閑話
先輩達と別れて私たちは本来の目的であるお花見を開始する。
花は存在しないけれど外で食べる昼食というのも粋、花見というよりはピクニック。桜を眺めながらは出来ないけれど、暖かい日差しを浴びながら自然の風を感じて食事をする。
恋人とも出来て、友人とも体験出来る。
昔の私が知ったら懐疑的になりそうなものだ。
「にしてもやっぱり夏菜と歩くと注目集めるちゃうねぇー。視線がうざいうざい」
「私のせいだけじゃないと思うけど」
麗奈が虫でも払うような仕草で私に話しかけてきた。
綺麗に染めた亜麻色をアップにして結構露出多めの服装。色使いも派手で遠目から見れば私よりも注目を集める。
妹の絵梨花もまた派手さが抜けてしまったものの可愛い少女であり、麗奈と反対側にはこの中で一番美人と言っても良い雅さんがいる。
どう考えてもこの高すぎるルックスを持つ女性たちが集まっているせい。
「確かに市ノ瀬さんもそうだが、橋田さんも美人だからね。花は散ったけれど華は3つもあると言った感じかな」
と、似たようなことを思っている雅さんがいる。
麗奈から絵梨花に視線が移る。
あなたもその一人なんだけれど自覚がなさそう。
去年の夏休み以来、あの時には感じられなかった妙な色気もある。
これが人妻となった者の特徴だろうか。
母さんにも似たような雰囲気。
桜の木の周りを囲うようにあるベンチに陣取り買ってきた昼食を膝に置く。
最近少し体重が気になりだして、かなり控えめにしている。
それもこれも先輩が働きだして美味しいスイーツを食べすぎているせいでもある。中でも素材の甘さを引き出すようなケーキが好きで気付いたら口に。
ただでさえ服装次第で太って見えるのだから気をつけないといけない。
妻になっても女の子。愛されるには愛されるような努力をしなさいとは母の教え。母さんはふわふわした天然だけれど、父さんが大好きで運動音痴だけれど頑張っていたりも。でも太ってみえるのは母の遺伝子のせいではある。
「市ノ瀬先輩、それで足ります?」
「私が元々少食なの絵梨花は知ってるでしょ」
「まぁ……」
なんとなくの違和感。
去年は麗奈よりも絵梨花と一緒にいた時間のほうが長い。
「絵梨花さんとは初めてなのかな」
「あ、はい。橋田絵梨花です。神楽雅さんのことは知ってます。渉先輩と文化祭でライブしてたの見てたので」
「ありがとう。でも今は山辺雅だ」
恥ずかしそうに頬を染めて後頭部をさわさわと弄る。
私と雅さんは比較的似ている部類だと思っているが、こう表情をくっきりと出されると年上の女性ながら可愛いと思ってしまう。
「……えっと?」
絵梨花がどういうこと? と目で伝えてくるので仕方なく私が答える。
同じ部員だったけれど聞かれない限り答えないというスタンスだったと思う、私達も誰かに言ったりなんてしない。
高校生で結婚と出産。あまりにも珍しく、決していい意味で取られない。
「山辺さんと結婚してる」
「あ、そう言えば卒業生に妊娠してる女子がいるって、入学の時に話題にあったような」
「あはは……」
苦笑いと羞恥。
同じ立場になったらどうだろう……と、考えたけど無駄。
お腹が大きくなっても動けるうちは普通に通学するだろうし、奇異の視線に晒されても気にもとめないのが自分でもわかる。
「お子さんは?」
「今日は親に面倒みてもらってるよ」
「やっぱり可愛いですか?」
「勿論」
「うわぁ~」
興味津々なようで絵梨花がずっと雅さんに質問を繰り返す。
まぁ私達の年代で聞けるようなことでもないからわかる。
私も夏休みに色々と聞いたものだ。
先に食べ終わり、彼女たちの会話を聞きながらもゴミを纏めておく。一人で捨てに行くと見知らぬ誰かに絡まれるのは日常的で流石に学習している。自分一人なら何も考えず捨てに行っていただろうけれど、友人や後輩たちに迷惑をかけるつもりはない。
一番うるさそうな友人は物静かで何をしているのかというと単純にスマートフォンを弄っている。見た目そのままに交友関係は広い。友達の友達。私も数人には会ったことがあるが相容れない存在という事で紹介するのを辞めてほしいと言ったばかりだ。
「麗奈さ」
「ん? なになに、どうしたの?」
どうでもいいかのようにスマートフォンの電源キーを押して、光るディスプレイを消した友人。そのままバッグにしまってしまった。
ただ意味のない連絡が来てそのまま惰性的に続けていると、これまでの付き合いからなんとなくわかる。
人付き合いが良く、少し流されやすい。
「言葉強かった」
「あ、あー……、別に大丈夫だよ。こっちも悪かったなって思ったし」
「そう、ならいいけど」
「悪い奴らじゃないんだけどねー」
私に関わろうとする人間は何かしらの下心がある。
男であれば関係を持ちたい。
女であれば利用しようと。
罪を感じない。
ただ純粋に理解していないだけ。
会話は終わり。
気になっていたことを正したにすぎない。
「市ノ瀬さんは……柊くんとの関係どう?」
別方向からの話しかけられる。
どうやら結婚と妊娠、出産の話は終わったみたいだ。
最後の話に出ていた出産の痛みは想像も出来ない。
「どうもなにもありませんけど」
「……んーっと」
私の返答に困る雅さん。
どういう意味なのか考えているようだ。
返答し直そうと口を開き掛けた時。
「相変わらず夏菜は言葉が適当、えっと雅さん。順調ですって言いたいみたいですよ」
麗奈が代わりに私の気持ちを返す。
身内以外で私の表情を読み取れるのは麗奈以外にはいない。
「そうです」
「そうか……、渉くんや麗奈さんは良くわかるね」
「付き合い長いっすからねぇー。この中で次に結婚とかするの夏菜でしょうし、雅さんも気になった感じですか?」
空気を読むことに長けると、相手の気持ちを読むことにも長けるのだろうか。
一種の才能だと思う。
「結婚は……今年だと思う」
プロポーズされた。
受けもした。
子供はどうだろう。
彼次第かな。
「「「え!?」」」
「驚くようなこと?」
「「「そりゃするよっ」」」
「見事にハモってる。凄いね」
全員が黙ってしまった。
ただ一人除いて。
「この子はこんな子だっけね。最近わかりやすいから忘れてた」
と麗奈だけが何故か遠い目をしている。
私はいつもわかりやすいと思うんだけれどね。
先輩ほどではないにしろ、私も思ったことは口に出す。
「渉先輩もスパダリだもんね。夏菜のしてほしいこと叶えてそうだし」
「まぁ、うん。そう」
「こうやって恥ずかしそうにする夏菜は乙女で可愛いんだけどね」
「うるさい。あとくっつかないで暑苦しい」
「照れちゃって」
本音なんだけれど、彼女には何故か伝わらない。
「そっか、市ノ瀬さんも結婚か。主婦仲間が出来るって思うと少し嬉しいな」
「そうですね」
「夫の愚痴とか言い合ったりとか」
「あんまり不満ないんですよね」
これも本音。
ない訳じゃない。
「惚気?」
「うざっ」
「あんまりって言った」
「渉さんの何が不満なわけ?」
麗奈はいつもどおりからかうような姿勢だけれど、妹ちゃんが食って掛かる。
諦めてはいるし、何も言わないけれど気持ちは引きずっている。証拠にピックに穴をあけてネックレスにしているのがちらりと見えている。
私が許したことでもあるが、ちょっと複雑な心境。
モテる彼氏を持つ高揚とちょっとした不安が入り交じる。
「何かにハマると食事も忘れること」
良いところでもあるが、恋人として未来の妻となる今の関係値では心配にもなる。ずっと傍で見守れるのであればまだマシ。それが出来ないから困る。
食事だけならまだいいけれどお風呂にも入り忘れていたりもして、夏場に先輩の匂いが強くなり悶々とした時期を過ごしたことを私は忘れない。
私の発言に全員が頷く。
誰もが同じ空間にいた人たちだ思う事があるのだろう。
私や絵梨花、雅さんは特に味わっている。
「他には?」
雅さんが次を促す。
う~んと唸りながら考える。
今日はちょっと唇がカサついて、リップを取り出して塗ってから答えることにする。
「たまに良く分からない踊りしてることとか」
誰もいないと思ったのか何か歌いながら踊っていたのを思い出す。
何がしたかったのか未だにわからず迷宮入りした。
「うちの旦那もそういや同じことしてたな」
いいな。
うちの旦那呼び。
ちょっと憧れる。
「へぇ。あれって何なんですかね?」
「さぁ? 暇だったからとは言っていたが」
男性なら良くあることなんだろうか。
父さんもやってたし。
雅さんも困った顔をしている。
「今思い付くのはこれぐらい」
夜が激しくて翌日に響くというのもあったが黙っておく。別に悪いことじゃなく関係がいい事の裏返しでもある。
「雅さんは?」
「部屋を片付けない。人の前でオナラしてくるとか、家事してるのにセクハラしてくる」
「セクハラ駄目なんですか?」
「時と場所を選んで欲しいだけだ」
「はぁ……。楽器弄ってるときとかに抱きついて首とかにキスするの迷惑なんですかね?」
「セクハラする側か」
「えぇ、はい。そうです」
されもするが嫌ではない。
私のスイッチ入りやすいことを知っているからか冷静な時はしてこないけど。
したい気分なんだなってのが言葉がなくても理解しあえるという利点もある。
イエス・ノー枕という都市伝説を思い出すが。
そんなのがなくてもわかる。
「まぁ、それは渉くんに聞いたほうが」
「それもそうですね」
「にしても司先輩は雅先輩の前だとそんな感じなんですね。結構意外」
「あいつは甘えん坊なんだよ」
あははと嬉しいそうに笑うのだからセクハラは本気で嫌がっている訳ではなさそうだ。
「橋田姉妹は、その彼氏とかは?」
「「あはは……」」
苦笑いの麗奈と目を逸らす絵梨花。
「麗奈のは私も気になる」
最後に気になる人が出来たと聞いてからもう大分経つ。
その人とは残念ながら私の所為で残念な結果となった。
先輩が言うには『むしろ良かったんじゃない? 夏菜のおかげでその人となりがより分かったわけでしょ。麗奈ちゃんがそんな人と付き合わなくて良かったじゃん。今は辛いかもしれないけれど、夏菜が相手じゃなくても遅かれ早かれそうなってたと僕は思うよ。付き合ってたらもっと深い傷になってたかもしれないし、運が悪くて結婚して子供が生まれて僕のようになってたらって思うと、ね。残酷だよ』なんて。
私も初めてのことで驚いたし、友人が悲しんで苦しむ姿を見てしまって辛かったけれど、その言葉に救われたりもした。そして吹っ切れた。
「うん、まぁ……。えへへ」
私のことを乙女だと馬鹿にするわりに麗奈も乙女。
自分もこんな顔してるのだろうか。
ピュアってそれだけで人生が楽しいんじゃないかな。
先輩も麗奈も、純粋に見たこと感動出来る。
「今回は大丈夫だから」
と、麗奈は力強く言った。
「ということは私も知ってる人?」
「どうかな? 夏菜は……クラスメイトに興味ないでしょ」
「あぁ、そういう」
クラスメイトの顔を思い出そうとしても浮かばない。
認識すらしてないのだから思い出せるわけもなく。
「大丈夫?」
「うん、今回は本当に大丈夫」
「そう」
「それなら今度ダブルデートする?」
「先輩次第かな。私としてはあんまり迷惑掛けたくないけど」
私が言ったら叶えようとする。
恋人の友達も大事にする。
今だって自分のためにとか言いながら私のために動いているような物。
「ねぇー」
麗奈が私の横胸を突きながらずっと小型犬のようにじっと見つめてくる。
「そんな目で見ないでよ。麗奈がダブルデートしたいだけ」
「いひひ」
「はぁ……。わかった、わかったから胸触らないで」
「はーい。ってか今日は気抜いてるね」
「うるさい」
「聞くだけだから。先輩が嫌だって言ったらなしね」
「それでおっけー」
私もやってみたいという気持ちもあって断りきれなかった。
山辺夫妻とダブルデートしたこともあったけれど、私達が付き合う以前の話だったし。先輩がまだ私を好きになる前でもあった。
話は流れて今度は絵梨花に視線が集まる。
けれど彼女は胸元に手を添えて、三角形の物を握り締めながら「自分はまぁ暫くは無理ですね」とだけ答えた。
※
時間になり雅さんと別れて残りのメンバーは買い物へと向かう。
要望して麗奈に服を選んでもらう。
「最近の夏菜の傾向としてグランジ色強いよね」
「そう?」
「今日だって網タイツの上にダメージジーンズ履いてるし。尻でかいからデニム似合わないけど」
「一言余計」
「で、今日はフェミニンな服を探してると」
「そう」
「夏菜だったらガーリーなのでいいと思う」
「正直、ガーリーとフェミニンの違いわかってないんだけれど」
「大人っぽさを入れたのがフェミニンで女のコしてるのがガーリーって認識でいいよ」
「へぇ、前に先輩に選んでもらったのはガーリー?」
「うんうん。まぁ、でもあそこのブランドで纏めると地雷系に見えちゃうけどね。ま、夏菜は見た目綺麗だけれど、中身は毒々しいから間違いじゃない」
「やっぱり一言多くない?」
自分でもわかってることを言われるのは少しムカつく。
「肌見えるの嫌いだよね?」
「うん。ボディラインが見えるのも嫌い」
「もったいない」
だから私服はパーカーばかりになりがち。
母さんの服装を真似しても私には似合わなかった。うちの母は谷間を見せることも特に何も感じないようなタイプだし、私も視線には慣れているけれど好みからは外れる。
「あ、最近夏菜ってネイルはどうしてる?」
「塗ってるだけ。飲食店だし」
「それもそっか」
「塗るのも人によっては不快に取られるけどね」
厨房に引っ込んでるから何も言われないけど。指輪だってつけたまま。
父親の店で働くメリットは大きい。
「めんどくさいよネ」
「付け爪とかデコレーションは流石に。なんかの拍子混入させる訳にもいかない」
「それもそうだねー」
麗奈にいくつか見繕ってもらい店を出る。
絵梨花も同様に姉に聞きながらショピングを楽しんでいた。もっとも彼女は一人で楽器店にいってしまったわけだけれど。
二人で絵梨花を待ちながら私が行ってみたかったカフェに立ち寄った。
シーリングファンが静かに回っている。店主の趣味が反映されておりサーフボードなどが飾られていたり、明るく涼し気で西海岸を思わせるような内装。
暇つぶしとばかりに買ったばかりのファッション誌を麗奈が広げる。
私もオレンジジュースを飲みながら反対になった文字を読んでいる。
「夏菜も脱毛しない?」
「ごふっ……」
急に毛の話すると思わなくて咳き込んだ。
変なところに入ったのか連続で咳き込み涙が出る。
「だいじょぶ?」
「うん。気管に入りそうだった」
「それでさー」
「……」
人の話を聞いてない。
「なに?」
「全身脱毛。みんなしてるし興味あるんだよねー」
「好きにしたら? 私はしないけど」
「もうすぐ夏だよ?」
「興味ない」
「どっちに?」
「脱毛に、私もともと薄いから」
「ふ~ん」
聞いてきたわりに興味なさそう。
女子ってこういうところあるよね。
最初から答え持ってたり、ただ共感してほしいだけだったり。女の私からしても結構面倒な生き物だと思う。
「脱毛脱毛って言うのここ最近だよね」
「そうね」
「夏菜はなんでだと思う?」
「ネットの普及とかでしょ。インフルエンサーの影響とか自分で投稿することによって気になってるだけじゃない?」
「あぁー……」
「自己顕示欲の強い人間が増えて、日本人特有のみんなしてるしって流れでしょどうせ」
「夏菜って」
「何?」
「皮肉的だよね」
「私の目にはそう映るだけ、そうかもしれないしそうじゃないかもしれない。正直興味ないからどっちでもいい」
「夏菜のそういうところやっぱいいよね」
「何、急に?」
「なんとなく」
テーブルに置いていたスマートフォンのディスプレイが光る。
柊渉。
「ごめん、席外すね」
一度お店から出てスライドさせる。
『終わったよ。今から向かいに行くけど今どこ?』
「一駅先のカフェにいるんで、そこの駅で待ち合わせでどうですか?」
『おっけ了解ー。すぐ行く』
「んふふ、ゆっくりで大丈夫ですよ」
『じゃあ、またあと』
「あ、待ってください」
『ん?』
「私脱毛したほうがいいですかね」
『……何の話?』
気分転換に書いたもので投稿はせずに眠らせようと思ったものです。
先の内容と繋がりがあるので投稿することにしました。




