砂糖菓子の弾丸④
校舎の外はすでに薄暗く、夜の気配が忍び寄ってきている。
ホームルームの終了と共に残る者とすぐに出ていく者に分かれている。あたしはどちらかと言うと後者。
「夏菜、帰ろう?」
「うん」
「最近暇そうだよね」
「暇」
「まぁ、そうだよね。三年生は受験控えてるし」
「先輩なら大丈夫なんだけれど、真面目で頑張り屋だから。そこがいいんだけれど」
いつものことなので何も言わない。
隙きを見せればすぐに惚気け。
良く言えば乙女、悪く言えば頭お花畑。
「というより麗奈。昼間の話をしたいんでしょ?」
「ばれてーら」
「流石にね。普段帰ろうとか言わずに自然についてきてる」
「えへへ」
校門をくぐり坂道を下る。
春は桜や梅の花が舞い散るこの坂道も、冬になれば色がなくて寂しげ。それでも坂道を行き来する学生たちの声色はいつも変わらない。
どっかでいい店あったら入ろうという話になり、夏菜の行ってみたかったお店に結局向かうことになった。彼女の先導で向かうお店は小洒落た今時のお店ではなくどこか落ち着いた、バーみたいなお店だった。綺麗な店員さんが一人迎えてくれて、カウンターには店長さんと思われるおじさんが一人いるだけ。
バーみたいだって思ったけれど店内は程よく明るく、アンティーク調の家具もあって店長のこだわりが伺える。
「へぇ……、こんな店こんな所にあったんだ」
「こんな言い過ぎ」
「……うるさいなぁ。語彙力ないんだもん。あたしとかクラスの連中と二つの言語だけで会話出来るほどだからね」
「自慢げに話すこと?」
「いいじゃん。新人類みたいで」
「退化の間違いじゃ」
隠れた名店とも言えるこの店は時間が止まっているかのような感覚。本当に知っている人は僅かでカウンターに常連さんっぽい客が一人。
一番日当たりのいい場所を選んで座ると、店員さんが水とメニューを運んでくる。なんというか、最近のカフェには珍しくメニュー表一枚だけで済むラインナップで、スイーツ類も一切なくコーヒーと軽食だけ。スイーツと呼べなくもない昔ながらクリームソーダが逆に珍しい。
確かに彼氏連れて来るような店じゃないなって思うけれど、あたしも好んで来るようなカフェじゃない。というか喫茶店? 純喫茶っていうだっけ。よくわかんないけど。
値段もお手頃。
「で? 自分でも言うのはなんだけれど、私は他の女子と価値観ズレてるよ」
「知ってる」
むっとする夏菜を更に無視する。
彼女との付き合い方も慣れたもの。
「勉強会ってなにすればいいんだろう」
「勉強でしょ」
「正論聞きたいわけじゃなーい」
「正論の何が駄目……」
「男の子と同じ部屋で二人っきりでしょ? 今までならやること一つだったし」
夏菜が頭を抱えた。つむじが見える。
彼女でもこんなリアクションするんだと面白い。
「別にゲームとか色々あるでしょ……」
「あたしゲームとかしたことないもん」
「ふ~ん。相手のこと知りたいんでしょ? 素直に会話すればいい。相手を知るのはやっぱり一緒にいて対話するぐらいしかない。近道なんてない」
「それもそうだね。りょ」
運ばれてきた食事を楽しみ、食後のコーヒーで口直し。
夏菜が行きたいというだけあって食事は物凄く美味しくて、この辺りで遊ぶことになったら誰かを誘ってもいいかもしれない。
カランっという乾いたようなベルの音を鳴らして喫茶店を後に。
あたしは十分に満足したのに、連れてきた夏菜のほうがイマイチだったようで次は来ないと言いながら、制服の上に着ていたコートのフードを深く被った。これをするだけで声を掛けられる比率がぐっと下がるらしい。
柄にもなく妙な緊張があり、別れてからも誤魔化すように夏菜に電話でだる絡みするのだった。
※
目覚めは良好。
気温は最低。
フローリングの床の冷たさがルームシューズ越しに伝わってきて指先が痛いほど。
空模様は生憎曇りで太陽の元気さが感じられない。
お昼を少し過ぎたあたりから雲の色が濃くなっていた。
北山くんとの約束の時間となり、彼が教えてくれた最寄り駅を目指す。学園を挟んで正反対で、それもかなり距離のある場所。学園まで時間を掛けて来ているようだった。
片道45分程。
スマホで漫画でも読んでいれば案外あっという間。けれど電車の中は暖房が効いていて快適だったのに、外に出るより一層寒さが辛い。雪でも降るんじゃないかってほど。
すでに彼は寒い中外で待ってくれていた。長いこと待ってくれていたのか顔が冬の風の冷たさで赤くなってしまっている。
彼には少し悪いと思いながら、駅内のコンビニで温かいお茶を二つ購入して彼の元へ。
抱きしめられるような距離まで、足音を忍ばせ恐る恐る近づく。
「うひゃぁぃいっ! あ、もー……。橋田さんか。びっくりした」
「あはは。ほっぺにお茶当てただけなのに驚きすぎ。うける」
「こっちは心臓が痛いです」
「ごめんね、待たせちゃったよね? これ、どーぞ」
彼の頬に当てたばかりのお茶を手渡す。
「ありがとうございます。今、来たばっかりなので大丈夫ですよ。あ、これいくらでした?」
財布を取り出そうとする彼の手を制する。
触れた瞬間。
氷よりも冷たいと感じて、もうちょっと早くくればよかったかなーなんて。
今来たばかりなんて、見え見えの嘘。
でも、王道の漫画やドラマの待ち合わせシーンのようでヒロインを演じている気分で。
「悪くないかも」
「何がですか?」
「うーん? このお茶悪くないかもって」
「まだ飲んでないじゃないですか」
「あはは。そんな予感ってだけだよー」
不思議そうに首を傾げる北山くんを尻目にあたしは先に軽い足取りで歩き出した。
「あ、そっちじゃないです」
「失敬失敬」
隣に並び揃って歩く。
男子にしてはちっこい背丈。手を繋いだり、腕を組んだりするには不格好かな。
周りにどう思われるか……、ってまだ早いか。
北山くんの住むマンション。
すぐに彼の部屋へと案内されるかと思いきやリビングに通された。
掃除が行き届いて、整理整頓された部屋。
住人の性格を表しているのかもしれない。
あたしの家はあたししか片付けないからなぁー……。
「一応、お菓子とか用意したんですけど。食べます? 女子の好みがわからなくて自分の好みで選んじゃいましたけど」
「あー」
こういうのってあたしが用意するべきだったかな。
「嫌いなのありました?」
「いやいや、ごめんあたしが気を使えばよかった。そうだよね? 家使わせてもらってるんだから」
「いえ、橋田さんはお客さんなんですから」
「次来る時はなんか用意しておくねー」
「はい」
お菓子や飲み物をテーブルの脇に起き、教科書やノート、参考書が広がる。
「そうですか。早速ですが始めましょうか」
「あ、うん」
あっさり流されてしまった。
もっとこうドギマギする展開があったりするもんじゃ? あたしの期待しすぎか。
なんかこう。
手と手が触れ合ってとか。……あたしのキャラじゃないか。無意識に染み込んだ癖でボディタッチしちゃうし。
恋愛ドラマや漫画のヒロインとは程遠い。
「どうしたんですか? なんか落ち込んだ風で」
「なんでもー」
あたしの思いとは裏腹に勉強は捗る。
そもそも北山くんと勉強することになったのは彼の成績がいいからだった。うちの二年生は圧倒的な夏菜がいるから二番手以降は誰も目立ちはしないが、この北山薫は上位三十名しか張り出されない順位表に名前を残している。
各々順位は成績表に書かれていてあたしは中間あたりだ。
苦手と得意がはっきりしていて。
特に数学と物理が完全にダメダメ。
「あの、聞いてます?」
「うん。北山くんって教えるの上手いね。すっごいわかりやすいし、聞きやすい声」
「ど、どうも」
褒められて照れる彼は可愛い。
いいな、初心な反応。
からかいたくなる。
そういえば会話をするんだった。
集中力も切れてきたし、休憩がてら彼を知るいい機会。
「そういえば北山くん。今日両親は?」
「母さんは仕事です。休日出勤に駆り出されて朝キレてましたよ」
うちの親もぐちぐち言いながら準備してる。どこも似たようなものらしい。
両親と聞いたのに片方の話が出でこない。
つまりそういうこと。
「一人っ子です。母親と二人暮らしです」
顔に出てたかな。
「気にしなくていいですよ。今どき珍しくもないことですし。自分を育ててくれた母親を尊敬してますから」
尊敬。
口にするのは簡単。
だけど口に出せるということは信頼関係が築かれている証。
とても仲の良い親子。
尊敬する人物に親が出てくるのは夏菜だけだと思っていたけれど、どうやら違うらしい。あたしも親のことは好きだけれど、尊敬とは違う。勿論、良い親だとは思っている。
「むしろ気を使われるほうが嫌なんで」
「そういうもの?」
「最初からいなければ感情なんて生まれませんよ。父親が必要だって思ったこともないです」
「そうなんだぁー」
「母さんには支えてくれる人が居たほうが良いのかもと思わなくはないですが」
気が効いたことを言えれば良かったんだけれど。
それすらも嫌なのかなって考えると何も言えなくなってしまった。
「にしても今日寒いね」
「ですね。エアコン入れてるんですけどね」
そういうとエアコンの数字を確認して、どこかへと行ってしまった。一分と掛らずに戻ってくる彼の手にはブランケット。使ってくださいと手渡される。
「なるほどね」
「どうしました?」
「いや、友達の気持ちが少しわかったなって。北山くん、もしかしたらいい男の子になるかもね」
「もしかしてからかってます? 同い年ですよ。もう男の子って年でもないですって」
「ついね、つい。ごめんごめん」
大したことはあまり聞けなかったけれど、勉強が再スタートした。
こっちは教えてもらっている立場。
文句は言えない。
彼も自分の勉強を後回しにしてまで教えてくれている。
カリカリとシャーペン芯が滑る音。
北山くんの少年とも言えるような答えの道筋を教えてくれる声。
あまりにも静かで掛け時計の音がうるさい。
気になって見てみると残り時間はあと僅か。
意識は目の前のノートに集中しているが、頭の片隅で彼のことを知れただろうかと自問自答を繰り広げる。
本当に何もないまま終わる。
そう思いながら帰宅する準備を始めた。
立ち上がろうと脚に力を入れたタイミングで、玄関から女性の声で「ただいま~」と、疲れがやや見える声が響いた。
「おかえり」
「ただいま。その子が友達?」
「うん。橋田さん」
と、二人がこちらを見る。
「初めまして橋田麗奈です。今日は勉強を見てもらってました」
「友達というか彼女? あの子も隅に置けないのね」
「違うってっ。友達だって」
「ふ~ん」
「本当に違うんだって」
こうやって母親と会話している様子は本当に子供みたいだなーという感想が。
「そうだ麗奈ちゃんでいいのかな? もう、こんな時間だしご飯食べていく?」
「あ」
どうしようかな。
今日は両親が家にいるからあたしは完全にフリー。じゃないとこうやって遊びに行ける訳で、遊んだっけ? ずっと勉強ばかりで彼のことを知れたとも思えない。
「いいですか?」
「うん。遠慮しないで、今から作るからゆっくりしてて」
「はい」
持ち上げていたバッグを下ろして、親にメッセージを入れておく。
「あ、僕も手伝うよ母さん」
「あんたは友達の相手してなさい」
「確かにー」
「自分で連れてきておいて放置とか情けないわよ」
「情けないってなんだよ。情けないって」
「あんたももう少し高校生らしくなってくれたらねぇー……」
「そんなこと言われても」
あたしは放置されて二人で会話している。
でもなんか良いな。
二人で会話しているときの北山くん、めっちゃ喋るじゃん。
うちの弟なんかよりもマジで可愛い。
夏菜の家で食べたやたらクオリティーの高い家庭料理じゃなくて、ホント素朴な家庭料理。時間の都合上サラダとかはパック詰めされたカット野菜に少し手を加えたもの。
市ノ瀬家の料理も勿論文句のつけようがない程美味しい。でも、あたしはこっちのホッとする家庭料理のほうが好み。自分が作るのもこういう料理だし、好みが合いそうだなーと。
夕食が終われば流石に帰らなければならない。
余計に重くなった腰を上げた。
「麗奈ちゃんってどこに住んでる子?」
「あー、あたしは桜台ですね。梅ヶ丘の二駅向こうの」
「……あちゃ」
北山くんのお母さんが困った顔をしている。
「電車止まってる」
言われてスマホを取り出して確認すると、雪の影響で運転見合わせ。
今日はあまりにも寒てもしかして雪が降るかもとは思っていたけれど、ここまで吹雪くなんて想像は出来なかった。
北山くんがテレビを付けてくれる。画面にはタクシー待ちで並んでいる社会人たちの姿。駅のホームはごった返して駅員がなんとか制御している。
レンズ越しに届けられる映像にも雪の降り方が尋常じゃないのが伝わる。
「麗奈ちゃん泊まっていきなさい」
「流石にこの天気で帰すのは無理ですね」
と北山家族の提案。
これは予想外と思考が鈍る。
※
どうしてこうなったのだろうか。
普通に考えればあたしがリビングで寝るはず。
けれど、何故か北山くんのお母さんと一緒の部屋で寝ることになった。
彼と寝るわけにはいかないのはわかる。
布団の中で落ち着かず、もぞもぞとしていると気づかれたのか話を振られる。
着慣れないパジャマに身を包み寝返る。
「薫って学校ではどんな感じ?」
「そうですね。クラスが違うのでなんとも言えないですが」
いつも一人のイメージ。
誰かと一緒にいるところを見たことがない。
「あはは……。やっぱりそんな感じかぁー……」
「虐められたりとかそういうことはないと思いますよ」
「そっか。ありがとう」
「いえ」
これまでの付き合いでわかるのは孤独に慣れていて、でも少し寂しいというところ。
あたしが声を掛けると無表情から一変して笑顔になるのだ。
そんなところが可愛い。
「あの子、自分のことは何も言わないから。……今日、友達が来るって言ってくれた時は少し嬉しかったけれど心配もしたんだよね。そんなの初めてだったから、変な子に騙されていないかって」
「あー……、ごめんなさい。こんなキャラで」
「最初見た時はぎょっとしたけど、礼儀正しくて逆にびっくりしちゃった」
「あはは。ですよねー……」
「でも……。うん、安心したわ。あの子にも友達が出来たんだねって、これからも仲良くしてあげてね」
「はい」
「良いところ一杯ある息子だから見つけてあげてくれると嬉しい」
親ってみんなこんな感じなのかな。
うちの両親も忙しいけれど子供の事はちゃんと気にかけてくれている。
北山くんの事は友達としては好きだと思う。
男性としてはちょっとわからない。
だから。
「任せてください」
熟睡とは行かずともさっぱりとした気分で朝を迎えた。
昨夜から続けていた雪は降り止んだものの積もっていて音を吸い込んで静まり返っていた。
ぎゅっぎゅっと踏みしめながら歩く。
呼吸をするたびに冷たくて痛い、空に白く登っていく二つの吐息。
「北山くんまたね」
駅までの短い距離を時間を掛けて歩いてきた。
「はい。気をつけて帰ってください」
「うん。ありがとう」
改札を抜けて姿が見えなくなるまで彼はあたしを見ながら手を小さく振っていた。
その姿にきゅんとしたは内緒。
青春の一頁に残してもいいかも。
一目惚れとか、劇的な出会いとかに憧れる。
でも、こうやって一つずつ積み重ねて好きになっていくのもありなのかも。
※
あれから数日経って終業式とクリスマスが控えた平日。
師走というだけあって時間の流れが早い。
クラスも街もお祭りムード一色。
期末テストから開放されて、来年には受験生という不安が微妙に入り混じり、それでも時間はまだあると言い訳の誤魔化しで去年よりも教室は騒がしい。多分に漏れず今週に入ってからは夏菜なんだか忙しそうに学校が終わるとすぐに帰宅してしまっている。
元々予定のなかったあたしはどうしようかと考えながら廊下を進む。
「お」
癖のある黒い髪が見える。
「北山くんじゃん」
「あ、こんにちわ」
「今日は逃げないんだねー」
「もう逃げませんよ」
「よしよし」
「ちょ、子供扱いしないでください」
頭を撫でると飛び退くように逃げていった。
手を伸ばしてもぎりぎり届かない距離。
「ごめんごめん」
「いつになったらその扱いやめてくれるんですかー」
「君が男らしくなったら? なんてね」
「……男らしくって」
「なんだろうね? 自分で言っといてなんだけれど、男らしくとか女らしくってわかんないよね」
「どうなんですかね。やっぱり好きな女性とか家族を命がけで守るのが男ってイメージはありますけど」
「命がけって物騒な。見た目に似合わず硬派なんだ」
「僕の中の普通というか想像? そんな感じです。橋田さんも知っている通り、僕には父親がいないので理想があるというか」
「夢みたいな?」
あたしにも夢はある。
夏菜にも語った夢。
素敵な恋をしたいとはまた別の話。
「あー……、そうかもですね。漠然と母さんを早く楽にしてあげたいって思ってたぐらいですが。あ、これ秘密にしておいてください」
「えへへっ。うん、秘密ね。おっけー」
また一ついいところ見つけたかもなんて。
「こんな所で話すことでもないですよね。どこか、……いやなんでもないです」
「何々? 最後まで言って?」
「だから、なんでもないですって」
「教えてくれたら、お姉さんが一つなんでもお願いを聞いてあげるよ」
無言で悩み始めた。
この変は男の子だなって思う。
さて、どうでる?
彼が口を動かすのを静かに待った。
「……前に一緒に行ったカフェとか行きませんか?」
「はい。よく言えました」
「何なんですか、もうっ」
ほんと可愛い。
小学生の頃、男子たちが可愛い女子に悪戯とかする気持ちがよく分かる。
「そうだ。前に夏菜に教えてもらった少し大人な場所あるんだけど、今日そっち行かない?」
「……やっぱり帰っていいですか?」
「なんでよっ」
「含みのある言い方が怖いんですって」
制服のまま繁華街まで脚を伸ばす。
すっかりクリスマスムードで人恋しい時期。少なからず、街中のカップルの姿がそうさせるんじゃないかって思ったりもする。
静かな喫茶店も数名のカップルがまぁこれ見よがしにイチャイチャと。
夏菜でも呼んで男達の鼻の下を伸ばしてやりたい。
破局すればいい。
ってか、あたしたちもカップルに見えなくもないか。
「ムードあるお店ですね」
「かなり味も良かったよ」
「市ノ瀬さんって凄いんですね」
「ん? 夏菜が?」
あんな事があった後でもやっぱりモヤっとする。
それと同時に夏菜が褒められて嬉しい気持ちあったりして、気持ちが宙ぶらりん。
「色んな店知ってるんだなぁーって」
「やっぱり夏菜のこと気になる?」
「多少は」
「……そっか」
やっぱりそうなっちゃうのかなぁ。
「友達の友達だからなんとなく気にはなります」
「え?」
「そうじゃないんですか? 初めての友達なんでよくわかんないですけど」
どうなんだろう。
小学校の頃、仲のいい友達がいてその友達に小さな嫉妬したりとかしちゃったんだよね。
あたしと遊んでるのに、そっち気にしなくてもいいじゃんって。
あの時からあたしってあんまり変わってないや。
「機会があったら会わせてあげるよ」
「同じ学年だし見たことはありますよ?」
「そりゃそっか」
一種の掛けみたいなもの。
この人が信用たる人かどうか。
本当にいつかちゃんと会わせたい。
「夏菜のこと、どう思う?」
「どうって綺麗な人だとは思いますよ。ただ怖くもありますね。悪く言うつもりじゃないですよ。精巧に作られたドールというか、現実に存在してるのが不思議というか」
「あの子、あれで人間臭いところあるけどね」
「やっぱり知り合わないとわからないことってあるんですね」
彼は運ばれてきたばかりのコーヒーを口に含み「あっちぃ」っと大げさに慌てて水をちびちびと飲み始めた。
猫舌らしい。
「橋田さんも怖い人かと思ってたんですが、友達になってわかりましたもん。この人、良い人だなって。絡みやすくて面白くて、ボディタッチが多いのは少し困りますが、ほんとうに嫌だと思うことはしないですし」
「へぇ〜。あたしのこと見てくれてるんだ」
「友達だから」
誇らしげ、でも少し恥ずかしそうに笑う。
くしゃっとした笑み。つられてこっちも笑顔になる。
まぁ、いいか。
まだわかんないことで悩んでも仕方ない。
「橋田さんのことももっと知りたいって思いますよ」
「そうなんだ。でもまだ秘密」
長居したようで店を出る頃には空が濃い紫色。ぽたぽつと白い光が散りばめられている。
冬の夜空は星が綺麗だ。
「あ、麗奈じゃん」
「ん?」
呼ばれて振り返る。
気分を害する、どこかで聞いた声。
「……淳」
元彼かぁ。
あたしの恋は邪魔が付きまとう。
嫌な感じ。




