目覚めはゆっくりと
目覚ましのけたたましい音が鳴り響く。
無意識でアラーム止めて、光から逃げるように顔を布団に埋める。
最初の音からは30分はまだ眠れる。
次のアラームからも更に30分寝れる。
濁る思考の中で、ずさんな時間の管理。
「びっくりした。……アラーム掛けてるのに起きる気配ないし」
夏菜の声。
夢の続きだろうか。
気持ちのいい微睡みの中で、身近に彼女の気配を近くに感じる。
夢の中で夢を見る。
布団越しにやさしく叩かれた。
「よかった」
何がいいのか。
「んーっ」
寝起きなのか、伸びをしているようでくぐもった声がする。
布団の中では呼吸が辛くなり、顔だけ外気に触れると、一度薄目を開く。
椅子に座る赤茶色の髪の少女。
パーカーに下半身は水色のショーツだけ。
手には薄いナイロン。
纏めたスットキングを両足に合わせて交互に上げていく。
膝ほどまで進むと彼女は立ち上がり、また同じ様にゆっくり進める。
程よく肉のついた形の良いお尻がこちらを向いた。
更にストッキングは腰の当たりまで上がっていくと、お尻を持ち上げるような形になり、柔らかそうなそれが揺れる。
薄いそれは履き終えても透けて見えるもので、水色の下着もはっきりと見えている。
「少し筋肉落ちてきたかな」
自分の脚を椅子に乗せてじっくりと眺めている。
硬そうなイメージはないが、僕のクラスの女子と比べると少しだけ筋張っている。
傷もなく真っ直ぐな脚線美。
ストッキングを履くことで更に美脚感が増しているように見える。
夢にしては声も眺めている肢体も生々しい。
昨夜の事を徐々に思い出していき、これ夢じゃないなって自覚したところで、眠気に負けてしまう。
重い瞼は自然に閉じた。
着替えを最後まで見ることなく眠りに落ちた。
何度目かのアラームの後、ようやく重たい身体を起こす。
隣を見ても夏菜の姿はなく、布団も綺麗に畳まれている。
制服はなく、寝間着も見えない。
よろよろとベッドから這いずるように出ると、扉が開く。
エプロン姿の夏菜だ。
「起きましたか? ねぼすけさん」
「うん、おはよう」
「おはようございます」
僕の頭を、小さく背伸びしながら撫で付ける。
笑っているように見える。
「アホ毛出来てますね」
「顔洗うついでに直すよ」
「朝食出来てますので、着替えてからリビングに来てください」
「了解」
洗面所で自分の顔を見ると、本当にアホ毛が出来ていて、動きに合わせてぴょこぴょこ揺れる。
ちょっとだけ直すのは勿体ないと考えてしまったが、夏菜の呆れた視線を想像して、しっかり直して顔と歯を洗う。
リビングに顔を出してテーブルに着くと、キッチンから淹れたばかりのコーヒーと、ふわふわなスクランブルエッグにソーセージ、サラダ。
スープに綺麗に焼けた食パン。
ホテルに出されるような朝食が出てきた。
「手間はかかっていませんので」
何も言わずに僕の表情を見て、答えてくる。
「いただきます」
「どうぞ」
夏菜もエプロンのまま、向かいの席に座ると一緒に朝食をとる。
「先輩っていっつもあんなにアラーム設定してるんですか?」
食パンにバターを塗っていると、夏菜から当然のように質問される。
30分ごとになり、時間ぎりぎりになるにつれて、間隔も5分刻みになる。
そうしないと、どうしても僕は起きれないのだ。
一度だけ家を出る10分前だけのアラームを設定したところ、盛大に遅刻してしまってからは、このアラーム設定を変えていない。
「病気ですか?」
「至って健康」
春の陽気もあるだろうが、基本的に僕はのんびり屋なのだ。
「先輩ってところどころボケてますよね」
「幻滅した?」
間を置かず、夏菜は答える。
最初から用意していたかのように。
「いえ、私が隣にいないと駄目だと思いました」
彼女の瞳には僕が映っている。
なんともマヌケな顔をしている。
身体に熱が伝わる、気恥ずかしい。
隣という言葉を強調する彼女。
真っ直ぐな視線に真っ直ぐな言葉。
決して逸らさない。
眠たそうな瞳には力が宿っている。
「先輩って、やっぱり直接的な言葉のほうが効きますね」
「そうだね。思い知ったよ」
夏菜はまだこちらをずっと見つめている。
「でも、夏菜」
「はい」
虚をつかれたような顔。
眠たそうな目が見開いて、疑問を浮かべている。
「夏菜も赤いよ」
「……言わないでください」
怒ったようにも思える彼女の顔。
半眼になって睨まれる。
僕が笑って返すと、目を逸してそっぽを向く。




