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戦え

「山辺さん、少しお話いいですか?」



 昼食の終わり、予鈴はまだ先。

 解散の流れを感じて僕らは立ち上がるが、夏菜の声が司の道を阻む。

 珍しい光景。



「市ノ瀬ちゃんが俺に?」

「はい」



 夏菜は麗奈ちゃんに先に戻るように言うと、僕に向き直る。

 司に話があるのだ、僕も残る必要はない。

 麗奈ちゃんに続いて学食を出ようとする。



「先輩は居てください」

「司に用があるんでしょ?」

「ですが、先輩にも重要なことだと思いますので」

「わかった」



 テーブルの上にあるお茶を夏菜は淹れなおして配ると僕の隣、司の正面に座る。



「私、神楽さんのことで少し知っていることがありまして」

「雅のこと?」



 僕は黙って聞く。

 口を挟める余地はない。



「去年の文化祭覚えてますか?」

「あぁ、雅が喉やって、変わりに市ノ瀬ちゃんがボーカルをつとめた」



 先日の僕のように高熱を出して倒れてしまった。

 喉を酷使していたこともあって、熱が下がってからも代償としてまともに声を出せない状況が続いていた。

 がらっがらの声で歌える状況ではなかった。

 バンドの顔とも呼べるボーカルがいないのは問題。



「そうです。最後の曲」

「雅にしては珍しいチョイスだったな」



 何を演奏したのか。

 邦楽。

 ライブの掴みとして、最初と最後のだけは邦楽を演奏したのだ。

 最初の曲はただの流行歌。

 そして、最後の曲は。

 レミオロメンの3月9日。

 秋にある文化祭にしては季節外れもいいところ。

 確かに神楽先輩の願いにより決定した。



「なんの曲か知ってますか?」

「卒業じゃないの?」

「私は歌に明るくないので、詳しいことは言えないのですが、元々は結婚する友人に贈る曲だったそうです」



 洋楽をメインを聴いている僕だけど、最近の流行りには疎いが邦楽も聴く。

 だから知っていた。

 結構有名な話。

 卒業式の曲として有名になったからこそ、色褪せない曲にもなった。

 動画サイトに上がっているMVを見れば、結婚式のほうがメインで撮られている。



「それが?」

「神楽さんの想い人、結婚したんですよ去年。その人に贈るために去年のライブで演奏を」

「市ノ瀬ちゃんは雅の想い人を知ってたわけか」

「はい。ただ私は神楽さんに教えてもらっていたので知っていましたが、幼馴染みで付き合いの長い、山辺さんも色々と気づいてたかと」

「まぁね。でもそれがどうした?」

「神楽さんが込めたメッセージも理解できますか?」



 曲に込める思いはそれぞれ。

 カバーで歌うにしても、原曲とは違う感情を乗せることもある。

 歌詞の一部を切り抜いたり、全体のイメージだけで。

 今回は結婚を祝うということが大事だったと予想出来る。



「好きな人のことを祝福して、片想いとの卒業。普通の兄妹として過ごすと決めたそうです。自分の気持ちに折り合いをつけたみたいですよ」

「そうだったんだ」

「なので、山辺さんが躊躇する必要はないと思います。あれから時間も経ってますから、神楽さんの気持ちの置き場所はどこにあるのか知りませんが」

「それ俺に言ってよかったのか」

「秘密にしておいてください。でも山辺さんは先輩の大事な友だちですから幸せなって欲しいと思います」

「そっか……」

「まぁ、先輩も人の恋路をみて学ぶこともあると思いますので」



 隣にいる僕を、裏手でこつんと叩く。

 ここで僕のいる意味が教えられた。

 完全に部外者。

 言われるまで意図が読めなかった。



「そっちが狙いか」

「8割方。でも山辺さんにも神楽さんにも幸せなって欲しいと思っているのは本当ですよ」

「うん、考えてみるよ。ありがとうな、市ノ瀬ちゃん。出会うのが雅より早かったから、君のこと好きになってたかもしれない」

「私は先輩よりも早く出会っても変わらないですが」

「市ノ瀬ちゃんらしいね」



 司は一人、先に教室に戻っていった。

 残った僕は夏菜と二人でまだテーブルについたまま。



「なので、先輩。本物の恋愛を見て学びましょうか」

「本気?」

「正気です。あれ? 騙しました?」

「騙してないよ。いつも僕が悪いみたいなこと言うよね」

「実際先輩が悪いですから」

「あ、そう」



 そうだろうか?

 そうかもしれない。



「それでどうすんの?」

「どうもしませんよ、あの二人が結ばれるところを見届ければいんですよ」

「でも司と神楽先輩が、夏菜の思い描く未来になるとは限らないんじゃないか?」

「どうでしょう? 賭けます?」

「何をさ、人の恋路で賭け事って性格悪いな」

「恋愛映画があるように、人の恋愛を見るのはエンタメですからね」

「いい性格してるよ……」

「知ってます」



 口角を上げるだけの笑顔。

 他の顔のパーツは微動だにしていない。

 それでも、それだけでも彼女は本当に笑っている証拠でもある。



「山辺さんが神楽先輩のことどうしたいのかって話」

「僕が聞いたやつ?」

「はい。あれには感情がこもっていたので、山辺さんは今も強く想っていると思います」

「想いだけで突っ走れるものなのか?」

「障害がないんですから、戦うべきですよ。私もそうです」

「みんなが夏菜のように強くはないんじゃないか?」

「大丈夫です、山辺さんなら」



 僕には判断出来ない。

 でも彼女が言うのだから、そうなんだろうと。

 深く考えず信じてしまいそうになる。



「で、具体的にはただ見てればいいのか?」

「それでは先輩がポンコツなままなので」



 先程のまでポンコツを発揮していたのは彼女のほうだろう。

 今はもうその姿はなく、普段どおり。

 なにか切っ掛けがあったのだろうか。

 疑問に思う必要もない4人で話した会話。



「山辺さんの間近で、時には彼の手伝いをしてください。私も手伝いますので」

「わかった」

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