪型を変えていることでばっちりと確認できる。



「恥ずかしいなら言わなきゃいいのに」

「恥ずかしくても言わなきゃいけないこともあるんですよ」



 いつになく強気だ。

 ならば僕にだって考えはある。



「じゃあ、あっちの日陰行こうか」

「えっ」

「自分から言い出したことでしょ」

「そ、そんなに見たいんですか?」



 遠くから見てただけだし、近くで見たい気持ちに嘘はない。

 まぁ昼食一緒にする約束をしていたので、その時でもいいのだけれど。



「うん」

「わ、かりました」

「じゃ、司行ってくるよ」



 司に断りを入れて席を立つ。

 日陰になっている校庭の隅。

 地面も平ではないため、見に来ていた保護者たちもいない。



「えっと、脱ぎますね?」



 ファスナーがゆっくりと下がっていく。

 豊満な胸がファスナーを降ろされたことで、一度大きく揺れた。

 白い肌も覗かせる。

 縦長の綺麗なヘソ。

 こんな所まで整っているとか。

 調子に乗って僕が招いた結果なのだけれどドキドキしてきた。

 間近で見る、普段拝むことのない夏菜の素肌。



「夏菜、ストップ」

「どうしました?」

「本当に脱ぐの?」

「そうですが」

「僕の方が恥ずかしくなってきた」

「なんですかそれ。ふふっ」



 堪らずギブアップ。

 僕には刺激が強かった。



「先輩は謎ですね。強気かと思ったら弱気ですし、変なところは大人なのに、今みたいに初心だったり」

「悪かった。夏菜がこんなに可愛いとは思わなかったんだって」

「うっ……。そしてこうやって天然だし、振り回される方の気持ちにもなってください」

「ごめんって」

「その顔だと本当に申し訳ないって顔じゃないですね」



 夏菜は唇に人差し指をそっと当てる。

 すっと目を細めて、僕の顔を煽るじっと見つめてくる。

 捕食者。

 いつか夏菜を猫科と例えたことがあった。



「……今日は、許さないです」



 そう言うと夏菜はジャージを完全に脱ぎ棄てる。

 ジャージの行末を眺めているが、それは僕の最後の抵抗。

 それもあっけなく散る。

 両手で夏菜は僕の顔をそっと摑み正面に固定する。



「ちゃんと見てください」

「見てるよ……」



 風に揺れているポニーテールを。

 彼女が見上げると、顔と顔が近くに。



「顔じゃないです」

「手離してくれるなら」

「逃げませんか?」

「……えへ」



 僕の行動はお見通しらしい。



「じゃ、駄目です」

「恥ずかしくないの?」

「恥ずかしいですが、……ちょっと高揚してきました。ここが攻め時だと」

「降参」



 僕は両手をあげる。



「ちゃんと見るから手離して」

「わかりました」



 少しだけ距離を取って、彼女を上から下までじっくりと見つめる。



「ポニテいいね」

「最初の感想がそれですか……。別にいいですけど」



 後ろ手で自分の髪を跳ねさせる。

 短いポニテが縦に揺れる。



「改めて感想って言ってもね。可愛いとか似合ってるって言葉しか思い浮かばないよ」

「そうですか」



 言葉は淡々としているが嬉しそうだ。

 もうひと押しで開放されるだろうか。



「色っぽいとは違うな、でもなんだかえっちだね」

「まぁ、はい。露出高いですからね。先輩が正常な男性の反応してくれて少しほっとしてますよ。そういう機能がないのかと心配もしてましたし」



 余計なお世話。

 けど、彼女にとっては必要な情報かもしれない。



「これで許していただけましたでしょうか」

「ちなみに先輩」



 僕の言葉は耳元を摺り抜けて聞き届けられない。

 許してはもらえないらしい。

 僕を見る夏菜の瞳に悪戯心が宿る。



「ここ見てください」



 スカートを指してアピールする。

 特に変わりのないプリーツスカート。



「では」



 両手でスカートの先を摘むと持ち上げた。



「何してんの!?」



 すぐに下ろしてくれるが、バッチリとピンク色の何かが見えた。



「驚かないでくださいよ」

「驚くわっ。突拍子もないことしないでくれ、心臓に悪い」

「大丈夫です。これから踊るんですからアンスコ履いてます」

「あぁ」



 落ち着いて考えれば当たり前。

 普通の下着なわけなかった。



「でも、それ恥ずかしくないの?」

「見せてもいい物ですし、水着みたいなものです」

「あぁ、そう」



 水着は水着で下着と形とか露出部分は変わらない気がするが、女性の価値観との違い。

 男の僕にはわからない。



「何か今日は楽しい1日になりそうですね、先輩」

「僕はもう疲れたよ」

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