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無自覚

 3日目となると、ちょっとだけ暇に感じるようになってきた。

 隣を見ればいつも無表情な顔がない。

 ここ数週間の夏菜のアプローチが効いてきたとも言える結果かもしれない。

 絶対本人には言わないが。

 彼女の得意気な顔を連想。

 ちょっとムカつくな。

 現実の夏菜はそんな顔はせず、ちょっと小馬鹿にしたように口角だけあがり、細目になる。

 あれはあれで苛立ちを覚えるが。 


 彼女も彼女だ。

 珍しく連絡もよこさな、……あそこ電波悪いんだったな。

 来るわけがない。


 去年、僕もあの環境ではスマホを取り出すことすらなくなっていた。

 あの時は連絡の繋がらない僕に、夏菜はイジケたようにも見える態度で『先輩ならどうにかしてください』と、無茶なことを言ってた。

 元々僕はあまり携帯を見ない。

 中学でもそう。

 夏菜は何も言わなかったが、不満の顔を向けられていたことはわかっていた。

 一週間後に返事したときは流石に怒られたっけな。

 懐かしい思い出だ。


 僕が林間学校から帰ってきたのは午後の夕暮れ時だった筈だ。

 今年もそうであるとして、今日も夏菜に会うことはないだろう。

 校門の前でバスが止まって、そのまま解散の流れ。

 放課後待ってようかと、少し悩む。

 考えても仕方ないか。

 今日は一人で昼食を摂りながら夏菜のことばかり考える。

 長い付き合いだけど、こんな日はあっただろうか。



 放課後になり、まだ空は青く澄んでいる。

 学校の坂道を遠目に眺めるが、まだ帰ってきてはいないようだ。

 手持ち無沙汰で部室に寄ってみることにしたが、神楽先輩も今日は居らず、鍵が掛かっている。

 職員室で鍵を取りに行くほどの理由ではないため、また教室に戻る。



「どうした渉?」

「え?」



 廊下をゆっくりと歩く、帰宅したと思われた司に声を掛けられて驚く。



「挙動不審者だぞ」

「そんなに? 確かに暇を持て余してるけど」

「なんか、そわそわしているというか」



 司は廊下の壁を背もたれに、染めた髪を掻き上げる。



「司こそどうしたんだよ。帰ったと思ってたけど」

「俺は雅にようがあったからな、途中まで一緒にいただけ」

「神楽先輩?」



 部室にはいなかったからそういうことか。

 司と神楽先輩は幼馴染みと聞いている。

 話しを聞きながらも、たまに司の隣にある窓を眺める。



「だいたいわかった」

「何が?」

「面白そうなことになってることが」



 へらへらした顔で司だけ満足して去っていく。

 なんだったのだろう。



「まぁいいか」



 何を考えているのかわからないのは、いつもの事だ。

 小さくなる司の背が消えるまで見送る。


 教室に戻り、窓際の後ろから3番目。

 席に座り頬杖をついて、外を眺める。

 時刻は18時を過ぎたところ。

 黄昏の空。

 オレンジ色の空を見ると、寂寥感に襲われる。

 憂鬱が始まり、学生である僕らの一日の終わりとも言える色。

 春の季節でもこの時間は、寂しさが心の隙間に忍び込む。


 哀愁を一通り楽しみ、待つこともにも飽きて校舎をあとにする。

 靴を履き替えて歩き出すと、タイミングよくバスのエンジンの低い音が校庭に響く。


 高揚感。

 いや、なんだろう。

 この気持ち。

 緩む顔を抑えて、バスに向かう。


 A組が先頭で校門の前に止まる。

 彼女はA組ということで、このバスに乗っているのだろうが遠くからでは分かり辛い。

 バスとすれ違う瞬間に一番うしろに赤茶色のミディアムサイズの髪が見える。

 彼女の横顔。

 友達である亜麻色も見えて、どうやら談笑しているようだ。

 珍しい表情。

 警戒心がない。

 本当に仲の良さがわかる。


 僕の視線に気付いたのか、彼女はこちらを振り返ると、指先で校門を示す。

 どうやらそこで待っていろという事らしい。

 悪戯心が湧き上がり気にせず家路を進もうとすると、夏菜の表情が慌てた様子に変わる。

 僕から視線を外して下を向く。

 直後に僕のスマホが震えた。



『なんで帰ろうとするんですか』

『なんとなく』

『あんまり意地悪すると本気で泣きますからね』



 夏菜の泣いた姿など想像できないが、本当に泣かれると学校での居場所がなくなりそう。

 彼女が入学してから1ヶ月しか経っていないというのに、もうすでに学校内では有名人になっている。

 仲の良いと思われる僕のもとに彼女の情報を引き出そうとして、知らない男子から声を掛かることが往々にしてある。

 僕も面倒だと思っているし、昔から夏菜も嫌そうにしていたから、適当にはぐらかしていた。


 校門まで戻り、花壇の塀を椅子変わりにして待つと。

 携帯は静かに黙る。



「お待たせしました」



 小走りで夏菜が寄ってくる。

 私服の彼女。

 スットキングの変わりにレギンス。

 ローファーの変わりにバッシュ。

 久しぶりにバッシュを履いている夏菜を見た気がする。

 彼女から大きな鞄を受け取り、家路を進む。



「今日、先輩の家に泊まってもいいですか?」

「どうしたの?」

「流石に山歩きで疲れたので、早く休みたくて」



 普段使わない筋肉を使う。

 僕も去年、帰宅そうそうに倒れるように眠った。



「いいよ」



 明日は土曜日。

 ゆっくり休んでもらおう。

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