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【連載版】すべてにおいて負ける僕が唯一勝利したこと  作者: 「」
一章 それでも続く穏やかな日常
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日曜日

 約束していた日曜日がやってきてしまった。

 バイトの終わりに集合時間と場所を決めたのだが、なぜか僕の自宅になった。

 時間ギリギリまで寝れるという欲に負けて、すんなりと了承してしまったけれど。



「で、その荷物なに?」



 いつか見た赤いスポーツバッグ。

 中学の全国に行った時にも使っていた代物。



「失礼しますね」



 言いながら靴を脱ぎ、揃える。

 トラウマが解消されて以降も彼女は度々僕の家に訪れることもあった。

 ほぼ一人暮らし状態であるため、春人さんが心配して家の合鍵を預かっていたりもしたのだけれど、それは今や夏菜の手元にある。

 これを見越して渡したんじゃないだろうかという疑惑。

 本当に有り得そうで困る。



「先輩の部屋狭いですけど。物が全然ないので置いてもいいですよね」

「何する気なの?」



 上がり込んで、何も言わずに僕の部屋へ。

 実際、机にベッド、本棚にギターだけ。

 それだけあれば十分だと思うが、自分でも高校生の部屋にしては殺風景だと理解している。



「確認しているようで、してないよね」



 聞こえてはいるだろうが、無視される。

 机の横の空いたスペースに鞄を置いて、少し満足そうな夏菜の姿。

 一仕事終えたみたいな達成感。



「で、実際何が入ってるのそれ」



 ようやく答える気になったのか、ベッドに腰掛けて僕を視界に捉える。



「着替えです」



 着替えにしては鞄が大きい。

 いったい何日分入っているのだろうか。



「え? 泊まるの?」

「明日学校ですし今日は帰りますけど、そういう日もあると思うので」

「あるんだ」

「学校から先輩の家の方が近いですからね」



 そりゃそうなんだけど。

 僕らは電車通学だ。

 乗っている時間に差はあるけれど、帰宅部である以上は近さあまり関係ない。



「だからって一人暮らしみたいな僕の家に泊まるのか?」

「問題あります?」

「ないと思ってるほうが不思議だよ」

「バイト代入ったら棚とか買ってもいいですか?」

「住むつもりなのか」

「いずれ」

「……正気?」

「本気って聞いてほしかったです」



 父さんも最近では一月に2回ぐらいは帰ってくるようになった。

 本当に住むつもりなら、どう言い訳すればいいのか皆目検討もつかない。

 とりあえず夏菜の冗談として受け入れておこう。



「少し休憩したら買い物に行きましょうか」

「そうだった」



 彼女の奇行で忘れかけていたが、本来はそっちがメイン。



「林間学校の買い物にしては随分早いよね」



 まだ4月の中旬。

 ぎりぎりになって焦るよりはマシか。



「そうですね。ここに旅行用の鞄置いてしまうので、新しい物が必要になりますね」

「他にも何かと買うの?」

「えぇ、まぁ」



 いつもの癖を見せては思案顔。

 ただ今回は、決めているらしくすぐに解かれた。



「夏菜ってスカートだったりショートパンツが多いけど、普通のズボンって持ってる?」



 林間学校中は私服になる。

 元はスポーツ少女だからか、動きやすいという理由で短い丈の物を愛用していること知っていたし、それ以外のものを見たことがない。

 注意事項にも書かれることだけど、山道で素肌を晒すのは危険が多い。

 枝や葉で傷がつくことは勿論、虫刺されなど。



「レギンスを買っておけば大丈夫かと」

「それも今日買いに行くのか」

「そうですね」



 モールとドラッグストアだけ行けば揃うだろう。

 頭の中で本日のルートを立てる。



「すみません、少しお茶もらってもいいですか?」

「うん。キッチンの物自由につかっちゃって、その間に僕は着替えておくから」



 ぎりぎりまで寝ていたので、Tシャツにジャージ姿。

 起きて顔を洗っているところに夏菜が来たのだ。

 予定よりも早かった。

 適当にあるものを掴んで着替える。

 デニムに黒いTシャツ。

 その上に淡い水色のシャツを羽織る。

 無難なファッション。



「それじゃ行きましょうか」

「了解」



 ※



「先輩とデートらしいデートしたことないですよね」



 ショピングモールに訪れて、夏菜は開口一番そんな事を呟いた。



「普段、買い物つったら食材ばかりだからな。彼氏彼女というより夫婦の日常みたいだし」

「……夫婦ですか」

「夏菜?」

「顔みないでもらえます?」



 手のひらで頬を抑えられて、拒絶される。

 首を捻った形になったので痛みが走る。



「……いたた。理不尽だな」



 すっと背後に回った夏菜に背を押され、先を促される。

 休日のショッピングモールは、近場で楽しもうとする家族やカップルで溢れていた。

 無理に押されると衝突する危険があるので、彼女に伝えると謝罪とともに隣に並んだ。

 左腕にそっと夏菜の手の感触がシャツ越しに伝わる。


 夏祭りなど人混みに紛れる際、彼女は僕の腕を掴む。

 いつからそうだったかは覚えていない。

 意外と恥ずかしがり屋でもある彼女にしては、大胆な行為だとも言える。



「ショップにまず行きましょう」

「ういっす」



 洋服など選ぶのは時間が掛かる。

 男の僕でさえ、どれにしようか悩むものだ。

 先に見といて損はない。



「先輩って好きな色ってあります?」

「僕? そうだなぁ。青系と白かな」

「じゃあ、これにします」



 彼女が手に取ったのはシンプルな白いバケットハット。



「私、青は似合わないので白にします」



 なんでも着こなせそうではあるけど、ダウナー系とでも言うのだろうか。

 夏菜は感情表現が得意なほうではない。

 口調も淡々としているもので、確かに清涼感のある青系統のイメージがない。


 普段の服装も白や黒いパーカーだったり、似たような色合いネルシャツ。

 ワンピースも来ていたことがあったが、クリーム色のニットにブラウン系だった。

 とにかく落ち着いた物が多い。

 だからだろうか、中学の頃から誰よりも大人っぽかった。

 目元にホクロがあるのも一因だとは思うけど。



「あとはレギンスですね」

「3、4着はあったほうがいいんじゃない?」

「そうですね」

「僕も一枚チノパン駄目にしたし」



 勝手な想像ながら、アパレルショップでの買い物は時間が掛かると思っていたいが、夏菜は値段とサイズ、生地を見てからすぐに小脇に抱えるとレジに向かっていく。

 判断が早い。

 聞いてみると、『対して差がないので、安くて肌触りがいいのを選んだ』そうだ。

 黒2着に、グレーに水色の計4着。


 店員さんに丁寧に折りたたまれてショッパーへ。

 夏菜は受け取らずに僕を見るので受け取る。



「次はドラッグストアですね」



 買うものが明確で悩みようがない。

 虫除けスプレーだけ買えば十分だろう。



「では、量が多くなるので荷物持ちお願いします」

「そんなに買うものなくない?」

「はいこれ」



 有無を言わさずカゴを手渡される。

 男の僕にはわからない物があるかもしれないと思い、彼女の後を追う。

 虫除けスプレーにジップロック、日焼け止め。

 これはわかる。

 ただワインビネガーだったり、粗挽き黒胡椒。

 あまり使わないようなスパイスや調味料がカゴの中に入れられる。



「これ、使うか?」

「使いますよ」

「最近の高校生ってすごいな」

「私と先輩は高校生としても特殊な部類だと思いますが」



 僕は割りと平凡だと思うけど、夏菜は確かに色々と人間性能が壊れている。



「自分は普通だと思っている顔をしていますね」

「よくわかるね」

「先輩が私のことわかるように、私も先輩のことわかりますよ」



 購入するものを全て入れ終えたようで、行きますよという掛け声と同時に腕を引かれる。

 レジに並ぶ。

 けれど今日はリュックがないため、エコバッグを持ってきているのかすらわからない。

 見たところ鞄の類もない。

 

 思った通りエコバッグはなく、精算の終わった荷物の上にビニール袋が置かれる。

 そこからはいつも通りで、荷詰めの作業。



「では帰りましょうか」

「あれ、鞄は?」

「よく考えたら、母さんの借りればいいだけですので」

「それもそうか」



 僕も夏菜も無駄使いをしない質だが、高校生の持てるお金というのは有限だ。

 節約出来る所はするべきだろう。



「先輩の部屋にチェストをおけば、収納してそのまま持って帰れますので新しく買うのは勿体ないかと」

「……」



 徐々に僕の家で夏菜という存在が増していくらしい。

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