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【連載版】すべてにおいて負ける僕が唯一勝利したこと  作者: 「」
一章 それでも続く穏やかな日常
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目覚めはゆっくりと

 目覚ましのけたたましい音が鳴り響く。

 無意識でアラーム止めて、光から逃げるように顔を布団に埋める。

 最初の音からは30分はまだ眠れる。

 次のアラームからも更に30分寝れる。

 濁る思考の中で、ずさんな時間の管理。



「びっくりした。……アラーム掛けてるのに起きる気配ないし」



 夏菜の声。

 夢の続きだろうか。

 気持ちのいい微睡みの中で、身近に彼女の気配を近くに感じる。

 夢の中で夢を見る。

 布団越しにやさしく叩かれた。



「よかった」



 何がいいのか。



「んーっ」



 寝起きなのか、伸びをしているようでくぐもった声がする。

 布団の中では呼吸が辛くなり、顔だけ外気に触れると、一度薄目を開く。

 椅子に座る赤茶色の髪の少女。

 パーカーに下半身は水色のショーツだけ。

 手には薄いナイロン。


 纏めたスットキングを両足に合わせて交互に上げていく。

 膝ほどまで進むと彼女は立ち上がり、また同じ様にゆっくり進める。

 程よく肉のついた形の良いお尻がこちらを向いた。

 更にストッキングは腰の当たりまで上がっていくと、お尻を持ち上げるような形になり、柔らかそうなそれが揺れる。

 薄いそれは履き終えても透けて見えるもので、水色の下着もはっきりと見えている。



「少し筋肉落ちてきたかな」



 自分の脚を椅子に乗せてじっくりと眺めている。

 硬そうなイメージはないが、僕のクラスの女子と比べると少しだけ筋張っている。

 傷もなく真っ直ぐな脚線美。

 ストッキングを履くことで更に美脚感が増しているように見える。


 夢にしては声も眺めている肢体も生々しい。

 昨夜の事を徐々に思い出していき、これ夢じゃないなって自覚したところで、眠気に負けてしまう。

 重い瞼は自然に閉じた。

 着替えを最後まで見ることなく眠りに落ちた。



 何度目かのアラームの後、ようやく重たい身体を起こす。

 隣を見ても夏菜の姿はなく、布団も綺麗に畳まれている。

 制服はなく、寝間着も見えない。

 よろよろとベッドから這いずるように出ると、扉が開く。

 エプロン姿の夏菜だ。



「起きましたか? ねぼすけさん」

「うん、おはよう」

「おはようございます」



 僕の頭を、小さく背伸びしながら撫で付ける。

 笑っているように見える。



「アホ毛出来てますね」

「顔洗うついでに直すよ」

「朝食出来てますので、着替えてからリビングに来てください」

「了解」



 洗面所で自分の顔を見ると、本当にアホ毛が出来ていて、動きに合わせてぴょこぴょこ揺れる。

 ちょっとだけ直すのは勿体ないと考えてしまったが、夏菜の呆れた視線を想像して、しっかり直して顔と歯を洗う。

 リビングに顔を出してテーブルに着くと、キッチンから淹れたばかりのコーヒーと、ふわふわなスクランブルエッグにソーセージ、サラダ。

 スープに綺麗に焼けた食パン。

 ホテルに出されるような朝食が出てきた。



「手間はかかっていませんので」



 何も言わずに僕の表情を見て、答えてくる。



「いただきます」

「どうぞ」



 夏菜もエプロンのまま、向かいの席に座ると一緒に朝食をとる。



「先輩っていっつもあんなにアラーム設定してるんですか?」



 食パンにバターを塗っていると、夏菜から当然のように質問される。

 30分ごとになり、時間ぎりぎりになるにつれて、間隔も5分刻みになる。

 そうしないと、どうしても僕は起きれないのだ。

 一度だけ家を出る10分前だけのアラームを設定したところ、盛大に遅刻してしまってからは、このアラーム設定を変えていない。




「病気ですか?」

「至って健康」



 春の陽気もあるだろうが、基本的に僕はのんびり屋なのだ。



「先輩ってところどころボケてますよね」

「幻滅した?」



 間を置かず、夏菜は答える。

 最初から用意していたかのように。



「いえ、私が隣にいないと駄目だと思いました」



 彼女の瞳には僕が映っている。

 なんともマヌケな顔をしている。

 身体に熱が伝わる、気恥ずかしい。


 隣という言葉を強調する彼女。

 真っ直ぐな視線に真っ直ぐな言葉。

 決して逸らさない。

 眠たそうな瞳には力が宿っている。



「先輩って、やっぱり直接的な言葉のほうが効きますね」

「そうだね。思い知ったよ」



 夏菜はまだこちらをずっと見つめている。



「でも、夏菜」

「はい」



 虚をつかれたような顔。

 眠たそうな目が見開いて、疑問を浮かべている。



「夏菜も赤いよ」

「……言わないでください」



 怒ったようにも思える彼女の顔。

 半眼になって睨まれる。

 僕が笑って返すと、目を逸してそっぽを向く。


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