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ぽんこつ組

 昼食は4人で。

 昼休みに入った直後に夏菜からわざわざメッセージが届く。

 司にも届いていたようで4限目が終わり自然と彼と視線が合致する。

 二人無言で廊下を歩き、約束した学食の前。



「あ、渉先輩」

「どうしたの?」



 麗奈ちゃんに話掛けられるが、僕らにメッセージ送ってきた本人の姿が見えない。

 と、思ったがどうやら麗奈ちゃんの後ろにいた。



「これポンコツになってます」



 ぐいっと、後ろで隠れていた夏菜を僕につき出す。

 顔を合わせてくれない。

 回り込んで顔を見てやろうとちょっかいを出すが、全部外される。



「どうしたのこれ?」

「渉先輩が壊したんですよ」

「壊れたいうな、アホ麗奈」

「アホは夏菜じゃん。つか、声ちっさ」

「幼児退行したみたい」



 これは僕の感想。

 僕からの視線に、もじもじと内股をこすり合わせる。

 普段の彼女からは想像も出来ない仕草。



「渉先輩、これ引き取ってくださいよぉ」

「あ、うん」



 と言ってもどうすればいいかわからない。



「せ、先輩。ちょっとだけ、待ってもらえます?」



 目の前で深呼吸。



「どうぞ」



 両手を前に。

 子供が親にハグを求めるような格好。

 夏菜の奇行に困惑。

 なんだこの可愛い生き物。

 猫科の捕食者だと思っていたが、その実子犬系の後輩だったかもしれない。

 麗奈ちゃんに助けを求める。



「これ萌えるごみなんで、家に持って帰ってどうぞ。十分に堪能してください」

「麗奈ちゃん親友じゃないの……」



 酷い言い草。



「夏菜?」

「な、なんですか?」

「僕の風邪移った?」



 後ろの二人。

 司にと麗奈ちゃんが爆笑している。



「で。これ本当にどうしたの? 朝まで普通だったよね?」

「私が言っていいんっすかね?」



 首を傾げる麗奈ちゃん。

 彼女のピアスが小さく音を立てる。



「駄目、私が言う」



 また、深呼吸。

 先程よりも長く。

 なんとも言えない表情。

 まるでそれは普通の少女のようなもの。



「先輩が私を、その。意識しているような発言したからですよ」

「そうだった。結局、相手誰? 聞きそびれた」

「父さんですよ」

「引掛け問題かなにかなの」

「安心しました?」

「うん」

「……うっ」



 彼女は喉になにか詰まったように呼吸が止まった。



「渉先輩。この子攻めには慣れてきましたけど、守りは胸でかいのに紙装甲なんで御手柔らかにね」



 隣で夏菜が麗奈ちゃんを小突いてる。

 胸は関係ないとご立腹。



「僕、攻めてないけど」

「先輩はド天然のボケボケですから」

「あぁ、夏菜が言ってたのはこれかぁ。手に負えないわ」



 蚊帳の外。

 馬鹿にされています。

 もう一人、疎外さていたであろう司は。

 腹を抱えて、涙ぐんで、沈んでいる。

 ぴくぴくしていて、必死の形相。

 このメンバー駄目かも。



「とりあえず、話は後にして昼食にしない?」



 学食に辿り着いたものの、食券すら買ってない。

 僕の一声でどうにか収拾し、ようやく前に進む。



「夏菜奢ろうか?」

「自分で払いますけど、急にどうしたんですか?」

「土日のお礼したくてさ」



 考える仕草を見せるのものの、解答はすぐに出る。



「今度デートした時に奢ってください」

「わかった」

「素直過ぎませんか?」

「じゃ、やめる?」

「嫌です、します」



 食い気味の即答。

 ちょっと引き気味になる僕。

 誤魔化すように咳払い。

 食券を買って、カウンターへ。

 消化にいいものとしてうどんを注文。

 このチョイスに怒られないだろうか、横目で彼女をチラリと眺めるが、特に変化はない。

 夏菜はバランスのいい定食を受け取る。

 サラダを半分、小皿を持ってきて僕のトレーに置く。

 食えということらしい。

 トマトは苦手なのでそれだけ返す。

 司は丼物。

 麗奈ちゃんはお手製の弁当と。



「夏菜さ」

「はい。あ、これどうぞ」



 七味唐辛子を受け取る。



「さんきゅ。僕には文句言うけど、司も基本同じものしか頼んでないよ。ほいっ」



 お茶を淹れて渡す。

 ついでに使い終わった七味唐辛子を返す。



「ありがとうございます。山辺さんは別に、一人暮らしじゃないですよね?」

「え、あ? うん」



 急に話を振られて困惑している。



「それで思い出しました。先輩、最近の夕食。インスタントばっかりでしたよね?」

「忙しかったから」

「駄目ですよ」

「わかってるんだけどね」

「何かに集中すると本当に駄目人間ですよね」



 麗奈ちゃんが驚いたようにこちらを見ている。

 司はいつも通り。



「司先輩、いつも二人ってこんなんなんですか?」

「そうだよ」

「驚かないんです?」

「最初だけだよ、もう夫婦みたいなもんだろ、こいつらのやり取り」

「聞こえてるんだけど」

「聞こえるように言ってんだよ」



 さいですか。



「俺も麗奈ちゃんも市ノ瀬ちゃん陣営だからな」

「何、敵?」

「敵って……。渉、お前。市ノ瀬ちゃんと一緒になったほうが幸せだろ」

「それ本人の前で言うか」



 夏菜ほど気立ての良い娘もいないだろう。

 もしかしたら春人さんや冬乃さんのように仲睦まじい夫婦にもなれるかもしれない。

 夫婦か……。

 思う所はある。

 小さな痛み。でも言葉にはしない。



「じゃないと逃げるだろ」

「逃げないよ……」



 僕らの周りには誰もいない。

 だから司も言い始めたのだろう。



「で、結局どうなの渉」

「どうって、まぁ前よりは恋愛に関してはわかってきたことはあるかな」



 正解はない。

 ただ間違いはある。

 人それぞれの恋愛の形がある。

 夏菜が僕に向けるもの。

 強い気持ちで、僕を優先してくれる。

 中村のように自己顕示欲。

 多分、あれは夏菜を一種のステータスに思っている節があった。

 間違いなく間違い。



「ほーん。で?」

「で、とは?」

「市ノ瀬ちゃんのことどう思ってんの?」



 3人の目がこちらを向く。

 1人は真剣に。



「わかんない。好きだとは思うよ、人として。そして憧れもある」

「憧れですか?」



 夏菜はきょとんとして、僕に尋ねる。



「才能があって努力を怠らないところに憧れてる。強いところも優しいところも、僕のことを真剣に落とそうとする気概に憧れてるよ。僕は夏菜のようにはなれないから」



 けれど、あの日。

 体育館で熱に支配された状態で、僕の告げた『夏菜は僕のモノだ』という、その言葉を考えると感情を持て余してしまう。

 今朝のことも結局は嫉妬だろう。

 本当に好きなのだろうか。


 隣に座る彼女をじっと眺める。

 可愛いとは思う。

 一緒にいても気を使わない程度に性格の相性もいいのだと思う。 

 だけどそれだけ。



「まぁ、市ノ瀬ちゃんは見た目も何もかもがずば抜けてるからな、憧れたっておかしくないだろ」



 ただ。

 と、司は前置く。



「憧れながらも好きになることだってあるだろ。イコールじゃないだろ」

「そう、なのかな」

「お前は深く考えすぎなんだよ。シンプルでいいと思うけどな」



 深く考えすぎ。

 シンプルに、か。

 ならば答えは簡単だ。

 好きか嫌いか。


 ここでまず躓くのだ。

 一緒にいて楽しいから好き。

 司に対することと同じ、どちらもずっと一緒にいたいと思う。

 差はない。

 そもそも友人二人を比べるの失礼だと思う。


 夏菜に独占欲が沸いている。

 けど、司も僕以外に仲のいい男子がいるとすれば、それはそれで仄暗い感情を持ちそうな気がする。

 子どもの我儘。

 夏菜が僕のことを子供のまま成長した大人だと称したことがある。

 肉体年齢と心の年齢の乖離。

 知識が増えて、こうじゃないあれじゃない。こうである。と予測は出来る。


 ただ、この二人急に接近して付き合うようになったらと考える。

 なんだかんだお似合いじゃないかな。

 素直に祝福は出来る。

 でも疎外感は感じてしまいそう。



「悩んでるなお前」



 司が苦笑いを浮かべて、僕の額を軽く叩く。

 今考えたことを、最後を除いて全て正直に話してみた。



「あいたっ」

「真面目か」



 今度は強く叩かれてしまった。

 すると夏菜が間を取り持ってくれる。



「山辺さん。先輩はこんな人ですよ。焦らせないであげてください」

「市ノ瀬ちゃんはそれでいいの?」

「はい、少し時間がかかっても私の勝ちは揺るがないと思います」

「そっか」



 何故か穏やかな空気が流れる。

 二人して僕を子供のように見守る視線。



「渉ばっかり話をさせるのはフェアじゃないし、お前の参考になるか知らないけど」



 司の表情が変わる。

 ふざけた顔はなく真剣。



「私達、席外れましょうか?」

「大した話じゃないからいいよ、そのままで」

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