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べたっべたー

 バスケの練習と中間試験の勉強、オマケにバイト。

 なんとか両立しつつ、中間試験。

 終わってしまえば、あっという間。

 クラス中が開放感に溢れていて賑やかだ。

 僕もほっとする。

 ここ数日、身体が重いまま。

 勉強に割く時間が減ったのだから、少しは体調も戻るだろう。

 運動している時はテンションが高く、身体の動きもいいのが不思議なくらい。


 試験の結果は一週間後ぐらい。

 授業で一枚ずつ返される。

 点数が良ければ廊下に順位が張り出されるが、それも全て帰ってきた頃に張り出されるから意味はなさない。

 終わったことはもういい。


 次はバスケだ。

 夏菜のお陰で現役に近い動きができるようになった上に新しい技まで手に入れた。

 早く試してみたいとわくわくしている自分がいたが、僕があまり深く考えないで勝負を受けたことを後悔することになる。


 放課後、下駄箱に向かう途中の廊下。

 また中村に呼び出された。

 試合の日が決まっただけだと思ったのだけれど、それだけではないようだった。



「それで金曜日に勝負するのはいいんだけど、なにかあるの」



 下駄箱から遠く離れた、体育館裏の焼却炉。

 僕と中村の二人だけ。

 わざわざ人通りのない場所に連れて来られたのだ、人に聞かれたくない事でもあるのでは、と疑うのも無理からぬ話。



「折角勝負するんっすから、条件つけるのどうっすか?」

「条件?」



 ルールでも縛るのだろうか。



「俺が勝ったら、市ノ瀬さんに近づくのやめてくれないっすか」



 あぁ、そういう。



「ベタだなぁ……」



 これを言うのは、4回目。

 正確には僕が言うのは3回目。

 相手が違うけど。

 しかも恋愛絡み。

 本当に今までの中で1番ベタだな。



「はぁ!?」

「いや悪い。こっちの話、怒らせるつもりはないよ」



 ここまで、僕に面と向かって言うのだ。

 夏菜のことを好きなのはわかる。

 手段や方法はどうだろう。

 そして、肝心の。



「それは夏菜の気持ちを無視してない?」



 モノ扱いしていたことを僕は忘れてない。

 結構根に持っている。



「今、市ノ瀬さんいないじゃん」



 いないからって無視していいわけではないだろう。

 勝手に賭け事の対象になるのだ。

 いい気分はしない。



「男同士の真剣勝負」



 にやりと、挑発するような中村の顔。

 ムカついてくるが我慢する。



「で、僕が勝ったら?」

「乗る気になったんっすか」

「とりあえず聞いてるだけだよ」



 現役選手が引退した選手に挑発してるのだ。

 どちらかと言えば中村の方に分がある。

 高校生にもなると、1歳というアドバンテージは消えている。

 バスケは背の高い選手が有利なスポーツだ。

 その点でも僕は負けている。



「アンタが勝てるとは思えないっすけど、俺も市ノ瀬さんに近づくのやめるよ」



 こいつ、わかってて僕に勝負挑んできたのか。

 いい性格している。



「俺が勝って大事に扱うから」

「はぁ……」



 思わずため息が漏れる。



「どっちか勝ったとしても、夏菜の行動を縛れるわけじゃないからな……」

「なに当たり前のこと言ってんっすか?」



 本当にわかってるのか不安になる。

 僕が負けたとしても、夏菜が中村を選ぶとは限らない。

 賭けの対象を夏菜を貰うとかだったら、僕はこの勝負を汚名を貰っても受けるつもりはなかったけど、気が変わった。

 こんな奴、夏菜の傍に居るべきじゃない。

 どこまでも自分勝手。

 中1からレギュラーを張っていて戦力としていた点は素直に尊敬する。

 うちの主戦力だった。

 顔も良く、この学校にいるぐらいだ頭もいいのだろう。

 でも、夏菜のことを尊重しないようなら、僕が鼻っ柱を折ってやる。


 ま、僕も自分勝手なんだけどね。

 自分のことを棚に上げるのは得意中の得意。



 ※



「というわけでございまして」



 自分の部屋のフローリング。

 夏菜の目の前で正座をしている。

 こんなことになってしまって、彼女に秘密のままにしておけなくて謝罪を込める。

 当初はこんなくだらない話、黙っておいて内々に片付けるつもりでもあったけれど、もう僕だけの話ではない。

 少なからず彼女が関わる。

 


「はぁ……。アホですか」

「馬鹿とクズとかろくでなしとか付け足してどうぞ」

「そこまで言いませんよ」



 やれやれと言うように再度ため息を吐くと、僕の正面に女の子座り。



「私のことで怒ってくれたんですよね?」

「まぁ、そーねー……」

「目を逸らさないでください」



 顔を両手で掴まれる。

 結構力強い。

 華奢なのに。

 握力は女の子なのに30以上ありそう。



「その通りです、はい」

「先輩が負けるとは思えないので別にいいですけど」

「それはちょっと中村を甘くみてない?」

「負けるつもりですか?」

「いや、勝つけど」

「ならいいですよ」



 ようやく僕の顔から手が離れた。

 結構冷たくて気持ちよかったのは内緒。



「あっさりしてるね」

「いえ、どちらかと言えば嬉しいほうが勝っているので」

「なんで?」

「私のことで怒ってくれるってことは、私のこと大事だと思っているってことですよね?」

「そうだけど」

「……嫌いです」

「なんで急に嫌われるのさ」

「自分で考えてください」



 そっぽ向かれてしまった。

 最近髪が伸びているので、判断材料になっている耳元が見えない。

 肩につくかどうか。

 パーマも毛先に掛けているから分かり辛いのだけど、横髪が完全に肩に触れている。



「夏菜、髪伸びたね」

「……? 確かに伸びてますね」



 鏡で自分の髪を撫でながら確認している。



「よくわかりましたね。私、気付かなかったですけど」

「結構見てるからね」

「……なんなんですか、今日の先輩」

「なんでこんなに怒れるの」



 怒られるつもりではいたけど。

 謂れのない怒りは困る。



「話、戻しますよ」

「うっす」



 正座を崩して、ちゃんと話を聞く体勢になる。



「先輩たちが賭けたのは、自分たちの行動で、私の行動をじゃないんですよね?」

「うん。それだったら受けなかったよ」

「まぁ先輩のことですから、深く考えないまでもBETするのは自分だけですよね」

「だって嫌だろ? これでも結構悩んだほうだよ。夏菜に近づかないって賭けでもさぁ、夏菜が絡んでるし」



 僕、単体。

 自殺しろってことなら流石に受けはしないが。

 無茶なこと以外なら別に構わない。

 他人に責任を負えないから、こういう賭けは嫌いだ。



「少し悲しくはありますけどね」



 人差し指が唇に触れる。

 考え事まではわからないが、考えていることはわかる。



「ごめんって」

「そうじゃないですよ。私のことで賭けれないってことは、まだ私は先輩の一部になれて無いことの裏返しじゃないですか」

「それは無理だよ」

「そうですか?」



 例えば、夏菜と誰かが勝負して何かを賭ける。

 この場合は僕という存在でもいい。

 春人さんや冬乃さんは、流石に重すぎて対象外にしよう。

 僕の所在を賭けるとしたら?



「徹底的に潰しますね」

「……」



 夏菜に聞いたのが間違いだったかもしれない。

 絶対的、強者だ。



「私にも出来ないこともありますけど、邪道でもなんでも使って勝ちますね」

「僕にはない発想だね……」



 正々堂々と。

 夏菜と勝負するときも。



「相手によりますよ? 私だって先輩のように馬鹿なら」

「……」



 あえてなにも言わない。

 だって実際そうなんだから。



「先輩みたいな馬鹿正直なら、私も正面切ってやりますけど」



 言い直す必要あっただろうか。

 馬鹿を言いたいだけじゃないだろうか。

 疑心暗鬼を生じる。



「中村くんでしたっけ? そんなことを言い出すようなら私は容赦しないですよ」



 言葉を区切る。

 真剣な表情。



「なので、先輩は先輩の戦い方でいいので、絶対に勝ってください」

「うん」

「なら、私のことは好きにしていいので」

「それはやっぱり無理かなぁ……」



 夏菜をコインにするには荷が重い。

 なんなら夏菜がプレイヤーで僕がコインのほうが気持ちは楽。

 彼女の勝利は揺るがない。

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