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【連載版】すべてにおいて負ける僕が唯一勝利したこと  作者: 「」
一章 それでも続く穏やかな日常
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侵攻

 自宅に着いてすぐに僕の部屋に招き入れた。



「で、これどうしたらいい?」



 未開封のチェストと布団。



「押入れはなさそうですから、とりあえず布団は隅においておきましょうか」

「あ、うん」



 わかっていたことだが、持って帰る選択肢はないようだ。



「ダンボールは開けておきますね」

「そっち作るの僕なのね」

「私は夕飯の準備してきますので」



 彼女はリュックをベッドの脇に置いて、そのまま部屋を出ていってしまった。

 エプロンはいつの間にか持ち込んでおり、今ではキッチンの棚に淡い水色のエプロンが掛けてある。

 普段は使わなくてもいいけれど、夏菜は制服で料理がすることが多いからこそ、エプロンは必須だったのだろう。


 僕は床に腰を下ろし、説明書を拾いあげる。

 案外簡単な作り。

 白いシンプルなチェスト。

 殺風景な僕の部屋でも目立たない、ちょうど良いとも言えるインテリア。

 男の部屋にあっても違和感がない。


 ドライバーも簡易的なものが用意されており、入っているものだけで簡単につくれる。

 なんだろう、組み立てているうちに楽しくなってきた。

 こういう所は僕も男の子だなぁっと自嘲気味に笑う。

 板が丈夫で、ネジを閉める場所が硬い所がある。

 小さなドライバーでは、手のひらが痛くなって赤くなってしまった。

 30分ほど格闘して、ようやく完成。

 誰が作っても仕上がりは同じになるだろうが、程よい満足感。

 部屋と廊下を繋ぐ扉の隣の空きスペースに移動させる。

 サイズ的にもちょうど良さそうだった。

 測ったわけじゃないだろうけど、完璧なフィット感すらある。

 彼女のもとへ小走りで向かう。

 子供が親に見せるように誇らしげ。



「夏菜、作り終わったけど」

「あ、はい。すぐに行きます」



 リビングからキッチンにいる夏菜に声を掛けると、火を止めて真っ直ぐ歩いてくる。

 やることはわかっているが、なんとなしに見守る。

 先程開けたばかりの布団の隣。

 赤いスポーツバッグを持ち上げると、チェストに前に膝立ちになる。

 最近、良く来るようになった夏菜だけれど、鞄を開いたのは今日が初めてだ。

 泊まるためと言ってたが、その機会は訪れていない。


 様々な衣類。

 パーカーやTシャツにキャミソール。

 ニットに薄手のカーディガン。

 スカートやショートパンツ。

 未開封のストッキングなどもあり、勿論下着類も。

 見てはいけないような気もしたが、今更遅い。

 確かに昔見た色気のない下着は一切なかった。

 

 一通り収納出来たと思うのだが、まだ夏菜はスポーツバッグの中を漁っている。

 取り出したのは筒状の何か。



「それは?」

「化粧水です」

「あぁ、そう」



 ここまで来たら、流石に諦めた。

 もう好きにしてくれていい。

 自分の父親になんと説明しようか考えることにした。



「先輩って不思議ですよね?」



 どう言い繕っても誤解しか招かないなって結論が出たところで、夏菜が振り返る。



「僕も夏菜のこと不思議に思っているところだよ」

「私は目標がありますから、それより先輩ですよ」



 チェストの上にケースを置き、化粧品や鏡など女の子らしい物を並べる。

 僕の部屋に夏菜のスペースが出来上がってしまった。



「どうして嫌がらないんですか? 流石にここまでされたら、引きませんか?」

「自覚はあるのね」

「まぁ、はい」



 不安気に、緊張して俯く。

 彼女にしては珍しく弱気。

 ここまで堂々としていたのだから、そのままでいればいいのにと思うが、彼女には彼女の思いがあるのだろう。



「夏菜じゃなかったら、そりゃ嫌だけどさ。でも、なんか許せちゃうんだよな」



 これは僕の本音。

 そもそも彼女以外の存在がこんなことするとは思えないけれど。

 自分の領域に夏菜という存在が入り込んでも不快には思わない。

 それがどうしてなのかは、自分でもわからないものだったが。



「答えになってないですよ」



 答えなんて持ち合わせていない。

 ただの感情論。



「常識、非常識は置いておいてさ」

「はい」

「僕と夏菜ってだけで、それだけでいいんじゃない?」



 夏菜曰く、僕も非常識な存在。

 ならば別に常識に捉われることもない。

 僕が良しとして、それを許せるならそれでいい。



「改めて、先輩に負けた理由の一つがわかりました」

「なにさ」

「絶対に言わないです」



 いつもなら耳だけ赤くなるのに、顔まで真っ赤だった。

 春人さんや冬乃さん以外でも、今の夏菜なら容易く彼女の心境を推し量ることが可能だろう。



「人の顔そんなに見つめるの最低ですよ」

「すんません」



 ※



「ということなので今日は泊まります」

「すっごい省いたね」

「紳士的な先輩なら、こんな時間に女の子1人を外に追い出さないですよね?」



 時刻は9時を少し過ぎたところ。

 夕食後、まったりとした時間に癒やされて、うたた寝したのが悪い。

 起こされる事なく、未成年が一人歩くには危ない時間に。



「隙をみせるからです」

「うん、そうだね。これは、僕が悪いや」



 反論のしようもない。

 いくら彼女の前だからといって、気を抜きすぎている。



「連絡は入れた?」



 彼女のことだから抜かりはないだろう。

 けれど念の為聞いておく。



「はい」



 春人さんたちも僕のこと信用しすぎじゃないか。

 普段から春人さんと話すことは多いが、夏菜のアプローチについては話していない。

 もしかしたら、知っているのかも知れない。

 冬乃さんは寧ろ夏菜に味方している。



「お風呂沸かしているので、お先にどうぞ」



 彼女に急かされて、着替えを持って脱衣所に。

 ん?

 見覚えのない歯磨きセットが置かれているのに気付いた。

 それどこか、新しいシャンプーにトリートメント。

 夏菜の家にあるものと同じもの。

 入浴剤だって、この家にはなかったものだ。

 僕の部屋だけではなく、風呂場にまで侵略は進められている。

 寝室に、キッチンに浴場と、生活の基盤ともおけるスペースは敵の手に落ちた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 普通の同棲ってバッグのお泊まりセットが常備される→合鍵渡す→彼女の私物が溜まる→タンスの引き出しの一段が彼女のものになってみたいにじわじわ浸透してくるじゃないですか。ドーンとキタなwww …
[一言] 刻一刻と、プライベートスペースが同棲空間へと変じていく恐怖!思わずゾクゾクしますな。…はっ!まさかこれは、吊り橋効果狙いなのでは?
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