流れ星に約束を②
夏菜が提案したデートは、会場の屋台で夕飯を買い込み、花火が綺麗に見える丘の上の公園だった。
いつかと同じ景色に関係性の変わった二人。
見える景色は同じで、感じる景色は少し違った。
日が暮れて月と星が眩く光る。
次第に公園にはカップルも増えていく。
前回と同じベンチで買ってきた物を並べる。
一応これが夕食となるのだが……。
「お弁当作ってきたほうが良かったですね」
眉が僅かに釣り上がり不満を表している。
言いたいことはわかる。
昔なら僕は美味しいと思って食べていただろうが、買ってからこの公園まで歩いてきて、少し冷えてしまった屋台の料理たち。
味付けも濃く、舌触りも微妙。
値段も高い。
褒めるべきところは特にない。
「お祭りはお祭りの良さはあるけれど、なんというか会場でもないから雰囲気で味わうということも出来ないしね」
「舌が肥えすぎましたね」
「うん」
「先輩との勝負で売上のことも考えるようになりましたが、これでお金を取るのは如何なものかと……」
「これはまぁ、一年に一度のって感じだし。需要は満たせているよ」
当たり前の話、買ってくれる人がいるから売れる。
味を期待している人もそうそういないだろう。
「まぁそうですね。値段に見合ったもの、それでいてちゃんと経営出来るための利益を上げる。簡単そうで難しい話です」
「そのためにはまず、どういう店にしたいか考えないとね」
すぐには決定出来ないだろう。
僕らまだ若く、経験も知識も足りない。
二人の時間はまだまだある。
「私たち成長しましたね」
「うん。おかげさまで」
これからも成長していくことだろう。
「んふふっ。私は何もしてないというと嘘になりますが、渉自身の力ですよ。一人だけ大人になって、私を負かすようになったんですから」
「大人になったって感じしないけどなぁ」
「何を言ってるんですか。私が負けた理由は渉を愛しすぎたから、でも渉が勝てた理由は貴方が大人になったからですよ」
「そういう意味か。確かに今もいい経験させてもらってるな」
春人さんのお店で働いている時とはまた違った知識と技術。
昔から甘い物自体は好きだった、作る側となった今はその奥深さにハマってもいる。いくらどんなに努力してもゴールのない道。
どうやっても納得いかない日々が続く、それが楽しい。
きっと夏菜もそれは同じで、動機も似たような物だった。
僕は夏菜との未来を想って。
夏菜は僕の喜ぶ顔を見たくて。
最初から僕らの夢の延長線は重なっていたのだろう。
「私の人生の指標となるという意味では、渉はやはり先輩ですよね。意固地になって先輩呼びを続けてきましたが、愛着が湧いてしまっています。たまにはそう呼んでもいいですか?」
「うん」
暗い夜空の元、彼女の息遣いで微笑んでいるのがわかる。
元々表情の薄い彼女。
彼女の感情を読み取るには、耳の色づきや仕草、癖とヒントは至る所に隠されている。
その美しい顔だけを見ていては気づかない物もある。
「そろそろ始まるみたいだね」
遠くで光、遅れて音が届く。
夜空に輝く花。
これもまた美しい夏の花の一つ。
けれど、隣にいる彼女のことを一生涯一番美しいと思うのだろう。
夏菜の手のひらを取り、よく見える場所へ誘う。
光が弾けて、一瞬だけ彼女の顔が照らされる。
瞳から頬へ伝う流星。
「大丈夫?」
「いえ。あまりにも幸せで、幸せすぎて涙が出るってことあるんですね」
「嬉し涙の上位互換みたいな?」
「あぁ、それです」
指先で涙を拭う。
「実は私、最初に渉とこの場所に訪れた時、告白しようと思ったんですよ」
「そうだったんだ」
「その時からずっと好きでした。だからでしょうか、こんなに胸が詰まる思いなのは」
「夏菜」
自然と名前を呼び、人の目を気にせず口づけを。
「夏菜とこれからも幸せに笑っていられるよう努力を続けるよ」
「はい」
「これからの人生、キミと勝ち続けられるようにね」
人生何が起きるかわからない。
例え天才である夏菜ですら予知出来ない物も多くあるだろう。
その度に現れる強敵に二人で挑む。
夏菜の流した温かい涙にそう誓う。
―fin―
これにて最終回です。
残るはエピローグ的なものを。
あっさりとした終わりになりましたが、この二人にとっては新たなスタートでもあるのでこれでいいのかなとも。




