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ワンセット

 流石に夏菜も毎日の様に僕の家に来るわけではなく、週1、2回あるかないかだ。

 結局はバイトもあり、お互いに関われる時間というのは思ったよりも少ない。

 けれど、彼女に家に泊まることも考えると週4日前後は一緒に過ごしていることになる。

 本当に不思議な関係。

 彼女がもたらしたものだ。


 入学シーズンも一段落した5月。

 夏菜の友達と昼食を一緒にするのは林間学校が終わってからということになり、司も快諾してくれた。

 そして今日。

 1年はその林間学校に出発する。



「先輩、荷物ありがとうございます」

「うん。じゃ気をつけて」

「はい」



 駅から荷物を預かり、一年の集合場所になっている正門付近の広場まで送る。

 見送りはあっさりしたもので、何か小言を言われるのかと構えていたが、その心配もないようだった。

 一人になって校内に入ると、学園の3分の1がいないだけで静かなものだと感じる。

 自分のクラスにたどり着くものの、やはり司はまだ登校しておらず、1限目に使う教科書を枕にして惰眠を貪る。

 チャイムを目覚ましがわりに。


 そして、いつも通りの授業。

 ノートに書き写すだけの作業を繰り返し、予習と復習。

 自宅で勉強をしたところで勘違いしている箇所を修正しながら、新しく出てきた部分は真剣に聞くことにしている。

 空腹で集中力が切れてきたところで4限目が終わり。

 約束もしてないのに司と合流して、二人で学食に向かった。



「一ノ瀬ちゃんがいないのも、なんだか変な感じするよな」

「そう?」



 毎日一緒に昼食を取っているわけではない。

 夏菜が友達と過ごすこともあるし、司がいない時もある。

 両方いなくて一人の時もある。



「渉の隣には一ノ瀬ちゃんがいるのが当たり前になってきてたから」

「あんまり変わった気はしないけどなぁ」



 変わったことと言えば、夏菜が僕の家に泊まるようになったことぐらいだ。

 それも大きな変化とは正直考えていない。

 中学から一緒にいることのほうが多かったように思う。

 いや、むしろ元の形に戻ったというほうが近い。

 僕が卒業してから、通う学校が違うことで中学の頃よりは疎遠になった。

 バイト先に手伝いに来ていたこともあって、完全に会えなくなったわけでもなかったが、部活後に恒例になった1on1をやる機会がなくなっただけ。

 その終わりに一緒に下校することもなくなった。


 違ったように見えるのは、中学の頃よりも高校では、自分の取れる選択肢が増えたことだと思う。

 給食から、弁当か学食。

 食べる場所の変化だ。

 部活にも入らないことで自由に使える時間も増えた。



「ま、それだけ一ノ瀬ちゃんがいるのが当たり前なんだよお前」

「それはそうかもしれない」

「どうすんの? 彼女が他の男に意識向いたら」

「どうもしないんじゃないかな」



 学食にたどり着く。

 朝にも思ったことだけれど、一年がいないため広い食堂が更に広く感じる。

 夏菜に怒られて以降、日替わり定食に切り替えた僕。

 塩サバ定食になる時だけは肉うどん。



「あっさりしてるなぁ……」

「夏菜との出会いは棚ぼたみたいなものだったし、彼女が幸せになるならそれが1番じゃない?」



 僕の幸せというのなら、あまり考えていない。

 彼女を拘束するほうが辛いと、今は思う。

 そう思えるだけ僕の成長。

 他人に興味がないわけではない。

 でも他人の幸福を願うことはなかっただろう。



「主張がないというか、自己がないというか」

「人付き合いが下手なんだよ、僕」



 小学校の頃、親が離婚してから友達は一人もいなかった。

 僕の母親と呼べた存在の悪評は小さな学区では恐ろしく早いスピードで広まり、親は子を大事に思い、僕という存在から遠ざけた。

 父親が帰ってこないこともあって、言語発達に遅れが生じてしまったのも友達が出来ない原因になっていたと今では理解している。

 母だったものとは、まともに会話した記憶がない。

 おかげで一人ぼっちで運動や勉強ばかりしていたおかげで、言語以外の部分では一つ頭が抜けていた。


 一人称が幼いって言われたこともあるが、人とまともに会話を始めたのが中学に上がる頃だ。

 男子と女子に大きな違いもわからなかったから、夏菜という僕とは真逆の意味で一人だった彼女に話し掛けられたのは、それもあってのことだ。

 今では恐れ多いと思う。

 思い出すとかなり近寄りがたい雰囲気を彼女は纏っていた。

 孤高の存在だった。

 夏菜が子供の心のまま大人になったと僕を称したが、それは的を射ている。



「そういえば司はなんで僕と一緒にいるの?」



 僕の疑問に司は変な顔している。



「なんでって友達だからだろ」

「どうやって仲良くなったのかなって」



 司は僕の初めての友達だ。



「流石に忘れたな。変なやつだなって感想から面白いやつだなに変わった感じ」

「ふーん」

「自分で聞いといて興味なさそうだな」

「不思議だなって」

「不思議なのは渉だよ」



 カウンターで注文を受け取り、選び放題な席に座る。

 今日の日替わりは生姜焼き定食。

 少し味が濃いところを除けば満足な味。

 夏菜や春人さんの料理を食べてきたことで舌が肥えてきた。



「ま、思ったこと口に出すところ渉の長所だよ」

「そっかな」

「短所でもあるけどな」

「……そうだね」



 それで怒られる。

 最低だとか、変態だとか、最悪とか。



「一ノ瀬ちゃんも苦労してるな」

「悪いとは思ってるよ」

「渉はそれでいいけどな、裏表の無い人間って俺は結構好きだから」

「夏菜に苦労かけてるのに?」



 司はお茶を音を立てながら啜る。

 熱いとそうなるよね。

 僕も学食で用意されているお茶を飲むとそうなる。



「面倒なところ含めて惚れてるんだろ」

「そんなもんなのかな」

「自分の全てをさらけ出して、惚れられるんだから幸せなことだろうよ」



 隠し事はするが、夏菜にはほぼ知られていることのほうが多い。

 一緒にいて安心するのは、ただの好意だけを向けてくれるからかもしれない。



「わかってるよ」

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