かしまし
「うぇ……」
夏菜の貴重な嫌そうな顔と声。
彼女の汗を拭ったタオルを手渡しただけである。受け取り気持ち悪そうにしながらも折り畳む。育ちがいい。僕なら丸めて適当なところに投げていた。
試合中に邪魔になり投げ捨てていたジャージを四つん這いになり拾い上げに行き、Tシャツを脱いでから下着の上から羽織る。
床に置かれたTシャツからは軽い布とは思えない音を立てる。
絞ったらえらいことになりそう。
脱ぐのであれば先に脱いで欲しかった。
でも服の中に手を突っ込むというのはいけない事をしているようで少し変な気分になった。といっても性欲も疲労の方の強い。
彼女の体力が少しでも回復したら着替えに行かせようと思ったのだけれど、これなら風邪をひく心配も必要なさそう。別表金にはなるが施設の中にはスパも存在しているし、負荷をかけた身体に癒やしを与えてることも予定に入れている。
にしても彼女の中でスポブラは下着のうちに入らないのか、男子が僕以外いるこの場でも気にする様子はなかった。
らしいと言えばらしい。
「そんな顔しなくても自分の汗だろ」
「自分のだからですよ」
「他人の方が嫌じゃない?」
「そうなんですけどね。でも先輩の衣服洗濯しているの私ですよ」
「すみません。いつもお世話になっております」
「んふ、いえいえ」
彼女ばかりに気を取られていたが僕も結構汗だく。
自分で用意してきたタオルで一通り拭う。
当たり前だが手元には汗を吸い取ったタオルがある。
「夏菜ってたまに僕のシャツのニオイ嗅いでるよね」
彼女が今日着ていたTシャツは僕の物。
散々センスがないとコケにしていたのにも関わらずたまに着ていることもあって思い出した。
「……うっ、気付いてたんですか」
紅潮した頬とセットで閉じた内腿に自分の両手のひらを挟みもじもじと悶える。
「そりゃね。朝に着替えて脱いだ服の場所が移動してたり無くなったりしてる」
なんならベッドに横になって人のTシャツに顔を埋めている現場にも遭遇した。
ニオイを嗅いで変なことには使っていなかったけど。使っていたら使っていたでちょっと嬉しいかもしれない。
駄目だな毒されてきている。
……いや、これが普通なのかも。
判断材料がうちの両親、市ノ瀬夫婦。そして正確にはまだ夫婦ではないものの、司と神楽先輩。判断材料が少なすぎる。
「仕方ないじゃないですか」
「仕方ないんだ……」
「先輩の匂い嗅いでいると落ち着きますし」
「それはわかるかも。僕も君の匂いがすると安らぐ」
温かみのある甘い香り。
今は一段と強く感じる。
「あ、でも今は少しだけ離れてくださいね」
「……うん」
裸で抱き合うようなシチュエーションだとお互いに汗もかくが、それとこれとは別なようだ。
「先輩」
「さんきゅ」
口を付けたばかりのスポドリを受け取って、僕も水分補給を行う。
熱くなった身体と火傷しそうな喉に冷たい飲物が流れていく感覚。
「私の……負け、ですかね」
寝転び指先を組みながらぐっと天井へと突き出しながら伸びをする。両腕が挟み込み、重力で押しつぶされていた胸が反逆をみせた。
本当に負けだと感じてしまったのか表情は憂いを帯びている。
けれど――
「引き分けでしょ。フルタイム、なんなら延長戦二回やっても決着つかなかったし」
本来は勝敗が決するまで5分延長戦が続くのがバスケのルール。
どちらにも決定打に欠けていた上でのスタミナ切れ。
昔は身長の差も今ほどでなく、男性と女性では身体の成長が異なる。身長が伸びて筋肉もつきやすくなった自分と、身長はあまり伸びず胸に重りがつき女性らしいシルエットが完成しつつある彼女。
褒めるべきはそれでも同点を続ける彼女の技量。
男女差別は糾弾されるべきだが、男女区別はお互いを尊重する上で必要なこと。
戦いをフェアにするためには仕方ない。
絡め手だったり狡猾な手を使っても勝ちは勝ち。
でもそれはフェアな土台あっての勝利。
こんな幕切れは認めない。
争いはよーいどんでスタートを切れないが、これは純粋な勝負。
「いいんですか? 知りませんよ。バスケで唯一黒星がついたかもしれないのに、今後私がバスケの試合を受けるとは限りませんから」
微笑みの中にからかいを忍ばせながら表情は一転する。
「それでいいよ。別のことで勝てばいいしね。告白の時みたいに」
あれも引き分けだったけれど。
「この結果で勝ち誇れるほど神経図太くない」
3時間コートを借りているうちの1時間を夏菜との勝負に費やした。僕にとっては濃厚で楽しい時間だったけれど、ここに遊びに来たのは僕ら二人だけではない事を思い出す。
「……」
「どうしたんですか?」
「やっば、彼らのこと忘れてた」
というより彼のこと。
夏菜と戦うよりも前に一試合行ったというのに。
『バカップルは周りに配慮すべきですよ』と言われたばかりなのにね。これなら絵梨花ちゃんに文句を言われても仕方ない。
先程の行動を思い返すと二人だけの空間を作ってしまったのは否定出来ない。
目の前にいる夏菜しか見えてなかったのだから。
「先輩は目の前の事にしか集中できませんからね」
「その通りです……」
「私は周りに気付いていても無視していますが」
「それはそれで駄目じゃないかな……」
そんなんだから自分の親友に心配されるのだ。
人の事言えないけれど。
身体を彼女に向けていることは麗奈ちゃんたちに背を向けている状態。麗奈ちゃんたちが今どうしているのか知らない。振り返ると、亜麻色の髪の姉妹の片方がくすくすと暖かい目で、もう一人は頭を抱えていた。
僕と彼女たちの間に智樹君は一人突っ立っている。
「智樹君?」
「……え? あ、」
声にならない何かを呟き俯く。
やっちゃった。
自分から言う必要はないと、夏菜の行動からバレたらそれは良しとしていたが、どうみてもこれは自分の落ち度。
「智樹君――」
素直に黙っていたことを謝罪しようと言いかけた。
「帰ります」
聞き入れることなくコートを後にした。
悲観した顔にイラつきが混じり複雑な面持ち。
子供が欲しい物を親に強請り断られた、泣き出しそうで堪えているようにも見えた。
後を追おうとして彼の姉に止められる。
「渉先輩、気にしなくて良いよ」
「いや、でも今のは僕の不注意だし」
「どうみても負けを実感してそれでも認めたくないみたいな? そんな感じ。智樹はまだ子供なんですよー」
「その気持ち少しわかるな」
負けず嫌いなところ。
自分の性格が子供っぽいことは自覚している。
負けてたまるかって駄々をこねるところも。
「違いますよ」
まだ頼りない歩みで僕の背後から声を届ける。
抱きつこうとして手を伸ばしたが一度引き、再度両肩に手を伸ばして僕を支えにする。
「先輩は負けを認めたうえで次にどうするかを考える人ですから。そんな人中々いませんよ、大体の人が戦う前に逃げるか、負けを認めることなく言い訳する人ばかりです」
「そういうもん?」
「私が見てきた人はそういうつまらない人達ばかりでした」
だからとでも言いたげな顔で僕の手をそっと掴む。
彼の場合はどうだろうか。
夏菜の頭に手を置き、走り去ってしまった方へ視線を流す。
もう一人謝らなければいけない人がいる。
「ごめん」
「いいですよ、二人の関係を見ていると途中から無理なお願いをしたんだってわかってましたから」
困ったように力ない顔。
どちらに対して呆れているんだろうか。絵梨花ちゃんとの付き合いは長くはないのでその判断に困る。
「受験まで一ヶ月も切ってるし、これで落ちたとなると……ちょっと、ね?」
「約束は守ってくれていたわけですから、後はこっちでなんとかします。渉さんは気にしないでください」
受験までもう一ヶ月は切っている。
これで落ちてしまったのであれば罪悪感を覚える。
絵梨花ちゃんと話を終え、一人帰ってしまったこともありバスケは終了の流れになる。
人数的にはちょうど良くなったかもしれないが、疲労している二人と元気な経験者一人、残りは超初心者でバランスは悪い。
妹さんにはもう少し受験の気分転換として遊んでほしくはあったが、一応は満足しているということだった。
一同揃って汗を流しに向かうが、男一人なのでここで一旦のお別れ。
夏菜を待っていると湯冷めしそうだから、僕も今日は少し長めに浸かるとしよう。
休日料金で少しお高めの料金を支払い中に入ると気分は一転、高濃度炭酸泉をはじめてとして泡風呂にジェットバス、香り湯など普段入ることの出来ないお風呂が存在していてテンションが上がった。
どれから行こうかな。
※
「夏菜最近また大きくなったんじゃない?」
「……どうだろ」
少し脱ぎにくいスポブラを外すというより脱ぐ。そして姉妹二人の視線が胸元に、女性同士お互いの乳房は見られるので恥ずかしくはない。
普通こんなにじっと見られることはない。
慎みを持てと思わなくも。
けれど、最近測ってないが確かに大きくなったような気がしないでもない。
「渉先輩に揉まれてるからかね」
ぐへへと言いそうな親友の言葉に頭を抱える。
揉むような仕草を見せつけながら寄ってくる麗奈に無視を決め込め、タオルで前だけを隠しながら浴場に踏み入る。
でも、……実際そうかもしれない。
母さんは元から大きかったが父さんと付き合うようになってから更に大きくなったと言っていた。
バフと受け入れるか、デバフとして重荷を背負うか、自分の気分次第。
大きくて困ることもあるが、出来ることもある。
バフとして考えよう。
身体を流し、最初はオーソドックスな普通のお風呂に入ることにした。
隣から女性の声でおじさんのような喘ぎ声を出す友人。更には静かに浸かる妹の姿。
私は小さくため息のような声が漏れるだけに済んだ。
麗奈の胸も比較して大きい方でしっかりと湯に浮かんでいる。
妹ちゃんは残念なことに平原。
「ふっ」
「……っち」
勝ち誇るように声だけでどうにか表現して見せると、舌打ちが返ってくる。
私と彼女の関係性。
今現在は敵である。
昔はこんなんじゃなかったがいつの間にか剣呑。
何故かは理解しているつもり。
この子も一人の女性なのだ。
事実を受け入れて何も言わない。
双子なのにえらい違い。
私だからこそ理解できる。
――そう言えば。
「麗奈も結構余計なお世話してくれたよね」
「え?」
驚いたような声を上げる持ち主は男性には見せられないような、だらしない姿を見せていた。
私も気を抜いているがだからといってこんな振る舞いはしない。
この子はオンオフがしっかりとしている。
私には存在しない。
切り替える裏と表がないという理由もあるが、そんな器用な真似は出来ない。
「智樹くん、わざと見逃してたでしょ」
「あぁ、渉先輩から聞いた?」
「いや何も」
この親友はなんだかんだで私に甘い。
昔から先輩との仲を応援もしてくれていたし、度々相談にも乗ってくれていた。
私のような真剣な恋愛をしたい、とか言ってた。
だからこそ、邪魔な横槍を身内がしようとしたことを放置していたのには違和感があり、なんとなく私のためなんだろうなと予想していた。
男性経験が多く。
付き合う相手を一種のステータスだと。
友人に選ぶ相手も利を求めて私が選ばれた。
そんなことは知らずにいつも通り素っ気ない態度を取っていたが、何をしても何を言っても絡んでくる彼女に絆されてしまう。
自分自身が変わることを望み、更に私と関わろうとして今の関係がある。
先輩を見ているからだろうか、知り合い限定だが努力する人を応援したくなる気持ちが強い。
だからこそこの子の弟だとしても嫌悪感があった。
苦手な部類。
それでも親友の弟ということで邪険にも出来ない。
男の対応を覚えろってことかな。
そう当たりをつけていた。
「正解。流石、夏菜だねぇー」
「はぁ……。私ってそんなに信用出来ない?」
「逆の意味でね」
「良い意味?」
「悪い意味」
「覚えてないって顔してる」
……。
考える。
自分で言うのもあれだけど、他人の距離の計り方は下手。
どうかしたら不器用な先輩にすら劣る自覚あり。
幼少期に人間関係の構築を放棄したせいでもある。
それとこれとは別だ。
家族、恋人、友達。
良いところも駄目なところも含めて受け入れている。
他人はどうだろうか。
眼中にない。
有象無象の魑魅魍魎。
気に掛けるだけの価値がない。
「渉先輩が渉先輩なら夏菜も夏菜ってところだよね」
思考を加速させつつ、一瞬の逡巡だと思うが麗奈は呆れたように笑う。
その顔も楽しさ半分。
「あんた渉先輩が卒業した日のこと覚えてないの?」
「覚えているけど」
卒業する彼に離れていく彼を繋ぎ止めようと告白の算段を立てていた。
が、それは彼と会うことなく失敗に終わった。
帰って泣きわめいた。
今思い出すとほろ苦く恥ずかしくさえもある。
それだけ当時は余裕がなかった。
「……頭良いのに馬鹿だよね夏菜」
「喧嘩売ってる?」
「違う違う。あんた渉先輩が卒業して暫く荒れてたでしょ」
「そうだっけ。普段どおりに過ごしたつもり」
「本気で言ってる?」
「うん」
「……」
友人の顔は呆れを通り越して虚無。
妹まで似たような顔つき。
「クラスメイトが話しかけただけで、『うるさい』『話しかけるな』ってキレ散らかしてたじゃん」
「……そうだっけ?」
「はぁ~。わたしはそれを心配してるの」
「?」
「渉先輩もう3年だよ。卒業するでしょ」
「そうだけど」
「今回はもっと会えなくなるでしょうに」
「……知ってる」
考えないようにしてた。
進路のことを真剣に考えていた彼の姿。
取り敢えずは進学を決めていたようだったが、彼の第一志望の大学はそれでも少し遠くになる。近くて遠い距離。
会えなくはないが、今までのように会えるわけじゃない。
バイトも変わるだろう。
一人暮らしもするだろう。
思わず視界が滲む。
「ちょ……なんで泣いてるの……」
「駄目、言わないで」
揺れる湯船に波紋が広がる。
大学、サークル、バイト。
新しい出会いもある。
「……重い女」
ぼそりと呟く妹ちゃんの声。
そんなことわかっている。
「心配しないでも渉さんなら何も起きないでしょうに」
「そんなこともわかってる」
わかっているが不安にはなる。
信頼と信用を寄せていても怖いものは怖い。
彼の前では気丈夫ぶっているが。
「付き合う前のあんたはどこに行ったのかな」
「死んだ」
記憶力には自信があるが、当時は必死すぎて覚えてない。
彼に告白され返されてキスまでされてすべて吹き飛んだ。
今は付き合えたことが嬉しくて毎日が楽しいし、永遠を感じるほど安心も出来て心暖まる日々。
「乙女だったのは知ってたけど、ここまでとは……。というか明日も彼氏と予定入れてるんでしょ? だったらちゃんとしないと」
「……ん」
涙の流れた湯で顔を洗う。
目をつぶったまま深呼吸。
気持ちの切り替え。
オンオフはいらないって言ったけど、今は親友が少し羨ましい。
「結局、麗奈はなんの心配してたの?」
「……夏菜って女子に嫌われてる自覚ある?」
「そうなんだ」
「なんとも思ってないのと気にしてすらいないんだろうけれど」
「問題ある?」
「あるから心配してるの」
「でも私は大丈夫、性格を変えるつもりもないから」
「どうして?」
「彼が好きになってくれたのはこの性格も含めて」
嫌だと言うなら変える努力はする。
けれどそうじゃない。
「羨ましいな」
とは麗奈の声。
「むかつく」
妹ちゃんにはムカつかれたけど無視。
妹ちゃんに彼氏でも作ったらわかるよって言いたくはなるけれど、それを言ってしまってはいけない。
私でも弁えている。
「本当、ありがと」
考えなきゃいけないことがあるのを実感した。
彼と共に先に進みたいのであれば与えられる幸せだけを享受しているだけではいけない。
取り敢えずの目標は彼を私に沼らせるということ。
恋愛。
最近はもっと繋がりが深くなって前よりももっと、更に先へという気持ちが強い。
その気持ちこそは彼に負けてない。
身も心も捧げた。
残りは人生を捧げるところまできたと。
ネックは年齢。
「夏菜は大人になっちゃったね」
「ん?」
「素直にお礼も言えるようになって、なんか雰囲気まで渉先輩に似てきたんじゃない?」
「そう?」
どうだろう。
意識していなかったけれど、友達が言うのだからそうかもしれない。
湯船から上がり三人で変わり種に移る。
話は変わっていき、今度は麗奈の恋愛の話になった。
「わたし慎重になってるから特になにも、何ていうか渉先輩と司先輩を見てしまったからかハードルあがってるんだよね」
「そう」
自分の彼氏を褒められて嬉しくない彼女はいない。
「理想とか」
「浮気しない人。遊びで人と付き合うような人とか、相手の事を軽視するような恋愛はもうしたくないかなー」
「そっか」
「その言い方も彼氏に似てきたんじゃない?」
意識していなかったけど、確かにそうだ。
納得するしかない。
私が話を掛けるとちゃんと聞いてくれて相槌を打ってくれるし、集中しているときは一人の世界に入ってしまうが、それ以外であれば手を止めて向き合ってくれる。
一番彼の口から聞いた言葉でもあると思う。
「……うるさい」
「相変わらずすぐ赤くなって可愛い」
「ほんとうるさい」
麗奈から逃げるようにお風呂から出ていく。
次は香り湯にでも浸かろう。
予想はしていたけれど二人ともついてくる。
妹ちゃんなんて一言も話さないし。
「そういえば夏菜」
「まだ続ける気」
「違うって別の話」
「……なに?」
「初体験どうだった? 詳しく聞いてなかったけど」
「……馬鹿なの?」
「気になるじゃん。絵梨花も気になるでしょ?」
「ま、まぁ」
乗ってくるんだ……。
「女子同士だとこういう話結構多いよ、彼のサイズとか友達同士で共有しちゃうもんだし」
「「……そういうもの?」」
計らずしてハモる。
顔を見合わせると一方的に睨まれる。
ここは大人になった余裕を見せる。
「市ノ瀬先輩」
「なに?」
「どうだったんですか? やっぱり痛かったとか、血が出るとか聞きますが」
しかし意外に興味津々。
「痛いかな? 表現のしようがないけど、いぎっって感じだった。麗奈はどうなの? 結構早い段階で経験してたわけでしょ」
「わたしはかなり痛かった。濡れる前に入れられて泣いたし、無理にされると摩擦でずっと痛いまんま。ローションを使うなんて発想当時はなかった」
「「えぇ……」」
「だからえっちにいい思いないんだよねぇ。っていうか夏菜は経験者でしょ、なんでそんな引き気味なのよ」
「私途中から気持ちよかったし、それが普通だと思ってたから」
破瓜の痛みは少し経過すると落ち着き、彼も無理に動くようなことはなかった。最大限気を使ってくれていた。
心も身体も満たされるというのはこういう事なんだって。
母さんが自ら父さんに求めるのはちょっとわかる。
ないならないでいいけど、あるともっといいよねって話に頷けた。
「渉先輩って小さいの?」
「どうかな。比較出来る物なんて見たくないし」
「それもそう」
しかし、この猥談どこまで続くんだろう。
ここにいない相手の話題。
申し訳ないと思いながらもちょっとだけ新鮮。
私も女子の端くれ、クラスでの猥談に耳を傾けることもあったりする。
男子の猥談は子供のようなもので、女子たちは結構えぐい。
「元彼はトイレットペーパーの芯ぐらい? それより少し長いぐらいだったような。太さはそんなにないけど」
「……ちっさ」
反応してしまった。
これだけでどんな物なのか少し想像がつく。
ごめん先輩。
「ちょっと待って、どれくらいあんのっ?」
「言わない」
「あたしも気になるんですが」
興味津々とばかりに二人に詰め寄られる。
迫力があって結構怖い。
先輩がみたら卒倒しそう。
「彼に悪いから言わない」
きっぱりと断る。
が、更に踏み入ってくる彼女たち。
女の私でもどぎまぎする柔らかさに包まれて逃げ場を失う。
「わかった、わかったから離れて。一つしか言わないから、定規よりも――」
本当にごめん。
お風呂からあがり合流した後に二人が彼の下半身を見つめたのは言うまでも。
明日はお詫びも含めて精一杯優しくしよう。
そう新たに決意する。
今年最後の更新です。
なので改めて謝辞を。
いいね、ブックマーク、感想などの評価ありがとうございます。
誤字報告も大変助かっています。
終わりの構想自体は決まっているのですが、書けば書くほど愛着も湧いて蛇足が増えるのがもっぱらの悩み。
自分が想定しているよりもキャラの独り立ちも悩みの一つ。
弟の登場は夏菜を成長させるための装置として出したのですが、書いている途中で他人の言動で揺れるような子じゃないなってことになってこうなりました。
これからも好き勝手に書いていきますのでよろしくお願いします。
では、よいお年を。




