体育祭のち雨
六月に入ってから続いていた雨は次第に曇天の空の中に隠れる。
体育祭まで続くと予想されていた天気も体育祭本番は曇り一つない晴天へと変わった。
カラッとした空気なら良かったかもしれないが、湿っけのある纏わりつく空気。
呼吸をするのにも僅かに不快に感じるほど。
開会式の前。
生徒の隊列もまた密集状態で暑さに拍車をかける。
一年生から順次移動を開始。
あの亜麻色の髪、少し伸びてプリンを連想するような頭は絵梨花ちゃんか。
今時派手な見た目の女性はあまり見掛けない。
それだけに注目を集める。
都市部なら当たり前のようにいるかもしれないが、地方都市ではほとんど見掛けない。
夜の街に出れば少なからず見かけはする。
夜と派手な女性という組み合わせはもう当たり前という認識で、興味を惹くまでは至らない。
「目立つな」
僕の視線の先を追ったようだ。
絵梨花ちゃんと面識あっただろうか。麗奈ちゃんに姉妹で顔も似ているから言わずともわかるか。
「そうだね」
身長順。
僕のすぐ後ろに並ぶ司が耳打ちするように声を掛けてきた。
友人が身を寄せたことで彼に匂いの変化に気付いた。
「香水つけてる?」
「あぁ……、そんな強くつけたっけな?」
「前とは違う匂いっていうか、女性物?」
甘く爽やか。
けれどどこか切なさがある香り。
女性用かな。
「雅のやつだよ。最近これ使えってうるさくて」
「ふーん?」
「浮気対策だってさ」
「愛されてるね」
夏菜も似たようなことを言っていた。
信頼と信用を寄せているが、可能性が一つでも潰れるなら気をつけるべきだと。神楽先輩も似たような価値観を持っているのだろう。
所謂マーキング。
「まぁーな。ってほら、市ノ瀬ちゃんきたぞ」
「うん」
絵梨花ちゃんとは別の意味で注目を集める。
見た目に派手さはないが、纏う雰囲気から違う。
やる気のなさそうな表情からは想像出来ないが、無自覚に辺りを威圧し人を寄せ付けない空気で同じクラスメイトと微妙な距離が開いている、
それもまた彼女に視線を集める要因。
一人だけ気にすることなく、そんな夏菜に近づいて話しかける存在がいるわけだが。
彼女も彼女で目を惹く。
無愛想な少女とは違い、ころころと目まぐるしく変わっていく表情。
妹と同じ華やかな容姿に左耳にいくつもついているピアス。
夏菜と麗奈ちゃんの二人が合わさると、その場だけに光が差している気さえしてくる。
その光を浴びる姿は天の使い。けれど本人に似合うのは小悪魔か。
計算高くずる賢いこともする。
時には力ずく。
また時には色仕掛けも。
羞恥に染まる顔や性根は無垢な天使。
「なんともまぁ……」
「おじいちゃんみたいこと言ってないで、俺らも行くぞ」
「うん」
二列になったまま入場口へ、そのままリハーサル通りに待機場へ。
生徒一同が纏まり隊列。
小学校からある体育祭という行事。
なんだか軍隊の練習でもしているのかと思わなくもない。
全体止まれという合図とともに動いていた脚を止め静かに壇上を見つめると、つばの長い帽子を被った校長が登壇し開会式が始まるというお決まりの流れ。
暑くけだるさのある中の長い話。
だれも校長の話を聞かず、この時ばかりは生徒全員が同じ気持ちを抱く。
早く終われ、と。
あとは学年ごと、紅白に別れた席につき出番まで待機。
出番は一回だけになった僕らは本当に午前中はやることがない。
日光で熱くなった椅子には座らず、少し離れた場所の木陰に司と二人なにをするわけでもなく、ただだべる。
夏菜の出番だけは見ようとスケージュールを確認。
彼女も今年は見た目通りにやる気がないようで、借り物競走だけ出るらしい。
午後の部の一番最初。
本当に今年は何もないな。
「これで僕らの体育祭って最後なんだよね」
「そうなー」
放送部の実況と生徒の掛け声。
頑張っている姿は見えずとも確認出来た。
こんなんでいいのかなっていう不安が過る。
「どこ行くんだ?」
「ちょっと夏菜のところ行ってくるよ」
「校内に彼女がいるやつはいいよな」
「去年はいたろ」
「そん時はまだ付き合ってねぇっつの」
「そうだっけ?」
司と神楽先輩の仲を見るとずっと昔から恋人のような気がしてくる。
けれどそうじゃない。
ハードケースに仕舞っている一枚の手紙を思い出す。
過去は過去、現在はまだ進行中。未来は僕らの手の中。
手から溢れた砂は風に拐われて消えていく。
大切な物だけは失わないようにぎゅっと握りしめて、取り戻すことは出来ないが新たに積み上げることは可能。それを今から少しでも多く積み上げに行こうか。
友人に断りをいれてから移動開始。
二年のクラスの待機所。
一目見れば夏菜の姿はわかりそうな物だが、ぱっと見その姿は視界に映らない。
夏菜も僕らのように直射日光を避けているのだろうと考え、近くの涼し気な場所を巡ろうとするが一箇所目から正解をひいた。
グラウンドと保健室との直通の謎の段差。
コンクリートで綺麗に整備されており屋根もある。僕らが休んでいた木陰より過ごしやすそうだった。日焼け予防に持ってきていたであろうジャージの上を座布団替わりに敷き、麗奈ちゃんと談笑していた。
二人とも笑い合っていて楽しそう。
邪魔するのもどうかなと考えがよぎった時。
「あ、先輩」
目ざとく僕を見つける。
喧騒の中でも彼女の透き通った声は届く。
手を振りながら近づいていく。
「隣いい?」
「もちろんです。どうぞ」
そう言って立ち上がり、ジャージの上へ案内する。
ちなみに夏菜に言ったつもりはなく麗奈ちゃんに聞いたのだけれど、彼女は苦笑いでこくりと一つ頷く。
「ここに僕が座ったら、夏菜の座るところなくないか?」
「何を馬鹿なこと言っているんですか、良いから早く座ってください」
言われるがままに座ると、僕の膝をクッションにされる。
「暑い」
「我慢してください」
「あいよ」
彼女の重量を一身に浴びながら、壁を背もたれに空を仰ぐ。
空を見ているわけではなく、首を動かさない限り夏菜の後頭部しか見えないから。彼女も暑いのだろう、本日はポニーテール。うなじが眩しい。
「ほんと二人共仲いいよね」
「「うん。それが?」」
僕も夏菜も麗奈ちゃんを見ること無く答える。
綺麗に合わさった言葉。
「あはは、すごいシンクロ。改めて二人の仲の良さをみると、やっぱり羨ましいなって思うっちゃうね。人前で臆することなく、いちゃいちゃしちゃって」
「別に何もしてないけどな」
椅子になっているだけだし。
「二人はなんの話してたの?」
「渉先輩……本当に聞きたいですか?」
「やめて、その聞き方不安になる」
「冗談冗談」
ほっとしながらも夏菜の尻尾を弄ぶ。
それにも飽きた僕はヘアゴムを外しだした。
彼女に一瞥され、視線の色合いから『なにするんだこの人は』という思いがひしひしと感じるが、笑って見せると夏菜は呆れながら視線をグラウンド戻した。
追従してみると一年生がリレーをしているようで智樹くんが活躍していた。
「麗奈ちゃんは応援しないの?」
「んー……、弟も妹も優秀だからね。勝手に勝つってわかってるし」
「勝つってわかってても夏菜が舞台に上がってたら応援するけどな」
「カップルと兄弟の違いじゃないです?」
「そんなもんかね」
横髪を手に取り、編み込んでヘアゴムで結ぶ。
左から右に渡るように徐々に編み込みを続けつつ流していく、前髪の髪留めも拝借して新しい髪型をセット。
結構自信作。
「渉先輩って結構器用~」
「かわいくない?」
「うん、目つきはどうかと思うけど夏菜の三つ編みカチューシャ新鮮。夏菜って髪型あんまり変えないもんね」
「目つきの事は黙ってあげるから鏡貸して」
「はいはい。さっきまでムスッとしてたのに急に機嫌がよくなって、現金だね~かなたんは」
「変なあだ名付けるな」
鏡を受け取り、右から左から、様々な角度で確認。
気に入って貰えたのか鏡越しに口元が緩んでいるのが見えた。
「先輩ってこういう髪型が好きなんですか?」
「いや別に? 暇だったから弄ってただけで、特にこれっていう好きな髪型はないかな」
「最近、私で遊びすぎでは?」
それは否定出来ない。
暇を持て余した夏菜は薬指を弄るが、僕はそんな彼女に手を伸ばす。
口元がぐにぐに動いている。
嬉しいが納得出来ないというような表情。
難儀な奴。
そこもまた可愛いポイントではあるんだけれど。
「今更ですけれど、先輩はどうしてこちらに?」
「本当に今更だね」
夏菜の髪から手を離す。
ちょうどリレーが終わったのか、一年生が退場して行き次の演目のアナウンスが流れる。
「最後の体育祭だからさ、思い出作りに来ただけだよ。やっぱり僕の高校生活は夏菜がいないと締まらないからね」
「えへ」
はにかむ笑顔に、僕のヘアアレンジで晒された耳が色付く。
季節にはまだ早い紅葉。
「何その笑い方。初めて見る、きもっ」
「麗奈うるさい。今良いところだった」
「だからでしょ、ここでもっといちゃつかれたら目の毒」
「別に迷惑かけるわけじゃない」
「アンタに惚れた男子たちにトラウマ残すつもり?」
「私には関係ないし」
「下半身に血をたぎらせた男共の無惨な死体が出来上がるわけね」
「火葬するの大変そう」
「男子学生ってそんなもんでしょ、下半身だけでしか物事考えてなさそうだし」
「それは偏見すぎじゃない?」
「確かに言い過ぎかも? そうじゃないってことは知ってるし」
「羨ましい?」
「はいはい、ごちそうさま」
同性代の女友達と言い合いをしている姿。
そのすぐ傍で見守る。
妙に心は穏やかで会話を聞いているだけでなぜだか僕も楽しい。
「……先輩?」
「ん?」
「いえ、なんだか優しい顔をしていたのでどうしたのかと」
「そんな顔してた?」
「はい」
「二人のやりとりが微笑ましいからかな」
「なんですかそれ」
「さぁ? 僕もよくわからない」
※
二人と昼食を約束を取り付け司の元に戻る。
そろそろ午前の部もあと二つで終わり。
「そういうわけだから、司。昼食の準備しよう」
「ういよ」
尻に根でも張っているのかという程重い腰を上げて教室に戻る。
椅子はグラウンドに持ち込んでいるのでどこにもなく地べたに座らざるをえない。暫くして校内放送でアナウンスされチアリーディングの開始を宣言。
軽快な音楽が流れる。
折角だからと、教室の窓から見下ろす形で見届けることにした。
夏菜がセンターを務めていた去年。
今年は動きからして現役のチア部だろう。
「やっぱり見劣りしてなかったんだな」
誰に言うでもなく呟く。
夏菜が演じていたほうが大輪の花を咲かせて一目を惹いていた。見劣りどころか、軽々と飛び越えていた。けれどそれは才能だけではなく、誰よりも努力した結果。
窓辺に頬杖をついて何も考えずに見ていると、いつの間にか演技が終わり次は男子の応援部。こっちは暑苦しいので移動して待ち合わせの場所へ。
お弁当を持って屋上へ続く階段の一つしたのフロアで待機。
体育祭を開催している今、暗黙の了解を気にするようなことはないのだろうけれど、二の足を踏んでしまう。
にしても。
「可愛い包みだね」
「うっさい」
兎と人参の模様の入った布地。
「神楽先輩のものっていうか、産まれてくる娘のために準備したような」
「いや、あぁ見えて雅可愛いもの好きなんだよ」
「確かに意外だね」
「だろ、だからか俺の持ち物も大分侵食されてる」
「それはちょっとわかる」
二人で買い物に出掛けることが多くなった今。
自分の扱う物にも彼女の趣味が入る。
服の趣味、髪型と僕の興味ない分野には彼女の意見が反映される。
逆も然り。いや、彼女の場合は積極的に取り入れようとしている。その心意気は見習うべきか。
捻くれて聞こえるかもしれないが、個性個性と謳う高校生達。価値観を押し付けるなと叫ぶ若い世代。僕らこそ周りに流されて、流行に過敏で量産品の個性。
流行を生み出した個性の中古品。
自分の価値観を認めて欲しい人ほど他人の価値観に排他的。
だから本当に個性がある人間は浮いてしまう。
価値がないと淘汰しようとする。
学園という狭い社会。
それは嫌というほど顕著に表れる。
夏菜や司達がいなければ人に幻滅していたかもしれない。
「来たみたいだね」
階段の下から日の出のように上がってくる赤茶色と亜麻色たち。
二人とも同じ色のジャージにハーフパンツ、夏菜は僕が弄ったままの髪型のまま。案外気に入ってくれたのかもしれない。
暇つぶしにやったことだけれど、それだと嬉しいな。
四人での屋上。
予想通りに生徒の数は少なく、誰にも邪魔されたくないというカップルが数組いる程度。
本来園芸部の意図としては学生の憩いの場として提供したかったのだろうと思う。どのベンチも二人か三人ほど座れる長さに対面にも同じ席が用意されている。
適当な席を選び、閉じられたパラソルを開く。
日差しに晒されたベンチは熱く、持っていたスポーツタオルを敷いてから座った。タオルの長さから必然的に夏菜との距離が近くなる。
対面に司と麗奈ちゃんが座ることになるのだけれど、気を使って僕が司の隣に座ればよかったと後になって後悔。
こういうところだよな。自分のことだけでまだ精一杯。
「麗奈ちゃんと一緒に食べるのも結構久しぶりだよね」
「わたしは色んなところ行ってますからね。それに最近夏菜もつれないし」
呼ばれた本人は気にすることなくテーブルに弁当を広げている。
「ごめんね、僕ばっかりが夏菜を独占しちゃってて」
「いえいえっ、わたしが夏菜を借りてるだけなので」
「麗奈ちゃんさえ良ければいつでも歓迎だから」
「まぁ夏菜が怒らない頻度でお邪魔しますねー」
折角の夏菜の友人なのだから仲良くなってもいいかな。
卒業しても彼女とはなんだかんだ長い付き合いになりそう。
「あれ、ピアス増えた?」
「渉先輩って目敏い?」
「うん。私の小さな変化ですら気付いてくれるよ」
「へぇ~……あ、男子に聞きたいんだけれど、ピアスしてる女子ってどう思います?」
僕らの世代では中学からピアスしている男女はともにいる。
その時は少数だったけれど、今はそれなりに見掛ける。
といってもクラスに数人いる程度で、圧倒的に女子に偏っている。
「考えたこともなかったな」
「だな」
司も同様に頷く。
「他人が付ける分には僕はなんとも思わないかな? 僕は痛いの苦手だしつけないけれど」
あと手入れが大変でものぐさな自分はまず無理。
「例えば夏菜がつけるとしたらどうです?」
「ん? ピアスの穴あけたいの?」
「いえ別に、必要性を感じませんし」
彼女らしい答え。
「例えばの話ですよ」
「どうしてもピアスしたいって言うなら構わないけれど、僕としてはちょっと嫌かな? したとしても三つぐらいかな限度は」
「それはどうしてです?」
「う~ん」
言葉では言い表せないような微妙な感覚。
はっきりとこれだから嫌だという物はない。
静かにおかずを口に運ぶ夏菜の顔をぼんやりと眺める。
「んー……。夏菜の耳の形好きだし、触るとふにふにしてるからそのままで居てほしいのかな? 綺麗なままで居て欲しいっていう願望もあるような気がする」
それが全てではない。
ピアスをつけたところで夏菜が綺麗なのは変わらない。ピアスをした状態の彼女を想像するが、シンプルな物なら夏菜にとても似合いそうだとも思う。
なんだろうな、このもやもやする感覚。
正体の見えない存在に、胃もたれのような気持ち悪さがある。
「それじゃ渉先輩が考えている間に、司先輩の答えをどうぞ」
僕も一度思考を放置して司の言葉に耳を傾ける。
「んー? 俺はチャラく見えるから嫌い。雅にも付けて欲しくないって思っちゃうな」
「ピアスってチャラいですかねぇ? もう当たり前のお洒落じゃないですか?」
今時珍しい話でもない。
それは僕もわかっている。
「言いたいことはわかるよ。俺もピアスつけてたからわかるんだけれど、ピアスつけるのが洒落てるって感性がね単純に流されてるだけつーか、ピアスがなんでお洒落なのか考えることもなく、ただおしゃれな物ってなんも考えてなさそうな人種だから……俺がそうだったから、あんまりいい意味で見れなくなったな。それに今の時代、穴あけなくても結構いい感じのやつあるしね」
「夏菜もわたしのことチャラく見える?」
「うん」
友人に対してあけすけなく頷く。
ギャルのようでギャルじゃないからな麗奈ちゃん。
「麗奈を知らなければね、そう見えてもしかたないかなって」
「それは」
「ファッションが好きでピアスにも強い拘りがあるの知ってるからなんとも思わない。知らない人間がみればそう見えるってだけ。麗奈の場合はつけてる数が多いから特にそうかも」
歯を衣着せぬ物言いにショックを受けている。
「僕も夏菜の言いたいことは少しわかるかな? 初対面だとその人を想像する上で見た目から入るし、そのあとの価値観なんて言葉を交わさないと理解し得ない。だから夏菜も麗奈ちゃんの友達としているんでしょ」
「はい。麗奈は見た目に反してしっかりしていますからね」
「ピアス否定派ってわけじゃないし、その人との価値観が違うだけ受け入れられないなら、こうやって一緒に食事することもないしね」
「でも先輩、私がピアスすることは反対なんですよね?」
「……うっ。なんでだろうね」
「さぁ? でも、私も先輩がピアスするって言うのであればいい気はしないですけれど」
「なんで?」
「嫌な物は嫌だからです。私はそういうものって受け入れているだけで、先輩みたいに答えを出そうとはしてないですよ」
価値観と先入観。
生まれた時から持っているものではない。
環境が価値観を植え付ける。
人と人が関わり育つ物。
ピアス一つで様々な意識を持つ。
他のことならもっと多様な考えが存在するだろう。
「あぁ、わかんね。もやもやする」
「んふっ。好きなだけ考えればいいと思いますよ」
答えは出ず、晴れない心境。
空は晴れているのにパラソルがぽつぽつと音を立てる。
コンクリートの床は水を吸い黒い点を作り、次第にその色で染め上げる。
天気雨。
僕の心境に似ている矛盾さえ感じる天気。
「狐の嫁入りですね」
「六月だし」
「ジューンプライドとは無関係ですよ」
「知ってる」
パラパラと強くはない雨脚。
幾分気温が下がって過ごしやすいと思えるほど。
空を見上げたまま何を考えているのか、夏菜の瞳には青い光が宿っている。
どこかに消えていきそうな儚さ。
現実感のない光景。
美しいと思えると同時に怖さがある。
気付けば手を伸ばして彼女の腕を掴んでいた。
「どうしたました?」
「……いや」
「変な先輩」
答えのない問題。
それは毎日の繰り返しにも似ていて、これからどうなるのだろうと考えることもある。
ピアス一つで何か変わるわけでもないのに、変わってしまうことが不安なのだ。
僕は多分変わらない物を欲している。
変わらない物なんてないから。
「嫌になる」
僕の呟きは雨に染み込み消えていく。
自分の弱さを改めて自覚した。
けれど雨はいつか止む。




