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【連載版】すべてにおいて負ける僕が唯一勝利したこと  作者: 「」
一年は淡く過ぎ去り、想いを育む
136/177

負けず嫌い

「今年もコスプレすんの?」



 部室の堅いパイプ椅子に座った夏菜に話しかけた。

 本日も絵梨花ちゃんの練習。

 僕らはお互いバイトの休みで時間はいつもより確保できているが、絵梨花ちゃんは日直で遅れており部室には二人だけ。

 僕はともかく夏菜は一人で部室に来る用事はなく、ただの付き添い。

 籠もった空気を入れ替えるために窓を開け、風の通りをよくするために扉も僅かに開く。


 新鮮な空気に交じって他の文化部の練習音が入り込んでくる。低く重なった歌声。

 合唱部かな。

 もっとよく聞こえるように耳を澄ます。

 この表現は正しかったかもしれない、有名なアニメ映画テーマ曲。

 カントリーロード。

 あれも元は洋楽。

 部室に原曲が置いてあった記憶がある。映画の影響かカントリー・ポップと言われると一番最初に思い出す。


 昔の洋楽ということで多分に漏れず邦題がついており『故郷に帰りたい』だったはず。音楽に限らず映画にも邦題がつく時代背景にはどんな理由があったのだろう。

 ちなむとあのアニメ映画のカントリーロードと原曲のカントリーロードは別物と考えた方がいい。


 テレビで放送されて見たことがあるが当時はなにも感じなかった。今なら感想が変わってくるような気がする。感情が揺さぶられるだろうか。


 楽器を持ち出して歌声に合わせながら弾き始めた。

 僕の演奏でリズムを取りながら小刻みに揺れていた夏菜が答える。



「何のことかと一瞬考えてしまいましたが、体育祭ですか?」

「そうそう」



 うちの学校の体育祭の売りとも言える本格的なチアリーディング。

 チア部の監修のもと体育祭の午前と午後の部の間に繰り広げられるイベント。アクロバティックな動きで派手な振り付け。去年の彼女が演じた姿を見れば今年も、と思わなくもない。けれどかなり大変そうにしてた記憶もあるし無理にとは言えない。



「頼まれてはいますが断っています」

「そっか」

「面倒ですし先輩といられる時間が減りますからね」

「なるほどね」



 嬉しいことを言ってくれる。

 練習のため放課後はずっと掛かりっきりだったしな。

 バイトのシフトもそれ用にスケジュールを組んでいたっけ。

 その見返りとして貰えたのは彼女が着ていたコスチュームのみ、オマケに少しの日焼け。



「ちょっと残念」

「……衣装見たかったとか?」

「うん」

「そんな素直に頷かれても嫌ですよ」



 意思は固いようだった。

 まぁ嫌なら仕方ない。

 合唱部の声が届かなくなり、僕もまた楽器を仕舞う。


 窓から離れて夏菜を呼び寄せるとパイプ椅子を連繋。彼女も何をするのか理解しているようで、膝に下ろしていた手を退けてくれる。

 ふかふかの枕。



「せめてポニテにしてみない?」



 仰向けになると彼女の顔は見えず、風に揺れる髪に手を伸ばして弄る。



「それは構いませんけど、今ヘアゴムないですよ」

「大丈夫、僕が持ってる」

「……」

「そんな睨まれても……。僕って前髪が伸びやすいだろ?」



 なので授業中などちょんまげを作っていたりする。

 一時期プラスチックで出来たカチューシャを愛用していたが、脆く折れやすいのでヘアゴムが使いやすく愛用している。

 切に行くの面倒なんだよなぁ。

 バスケをしていた時は月に一度は美容室に通っていたが。もっと簡単に、ラーメン屋にでも入る気軽さがあれば切りに行くのも苦じゃないんだろう。

 予約して行くまでの時間が憂鬱。



「……知ってましたよ?」

「嘘つけ」



 両腕を伸ばし夏菜の脇をくすぐる。



「ちょ……っっと、んっ……やめっ」



 彼女の喘ぐような悲鳴が部室に響き渡る。

 嗜虐心に煽られた僕は直接セーラー服の中に腕を突っ込み、くすぐり再開する。身体を捩るように逃げる彼女を追いかける。



「だから、ほんとっ……ま、って……、私がわるかったって……。家だったら好きな、だけ、していいから……」



 ガラガラと音を立ててパイプ椅子が散らばる。やりすぎたと思いながらも彼女の後頭部に手を当てて守りつつ受け身を取る。

 倒れる音と混じって紛れていたが同時に扉も開いていた。



「先輩たち声、外に漏れてますよ」

「……」



 誤解を招きかねない体勢。

 誤解でもなんでもないな。



「はぁ……、ふぅー……。……私は悪くないから」

「馬鹿二人なので同罪です」

「だってよ」

「本当は家でコスプレしてあげるつもりだったのに、もうしませんから」

「……駄目?」

「そんな子犬みたいな顔しても駄目です」



 やめておけばよかった。

 後悔先に立たず。

 夏菜のことを調子に乗りやすいと言ったけれど僕も同様。

 これも学びとして次回以降に活かす。



「じゃあ、絵梨花ちゃんしよっか」



 夏菜の手を取って立ち上がらせ、椅子も直していく。



「「は?」」

「勘違いしそうなところ悪いけど、練習始めようか」

「渉さんの言い方語弊あるので直したほうがいいですよ」

「……先輩のこういうアホなところも変わりませんね」



 非難轟々である。

 すんません。

 気をつけているつもりではあるが、どうしても考えるよりも言動が先に出る。


 気を取り直して練習を始める。

 ベースの練習をしはじめて一ヶ月を過ぎた、絵梨花ちゃんは思ったよりも普通に弾けるようになっていた。案外どっしりした重低音が気に入っており自宅に持ち帰り、かなり練習しているとのこと。

 指は固くなり爪も割れたりしたらしいが、姉がネイルに詳しいこともあって補強されている。努力の跡。



「折角だから一緒に演奏してみるか」



 バスケなどのスポーツでもそうだが、成功体験は大事である。

 単純な曲でも合わさることにより厚みが増し、音だったものが音楽へと変わり、歌が入るとそれはもうバンドだ。



「何やればいいですかね」

「洋楽と邦楽どっちがいい?」



 ちなみにどちらも練習曲としてスコアを渡して弾かせている。

 洋楽メインと言いながらこの部活は雑食なのだ。

 邦楽も民族音楽、言い訳完了。



「じゃあ、まずスタンドバイミーからやってみるか」

「はい」



 誰もが聞いたことのあるベースライン。

 経験者である神楽先輩からもネットの情報にもあるように初心者にはもってこい。単体で弾くには単調で退屈。けれどそして一曲丸々通してみると分かることがある。



「なんかいいですね」



 人とやる楽しさを感じ取ってもらえた。

 有名な曲だからこそ演奏しきれたという充実感。

 演奏に耳を傾けながらも僕は別のことを思い出していた。

 家を出たときのこと。

 あれからもう随分経つ。



「先輩って人に教えるの何気に上手いですよね」

「そう?」

「はい。なんか楽しさを教えつつ優しく導くというか」

「そうかもね」



 夏菜をじっと見つめる。

 答えがここに。



「なんですか? 見られると恥ずかしいんですが」



 縮こまりながら、直すところのない髪を手ぐしで整える。



「もし僕の教え方が上手いっていうなら、僕の周りにいる人達が優しくて良い人だからだね」



 神楽先輩も僕にそうしたように、今度は僕が絵梨花ちゃんに教える。

 時には司のようにただ見守り、春人さんのように手助けをし、冬乃さんのように笑って見せる。

 夏菜が僕を導いたよう。



「渉さん教師とか向いてそうですよね」

「うちの両親の逆ですね、父さんを追いかける私、母さんと先輩」

「……教師か」



 考えていなかったわけじゃないけど、教育か。

 教え育む。

 教えるだけなら責任はないが、育てるというのは荷が重すぎて僕に出来るだろうかという懸念。



「先輩は子供に対しても無駄に優しいですからね」

「無駄って……、子供に対して優しいことは良いことだろうに」

「そうですね。先輩と私の間に生まれる子は安心ですね」



 自分の下腹部を優しく撫でるのはやめろ。

 ちょっと想像した。



「え、市ノ瀬先輩妊娠したんですか」



 生まれたのは子供ではなく誤解。

 しかも満更でもなさそうな恋人の顔と半眼で呆れるような顔の二つ下の後輩。



「することはしてるし」



 誇らしげな恋人。

 ただ顔つきはあまり変わらない。

 絵梨花ちゃんに伝わるのかね。



「いや、ちゃんと答えろよ……」

「子供の名前は何にしましょう?」



 答えるつもりはないらしい。



「秋穂とか清秋とか」



 やけになって乗っかることに。



「そういえば、なんで夏菜は一人っ子なの?」

「どういうことですか?」

「いや、あの夫婦なら子供が五、六人いてもおかしくないというか、子供だけでも四季が揃いそうというか」



 春と冬は偶然の出会いだとしても、その間に存在しているのは夏だけ。



「おじいちゃんの名前が秋ですよ。以前聞いたことがありますが、夫婦の時間も大事にしたいからって私は一人っ子ですね」



 絵梨花ちゃんも感心したように呆ける。

 流石あの夫婦。

 しっかりしているというか憧れる関係性と考え方。



「元はと言えば、母さんが父さんを騙して作られた子ではあるのですが」

「……そうだったね」



 いい話が台無しである。

 忘れていたわけじゃないが、思い出したくもなかった。



「秋がいるならどうしようね。でも子供に季節の名を与えると僕だけ季節外れみたい」

「大丈夫ですよ。季節を渉なんて素敵じゃないですか」

「一応名字に季節入ってるんだけどね」



 最近、下の名前で呼ばれてるので忘れがち。

 家の電話でも『はい、市ノ瀬です』と応答しているから自分でも忘れている。



「柊夏菜……。なんか冬虫夏草みたいで嫌ですね。市ノ瀬渉のほうがしっくりきませんか?」

「名字拘りないから婿養子でもいいんだけど」

「ふふっ」

「なんか変なこと言った?」

「いえ、なんでもないです」



 よくわからなかった。

 機嫌の良さから悪いことを言ったのではないとわかる。



「本当に妊娠してるんですか?」



 絵梨花ちゃんが話の流れを強制的に元に戻した。

 流してくれはしなかった。非常に残念。



「ぶっちゃけ自信ない」

「避妊は?」

「してるけど」

「でも、その、生でしたと」

「……うん」



 大丈夫だとわかっていても怖いものがある。

 使えばいいんだろうけれど、隔たりを一度捨ててしまった彼女のほうが嫌がる。行為を覚えたての学生にしては週一、二回。多分控えているほうだろうけれど、一緒に住んでいて四六時中共に行動。わざとらしく誘ってくるような彼女に羽目を外しそうにもなったり。

 特に最近は避妊具を使用せずとも、行為にワンクッションを置かなくて済む手軽さも合わさって回数が増えているのは否めない。


 0.05ミリの隔たりと始まる歌詞があるが、今の主流は1か2。怖くて使いはしないが、ホテルに用意されている器具もその厚さ。時代とともに変わり、そんな隔たりはなくなってしまうのかもしれない。という現実逃避の思考。



「市ノ瀬先輩ってそういうところしっかりしてたと思うんですが」

「直で感じていたいじゃない」



 くすくすと笑う夏菜。

 本人が一番よくわかっているんだろう。



「はっ……、え、マジ? 高校生で子供って……」



 知人に一人いる。

 あと2,3ヶ月もすれば立派な一児の父。出産祝いってどうしたらいいんだろうなぁー。

 そろそろこの空気に耐えられそうにない。



「いや妊娠してないけど? しっかり避妊してる。子供はいつか欲しいけれど、どちらも望んでないかたちで産まれてきても子供可哀想だし、両親じゃないけど二人の時間のほうが今は大事」

「じゃあさっきの手付きは?」

「先輩に対する悪戯」

「ほっとんにこの二人、馬鹿すぎる」

「今回は僕は悪くないよね」



 悪戯された側。



「二人とも同罪です」



 だそうである。



「だってよ、夏菜」

「一心同体ってことですね」

「さっきと言ってること違うくない」

「さぁ、なんのことでしょう」

「じゃあ、同罪ってことで自宅でチア着てね」

「……仕方ありませんね」

「着れるかな」

「太ってもないですし、背も伸びてないですよ。……そう伸びてないんです」

「そういう意味じゃなかったのに、うん、なんかごめんね。でも僕は夏菜のサイズ感収まり良くて好きだよ」



 すっぽり胸に収まるサイズ感。

 夏菜を膝に乗せてから彼女の頭頂部に顎を乗っける。

 しっくりくる。



「人を当て馬にするのやめてくれません」

「「ごめん」」

「まぁいいですけど、見慣れてきましたし」



 謝罪したにも関わらず変わらない体勢。

 お腹に手を回しギュッと抱き寄せる。

 特に文句を言われることもなく、夏菜も自然と受け入れている。



「先輩、もうちょっと上に腕を」



 受け入れるどころか注文が入った。

 胸を少し持ち上げるようにして固定。

 楽になったのかため息にも似た長い息を吐き出す。


 スマホを取り出して、最近撮った写真を眺めてはブレているものや指が映っているものを消したり整理している。

 ほぼもう中級者といっても過言ではない絵梨花ちゃんの次の課題曲を考えながら、頭頂部から顎を外し、耳元に頬をくっつけるように移動し、夏菜の作業を見守る。


 二人で撮った写真や、道端に咲く小さな花。空に浮かぶ白い雲など彼女の視点で映し出され、切り取られた風景。

 春人さんの誕生日に4人で祝い、冬乃さん指導のもと飾り付けられた自宅のリビング。

 春休みに一緒に訪れたカフェ外観、そのお店のランチにスイーツ。

 水族館に観覧車。


 ケーキを頬張る僕に夏菜の膝に眠る僕……。

 学校の中庭でシロをお腹に乗せてベンチで眠る僕……。

 怪しくなってきた。

 時期的に春休み前後の写真ばかり。



「ストップストップ」

「ん?」

「この先に行くとあれだろ……」

「思い出の形は様々……というより、先輩が撮ったんですから知りませんよ」



 僕らの会話が気になったのか絵梨花ちゃんが身を乗り出す。

 スクロールされて夏菜の蕩けたアップの顔。

 非常に不味い。


 ここで取れる選択肢は流れを変えるか逃げるか。



「絵梨花ちゃんもモテそうだけどその辺どうなの?」

「「……」」



 二人に無言で睨まれた。

 蛇に睨まれたカエルの気持ちも今なら理解出来そう。



「な、なに?」

「「いえ」」



 君ら実は仲がいい?



「そうですね。モテるかモテないかで言うとモテるほうではあると思います」

「あ、やっぱり」

「でも期待するようなことは何も」

「妹ちゃんも先日告白されてなかった? 屋上で男子と二人でいるところ見たんだけど」

「なんで居たんですか」

「同じ理由」

「その場にいたなら断ったのもわかりますよね」

「いや全然?」

「相手ですよ相手」

「誰?」

「本当に渉さんしか見えてないんですね?」

「褒められても困る」

「……まぁ、そうとれなくもないか。サッカー部の人で少し前に市ノ瀬先輩に告白した人って知ってます?」

「ふーん」

「女なら誰でもいいってことです。そんな連中ばっか告白してくるから付き合ってられないってことです。市ノ瀬先輩が駄目だからあたしに来た、本当に勘弁して欲しい」

「私は謝らないよ。悪いのはそいつらだし」

「わかってます、わかってますが代替品にされる人間の気持ちもわかって欲しい」

「そう」



 妙な空気が流れ始める。

 この流れを作った原因としてどうにかしようと試みる。



「好き人はいないの?」

「「……」」



 またしてもこれである。

 僕はもう黙ったほうがいいかもしれない。



「好きというより、憧れですかね? けれどその人にも好きな人がいるので黙っているだけです。あたしは傍にいられるだけでいいと思ってるので」



 彼女の寂しそうにも見える笑顔を見て、これ以上僕は深く突っ込めなくなった。夏菜は何も言わないし興味を失ったかのように顔を背ける。



「あたしも二人のように負けず嫌いだったら何か変わったのかもしれませんね」



 彼女の溢すような言葉を最後に、気を取り直して絵梨花ちゃんに課題曲を伝えた。

 人の気持ちを理解出来るようになれば、こんな悲しい気持ちにさせるようなことはなかったのだろうか。



 ※



 たまにある夏菜と冬乃さんが一緒にお風呂に入る日。親子仲が良く微笑ましい。

 そして僕もまた春人さんとリビングで適当なテレビ番組を流していた。



『娘さんを僕にくださいっ』



 どうやらプロポーズを終えて、両親に挨拶をというところらしい。僕も春人さんもドラマを見ることはあまりないが、カフェダリアの定休日である日はなんとなくこのドラマを二人で見続けていた。



「春人さん」

「ん?」

「夏菜を僕にください」

「おう、さっさと持っていけ」

「軽いっすね」

「幸せにするのは別に親じゃなくてもいいんだよ。俺らより幸せにしてくれる相手がいるのなら、託すのが正解だから」

「幸せにするかどうかって分からなくないっすか」

「まぁ夏菜が惚れた相手なら大丈夫だろう、俺らよりしっかりしてる娘に育ったし」

「そうっすね」

「認めるなよ」



 なんて会話をしているうちに二人がお風呂から上がってくる。

 冬乃さんが扉を開き入ってくる。

 ……。

 すぐに目を逸した。

 なんで冬乃さんがチアの格好してるんだよ。

 借りたのかサイズが合ってなくて胸のあたりが弾け飛びそう。

 夏菜に容姿が似ているからだろうか、記憶に冬乃さんのコスの姿が焼き付けられた。

 未来の彼女の姿を想像する。


 けれど違う人物。

 あぁ……、自己嫌悪。

 春人さんと冬乃さんが盛り上がり、二人きりの撮影会が始まっていた。

 僕はこっそりと夏菜の部屋に戻り、壁に頭を打ち付ける。



「何してるんですか」

「バグった頭を直そうかと」

「前時代的ですね。余計に壊れるからやめたほうがいいかと」

「……はい」



 お風呂上がりの彼女の姿。



「あれ」

「どうかしましたか」

「チアは?」

「大変申し上げにくいのですが、母さんと勝負して負けたので貸してあげました」



 特に落ち込んでいるようでもなく、申し訳ないと口にしながらも平然としている。

 パタパタとスリッパを鳴らし僕の隣に座る。

 湯上がりでいつにも増して甘い香りを漂わせ、瑞々しく紅葉した肢体。



「冬乃さんと勝負することあるんだ」

「ここ一年ぐらいからですけどね」

「それで何の勝負したの?」

「回数です」

「は?」

「相方の連続での――」

「最後まで言わなくて良い」



 彼女が冗談を言わないタイプだということも知っているし、僕は難聴でもない。



「向こうは付き合い長いし、僕らが産まれる前からの関係でしょ」

「勝てると思ったんですけどね」

「なぜ自信を持ったのか謎だけど、チアのコスならもう一着……」



 は、ない。

 僕の本来の家に置きっぱなしだ。

 麗奈ちゃんが作った文化祭のメイド服っぽいナース服も僕の家にある。いつかもう一度戻るタイミングを考える。



「持ってくればよかったな」

「思い出もありますからね。こんなすぐに必要になると思わなかったですから」

「まぁ見たかっただけだから」

「でも、大丈夫です」



 何か自信ありげ、勝算のありそうな言い方。



「母さんに勝てば好きなコス買ってもらえることになりましたから」

「……僕が普通にお金出すけど」



 張り合うようなことでもないよね。



「負けたままではいられませんよ」

「……おぅ」



 凄いやる気に圧倒される。

 いつもの逆の立場。



「ちなみに向こうの回数は?」

「11回です」

「どういう生活してたんだあの二人……。化け物じゃん」

「燃えますね、化け物退治」



 協力ゲーでモンスターを狩ったりはしたことある。あとはサウンドボックス型のゲームで冒険したり建築したり。二人で協力するようになったのは付き合い出してから。

 初心者だったのにセンスがいいからか、建築技術はもはや夏菜の方が上だったり。

 そしてゲームと違って化け物を退治した後、化け物は僕らになるわけだが。



「牡蠣は危ないので除外するとして、にんにく、ニラにアボガド、オクラとか」

「そっからか」

「戦う前から勝負は始まっています。先輩が教えてくれたことですよね」

「それはそうなんだけど、土日跨いでやらないと無理じゃないかな」



 やれる気もしないけど。



「今月末、私達土日休みですよ」



 しっかりとスケジュールも押さえられている。

 袋小路。



「一緒に勝利を目指しましょう」

「……うん」



 化け物の子供は当然化け物。

 巻き込まれた一般人はどうするのが正解か。

 避難である。

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― 新着の感想 ―
[一言] うむ…バカップルと化しつつある…他に場にいる知り合いがエリカしかいないとはいえ。 先輩はエリカに恋人関係のことよく聞くものよのう。知らぬとはいえ。あぁ、知らぬとは怖い。
[気になる点] 「経験者である神楽先輩からも」の後ろとのつながりが少し違和感あります。編集中の残滓だったりしないでしょうか。 [一言] 若いなあ…… あまり若いうちから励むと、枯れてしまうよ……
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