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二日目

 林間学校二日目、明日の夕方には夏菜が帰ってくる。

 昨夜夕食を抜いたことがバレたならば、どんな目に合うかわからない。

 真実を知っているのは僕一人。

 なかったことに出来る。


 学校が終わり、バイトの時間。

 春人さんにもバレないようにしないといけない。

 直様報告されて、僕に悲劇が訪れてしまう。


 一時的に忙しくなるのは予定通りだが、ずっと入れ代わりになるようにして、客足は途絶えない。

 本来の閉店時間まて働くことになってしまった。

 これが通常営業。



「夏菜はいないが、今日は泊まっていくか?」



 掃除の途中、仕込みを終えた春人さんがフロアに出てくる。

 モップの柄を両手でつつみ顎を乗せる。

 会話に身を任せることにした。


 静まり返るカフェのフロア。

 薄暗い暖色の照明。

 夜は大人な雰囲気がある。

 けれどお酒は出していないので雰囲気だけだ。


 春人さんがこのカフェを譲り受け、しばらくは深夜まで営業していたらしいのだが、夏菜が生まれてからは21時までの営業に変わったらしい。

 その名残で夜はBARのように見える。

 一見さんには勘違いされることも度々起きる。

 


「いえ、今日は帰ります」

「やっぱり夏菜がいないと駄目?」

「関係ないっすよ」



 そんなことはない。

 夏菜がいなくても一ノ瀬の家は居心地がいい。

 賞味期限が近いものがいくつかあるので、それを消費したいだけだ。

 ただ、同じ料理をまとめて作って保存するという事を禁止されてしまったので、毎日夕食を作ることに。



「それは夏菜じゃなくても心配するよ」



 これには春人さんも苦笑い。



「娘が渉の家に泊まるようになったのは正解かもな」

「すんません、お世話になってます」

「言い出した時は少し心配にもなったが」



 子供を心配する親の姿。

 慈しむというのだろうか、そんな表情。

 優しさに溢れている。



「あの行動力は冬乃に似たかなぁ」

「冬乃さんですか?」



 たまに驚かせる発言をするが、そんな風には見えない。

 大和撫子というのが冬乃さんの印象。



「そう。助言を求めず決めたことを実行する、良いか悪いかまで考えずにそのままやり遂げるんだよ」



 困ったものだね。と、春人さんは懐かしむように笑う。

 高1の娘を持つ夫婦だ、過去にも色々あったのだと思う。

 大学生の頃から交際して、ずっと一緒だと夏菜に聞いた。



「本当に冬乃に似たっていうなら、周りが見えなくなって自分のやったことで、色々と後悔して悩むこともあるだろうから、その時に渉が隣にいたのであれば頼むね」

「……はぁ」

「わからなくてもいいよ」



 春人さんは僕に近寄って、軽く肩を数回叩く。



「娘を泣かせたら許さない」



 と、急に声色を変えた春人さん。

 僕はびっくりして、モップを倒しそうになるが、なんとか堪える。

 初めて聞く、春人さんの真剣な声。

 いつも冗談交じりで明るいモノとのギャップで息が詰まる。



「なーんてね、そんなことは言わないよ」

「冗談ですか?」



 にしては感情が乗っていたようにも見える。



「恋人なんて喧嘩もするもんだし、お互い譲れないところも出るだろうからさ」

「春人さん達も?」

「そりゃそうだよ。他人同士が一緒になるんだ、様々な想いや行動が重なって今の形になる。最初から出来上がってるものなんてないよ。特に人間関係なんて見えないモノは特に」

「……わかんないっす」

「夏菜の事を本当に好きなったらわかることだよ」



 僕には荷が重すぎる。



「それより、本当にって?」

「まだ付き合ってないだろお前たち」

「わかるんですか?」

「自分の子供のことだ、わかるよ」



 顎を人差し指と親指で挟むようにして撫でる春人さん。

 それは夏菜が何かを考えている時の仕草に似ていて、親子だなぁーという感想が出た。

 微笑ましくて笑ってしまう。



「まだ夏菜の独り相撲ってところだろう。……でも、時間の問題だな」

「僕が夏菜に落ちるってことですか」



 僕の質問に、春人さんは盛大に笑う。



「うちの娘は可愛いからな」



 ただの親馬鹿だった。


 司に神楽先輩、オマケに夏菜の親である春人さんにまで。

 冬乃さんも彼女の力を貸しているところを考えると。

 夏菜の戦力は高い。

 外堀すら埋められているようにも。


 本気になった彼女は手強いと常々思っていたが。

 こと人間関係。

 恋愛に関しても手を抜かないのは流石だとなぁーって、他人事のような感想を抱いた。

 どうやら学校で常に僕の隣にいたのは、周りへのアピールでもあるのだと気付いた。

 あんだけ夏菜のことを聞かれるのだ。

 それが狙い通りだとわかる。


 ただ、僕は僕のペースで知識をつけていくつもりだ。

 知識は武器でもあり砦でもある。

 舞台に上がるにはまだ早い。

 

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